君は死なず、されど
名前
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一人になった○○は歩を進める。
初め、この国の門付近で威嚇としてデイダラが爆破を仕掛けた。これで周囲にはその情報が行き渡っていることとし、デイダラはそこを中心に、サソリは上層部の殺害。
そして○○は、無抵抗の人間を誘導する。
これはあくまで制圧任務。こちらに殺意をぶつけてこない限り、つまるところ無駄に血を流す必要は無いのだ。○○としても、何も知らない善良な民を手にかけたくはないため、今回の任務は気が楽だった。
(……、無抵抗の人たちには、そうだな。向こうの広場にでも集まってもらおうかな。
なんにせよ、焦らず行こう)
○○の降りた場所は門とはほぼ対極に位置しており、情報が行き届いていないのか、周囲はまだ静かだった。
その上陽も沈みかけていたせいか、外にそれらしい人影は見当たらない。
(…………、)
無造作に目を泳がせ、適当な民家の前に立つ。
コンコン。
コンコン。
数回、ドアを叩く。今からこの地を制圧するとは思えないような、丁寧な手つきで。
間もなく、中から足音が聴こえ、ゆっくりとドアが開いていく。
「はい。どちら様で、ーー!」
目の前に現れた女性は、○○を見るや否やハッと息を飲み、体を強ばらせる。
「なんですか、あなた」
目の前の○○にどこか異質な雰囲気を感じとったのか、後ずさりながらも警戒の色を強めた。
それでも○○は、あくまでも柔らかな顔つきで女性を見据え、浅くお辞儀をする。
「ーー。
すみません。少しだけ中、お邪魔します」
「っ、ちょっと、」
女性の制止の声も聴こえてはいたものの、今の任務の体になっている○○に、その言葉を聴き入れる心は持っていない。
そのまま中へ入っていくと男性が一人、○○を見て立ち尽くしていた。
女性のただならぬ声に気がついたのだろう。
「なんだ、君は」
「✕✕さん…………ッ」
「▲▲、」
○○を通り抜け、すがるように手を握り、男性は女性を守るように前に出た。
二人は恋人同士か、はたまた夫婦か。ふと、一瞬だけ目を閉じ、また開く。
「はじめまして。夕暮れ時に失礼します。
とある任務でこの国を制圧に来ました。組織の名は«暁»です」
暁。
その言葉を聞いた男性の表情が歪む。
あくまで丁寧に、物腰柔らかな口ぶりで、○○は目の前の二人に語りかける。
「ーー、逆らえばどうなる」
他にも何か言いたそうにしたていたがそれを飲み込み、たった一つの問いを○○へぶつけた。
その問いはきっと、後ろにいる大切な人を守るためのものだろう。そう○○は思った。
敵意が無いことを示すために、外とうのボタンに手をかけ、その場で脱ぐ。
脱ぐ前とは打って変わって肌の面積が増える。軽快になったと同時に、攻撃する気は全く無いという○○なりの意思表示である。
なるべく刺激しないよう、小さく笑いながら再び口を開いた。
「……その時は申し訳ありませんが手を出させてもらいます。
ですが、そうならない限り、私はあなたたちや民間の皆さんには危害を加えませんし、身の安全を保証します」
「…………」
「私は制圧任務に来たのであって、抹殺のために来たわけでは無いので。
ーーどうでしょうか?」
間もなく。
意を決したように一歩を踏み出した男性は、ゆっくりと口を開いた。
「ーー。
わかった。従おう」
「!」
嬉しいといわんばかりに表情をぱ、と明るくした○○は、出口の方へ指をさす。
不要な犠牲を出さずに済んだことに安堵した。
「ありがとうございます」
そう。
安堵した。
安堵したというのに。
「ーー、」
ああ無情。
現実とはかくも残酷だ。
「そんなの、信用出来るわけないだろう……!」
踵を返した○○。
その決して大きいとは言えないその背中。そこに銀色に光る刀が心臓を貫いたのだ。
男性は忍であった。ギリギリまで待ち、○○が背を向けた瞬間を狙い忍ばせていた刀を突き立てたのである。
幼い顔立ちによる罪悪感よりも、自分たちの平和を脅かされる嫌悪感が勝ったからだ。
