第1章 雨と共に
「今日のお勧めのカクテルお願いします」
「かしこまりました」
澄ました顔で、お客様の注文を聞き、
カクテルを作る。
2年前、大手企業のサラリーマンとして
働いていた。
だが、同じ事の繰り返しのような毎日
それが、俺にとっては苦痛になっていた。
なら、自分が本当にしたかった事をすれば良い。
30になる手前でサラリーマンを辞めるのは
結構な勇気が必要だったが、
貯金はしていたし、物欲なんて物は
ほとんど無かったため、
案外うまくやりくりはしていけていた。
そして今こうやって自分の店を持っている。
広いわけでは無いが、常連客も結構いる。
従業員もアルバイトが1人と正式者が1人と
何とも順調。順調すぎて怖いくらいだ。
「お待たせしました」
「綺麗なオレンジ色…
美味しい」
「ありがとうございます」
そうだったはずなのに…
カランカランと
扉が開く。
「いらっしゃいませ」
「夜…?」
え…何で俺の名前…
何だあいつ小汚い…
入ってきた客に近づく夜。
ふらふらしている彼は
雨に濡れていて、ふらふらしていた。
「お客様大丈夫ですか?」
「…やっぱり…夜だぁ…」
にへらっと笑う客の顔に
ハッとする夜。
もしかして……
いやだってあいつは……
「…朝井…?」
「うん…そうだよ。
覚えててくれて嬉しい夜」
「ちょっ‼︎だ抱きつくな‼︎
お前俺よりでかいのに…‼︎」
ぎゅうっと抱きつかれ
そのまま押し倒される。
店の中で何て事を‼︎
従業員や客の目線が一気に2人に集まる。
「あれぇ?俺たち目立ってる?」
「当たり前だろ‼︎」
今までの順風満帆だった日々が
音を立てて崩れていくのがわかった。
こいつとはもう一生会うことは無いと思っていたのに…
朝井生真。同級生であり、俺の幼馴染だった奴。
そいつが何故か目の前にいる。
数年前に大学で出会った女性と結婚し、家庭を持ったはずの朝井が何故このようなみすぼらしい姿をしているのか…。
俺には皆目検討も付かなかった。
「取り敢えず、こっちにこい‼︎」
「ちょっと〜痛いよぉ〜」
語尾を伸ばしながらえへへ〜と笑う朝井に苛つきを覚えたが、そんなことは今はどうでもいいのだ。
今はこの静かな空間で俺と朝井が目立っていること自体が問題である。
バックヤードに来てそこからタオルを朝井に投げつける。
「わぶっ‼︎んわぁ〜ふわふわだぁ
ありがとう〜夜」
「で、何やってるんだ。こんなところで」
「何って〜仕事帰りで歩いてたら雨が降ってきちゃってさ〜?たまたまあったここに入ったら夜がいた〜って感じ」
相変わらずの腑抜けた喋り口調は昔からの癖なのか今も抜けていないようだ。
あれだけ治せと言ったのにも関わらず治っていない。
取り敢えず、朝井の妻を呼んで迎えに来てもらうことにするかと思い、パイプ椅子に座っている朝井に近づく。
「奥さんに連絡は?」
「いつの話してんの〜?」
「は?何時って…」
「俺もう離婚してるけど〜?」
衝撃的な発言に終始固まった。
り…こん……?離婚?離婚ってあの離婚か?
こいつが?あんなに馬鹿みたいにいちゃついていたこいつが?と驚きが隠せない俺を他所に朝井は何事も無いかのように、髪を拭いている。
何がこいつの身に起きたのか…。
そしてこいつと出会ったことで、俺の人生が一変することになるなど、この時は知る由もなかった。
「かしこまりました」
澄ました顔で、お客様の注文を聞き、
カクテルを作る。
2年前、大手企業のサラリーマンとして
働いていた。
だが、同じ事の繰り返しのような毎日
それが、俺にとっては苦痛になっていた。
なら、自分が本当にしたかった事をすれば良い。
30になる手前でサラリーマンを辞めるのは
結構な勇気が必要だったが、
貯金はしていたし、物欲なんて物は
ほとんど無かったため、
案外うまくやりくりはしていけていた。
そして今こうやって自分の店を持っている。
広いわけでは無いが、常連客も結構いる。
従業員もアルバイトが1人と正式者が1人と
何とも順調。順調すぎて怖いくらいだ。
「お待たせしました」
「綺麗なオレンジ色…
美味しい」
「ありがとうございます」
そうだったはずなのに…
カランカランと
扉が開く。
「いらっしゃいませ」
「夜…?」
え…何で俺の名前…
何だあいつ小汚い…
入ってきた客に近づく夜。
ふらふらしている彼は
雨に濡れていて、ふらふらしていた。
「お客様大丈夫ですか?」
「…やっぱり…夜だぁ…」
にへらっと笑う客の顔に
ハッとする夜。
もしかして……
いやだってあいつは……
「…朝井…?」
「うん…そうだよ。
覚えててくれて嬉しい夜」
「ちょっ‼︎だ抱きつくな‼︎
お前俺よりでかいのに…‼︎」
ぎゅうっと抱きつかれ
そのまま押し倒される。
店の中で何て事を‼︎
従業員や客の目線が一気に2人に集まる。
「あれぇ?俺たち目立ってる?」
「当たり前だろ‼︎」
今までの順風満帆だった日々が
音を立てて崩れていくのがわかった。
こいつとはもう一生会うことは無いと思っていたのに…
朝井生真。同級生であり、俺の幼馴染だった奴。
そいつが何故か目の前にいる。
数年前に大学で出会った女性と結婚し、家庭を持ったはずの朝井が何故このようなみすぼらしい姿をしているのか…。
俺には皆目検討も付かなかった。
「取り敢えず、こっちにこい‼︎」
「ちょっと〜痛いよぉ〜」
語尾を伸ばしながらえへへ〜と笑う朝井に苛つきを覚えたが、そんなことは今はどうでもいいのだ。
今はこの静かな空間で俺と朝井が目立っていること自体が問題である。
バックヤードに来てそこからタオルを朝井に投げつける。
「わぶっ‼︎んわぁ〜ふわふわだぁ
ありがとう〜夜」
「で、何やってるんだ。こんなところで」
「何って〜仕事帰りで歩いてたら雨が降ってきちゃってさ〜?たまたまあったここに入ったら夜がいた〜って感じ」
相変わらずの腑抜けた喋り口調は昔からの癖なのか今も抜けていないようだ。
あれだけ治せと言ったのにも関わらず治っていない。
取り敢えず、朝井の妻を呼んで迎えに来てもらうことにするかと思い、パイプ椅子に座っている朝井に近づく。
「奥さんに連絡は?」
「いつの話してんの〜?」
「は?何時って…」
「俺もう離婚してるけど〜?」
衝撃的な発言に終始固まった。
り…こん……?離婚?離婚ってあの離婚か?
こいつが?あんなに馬鹿みたいにいちゃついていたこいつが?と驚きが隠せない俺を他所に朝井は何事も無いかのように、髪を拭いている。
何がこいつの身に起きたのか…。
そしてこいつと出会ったことで、俺の人生が一変することになるなど、この時は知る由もなかった。