共に智たれウォーターフォールスター

「ごめんなさい…」
「すみませんでした…!」
 ろうそくの灯りによって照らされた薄暗い農村小屋の中で、マスターとマシュは著者と娼婦とマネージャーに深々と頭を下げている。
 それに続く形でブーディカも頭を下げ、こうなってしまうと駆け引きも何もない…と正直に出版に関してのことを伝えた。
 本来であれば著者はすでに1冊ブーディカに関する本を出しており、それを増刷するために動いている予定ではなかったかと訊ねる。
 それに対し、どうしてその予定を知っているのかと驚かれたが、一般市民である彼らに魔術やカルデアのことを説明することは難しかった。

 歯切れ悪くも説明した方が良いのだろうかとマスターがおずおずと頭を上げると、垂らしていた前髪を後ろに撫でつけながらモリアーティが一歩前に出る。
「さて、ここからは大人同士で話し合おうか。この子達はまだ少し未熟なのでネ…席を外させてもらうが、構わないかネ?」
「え、でも、まだ、この本の中身」
 この小屋に突撃してものの数分で頭を下げることになったかと思いきや、すぐに追い出されるということにはなりたくない。
 そんな想いから、マスターは赤い馬の本をみんなの前に差し出した。
 ページが順番に整えられたその本は、著者と娼婦、そしてマネージャーを驚かせる。
「これ…学べるあの箱を君とって、暗号にあって…その、女性の名前が書いてあったから。確かに中身はブーディカに関することだったけど…ただ、この表紙の本当の中身が、どうしても見つけられなくって…」
「私も、解読に携わりました。それで…表紙のものと同じ中身だとは思えなかったので…確認したくて、先輩と突撃してしまいました」
 そう少女達は告白してまた頭を下げると、その本を著者ではなく娼婦に手渡した。
 突然の行動に動揺が隠せない娼婦は、あたふたとしながら著者を見やる。
 著者からの言葉を待つ一同だが、どうやら著者はそれどころではないらしい。
 頬がどんどんと赤く染まっていく様は、見ていて恥じらいを抱くものだった。
「――よし、マスターとミス・キリエライトは席を外したまえ。メッセージを読み解いたことには評価を付けたいが、ラブレターの中身を本人の目の前で読み上げたことはいただけない」
(…今ラブレターって堂々と言うおまえがそれ言う?)
 ホームズのもっともな言葉に、モリアーティは内心白けた目を向けずにはいられなかった。

 仕方がないとはいえ、泣く泣く小屋を後にすることとなったマスターとマシュは、ブーディカに連れられてこの2日間泊っている宿に戻されることとなる。
 事の顛末は朝に…というホームズからの言葉にどう反応すれば良いのかは分からなかったが、ただ伝えられることは「任せる」の一言。
 ブーディカとの帰路で、マスターとマシュはそれこそ星が燃え尽きるかのように暗く落ち込んでいた。





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