君は死なず、されど
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「チッ。
思った通りじゃねーか!!」
間もなく、黒煙の中から不機嫌そうに空中へ飛び出した飛段。
身を翻した飛段はそのまま軽やかに体を捻らせ、後方へ滑るように地に着いた。
「オイ角都ゥ!!」
「うるせぇぞ飛段!!聴こえている」
思い切り、そしてやたらでかい声で叫ぶ飛段。続けてその声のでかさにイラついた様子の角都が勢いよく中から後退した。
体は硬化されているのか、黒く変色している。
更に、
「ほにゃらへにゃ…………」
角都の左脇には顔を真っ赤にし、すっかり項垂れて大人しく抱えられている○○の姿が。
「あーあ。すっかりのびてやがるな」
たまらずため息を吐き出す飛段。
ただ、それは○○に向けられたものでは無く、あくまでも«これをけしかけた者»に対する反応であった。
「ーー…………」
「んえぇ…………」
間の伸びた声を漏らしている○○。
…………の、口元から«ある匂い»がすることに角都は気がついたのだ。
「(……)
飛段」
「あん?」
「○○が«何に弱い»か、お前に言ったことはあったか?」
「んだ急に。……あーー、確か、……。
ってオイ角都」
何かを察した飛段は、ゆっくりと手に持っている三枚刃の鎌を背へと納め、ため息を吐く。
角都はほんの一瞬、目を伏せてから、煙の中に居るであろう人間へ視線を向ける。
「(さて、)
何が目的だ?貴様」
やがて煙が晴れ、中から店番の男が姿を現す。
「……流石。やりますね、角都«先輩»」
「ほぅ、」
しかし、その姿は先程とは異なり、忍装束に額当て……そしてその額当てには«滝隠れの里»の忍をあらわすマークが刻まれていたのである。
「里からの差し金か?」
角都の問いに、男は薄く笑ってみせた。
それは肯定にも、否定にもとれるような反応にみえる。
「……里からの命で○○について情報収集していたのは事実だ。
まさか拠点代わりにしているこの茶屋に来るとは思わなかったが……チャンスだと思った」
男は○○を見てそう言った。
「そこで事前に仕入れていた情報を利用した。まぁ、まさか既に疲弊した状態だったのは、嬉しい誤算、というやつだ」
まるで既に勝利しているかのような口ぶりに、飛段はあからさまに機嫌を損ねていく。
「ーー、てめぇがオレらに勝てると思ってんのか」
「まさか。
……だから«手を打った»」
「(ーーーー、この煙、)
飛段、その煙を吸うな!!」
「は?何言、……んだこりゃ、」
男は笑う。
角都と飛段の体が、まるで縫い付けられたかのように動かせなくなったのだ。
「お前たち二人の凶悪さももちろん織り込み済みだ」
「…………。神経毒か」
「…………チッ」
(…………指先すらロクに動かせないとは、)
地怨虞を出そうとするものの、それもままならない角都。
ーーそれでも、いつも通り冷静でいられた。
「……○○は弱点のアルコールで行動不能、そしてオレたちには神経毒で体の自由を奪う。
なるほど、それは確かに合理的ではある。
合理的ではある、が」
なぜなら。
「残念。情報不足だったな」
「何、」
「風遁、
ーーーー」
男が問いただすよりも早く、ある人物が術の印を結んだのだ。
茶屋一帯に爆風が巻き起こる。
周囲の風は視覚、聴覚を遮り、判断力を著しく鈍らせた。
「ぐっ、」
男は警戒をしつつ、腕で顔をガードする。
……しかし、別段何かが襲ってくる様子はなく、ただ耳にはごうごうと風の音が届くばかりだった。
やがて風がおさまり、静寂が訪れる。
(ーー、おさまった、か)
「…………」
「……。
は…………?」
視界が晴れ、周囲を確認するべく顔を上げた瞬間、男は自身の目を疑った。
なぜなら、角都の横には
(うそだろ、)
無力化し角都の腕の中に大人しく収まっていたはずの○○が立っていたのである。
○○の目はややうつろだったものの、視線はしっかりと男を捉えていた。
「あ゛ー。動けるな」
「フン、」
(まずい……)
その上。
爆風の影響で黒煙が晴れたことにより、動きを封じられていた角都、飛段の二人も自由になっていたのだ。
一気に状況が悪転し、額に汗か浮かぶ。
「首いてーーな、クソ」
男は警戒した。
しかし、○○はその場から動かず、飛段も背中の武器を取る様子は皆無。
角都も同様、何かをする気配は伺えない。
「飛段、ぐずぐずするな」
「わーってるよ角都」
(?…………??)
