君は死なず、されど
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(あれ、)
「ボーッとするな。○○」
「置いてくぞー」
(角都さん、飛段)
気がつくと、○○は森の中に居た。いや、寝る前も森だったが、違う森のようだ。
(……声が出ない)
二人の後を追う。
体は普通に動かせるが、話しかけることが出来ない。おまけにところどころボヤけていて、上手く視認出来ない。
そもそも○○は眠っているし飛段はおそらく今でも賞金首の相手をしているだろうから、この状況自体がおかしくて。
(夢……、かな)
○○はここを、夢の中だと判断した。
「それよりよ、この間のアレはやばかったよな。死ぬんじゃねーかと思ったぜ」
「……実際、死にかけたからな」
(?)
「しっかし、この短期間でよく戦線復帰まで回復したもんだよ。ほんと」
「あぁ。だが次同じようになるとは限らん」
○○をよそに、二人はそんな会話をする。話の内容から察するに、メンバーの誰かが深手を負っていたようだ。
……夢にしては嫌な方にリアルだな。
「肝に銘じておけ、○○」
「お前はオレらと違って死ぬんだからよ」
(…………え?)
自分以外の誰かの話だと、そう思っていた○○。
だが実際には違った。
他の誰でもない、○○のことだった。夢の中の○○は不死ではない、普通の、傷を負えば死ぬ体だったのだ。
(夢とはいえ、変な感じだな…………)
前を歩く二人の背中を、ぼんやりと眺める。
○○が角都と出会ったのはある小国、人体実験により完全な不死となって間もない頃。
任務で村を訪れた角都の手により、○○以外の人間を殺し、共に生きることとなったのが全ての始まりである。
人体実験を行い、人としての扱いをせず、尊厳を踏みにじった一族を一生許すことは無い。
しかし、不死でなければ二人と並ぶことも出来やしないことを、遠ざかっていく背中を見て酷く痛感した。今の○○の手では、伸ばしたところで角都にも、飛段にも届きはしないのだ。
やがて二人の姿は見えなくなり、○○はひとり立ち尽くす。
(…………)
虚しく彷徨う手を降ろし、○○は立ち止まる。
(夢の中だから、涙も出ないや)
虚しかろうと悔しかろうと悲しかろうと苦しかろうと、うつろな夢の中では涙の一滴すらこぼれない。○○の胸を支配するのは、虚無感だけだった。
目を閉じる。
みるみるうちに、○○の意識は沈んで、ぶつりと途絶えた。
。
「ーーーー…………、」
○○は目を覚ました。
角都の体温と心音を感じ、視界の隅には黒い外とうが見える。
夢ではなく現実。それを理解したと同時に、○○の目から涙がぼろぼろとこぼれ落ちていく。
「……角都さん」
「!」
見上げる○○。角都の目に、大粒の涙をこぼす○○が映る。付き合いのかなり長い二人だが、ここまで泣いている姿を見たの初めてだった。
内心思うことがありながらも、表には出さず正面に座らせる。
「悪い夢でも見たか」
涙で濡れた○○の頬から首あたりを袖口で拭い、角都は問いかけた。
実際、体質関係の嫌な夢を見たことがあるため、そう聞いたのだ。
……もっとも、その時見た夢は厳密に言えば不死とは別のものであったのだが、今は割愛する。
ともかく。ウン十年もの歳月行動を共にしていれば多少なりとも情は湧くもので、角都も○○を気にかけてはいる……というわけである。
「…………。二人が私の前から、い、居なくなって」
ぽつり、と消えそうな声で○○は言う。
「ひとりに、なって…………」
夢の中では不死でなかったことは言わなかった。○○にとっては、角都と飛段が自分の手の届かない場所へ行ってしまったことの方が、よっぽど耐えられないのだ。
○○の両目から、再び大粒の涙が溢れ出す。
「…………」
何かを察したのか。角都はため息ひとつを吐き出し、自身の胸へ○○を押し付けた。
「所詮は夢。ありもしない空想に手を伸ばすな。……«あの日»、オレはお前になんて言った」
ーーここで会ったも何かの縁。
運命、などと言うつもりも無いが、最期までお前に付き合うとしよう。
(ーー……)
何十年も昔。
○○は角都に言われた言葉を思い出す。
そして言葉通り○○と角都はどんな時も、何があろうと、里を抜ける瞬間すらそれは変わらず、○○は角都の横にいた。
「う、角都さ゛ん、あ゛りがと、」
「……オレの外とうがびしょ濡れにならない内に泣きやめ、いいな」
「がんばる゛…………」
角都の胸でべしょべしょ泣きながら頷く○○。子供をあやすように、背中をとんとん叩く。
口ではどうこう言いつつも、○○の涙で濡れていく外とうを特に不快感も抱かず、ただ黙って泣き止むのを待つ。
存外、甘いなと思いつつ、しかし悪い気もしなかったのだ。
「おーい。角都、○○、終わったぜ」
「!」
「あ、角都泣かしてやーんの」
「違う。おかしな勘違いをするな、殺すぞ」
○○を抱きかかえて立ち上がり、そして歩き出す。
「今回の賞金首は飛段、お前が持て」
「へーへー」
○○が絡んでいるからだろうか。普段なら確実に渋る飛段だったが鎌を背中に、杭を懐へしまうと大人しくそれに従った。
角都にとやかく言われたくないからか、心なしか持ち方も雑ではない。
「お前の儀式、相も変わらず長ったらしいな。○○が寝るのも頷ける」
「うるせェ」
とりとめのない会話。
角都は○○を、飛段は賞金首を腕に、そんなやり取りをしながら不死トリオは換金所へ向かうのだった。
。
「ボーッとするな。○○」
「置いてくぞー」
(角都さん、飛段)
気がつくと、○○は森の中に居た。いや、寝る前も森だったが、違う森のようだ。
(……声が出ない)
二人の後を追う。
体は普通に動かせるが、話しかけることが出来ない。おまけにところどころボヤけていて、上手く視認出来ない。
そもそも○○は眠っているし飛段はおそらく今でも賞金首の相手をしているだろうから、この状況自体がおかしくて。
(夢……、かな)
○○はここを、夢の中だと判断した。
「それよりよ、この間のアレはやばかったよな。死ぬんじゃねーかと思ったぜ」
「……実際、死にかけたからな」
(?)
