目的:S

白雪しらゆき一姫かずきの死因を麻薬のオーバードーズからなる心筋しんきん障害だと仮定した場合、全てが都合良く解決するんですよ。フロスト社を起点に社長繋がりの麻薬仲介ちゅうかいが息子であるきょう波及はきゅうして、きょうと繋がった白雪しらゆき一姫かずきに麻薬が渡り、それが原因で死んだなら、隠蔽いんぺいする為に白雪しらゆき家の借金を毒嶋ぶすじま家が肩代わりした…そう考えるのが妥当だとうだとも言える」
 どんどん血の気が引いていくユビをそのままに、Sエスは話を切り進める。
「しかも正社員として自社でやとった若者であったとなると、おおやけにされちゃ困るってもんだ」
 推理すいりがひと段落しかけると、Sはようやくユビに向き直る。
「そしてもし、死体検案書の売り渡しと死因を口外こうがいしない約束まで取り付けたなら、別途べっとで気持ちとしての色まで渡してる可能性もある。そこは取り引きしたって書類が有るもんでもないんで、完全に想像ですけど」
「…売っただろうよ、俺の親なら。心当たりはさっきの心不全だけど、くずなりに嘘はかないから信じていい」
「うわサイテー」
「馬鹿なんだよ」
 血色の悪い顔で頭痛をこらえる仕草しぐさをするユビへ、Sエスは先程言われた同じ言葉で意趣いしゅ晴らしをし、揶揄からかう。
 陽気な雰囲気に戻ることも無かったが、ユビもそれにSエス自身の返しを見舞うことで続きをうながした。
 Sエスは10代の現役高校生にしては随分と物分かりが良いユビに内心驚くが、そう伝える場面でもないとその考えをはしに追いやり、またカフェオレを一口ひとくち飲んで場を仕切り直す。
「まぁ話は戻りますが、俺が知りたいのはそこです」
「何、どこ?」
 真面目まじめな面持ちから一変、Sエスのあどけないみがユビの眼前にやってくる。
「父親が首を突っ込んだってことは、息子が関わってる可能性がかなり高い。だったらきょうへの親心で『助ける為に白雪しらゆき家へ金を出した』のか、ただ社長として『都合つごうが悪いからかばった』のか、血の繋がる人間として知りたくなった。それが知れるなら、それだけでいい」
「――はぁ?」
 Sエスのそれを聞き届け、言葉を理解した瞬間、ユビはひたいに青筋を立てる。
 博雪ひろゆきは小さく溜め息をこぼしたら、ホットコーヒーをすすった。
 そして拳を握り直したユビを止めるように、Sエスの意見を肯定する。
「なるほど。確かに家族でも知らない方が良い内容だし、本人へのアポイントでこんなはなししたら、目を付けられて何されるか分からない。どころか決着もしない。どうにもならない話だ」
 しかし博雪ひろゆきの気遣いはむなしくもユビに届かない。
 目の前でユビが「笑ってんじゃねェよおっさん!」と怒り、Sエスが「じゃりんこにも重くならないように努力してやりました~!」と手を焼いている。
 出会って間が無いというのに、なんとも温和おんわ喧嘩けんかだとあきれる他ない。
 言い合いもそこそこにするよう博雪ひろゆきがユビとSエスの間に無言で手刀を振り落とすと、店内は静かになる。
 この短時間で逆らわないでおくことが最善であると思わせ続けた博雪ひろゆきの行動は、効果覿面てきめんであった。
「それで、ユビはどうするの。お兄さんの日記は見せてあげるの?」
 博雪ひろゆきからのまとを射たそれに、ユビとSエスはじとりと見つめ合う。


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