それどころか、二人はこの場から退こうとしていたのだ。
男としては嬉しいものの、やはり疑問も拭えず、自然と口からは言葉を発していた。
「っ待て!!逃げるのか!?」
「あ?」
「…………。
これから«死ぬ»お前にオレたちの行動の意味を説明してどうする。«無駄»だろう」
「………………!!」
そして、角都と飛段は、本当にこの場から退いたのである。
ーー○○をただ一人残して。
……。
一方。
茶屋から退いた二人は、そこからわずか先、変化の術をつかったあたりの森にいた。
「クソッ。○○がああでなきゃアイツを«贄»にしたのによォ」
飛段は忌々しそうに眉間にシワを寄せ、その場にどかりと座り込んだ。風で乱れた前髪を雑にかき上げながら。
「そう言うな飛段。
…………○○がああなった以上、大人しくさせるのにも骨が折れる」
太い木にもたれ背中を預けた角都は、慣れた口ぶりで飛段にそう言葉を投げかける。
「それで前に面倒なことになっただろう」
「ゲ。嫌なもん思い出させんなよ……」
「生憎、オレもお前と同じだ」
各々が各々、渋~~~~い顔つきをしているさなか、茶屋の方向から風が巻き起こったのを、二人は見逃さなかった。
「始まったか」
「今回の奴は原形をとどめていればいいが」
「そりゃ無理だろ。なんせ今回は状況が悪ィ」
「………………」
……。
場所、変わり茶屋。
「ハァ、ハァ、……ッ、(クソ……!!)」
「ーー、」
○○と向き合い対峙する男。
しかし、その姿は至るところから出血がみられ、立っているのさえやっとの状況。
対する○○は外とうこそ汚れや傷はあるものの、○○そのものにそういったものは一切見られない。
「ーー、(クソ、クソ……ッ!!)」
男は自身の行動や選択を酷く後悔した。
その行為そのものが無意味だと理解していても。
「な、なぁ、見逃してくれないか!?
オレは里に命令されただけで仕方無く…………!!」
「…………私だけを、」
「ッ!!」
ここで、○○か口を開いた。
男は、○○の情報を集めていた。
だから、○○がお人好しで完全な外道でなく、情けも持ち合わせていることも知っていて、理解しているつもりだった。
ただ、それは所詮«つもり»でしかなかったのだ。
直後、男は角都に言われた言葉を思い出した。
ーーーー情報不足だったな。
「私だけを狙って、私だけを攻撃するのはいい。
……。
けど、角都さんと、飛段は、駄目だ」
「あ、」
○○が一歩、男に近づいた。
「二人は私よりも強い。
でも、万が一、もある。この世に絶対は存在しないから」
また一歩、
「、ひ、」
男は、たまらずその場にへたり込む。
体が震える。
息がうまくできない。
額の汗が止まらない。
「………………。
あなたの団子、本当に美味しかった。罠だと知った今でも……こんなことにならなければ、」
「ーーーー」
驚くほど。
驚くほどに優しい目。声色。
瞬時に今の言葉が嘘偽りでないことがわかった。
ーーそして、ついに○○の手が男の目の前へのびた。
「また今度、があれば…………………………」
その先の言葉は、○○の指先から放たれた爆風により、聴くことは叶わなかったのである。
直後。
爆音、爆撃が周囲に響き渡った。
「ーーーー…………」
……。
そして。
「ーー終わったか」
「おー。んじゃ回収行くか、角都」
「当然。死体の確認も必要だしな」
「アイツ、アレだ、«リンゴブック»?だとかに載ってる賞金首なわけ?」
「«ビンゴブック»だ馬鹿。農家じゃねぇんだ。
…………いずれにせよはした金だ。判別がつかないならそれはそれでいい」
「……。ほーん」
含みのある言い方をする角都、を見て何かを察したように笑う。
「…………何か言いたげだな、飛段」
そんな顔を見た角都が、当然イラつかないはずもなく、青筋を立て飛段に言葉をブン投げたのだ。
「いや別にィ?