○○は男性が忍であることにも、その懐に刀があることにも気がついていた。
背を向け刀を振るうその時でさえ、何かの間違いではないか、と。
しかし、それと同時に、刺されるのは当たり前だと、それならば甘んじて受け入れよう。そう思ったのだ。
「ーー……」
○○の口から血がせり上がり、その場に崩れ落ちた。じわりと広がる血溜まりを見下ろす男性は、○○が動かないことを確認し、頬をつたう汗を拭った。
「ーーハァ、」
「その子、死んだの?」
「心臓を貫いた。苦しむ時間もさほど無かっただろう」
女性はその場に座り込んだま、額の汗をゆっくり拭い、男性に問う。
血に沈む○○の顔を険しい表情で見つめながら、男性は問いに答えた。
いまだ○○の体を見下ろす。
呼吸をしている様子も無い。確かに死んでいることを再度認識した。
しかし。
何故か不安を拭えないでいた。まるで魚の小骨が喉に引っかかって取れないような、そんな感覚が。
(ーーーー……)
そんなことを考えていた一方、沈んだ声色の女性が、男性の背中へ囁くように語りかけたのだ。
「……見たところかなり若そうだし、何か事情があったのかもしれないね。もう少し話を聞いてあげたら良かったのに、」
「…………」
男性は目を伏せた。
「せめて、私たちの手で弔おう」
そう女性に伝えるように振り向いた。
ーー不意に。
男性の心臓が嫌にざわついた。
「ーー✕✕さん!!」
その耳に、叫び声が響く。
心臓がどく、と血を濃く巡らせる。
ーー知ってるか✕✕、暁って組織。
ーー当たり前だろ。メンバーがS級の犯罪者ばかりで構成された組織だろ。
ーーそん中でも不死のやつがいて、なんでも腕をもがれようと臓器をぶちまけようと、平気な顔してるらしいぜ。
ーー……作り話じゃないよな?
ーー違うっての!……まぁ聞け。その上そいつは体を自在にばーーーー
ふと、数ヶ月前の友人とのやり取りを思い出しながら、男性は再び振り返った。
その光景はスローモーションのようで。
そして、男性は自身の目を疑わずにはいられなかった。
血溜まりの中から何事も無かったかのように、まるで朝目が覚めて起き上がるような、そんなごく普通の事のように。
○○は、自身の心臓を貫いた刀をやや強引に引き抜いた。
「ーーッ!?」
その刀を器用にくるりと回転。己の血がつたうそれを、○○は躊躇することなく目の前の男の心臓へ振りかざす。
「やめて、」
瞬間。
刀が男性の心臓を貫いたのだ。背中から出た刃先から、○○のものか男性のものかもわからない血がつたい、床を赤くする。
「あ、」
目を見開く男性。
女性の願いも虚しく、刀を握る手に力を込めた○○は、一気にそれを引き抜いた。自身にやった時のように。
力無く伏せた男性の胸には、小さな穴が開く。そこから血と、心臓の一部らしきものがはみ出し、機能することも無く項垂れるのみ。
まるで男性の胸に花が咲いたようだと○○はぼんやり思った。
「ーーそんな。
ああああーーーーッッ!!」
「…………」
女性の悲痛な叫びが聞こえる。
真っ赤な刀を片手に、はみ出してもなおどくどくと脈打つ心臓を、本来あるべき位置に押し込む。
しかし、毎回角都に手伝ってもらっていた弊害か、それすら手間取ってしまっていた。それでも半ば無理に押すと、変な音が鳴った。
「(めんどくさいから収まらないのは切ろう)
…………私の役割は誘導です」
ーー○○、お前は抵抗する意志の無ぇ奴らを一箇所に集めろ。
敵意を向けてくるなら容赦なく殺せ。
「一番広い場所へ民を集めます。あなたもそこに向かってください」
うつ伏せで涙を流し、体を震わせる女性からは○○の言葉の返事は発せられない。聴こえているのかも、○○にはわからない。
切った心臓の一部と、刀をその場に落とす。
(次はこうならないといいけど、)
そして、脱いだ外とうを拾い上げ羽織る。血が付着していないことに安心した。あらかじめ脱いだあと隅へ放っておいたことが幸をそうした。
ボタンのパチン、と閉まる音を聴きながら、○○はその場をあとにした。
