目的:S

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 喫茶店赤松あかまつのカウンター席で、愛想あいそ笑いのまま両手の平を合わせたSエスが目的を話す。
「フロスト社の現社長は、俺の父親なんです」
 Sエスからの告白に、ユビと博雪ひろゆき鳩尾みぞおちを打たれたような衝撃しょうげきを受ける。
 突拍子とっぴょうしも無い話にうそまことか問うことも考えたが、Sエスは真面目な面持ちになり、合わせていた手をテーブルへ置いていた。
 ここで話の腰を折るのも気が引けたユビと博雪ひろゆきは、一旦見開いた目をまばたきで誤魔化ごまかす。
 気を遣っているのがよく分かるそんな2人に、Sエスは眉を八の字にした。
「詳しく話すと長くなるんで省略しょうりゃくしますけど、父親は当時、婚約者がいることを黙ったまま俺の母親と不倫しました」
「うっわ、サイテー」
 間髪入れず、ユビは憤然ふんぜんとした口調でSエスの父親を非難する。
「…馬鹿なんだよ。で、俺が腹に入っちまったもんだから、示談金じだんきんで事を済ませてます」
「最低だね」
 いで博雪ひろゆきSエスの父親を非難した。
「まぁ…若かったんでしょう……」
 Sエスは何とも複雑そうに当惑とうわくを示す。
 ユビと博雪ひろゆきは引きった表情で「最低」とまたくちにした。
 そう続かない内容を粗雑そざつに扱う終わると、ユビはつい先程のことを思い出す。
「あ、だからさっき兄さんが死んだ時期のフロスト社の動向が知りたいって言ったのか」
 ユビは兄の就職先社長にあたるSエスの父親が、社員の死でどういった行動を取ったのか――それが知りたいのだと結論付ける。
 それに対してSエスはまず肯定から入った。
「そうそう。なかなか流れの飲み込みが早いですな」
「あんまめられてる気がしねェ」
「ハハハ、まぁ動向についてはついでみたいなもんです。目的って話なら、俺は次期社長候補にして異母兄弟にあたる毒嶋ぶすじまきょうに会いたい」
 明るい声とは裏腹に、Sエスの目は随分ずいぶんと冷めきっている。
 今しがた父親に会いたいのだと内心で決め付けてしまっていたユビは、わざとらしく肩からカウンターテーブルへ崩れ落ちた。
 これはひらめいたと言わんばかりの顔をSエスに向けていたので、ユビなりの羞恥心しゅうちしんを隠しながらまぎらわす行動だ。
 そんな一人芝居ひとりしばいり広げるユビには目もくれず、博雪ひろゆきSエスへ疑問を抱く。
 Sエスは父親の話をしている筈なのに、何故会いたいのは弟なのかという、ひねりの無いものだ。
「父親に会いたいんじゃないの?」
「…父親には会おうと思えば会えますよ。それこそ、アポイントを取ればいいだけですから」
「じゃあどうして会わないの?」
「知りたいことが出来たんです。単純なことで、何と言いますか…家族に対してどういう接し方をしてるのかなって」
「…抜き打ちで聞き出したいってこと?」
「そう、ですね…そうです。家族にとってどういう人間なのか、知らなきゃならないんです」
 言いながら丸まっていくSエスの背と、不可侵ふかしんを表すかのように組まれる腕。
 それからひとつの溜め息を落としたSエスに掛ける言葉を、ユビも博雪ひろゆきも持ち合わせてはいなかった。


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