ただオレは角都が本当はアイツをブチ殺してやりたかったーとか言うと思ってたら、言い訳みてーなこと言い出しやがったなーって思っただけだし?」
「成程。
なら代わりにお前をブチ殺すとしよう」
「うおっ!?オイオイ今は○○の方が先だろーがよォ!!」
飛段が地怨虞を避け後方へとんだ、そのすぐ近くに目当ての茶屋か見える。
「…………。
わかっている。行くぞ」
「…………」
平静を装い茶屋へ向かう角都。
(ほんっと○○が絡むと面倒くせーな、コイツ)
……その後ろを、心の中で悪態をつきつつ、飛段はついて行くのだった。
……。
茶屋へ足を踏み入れる角都と飛段の二人。
中はすっかり荒れ果てており、足元には血や木片やらが散乱していた。
「……」
角都は返り血で赤くなった体を横たわらせ、うんうんと唸っている○○の顔を覗き込む。
……«酔い»は覚めてはいないものの、それ以外に外傷らしき外傷は見当たらない。
「○○ーー、○○ちゃーん」
「うぅ、ぅえ、」
「おい飛段、揺するな」
○○の体を揺する飛段をたしなめつつ、血溜まりの方へ目線を向ける。
血溜まりの中に、目当ての男«らしき»ものが沈んでいる。
……らしき、というのは、«辛うじて何かだとわかるだけ»で、«それ»はもはや人の形を成していなかったからだ。
案の定、である。
「………………。○○」
判別がきかないのであればどうしようも無い、と割り切った角都は、早々に○○へと意識を切り替えた。
「…………?
はれ、角都さん、」
頭を抱え顔を上げる○○。
訳がわからない、といった表情。見た通り記憶の一部が混濁、または抜け落ちているようだ。
「(……。)
出された団子が酒入りでな。今の今まで酔いつぶれていた。
ーー腕を広げろ。お前はオレが抱えて帰る」
「………………はーい…………」
大人しく抱えられる○○。
平常ならば確実に渋っただろうな、と角都はふと思うのだった。
「物は言いようだな」
「嘘は言っていない」
○○を抱え歩く角都、のやや後ろをついて歩く飛段。
そんな二人の会話は、微睡む○○には届かず、消えていく。
ーーこうして茶屋を後にした三人は、今度こそアジトに向かって歩を進めるのだった。
。
思った通りじゃねーか!!」
間もなく、黒煙の中から不機嫌そうに空中へ飛び出した飛段。
身を翻した飛段はそのまま軽やかに体を捻らせ、後方へ滑るように地に着いた。
「オイ角都ゥ!!」
「うるせぇぞ飛段!!聴こえている」
思い切り、そしてやたらでかい声で叫ぶ飛段。続けてその声のでかさにイラついた様子の角都が勢いよく中から後退した。
体は硬化されているのか、黒く変色している。
更に、
「ほにゃらへにゃ…………」
角都の左脇には顔を真っ赤にし、すっかり項垂れて大人しく抱えられている○○の姿が。
「あーあ。すっかりのびてやがるな」
たまらずため息を吐き出す飛段。
ただ、それは○○に向けられたものでは無く、あくまでも«これをけしかけた者»に対する反応であった。
「ーー…………」
「んえぇ…………」
間の伸びた声を漏らしている○○。
…………の、口元から«ある匂い»がすることに角都は気がついたのだ。
「(……)
飛段」
「あん?」
「○○が«何に弱い»か、お前に言ったことはあったか?」
「んだ急に。……あーー、確か、……。
ってオイ角都」
何かを察した飛段は、ゆっくりと手に持っている三枚刃の鎌を背へと納め、ため息を吐く。
角都はほんの一瞬、目を伏せてから、煙の中に居るであろう人間へ視線を向ける。
「(さて、)
何が目的だ?貴様」
やがて煙が晴れ、中から店番の男が姿を現す。
「……流石。やりますね、角都«先輩»」
「ほぅ、」
しかし、その姿は先程とは異なり、忍装束に額当て……そしてその額当てには«滝隠れの里»の忍をあらわすマークが刻まれていたのである。
「里からの差し金か?」
角都の問いに、男は薄く笑ってみせた。
それは肯定にも、否定にもとれるような反応にみえる。
「……里からの命で○○について情報収集していたのは事実だ。
まさか拠点代わりにしているこの茶屋に来るとは思わなかったが……チャンスだと思った」
男は○○を見てそう言った。
