しちの探偵事務所

 ユビは上体を左右に揺らしながら目を瞑(つむ)って眉間(みけん)の皺(しわ)を深くし、恐る恐る、ただ胸の中にある疑いを言葉にする。
「――……ドラッグを兄さんに渡したのが、毒嶋(ぶすじま)社長の息子だってことですか?」
 この発言はユビにとって、親の言った一姫(かずき)の死因を信じきることが出来ないと、告白するようなものだ。
 昨日(さくじつ)のS(エス)との会話やユビの親について知る博雪(ひろゆき)は、それをただ黙って聞いた。
 だがユビの問いに、辰海(たつみ)の瞳がまるで獲物(えもの)を見つけた獣(けもの)の様に光る。
 瞬間的に逃がさないと訴(うった)えかけたその眼(め)に刺され、ユビと博雪(ひろゆき)は身を強張(こわば)らせる。
「知ってるんだな」
「知って、るって…訳では……?」
「いや、君は知ってる。我々は息子なんて一言も言っていない」
「それは…そうですけど……俺も詳しいわけじゃ…」
「詳しくないのに息子の存在を知っているのか?」
「……俺は、会ったことないです、けど…名前だけ…」
「じゃあその名前をどこで知った?」
 辰海(たつみ)の人を射(い)殺しそうな視線が、ユビをどんどん委縮(いしゅく)させる。
 ユビに嘘は無い。
 しかしここでS(エス)について言及(げんきゅう)することは、また違う気がしてユビは黙る。
 だが真剣な眼(め)をする辰海(たつみ)に対し、黙ることがどこか心疚(やま)しいものに感じてしまう。
 辰海(たつみ)の殺気(さっき)に似た瞳の力強さは、ユビにそう思わせるほど、恐怖(きょうふ)を見せるものであった。
(この人めちゃくちゃ怖い…!)
 小さく後退(あとずさ)りながら身振り手振り逃げようとするユビと、知っているなら全てを吐(は)かせようと目で射(い)通す辰海(たつみ)。
 まるで狩りの現場にでも立ち合わせてしまったかのような不穏(ふおん)な空気を止めるため、博雪(ひろゆき)とツヅリが2人の間に入った。
「は~い辰海(たつみ)さ~ん! お顔がと~っても怖いですよ~!」
「事情聴取(ちょうしゅ)みたいなのは流石(さすが)にやめてください」
 博雪(ひろゆき)は冷や汗を流すユビを背に回し、辰海(たつみ)へ片方の手の平を見せながら静かに咎(とが)める。
 子供を守ろうとしている博雪(ひろゆき)が視界に入ると、辰海(たつみ)はすぐ我に返った。
「――……すみません。つい、熱が」
「そちらにも事情はあると思いますが、一般人であるこちらから言わせて頂(いただ)くと、フロスト社の噂(うわさ)はここらじゃ御法度(ごはっと)です。私としてもあまりこの子には触(ふ)れさせたくない」
「…保証人なら、そう…ですね……」
「申し訳ないですけど、話す内容がフロスト社に関わる事のみなら、今日はお帰りください」
 博雪(ひろゆき)が扉の方向に手を伸ばしながら辰海(たつみ)とツヅリに退店を促(うなが)した、その時。
「少し早いけど着いちまったからカフェオレひとつ~」
 まだ登場には早いだろうと思わせる男が、扉を全開にして4人の視線の先に登場した。
「S(エス)~~~!?」
「ゲェッ、しちの探偵事務所さん!?」
 すると打ち合わせていたかのようにツヅリとS(エス)の声が店内へ響き、ユビと博雪(ひろゆき)の顔面からまたも血の気(け)が引いていった。
(……よりによって、知り合いかよ…)
 ユビの心の声は、小さく口から漏(も)れていた。


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