君は死なず、されど
名前
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そしてタオル一枚。
不死トリオは温泉にいた。
「ん~~…………」
素材の良さが感じられる椅子に腰を下ろし、ひとりぼんやりと人工的な光が混じる暗い空を見上げていた。
ーーひとりじゃロクに洗えないだろうし、オレが終わるまで大人しくしていろ。
ーーはーい。
ーーオレらしかいねーじゃん。ラッキー!
ーー……おい飛段。湯に浸かる前に体を洗え。
数分前のやり取りを思い出す。
言われた通りに大人しくしている○○は、備え付けのアヒルさんを押して暇を潰していた。ぷぅぷぅかわいく鳴る様に癒されながら。
ぷぅぷぅ。
ぷぅぷぅ。
鮮やかな黄色の、可愛らしいアヒルさん。片手で出来ることがこのくらいしかないのだ。それでも○○はそれなりに楽しんでいた。
これで時間を潰せるのは○○くらいだろう。
「お前、○○か?」
そんな時。
ぬ、と○○に影が落ちる。
「あれ、デイダラ?」
振り向くと、腰にタオルを巻き一式揃った桶を手にしたデイダラが。
すぐ横に座ると、物を取り出しながらも口を開く。
「ひとりで温泉入りに来たのかよ」
「ううん。三人で来てるよ!普段はみんな好きなタイミングで入るんだけどさ、今回はほら、この通り」
「うわ、」
ぐいんと体を曲げ損傷した右腕を見せると、やや体を引かせたデイダラだったが、やがてまじまじと断面を見ながら手を伸ばす。
「痛くねぇのか?」
「ん~~痛いには痛いけどなんていうか、他の人で言うところの打撲?くらいかなってレベル」
「……よくわかんねぇな。うん」
「そんなものだよ」
断面をつつかれながらけらけら笑う○○。
「まだ完全な不死じゃなかった時、再生する痛みに耐えきれなくて気絶したりもしたな……」
ぷぅぷぅ。
相も変わらずかわいらしいアヒルさんの胴を押しながら、何の気なしに言う。○○にとっては笑い話に出来るようになった昔の話だ。
「…………」
「デイダラ?」
「あぁ~~ほんっとお前は…………ッ!!」
しかしデイダラはそうでは無いのか、それともなにか思うことでもあるのか。バッと振り上げた両手で○○の髪をわしゃわしゃとしだした。
いきなりのことでえ、え、と困惑しながらひたすらされるがままでいると離れていく両手。
「……?…………??」
「……まぁ。痛いなら痛いって言やいいんだよ」
○○の手から足元に転げ落ちたアヒルさんを拾い上げ、呟く。
……デイダラは○○と多くの時間を共にしているわけでは無い。共通点といえば同じ組織にいること、敢えて挙げるなら○○の体質だろうか。無論、○○のそれは芸術とは程遠い存在なのだが。
「アイツらに言えないようなら、オレに言え」
「…………」
くしゃくしゃになった髪を押さえてぽかんと口を開く○○。
「………あ、ありがとう」
面と向かってそんなことを言われることに慣れていないのだろう。何故なら○○にとっては死なない自身の体は、痛みを伴うことが当たり前だとずっと思っていたからだ。
アヒルさんを口元へやり、恥ずかしそうに○○は呟いた。
(…………角都さんにも、昔似たようなこと言われた気がするな……)
「?」
「なんでもない。それより、サソリは部屋?」
「ん?あぁ、旦那は部屋でメンテナンスを、」
「○○」
朧気な記憶をしまい何事も無かったかのように話題を変えると、真後ろからぬ、と浅黒い肌とツギハギの腕が伸ばされ○○の頭に乗せられた。
振り向くと、○○が想像していた通りの人物、角都が立っている。
「あ、角都さん。終わった?」
「ああ。飛段はもう浸かっている。早く済ませないとあとが面倒だ……行くぞ」
「はーい」
ぴょこん、と器用に立ち上がり、角都の背中を追って行く。途中振り返って手を振る○○。
間もなく、二人の姿はすっかり遠くへ景色と大差無く紛れていった。
ひとりとなったデイダラは○○の居た横から、鏡のある正面へと向き直し、蛇口をひねってお湯を浴びていく。
ぼんやり思い出すのは、先ほどのやりとりで見せた○○の顔だ。ふと、あれは初めて見た表情だなと思う。思えば、デイダラは○○のことをあまりにも知らない。
(…………まぁ、オイラが知らなくてもあの二人……特に角都の旦那は見慣れてんだろうな。そりゃそうだ。聞くところによると里の出身まで同じときた)
……不本意だが、何も知らない自分と角都を比べてしまったのだ。
(らしくねぇな……我ながら)
そして、ここまで気にかける自身に無意識にため息を吐き出す。
ほんの一瞬。
タイミングを見計らって角都にでも色々聞いてしまおうとも考えたのだが、それはそれで面倒なことになりそうだなというのと、それ以上にそんな機会いつ訪れるのかわからないときた。
(…………まぁ、同じ組織に属している以上、話す機会も今後あるだろ……うん)
結局のところ、不確定に任せるしかない。デイダラはいつか来るであろうその日を想像しながら、シャワーの蛇口を閉めたのだった。
……。
「○○」
「んー?」
「アイツ……デイダラと何を話していたんだ」
「このアヒルさんが、角都さんに少し似てるって話」
「……そんな目つきはしてない」
「えー」
一方。
角都に洗われている○○は、呑気に笑い手に持つアヒルさんを見せていたのであった。
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