赤い道を作りながら。焦りのない足取りで。
。
初め、この国の門付近で威嚇としてデイダラが爆破を仕掛けた。これで周囲にはその情報が行き渡っていることとし、デイダラはそこを中心に、サソリは上層部の殺害。
そして○○は、無抵抗の人間を誘導する。
これはあくまで制圧任務。こちらに殺意をぶつけてこない限り、つまるところ無駄に血を流す必要は無いのだ。○○としても、何も知らない善良な民を手にかけたくはないため、今回の任務は気が楽だった。
(……、無抵抗の人たちには、そうだな。向こうの広場にでも集まってもらおうかな。
なんにせよ、焦らず行こう)
○○の降りた場所は門とはほぼ対極に位置しており、情報が行き届いていないのか、周囲はまだ静かだった。
その上陽も沈みかけていたせいか、外にそれらしい人影は見当たらない。
(…………、)
無造作に目を泳がせ、適当な民家の前に立つ。
コンコン。
コンコン。
数回、ドアを叩く。今からこの地を制圧するとは思えないような、丁寧な手つきで。
間もなく、中から足音が聴こえ、ゆっくりとドアが開いていく。
「はい。どちら様で、ーー!」
目の前に現れた女性は、○○を見るや否やハッと息を飲み、体を強ばらせる。
「なんですか、あなた」
目の前の○○にどこか異質な雰囲気を感じとったのか、後ずさりながらも警戒の色を強めた。
それでも○○は、あくまでも柔らかな顔つきで女性を見据え、浅くお辞儀をする。
「ーー。
すみません。少しだけ中、お邪魔します」
「っ、ちょっと、」
女性の制止の声も聴こえてはいたものの、今の任務の体になっている○○に、その言葉を聴き入れる心は持っていない。
そのまま中へ入っていくと男性が一人、○○を見て立ち尽くしていた。
女性のただならぬ声に気がついたのだろう。
「なんだ、君は」
「✕✕さん…………ッ」
「▲▲、」
○○を通り抜け、すがるように手を握り、男性は女性を守るように前に出た。
二人は恋人同士か、はたまた夫婦か。ふと、一瞬だけ目を閉じ、また開く。
「はじめまして。夕暮れ時に失礼します。
とある任務でこの国を制圧に来ました。組織の名は«暁»です」
暁。
その言葉を聞いた男性の表情が歪む。
あくまで丁寧に、物腰柔らかな口ぶりで、○○は目の前の二人に語りかける。
「ーー、逆らえばどうなる」
他にも何か言いたそうにしたていたがそれを飲み込み、たった一つの問いを○○へぶつけた。
その問いはきっと、後ろにいる大切な人を守るためのものだろう。そう○○は思った。
敵意が無いことを示すために、外とうのボタンに手をかけ、その場で脱ぐ。
脱ぐ前とは打って変わって肌の面積が増える。軽快になったと同時に、攻撃する気は全く無いという○○なりの意思表示である。
なるべく刺激しないよう、小さく笑いながら再び口を開いた。
「……その時は申し訳ありませんが手を出させてもらいます。
ですが、そうならない限り、私はあなたたちや民間の皆さんには危害を加えませんし、身の安全を保証します」
「…………」
「私は制圧任務に来たのであって、抹殺のために来たわけでは無いので。
ーーどうでしょうか?」
間もなく。
意を決したように一歩を踏み出した男性は、ゆっくりと口を開いた。
「ーー。
わかった。従おう」
「!」
嬉しいといわんばかりに表情をぱ、と明るくした○○は、出口の方へ指をさす。
不要な犠牲を出さずに済んだことに安堵した。
「ありがとうございます」
そう。
安堵した。
安堵したというのに。
「ーー、」
ああ無情。
現実とはかくも残酷だ。
「そんなの、信用出来るわけないだろう……!」
踵を返した○○。
その決して大きいとは言えないその背中。そこに銀色に光る刀が心臓を貫いたのだ。
男性は忍であった。ギリギリまで待ち、○○が背を向けた瞬間を狙い忍ばせていた刀を突き立てたのである。
幼い顔立ちによる罪悪感よりも、自分たちの平和を脅かされる嫌悪感が勝ったからだ。
○○は男性が忍であることにも、その懐に刀があることにも気がついていた。
背を向け刀を振るうその時でさえ、何かの間違いではないか、と。