「しっかし、この短期間でよく戦線復帰まで回復したもんだよ。ほんと」
「あぁ。だが次同じようになるとは限らん」
○○をよそに、二人はそんな会話をする。話の内容から察するに、メンバーの誰かが深手を負っていたようだ。
……夢にしては嫌な方にリアルだな。
「肝に銘じておけ、○○」
「お前はオレらと違って死ぬんだからよ」
(…………え?)
自分以外の誰かの話だと、そう思っていた○○。
だが実際には違った。
他の誰でもない、○○のことだった。夢の中の○○は不死ではない、普通の、傷を負えば死ぬ体だったのだ。
(夢とはいえ、変な感じだな…………)
前を歩く二人の背中を、ぼんやりと眺める。
○○が角都と出会ったのはある小国、人体実験により完全な不死となって間もない頃。
任務で村を訪れた角都の手により、○○以外の人間を殺し、共に生きることとなったのが全ての始まりである。
人体実験を行い、人としての扱いをせず、尊厳を踏みにじった一族を一生許すことは無い。
しかし、不死でなければ二人と並ぶことも出来やしないことを、遠ざかっていく背中を見て酷く痛感した。今の○○の手では、伸ばしたところで角都にも、飛段にも届きはしないのだ。
やがて二人の姿は見えなくなり、○○はひとり立ち尽くす。
(…………)
虚しく彷徨う手を降ろし、○○は立ち止まる。
(夢の中だから、涙も出ないや)
虚しかろうと悔しかろうと悲しかろうと苦しかろうと、うつろな夢の中では涙の一滴すらこぼれない。○○の胸を支配するのは、虚無感だけだった。
目を閉じる。
みるみるうちに、○○の意識は沈んで、ぶつりと途絶えた。
。
「ーーーー…………、」
○○は目を覚ました。
角都の体温と心音を感じ、視界の隅には黒い外とうが見える。
夢ではなく現実。それを理解したと同時に、○○の目から涙がぼろぼろとこぼれ落ちていく。
「……角都さん」
「!」
見上げる○○。角都の目に、大粒の涙をこぼす○○が映る。付き合いのかなり長い二人だが、ここまで泣いている姿を見たの初めてだった。
内心思うことがありながらも、表には出さず正面に座らせる。
「悪い夢でも見たか」
涙で濡れた○○の頬から首あたりを袖口で拭い、角都は問いかけた。
実際、体質関係の嫌な夢を見たことがあるため、そう聞いたのだ。
……もっとも、その時見た夢は厳密に言えば不死とは別のものであったのだが、今は割愛する。
ともかく。ウン十年もの歳月行動を共にしていれば多少なりとも情は湧くもので、角都も○○を気にかけてはいる……というわけである。
「…………。二人が私の前から、い、居なくなって」
ぽつり、と消えそうな声で○○は言う。
「ひとりに、なって…………」
夢の中では不死でなかったことは言わなかった。○○にとっては、角都と飛段が自分の手の届かない場所へ行ってしまったことの方が、よっぽど耐えられないのだ。
○○の両目から、再び大粒の涙が溢れ出す。
「…………」
何かを察したのか。角都はため息ひとつを吐き出し、自身の胸へ○○を押し付けた。
「所詮は夢。ありもしない空想に手を伸ばすな。……«あの日»、オレはお前になんて言った」
ーーここで会ったも何かの縁。
運命、などと言うつもりも無いが、最期までお前に付き合うとしよう。
(ーー……)
何十年も昔。
○○は角都に言われた言葉を思い出す。
そして言葉通り○○と角都はどんな時も、何があろうと、里を抜ける瞬間すらそれは変わらず、○○は角都の横にいた。
「う、角都さ゛ん、あ゛りがと、」
「……オレの外とうがびしょ濡れにならない内に泣きやめ、いいな」
「がんばる゛…………」
角都の胸でべしょべしょ泣きながら頷く○○。子供をあやすように、背中をとんとん叩く。
口ではどうこう言いつつも、○○の涙で濡れていく外とうを特に不快感も抱かず、ただ黙って泣き止むのを待つ。
存外、甘いなと思いつつ、しかし悪い気もしなかったのだ。
「おーい。角都、○○、終わったぜ」
「!」
「あ、角都泣かしてやーんの」
「違う。おかしな勘違いをするな、殺すぞ」
○○を抱きかかえて立ち上がり、そして歩き出す。
「今回の賞金首は飛段、お前が持て」
「へーへー」
○○が絡んでいるからだろうか。普段なら確実に渋る飛段だったが鎌を背中に、杭を懐へしまうと大人しくそれに従った。
角都にとやかく言われたくないからか、心なしか持ち方も雑ではない。
「お前の儀式、相も変わらず長ったらしいな。○○が寝るのも頷ける」
「うるせェ」
とりとめのない会話。
角都は○○を、飛段は賞金首を腕に、そんなやり取りをしながら不死トリオは換金所へ向かうのだった。
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