ユビと博雪

「話変わるけど、ユビ、Sエスにお兄さんの日記見せるの?」
 話しながら冷凍庫の引き出しを開け、中からチョコレートのカップアイスクリームを取り出すと、それをユビに手渡す。
 博雪ひろゆき自身はバニラのカップアイスクリームも持つと、食器棚からスプーンを2つ取り出し、ダイニングテーブルへ向かった。
 ユビはそれに着いて行く形で、博雪ひろゆきと向かい合うよう椅子いすに腰掛ける。
 そして互いにスプーンを手に持つと、紙製のふたを開け、固いアイスクリームの表面を小さく叩いた。
「日記なー、見せるって言っても大したこと書いてないんだよ、兄さん」
「……もしかしてユビが日記持ってるの?」
「うん。そりゃまぁ、アルバムも作らない親だしな。団地のせまい部屋借りてたから兄さんの祭壇さいだんも作らなかったし、俺が居なくなったら捨てられるだろうと思って」
「…Sエスが言ってたの、出鱈目でたらめじゃなかったんだね」
「んー、でも、心不全で吐いて窒息ちっそくしたくらいに思っとけって言われたのはマジだぜ。火葬場かそうばに兄さんの骨受け取りに行った時、俺7歳だったけど、見覚えの無い人が車で送迎してくれたのは憶えてるし。タクシーじゃなかったから、それこそフロスト社の人だったのかも…」
「それがSエスの父親が出した指示って可能性もあるわけか」
「だな。まぁ当時の俺が死因を聞いたところで、理解するってのは難しかったと思うけど」
「……そう…」
「ただ、俺も借り暮らしには変わりないから、兄さんの形見ってなると小さい物がスペース的に精一杯。親も骨だけはどうしようもなかったっぽくてさァ……墓が無いから手元供養くようするとか言って、珍しく専門の会社に依頼したの俺ビビったもん。兄さんパック詰めされて返ってきて、これまた小さい骨壺こつつぼに入ってて。で、俺が引っ越す時に『日記持って行くなら一緒に持ってけ』って押し付けて来てさ」
「え」
 瞬間、博雪ひろゆきれた目が大きな円をえがく。
 まさしく、目を丸くしていた。
「え、見る?」
「――……じゃなくて、そういうことは一言ひとことちゃんと言って。知らない内に3人暮らししてたってことでしょ」
「お…あ、言わなきゃダメだったのか。ごめん…知らなくて……」
「いや、かなり特殊とくしゅなケースだと思うよ。ただ流石さすがに僕の心構えがね…」
「……ごめん…」
「うん…まぁ、次は無いとは思うけど、注意しなね…」
 世間せけん一般的な博雪ひろゆきの感覚に、ユビは自身の感覚がズレていたのかと気付き、素直に頭を下げる。
 博雪ひろゆきも怒っているわけではない。
 しかしあきれる気持ちがあった。
 ユビは気まずさから頭をやわき、言い訳というには稚拙ちせつな気持ちを吐露とろする。
「なんかまぁ、骨っちゃ骨なんだけど…中身がほんと…小麦粉みたいな感じで…」
 苦笑いで場をにごすしかないユビの様子に、博雪ひろゆきは何も無かったかのように返事をしてやる。
「あー、なるほど、粉骨したんだね。変わり様が凄いから、お兄さんだった実感が無いって言いたいのかな?」
「そう…なん、だよ…なー。つぼもそこらの雑貨店に有りそうな、小さい花瓶かびんくらいの大きさだし…」
 くしゃりと顔をゆがませながら、手で骨壺こつつぼの形を表現するユビに、博雪ひろゆきは興味を示す。
「へー。さっきはビックリしたけど、その小ささはちょっと見てみたいかも」
 物珍しいといった感覚で発言した博雪ひろゆきへ、ユビは表情を明るいものに変える。
「え、お。じゃあこれ食べたら、俺の部屋来る?」
「……お兄さん、プライバシーも何も無いね…」
 変わり身の早いユビへ、博雪ひろゆきわずかに引いた感情を向けた。
 その視線にユビは目線をらすと、取って付けたかのように苦笑いを浮かべる。
 そしてどうにか話題を変えようと、話している間に溶けたアイスをスプーンですくい、これ見よがしにくちへ運んでは、美味うまいとわざとらしく喜ぶのであった。


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