しかし、それと同時に、刺されるのは当たり前だと、それならば甘んじて受け入れよう。そう思ったのだ。
「ーー……」
○○の口から血がせり上がり、その場に崩れ落ちた。じわりと広がる血溜まりを見下ろす男性は、○○が動かないことを確認し、頬をつたう汗を拭った。
「ーーハァ、」
「その子、死んだの?」
「心臓を貫いた。苦しむ時間もさほど無かっただろう」
女性はその場に座り込んだま、額の汗をゆっくり拭い、男性に問う。
血に沈む○○の顔を険しい表情で見つめながら、男性は問いに答えた。
いまだ○○の体を見下ろす。
呼吸をしている様子も無い。確かに死んでいることを再度認識した。
しかし。
何故か不安を拭えないでいた。まるで魚の小骨が喉に引っかかって取れないような、そんな感覚が。
(ーーーー……)
そんなことを考えていた一方、沈んだ声色の女性が、男性の背中へ囁くように語りかけたのだ。
「……見たところかなり若そうだし、何か事情があったのかもしれないね。もう少し話を聞いてあげたら良かったのに、」
「…………」
男性は目を伏せた。
「せめて、私たちの手で弔おう」
そう女性に伝えるように振り向いた。
ーー不意に。
男性の心臓が嫌にざわついた。
「ーー✕✕さん!!」
その耳に、叫び声が響く。
心臓がどく、と血を濃く巡らせる。
ーー知ってるか✕✕、暁って組織。
ーー当たり前だろ。メンバーがS級の犯罪者ばかりで構成された組織だろ。
ーーそん中でも不死のやつがいて、なんでも腕をもがれようと臓器をぶちまけようと、平気な顔してるらしいぜ。
ーー……作り話じゃないよな?
ーー違うっての!……まぁ聞け。その上そいつは体を自在にばーーーー
ふと、数ヶ月前の友人とのやり取りを思い出しながら、男性は再び振り返った。
その光景はスローモーションのようで。
そして、男性は自身の目を疑わずにはいられなかった。
血溜まりの中から何事も無かったかのように、まるで朝目が覚めて起き上がるような、そんなごく普通の事のように。
○○は、自身の心臓を貫いた刀をやや強引に引き抜いた。
「ーーッ!?」
その刀を器用にくるりと回転。己の血がつたうそれを、○○は躊躇することなく目の前の男の心臓へ振りかざす。
「やめて、」
瞬間。
刀が男性の心臓を貫いたのだ。背中から出た刃先から、○○のものか男性のものかもわからない血がつたい、床を赤くする。
「あ、」
目を見開く男性。
女性の願いも虚しく、刀を握る手に力を込めた○○は、一気にそれを引き抜いた。自身にやった時のように。
力無く伏せた男性の胸には、小さな穴が開く。そこから血と、心臓の一部らしきものがはみ出し、機能することも無く項垂れるのみ。
まるで男性の胸に花が咲いたようだと○○はぼんやり思った。
「ーーそんな。
ああああーーーーッッ!!」
「…………」
女性の悲痛な叫びが聞こえる。
真っ赤な刀を片手に、はみ出してもなおどくどくと脈打つ心臓を、本来あるべき位置に押し込む。
しかし、毎回角都に手伝ってもらっていた弊害か、それすら手間取ってしまっていた。それでも半ば無理に押すと、変な音が鳴った。
「(めんどくさいから収まらないのは切ろう)
…………私の役割は誘導です」
ーー○○、お前は抵抗する意志の無ぇ奴らを一箇所に集めろ。
敵意を向けてくるなら容赦なく殺せ。
「一番広い場所へ民を集めます。あなたもそこに向かってください」
うつ伏せで涙を流し、体を震わせる女性からは○○の言葉の返事は発せられない。聴こえているのかも、○○にはわからない。
切った心臓の一部と、刀をその場に落とす。
(次はこうならないといいけど、)
そして、脱いだ外とうを拾い上げ羽織る。血が付着していないことに安心した。あらかじめ脱いだあと隅へ放っておいたことが幸をそうした。
ボタンのパチン、と閉まる音を聴きながら、○○はその場をあとにした。
赤い道を作りながら。焦りのない足取りで。
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