「そこで事前に仕入れていた情報を利用した。まぁ、まさか既に疲弊した状態だったのは、嬉しい誤算、というやつだ」
まるで既に勝利しているかのような口ぶりに、飛段はあからさまに機嫌を損ねていく。
「ーー、てめぇがオレらに勝てると思ってんのか」
「まさか。
……だから«手を打った»」
「(ーーーー、この煙、)
飛段、その煙を吸うな!!」
「は?何言、……んだこりゃ、」
男は笑う。
角都と飛段の体が、まるで縫い付けられたかのように動かせなくなったのだ。
「お前たち二人の凶悪さももちろん織り込み済みだ」
「…………。神経毒か」
「…………チッ」
(…………指先すらロクに動かせないとは、)
地怨虞を出そうとするものの、それもままならない角都。
ーーそれでも、いつも通り冷静でいられた。
「……○○は弱点のアルコールで行動不能、そしてオレたちには神経毒で体の自由を奪う。
なるほど、それは確かに合理的ではある。
合理的ではある、が」
なぜなら。
「残念。情報不足だったな」
「何、」
「風遁、
ーーーー」
男が問いただすよりも早く、ある人物が術の印を結んだのだ。
茶屋一帯に爆風が巻き起こる。
周囲の風は視覚、聴覚を遮り、判断力を著しく鈍らせた。
「ぐっ、」
男は警戒をしつつ、腕で顔をガードする。
……しかし、別段何かが襲ってくる様子はなく、ただ耳にはごうごうと風の音が届くばかりだった。
やがて風がおさまり、静寂が訪れる。
(ーー、おさまった、か)
「…………」
「……。
は…………?」
視界が晴れ、周囲を確認するべく顔を上げた瞬間、男は自身の目を疑った。
なぜなら、角都の横には
(うそだろ、)
無力化し角都の腕の中に大人しく収まっていたはずの○○が立っていたのである。
○○の目はややうつろだったものの、視線はしっかりと男を捉えていた。
「あ゛ー。動けるな」
「フン、」
(まずい……)
その上。
爆風の影響で黒煙が晴れたことにより、動きを封じられていた角都、飛段の二人も自由になっていたのだ。
一気に状況が悪転し、額に汗か浮かぶ。
「首いてーーな、クソ」
男は警戒した。
しかし、○○はその場から動かず、飛段も背中の武器を取る様子は皆無。
角都も同様、何かをする気配は伺えない。
「飛段、ぐずぐずするな」
「わーってるよ角都」
(?…………??)
それどころか、二人はこの場から退こうとしていたのだ。
男としては嬉しいものの、やはり疑問も拭えず、自然と口からは言葉を発していた。
「っ待て!!逃げるのか!?」
「あ?」
「…………。
これから«死ぬ»お前にオレたちの行動の意味を説明してどうする。«無駄»だろう」
「………………!!」
そして、角都と飛段は、本当にこの場から退いたのである。
ーー○○をただ一人残して。
……。
一方。
茶屋から退いた二人は、そこからわずか先、変化の術をつかったあたりの森にいた。
「クソッ。○○がああでなきゃアイツを«贄»にしたのによォ」
飛段は忌々しそうに眉間にシワを寄せ、その場にどかりと座り込んだ。風で乱れた前髪を雑にかき上げながら。
「そう言うな飛段。
…………○○がああなった以上、大人しくさせるのにも骨が折れる」
太い木にもたれ背中を預けた角都は、慣れた口ぶりで飛段にそう言葉を投げかける。
「それで前に面倒なことになっただろう」
「ゲ。嫌なもん思い出させんなよ……」
「生憎、オレもお前と同じだ」
各々が各々、渋~~~~い顔つきをしているさなか、茶屋の方向から風が巻き起こったのを、二人は見逃さなかった。
「始まったか」
「今回の奴は原形をとどめていればいいが」
「そりゃ無理だろ。なんせ今回は状況が悪ィ」
「………………」
……。
場所、変わり茶屋。
「ハァ、ハァ、……ッ、(クソ……!!)」
「ーー、」
○○と向き合い対峙する男。
しかし、その姿は至るところから出血がみられ、立っているのさえやっとの状況。
対する○○は外とうこそ汚れや傷はあるものの、○○そのものにそういったものは一切見られない。
「ーー、(クソ、クソ……ッ!!)」
男は自身の行動や選択を酷く後悔した。
その行為そのものが無意味だと理解していても。
「な、なぁ、見逃してくれないか!?
