ユビと博雪
◆
朧雲 で月も星も見えない初更 、博雪 はユビの部屋へ招かれた。
スライドドアを開けた先にある5畳 程の部屋には、大手家具用品店でまとめ買いした、白が基調のシンプルなデザインベッドとシステムデスク。
ただ寝て、ただ勉強をするだけの空間に、博雪 は真顔となった。
「入るたび思うけど、年頃なんだしもっとこう、遊ぶもの置いてなよ」
「って言っても大体スマホで済むからなァ」
「現物 欲しくならないの?」
「かさばるし、別に。ソシャゲもやってるのパズルだし、動画の更新追うからテレビも観ないし」
「…あっそ」
デスクの上は教材や文房具 、型落ちしたノートパソコンが散らかるだけ。
その他は狭 いクローゼットに納まりきる季節の衣服や、少ない鞄 と日用品。
掃除用品がリビングに備わったパントリーにあるからか、ユビの部屋には掃除用具がゴミ箱ひとつで済んでいるため、まるで物が無い。
(…確かにこれだけ物を持たない子なら、遺品くらい荷物にならないって思っちゃうのかもね)
博雪 はゴミをまとめる時に立ち入る程度のユビの部屋を改めてぐるりと見渡してから、無遠慮 にベッドへ腰を下ろす。
それを見るやユビはキャスターの付いた学習椅子 に座り、デスク横のシェルフから一姫 の日記帳と骨壺 を取り出した。
葉書 サイズで背幅に厚みの無い淡い色をした日記帳数冊と、小物入れに見える桜の柄が入った蓋 付きの陶器 。
博雪 の目の前に差し出された両手に納まるそれらが、ユビの兄である一姫 が生きた証明だった。
「どっちも開けたらわかるけど、本当に何にもないんだよ。特別なこととか、変なものとか」
「…うん」
「日記は俺が生まれた日からつけてて、最初は俺の面倒見てくれてる内容だけど、それも時間が経ったらほぼ学校の事とかバイトのことになって、就職先決まってからはインターンで少し大変ってくらいしか書いてない」
「読んでも?」
「いいよ。真空パックらしいから壺 も開けて大丈夫」
「へー、そんなところにも真空パックって使ってるんだ…」
「俺も知らなかった。カビとかの心配が減るからって、あの親にしてはスゲェ丁寧 にしたな~って。ノリだったかもしんないけど」
困ったように微笑 むユビへ博雪 は目を細めると、知るつもりもなかった知識を忘れるように、一番手前に置かれた日記帳を手に取る。
パラパラと薄い紙がめくれていく音が、物が少ない空間で反響した。
それから数分もすると博雪 は似た内容に飽 きて日記を閉じ、壺 の中身の確認へ移る。
そこには確かにユビの言った通りのものが在 り、また目を細めた。
「人ってこんなに小さくなれるものなんだね」
「な。骨を宝石にするサービスもあるって聞くし、もっともっと小さくなるのかも、生き物って」
2人でしみじみと一姫 を眺め、それも見飽きると、博雪 はユビへ話題を振る。
「それで、日記はS に見せるの?」
元々の議題に返ったことで、ユビは目を閉じ、悩むフリをした。
「…んー、俺は見せても別にいいと思ってるんだけど…内容もまぁ知ってるし。博雪 はどう思う?」
「僕?」
「読んだわけだし」
ユビの団栗眼 が博雪 を捉 え、答えを待つ。
その眼 から逃れるように博雪 は顔を少し下へ向けた。
「僕も見せていいと思うよ。何がS の知りたいことに繋がってるか分からないし」
「じゃあ、明日持って行くか」
「うん、そうだね」
それだけ確認すると博雪 はベッドから立ち上がり、ユビに日記帳と壺 を手渡しで返す。
「大切にしてあげなよ」
渡されたそれを一瞥 し、ユビは頷 いた。
「それじゃ僕、先にシャワー浴びるから」
博雪 はそう言うと、ユビの部屋を後にする。
軽い音を立てながらスライドされて閉められた扉を、ユビは少しの間、見つめたまま固まっていた。
博雪 の足音が消えるまで微動 だにせず、何度か呼吸してから立ち上がった。
それから漸 く壺 を元の場所に戻し、一姫 の日記帳を普段使いしているリュックの中へ入れる。
(…博雪 は、兄さんを〝1人 〟って数えてくれるんだな……)
この時初めて、物言わずただ佇 むだけの一姫 を、もう少し綺麗 に飾ろうかと思案しだすユビであった。
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✦ おまけ漫画
スライドドアを開けた先にある5
ただ寝て、ただ勉強をするだけの空間に、
「入るたび思うけど、年頃なんだしもっとこう、遊ぶもの置いてなよ」
「って言っても大体スマホで済むからなァ」
「
「かさばるし、別に。ソシャゲもやってるのパズルだし、動画の更新追うからテレビも観ないし」
「…あっそ」
デスクの上は教材や
その他は
掃除用品がリビングに備わったパントリーにあるからか、ユビの部屋には掃除用具がゴミ箱ひとつで済んでいるため、まるで物が無い。
(…確かにこれだけ物を持たない子なら、遺品くらい荷物にならないって思っちゃうのかもね)
それを見るやユビはキャスターの付いた学習
「どっちも開けたらわかるけど、本当に何にもないんだよ。特別なこととか、変なものとか」
「…うん」
「日記は俺が生まれた日からつけてて、最初は俺の面倒見てくれてる内容だけど、それも時間が経ったらほぼ学校の事とかバイトのことになって、就職先決まってからはインターンで少し大変ってくらいしか書いてない」
「読んでも?」
「いいよ。真空パックらしいから
「へー、そんなところにも真空パックって使ってるんだ…」
「俺も知らなかった。カビとかの心配が減るからって、あの親にしてはスゲェ
困ったように
パラパラと薄い紙がめくれていく音が、物が少ない空間で反響した。
それから数分もすると
そこには確かにユビの言った通りのものが
「人ってこんなに小さくなれるものなんだね」
「な。骨を宝石にするサービスもあるって聞くし、もっともっと小さくなるのかも、生き物って」
2人でしみじみと
「それで、日記は
元々の議題に返ったことで、ユビは目を閉じ、悩むフリをした。
「…んー、俺は見せても別にいいと思ってるんだけど…内容もまぁ知ってるし。
「僕?」
「読んだわけだし」
ユビの
その
「僕も見せていいと思うよ。何が
「じゃあ、明日持って行くか」
「うん、そうだね」
それだけ確認すると
「大切にしてあげなよ」
渡されたそれを
「それじゃ僕、先にシャワー浴びるから」
軽い音を立てながらスライドされて閉められた扉を、ユビは少しの間、見つめたまま固まっていた。
それから
(…
この時初めて、物言わずただ
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