一幕『春風の帳』
向かった先は他の民家よりも大きめな家だった。
いや……知らないわけがない。
「ここ、ザド様の家じゃん……」
「そうなんだ」
「用って、もしかしてザド様に?」
「ザド様って人は知らないけど、請けた依頼やったよ〜って報酬もらいに来ただけかな」
「せめて依頼人の名前くらい知っておいたほうがいいんじゃないの?」
そんな言葉をよそにニトは家の扉を開ける。
え、開ける?
「いや勝手に開けちゃダメでしょ」
「ん?ああ、そうだね。いますか〜?」
そう言いつつも彼は勝手に家に入って行く。
「ウリも何か言ってよ!」
「勝手にさせとけ、どうせ怒られんのあいつだし」
「……」
それもそっか。
そう納得した瞬間、家の中からドタドタとこちらへ走ってくる音が聞こえる。
「あ、少し待ってください!今行ってま──きゃっ」
ドタ。と大きくこける音がする。
あいた扉から中を覗くと、そこには女性が床に倒れ伏していた。
「ざ、ザド様?」
「ぅえ〜……せめてノックしてくださいよ〜……びっくりしてつい慌てちゃったじゃないの」
「その様子ならノックしても同じだと思うよ?」
「うぅ……稀人さん厳しい……けど確かにそうですね……あ、イルちゃんだ!イルちゃーん!」
女性はこちらに気づくと慌てて立ち上がりずいと近づいてくる。
桃色の髪に花のように可愛らしい緑色の瞳をした背の高い女性。この方が4ノ国の天使……ザド様だ。
「ザド様……そんな慌てなくてもいいんですよ……」
「慌てるよ!あんなボロボロになって帰ってきたら心配だってするよ〜……痛いところない?大丈夫?」
「それだったら大丈夫ですよ!寝たらすぐ治りました!」
「それならよかった〜……!一時はどうなるんだろうってすっごく心配したよ〜」
「心配かけさせちゃってすみません……でも大丈夫ですよ!心配しなくても死人は寝て起きたらすぐ治るんですから!」
僕は元気である証拠にその場で一回転した。
「……そうだよね〜、本当によかったよかった……」
それを見たザド様は涙ぐむような表情で僕の肩に優しく手を置いてくる。ザド様は春のようにぽかぽかとした方だ。少しドジなところもあるが、僕たち死人のことを大事に思っている。だからこそ天使として彼女は慕われているのだ。
「ウリくんも!依頼のことありがとうね!」
「ん」
ウリは相変わらずツンとした態度を取っているが、慣れているのかザド様はそれを気にする様子はなくニコニコと微笑んでいる。
「あ、そうだ。お話しするならお家にちゃんと入れなきゃ!お茶菓子用意してあるからゆっくりしててね〜」
「いや、俺たちただ報酬もらいに来ただけなんだけど」
「んーん!危ないことさせちゃったんだからこれくらいさせて!お礼ももっと増やすから!」
「それだったら遠慮なくいただきますね!」
ニトは最初は嫌そうにしてたが、お礼という言葉を聞いた途端に手のひらを返し一足先に奥の方へ歩みを進めた。
「二人も入って入って〜!」
「えっ……でしたらお邪魔しますね……」
少し遠慮がちになりながらも家に入る。しかしかくいう僕もザド様の家のお茶菓子に心を躍らせているので心持ちはニトと大差ない。
「……ザド、ちょっと話あるからこっち」
「ん?何かしらウリくん。あ、イルちゃん!待ってる間にお茶菓子食べてていいからね!稀人さんにもよろしく!」
「え?あ、はい!」
ウリはザド様を家の外に出して話を始めた。
このままここにいると盗み聞きと勘違いされそうだから、足早にニトのところへ向かう。
いや……知らないわけがない。
「ここ、ザド様の家じゃん……」
「そうなんだ」
「用って、もしかしてザド様に?」
「ザド様って人は知らないけど、請けた依頼やったよ〜って報酬もらいに来ただけかな」
「せめて依頼人の名前くらい知っておいたほうがいいんじゃないの?」
そんな言葉をよそにニトは家の扉を開ける。
え、開ける?
「いや勝手に開けちゃダメでしょ」
「ん?ああ、そうだね。いますか〜?」
そう言いつつも彼は勝手に家に入って行く。
「ウリも何か言ってよ!」
「勝手にさせとけ、どうせ怒られんのあいつだし」
「……」
それもそっか。
そう納得した瞬間、家の中からドタドタとこちらへ走ってくる音が聞こえる。
「あ、少し待ってください!今行ってま──きゃっ」
ドタ。と大きくこける音がする。
あいた扉から中を覗くと、そこには女性が床に倒れ伏していた。
「ざ、ザド様?」
「ぅえ〜……せめてノックしてくださいよ〜……びっくりしてつい慌てちゃったじゃないの」
「その様子ならノックしても同じだと思うよ?」
「うぅ……稀人さん厳しい……けど確かにそうですね……あ、イルちゃんだ!イルちゃーん!」
女性はこちらに気づくと慌てて立ち上がりずいと近づいてくる。
桃色の髪に花のように可愛らしい緑色の瞳をした背の高い女性。この方が4ノ国の天使……ザド様だ。
「ザド様……そんな慌てなくてもいいんですよ……」
「慌てるよ!あんなボロボロになって帰ってきたら心配だってするよ〜……痛いところない?大丈夫?」
「それだったら大丈夫ですよ!寝たらすぐ治りました!」
「それならよかった〜……!一時はどうなるんだろうってすっごく心配したよ〜」
「心配かけさせちