一幕『春風の帳』
居間へ向かうと、机に突っ伏してお茶菓子を見つめるニトがいた。
僕が来たことに気づくと、顔だけをこちらに向ける。
「あれ?二人は?」
「今話し中。待ってる間お茶菓子食べててってザド様から」
「そっかそっか」
ニトの隣に腰掛け、机の上に置かれた大量のお茶菓子に目をやる。
……ザド様の作るお菓子は街でもらうこともあったので食べたことがあるのだが、それがとても美味しいのだ。
そのお菓子が大量に目の前にある。
……食べたい。
「そんなに食べたいなら食べりゃいいじゃん。食べていいんでしょ?」
「ぅえ!?」
「めっちゃ食べたそうにしてるの顔に出てるよ」
そういうとニトはにっこりと笑った。
「なんか顔に出てたの恥ずかしいな……じゃあ、遠慮なく、いただきます」
目の前のクッキーを一つ手に取り、口に入れる。
サク、と口の中で砕ける。瞬間、香ばしい麦の香りと牛乳の甘い味が口の中で交わって溶けた。
とても美味しい。こんな美味しいものをあるだけ食べていいのか?そんなことしちゃっていいのか?
そう思いながらも手が止まらない。申し訳なさを多幸感が塗りつぶしていく。マフィンにマドレーヌに、甘い香りの紅茶。どれもこれもとても美味しい。
「……すげー美味そうに食うじゃん」
「んっ?」
美味しすぎて忘れてたが、私の隣には人がいたんだった。
気づけばニトは頬杖をついてこっちを見ていた。めっちゃ食べてるところ見られてた。
「あれ?もう食べ飽きたの?」
「……恥ずかしいのでこっち見ないでほしい」
「今更じゃない?」
そういうとニトはニヤリと笑った。
自分でも顔が熱くなってることがわかる。遠慮なく、と言ったとはいえ結構な量を食べてたので普通に恥ずかしい。
「あー……話しかけちゃってごめんね?食べるの続けてていいよ」
「……そういうニトは食べないの?」
「え?君ほどじゃないけどちゃんと食べてるよ?」
そんなに好きな味じゃないけどねー、と更に余計な一言をこぼしつつ紅茶の入ったカップを手に取った。
「……そういえば、ニトとウリって何でも屋してるんだっけ」
「そだよ〜、何でも屋しながら旅してるんだ」
「へー……人助けしてるの?」
「んなわけ!お金目当てにやってんだよ。報酬もらえないものとか俺が嫌だと思ったものはやらない」
「……じゃああの危ない仕事は嫌じゃないからやったってこと?」
「だって報酬美味いし」
ニトは紅茶を一つ口にし「でも紅茶は美味しくないね〜」と余計なことを言う。どうやら紅茶は好みじゃないらしい。
「これ始めたのは確か一ヶ月くらい前からだったかな?ウリは俺が死なないように手伝ってくれてる」
「へぇ。ウリは優しいんだねぇ。こんなやつのことを死なないように守るなんて」
「まあ俺って特別な存在だから、守られるのは当然なんじゃないかな!」
どこまでも調子がいいやつだ。
「そういえば、どうして僕を旅に誘ったの?」
「んー……なんとなく?」
「なんとなくって……」
相変わらずの適当な返事に呆れつつ、こちらも紅茶を一口飲んだ。やっぱり美味しいと思うけどな……。
「まあお互い損はしないしいいじゃん?ということで君のことほどほどにこき使っていくんで覚悟しといてね!」
「あんまりこき使ってほしくないけどな……まあいっか。じゃあニトも僕の目的手伝ってよね」
「あー……記憶はともかくあの子供のことはやれたらやるね、やれたら。だからまたああならないように気をつけな?」
「それは……気をつけるよ」
確かに毎度見るたびに混乱してたらいつまでたっても捕まえられないから、気をつけないといけない。
そう話していると、こちらに向かって足音が聞こえてくる。
「ごめんねぇ遅くなっちゃって!」
「やっと来たの?随分と遅かったね〜」
「う〜、ちょっと大事な話だったんです。ごめんね」
袋を両手に抱え、ザド様が早足で戻ってくる。
「あれ、ウリは?」
「ん〜?ウリくんはどこか行っちゃったかな。私にもわかんないの、ごめんね」
「まあ報酬もらう分には俺だけで済むんだしいいんじゃね?とっとと済ませようか」
「そうね。わかったわ」
ザド様は向かいの席に座る。
そして、ザド様とニトは話を始めた。
僕が来たことに気づくと、顔だけをこちらに向ける。
「あれ?二人は?」
「今話し中。待ってる間お茶菓子食べててってザド様から」
「そっかそっか」
ニトの隣に腰掛け、机の上に置かれた大量のお茶菓子に目をやる。
……ザド様の作るお菓子は街でもらうこともあったので食べたことがあるのだが、それがとても美味しいのだ。
そのお菓子が大量に目の前にある。
……食べたい。
「そんなに食べたいなら食べりゃいいじゃん。食べていいんでしょ?」
「ぅえ!?」
「めっちゃ食べたそうにしてるの顔に出てるよ」
そういうとニトはにっこりと笑った。
「なんか顔に出てたの恥ずかしいな……じゃあ、遠慮なく、いただきます」
目の前のクッキーを一つ手に取り、口に入れる。
サク、と口の中で砕ける。瞬間、香ばしい麦の香りと牛乳の甘い味が口の中で交わって溶けた。
とても美味しい。こんな美味しいものをあるだけ食べていいのか?そんなことしちゃっていいのか?
そう思いながらも手が止まらない。申し訳なさを多幸感が塗りつぶしていく。マフィンにマドレーヌに、甘い香りの紅茶。どれもこれもとても美味しい。
「……すげー美味そうに食うじゃん」
「んっ?」
美味しすぎて忘れてたが、私の隣には人がいたんだった。
気づけばニトは頬杖をついてこっちを見ていた。めっちゃ食べてるところ見られてた。
「あれ?もう食べ飽きたの?」
「……恥ずかしいのでこっち見ないでほしい」
「今更じゃない?」
そういうとニトはニヤリと笑った。
自分でも顔が熱くなってることがわかる。遠慮なく、と言ったとはいえ結構な量を食べてたので普通に恥ずかしい。
「あー……話しかけちゃってごめんね?食べるの続けてていいよ」
「……そういうニトは食べないの?」
「え?君ほどじゃないけどちゃんと食べてるよ?」
そんなに好きな味じゃないけどねー、と更に余計な一言をこぼしつつ紅茶の入ったカップを手に取った。
「……そういえば、ニトとウリって何でも屋してるんだっけ」
「そだよ〜、何でも屋しながら旅してるんだ」
「へー……人助けしてるの?」
「んなわけ!お金目当てにやってんだよ。報酬もらえないものとか俺が嫌だと思ったものはやらない」
「……じゃああの危ない仕事は嫌じゃないからやったってこと?」
「だって報酬美味いし」
ニトは紅茶を一つ口にし「でも紅茶は美味しくないね〜」と余計なことを言う。どうやら紅茶は好みじゃないらしい。
「これ始めたのは確か一ヶ月くらい前からだったかな?ウリは俺が死なないように手伝ってくれてる」
「へぇ。ウリは優しいんだねぇ。こんなやつのことを死なないように守るなんて」
「まあ俺って特別な存在だから、守られるのは当然なんじゃないかな!」
どこまでも調子がいいやつだ。
「そういえば、どうして僕を旅に誘ったの?」
「んー……なんとなく?」
「なんとなくって……」
相変わらずの適当な返事に呆れつつ、こちらも紅茶を一口飲んだ。やっぱり美味しいと思うけどな……。
「まあお互い損はしないしいいじゃん?ということで君のことほどほどにこき使っていくんで覚悟しといてね!」
「あんまりこき使ってほしくないけどな……まあいっか。じゃあニトも僕の目的手伝ってよね」
「あー……記憶はともかくあの子供のことはやれたらやるね、やれたら。だからまたああならないように気をつけな?」
「それは……気をつけるよ」
確かに毎度見るたびに混乱してたらいつまでたっても捕まえられないから、気をつけないといけない。
そう話していると、こちらに向かって足音が聞こえてくる。
「ごめんねぇ遅くなっちゃって!」
「やっと来たの?随分と遅かったね〜」
「う〜、ちょっと大事な話だったんです。ごめんね」
袋を両手に抱え、ザド様が早足で戻ってくる。
「あれ、ウリは?」
「ん〜?ウリくんはどこか行っちゃったかな。私にもわかんないの、ごめんね」
「まあ報酬もらう分には俺だけで済むんだしいいんじゃね?とっとと済ませようか」
「そうね。わかったわ」
ザド様は向かいの席に座る。
そして、ザド様とニトは話を始めた。