オレは里に命令されただけで仕方無く…………!!」
「…………私だけを、」
「ッ!!」
ここで、○○か口を開いた。
男は、○○の情報を集めていた。
だから、○○がお人好しで完全な外道でなく、情けも持ち合わせていることも知っていて、理解しているつもりだった。
ただ、それは所詮«つもり»でしかなかったのだ。
直後、男は角都に言われた言葉を思い出した。
ーーーー情報不足だったな。
「私だけを狙って、私だけを攻撃するのはいい。
……。
けど、角都さんと、飛段は、駄目だ」
「あ、」
○○が一歩、男に近づいた。
「二人は私よりも強い。
でも、万が一、もある。この世に絶対は存在しないから」
また一歩、
「、ひ、」
男は、たまらずその場にへたり込む。
体が震える。
息がうまくできない。
額の汗が止まらない。
「………………。
あなたの団子、本当に美味しかった。罠だと知った今でも……こんなことにならなければ、」
「ーーーー」
驚くほど。
驚くほどに優しい目。声色。
瞬時に今の言葉が嘘偽りでないことがわかった。
ーーそして、ついに○○の手が男の目の前へのびた。
「また今度、があれば…………………………」
その先の言葉は、○○の指先から放たれた爆風により、聴くことは叶わなかったのである。
直後。
爆音、爆撃が周囲に響き渡った。
「ーーーー…………」
……。
そして。
「ーー終わったか」
「おー。んじゃ回収行くか、角都」
「当然。死体の確認も必要だしな」
「アイツ、アレだ、«リンゴブック»?だとかに載ってる賞金首なわけ?」
「«ビンゴブック»だ馬鹿。農家じゃねぇんだ。
…………いずれにせよはした金だ。判別がつかないならそれはそれでいい」
「……。ほーん」
含みのある言い方をする角都、を見て何かを察したように笑う。
「…………何か言いたげだな、飛段」
そんな顔を見た角都が、当然イラつかないはずもなく、青筋を立て飛段に言葉をブン投げたのだ。
「いや別にィ?
ただオレは角都が本当はアイツをブチ殺してやりたかったーとか言うと思ってたら、言い訳みてーなこと言い出しやがったなーって思っただけだし?」
「成程。
なら代わりにお前をブチ殺すとしよう」
「うおっ!?オイオイ今は○○の方が先だろーがよォ!!」
飛段が地怨虞を避け後方へとんだ、そのすぐ近くに目当ての茶屋か見える。
「…………。
わかっている。行くぞ」
「…………」
平静を装い茶屋へ向かう角都。
(ほんっと○○が絡むと面倒くせーな、コイツ)
……その後ろを、心の中で悪態をつきつつ、飛段はついて行くのだった。
……。
茶屋へ足を踏み入れる角都と飛段の二人。
中はすっかり荒れ果てており、足元には血や木片やらが散乱していた。
「……」
角都は返り血で赤くなった体を横たわらせ、うんうんと唸っている○○の顔を覗き込む。
……«酔い»は覚めてはいないものの、それ以外に外傷らしき外傷は見当たらない。
「○○ーー、○○ちゃーん」
「うぅ、ぅえ、」
「おい飛段、揺するな」
○○の体を揺する飛段をたしなめつつ、血溜まりの方へ目線を向ける。
血溜まりの中に、目当ての男«らしき»ものが沈んでいる。
……らしき、というのは、«辛うじて何かだとわかるだけ»で、«それ»はもはや人の形を成していなかったからだ。
案の定、である。
「………………。○○」
判別がきかないのであればどうしようも無い、と割り切った角都は、早々に○○へと意識を切り替えた。
「…………?
はれ、角都さん、」
頭を抱え顔を上げる○○。
訳がわからない、といった表情。見た通り記憶の一部が混濁、または抜け落ちているようだ。
「(……。)
出された団子が酒入りでな。今の今まで酔いつぶれていた。
ーー腕を広げろ。お前はオレが抱えて帰る」
「………………はーい…………」
大人しく抱えられる○○。
平常ならば確実に渋っただろうな、と角都はふと思うのだった。
「物は言いようだな」
「嘘は言っていない」
○○を抱え歩く角都、のやや後ろをついて歩く飛段。
そんな二人の会話は、微睡む○○には届かず、消えていく。
ーーこうして茶屋を後にした三人は、今度こそアジトに向かって歩を進めるのだった。
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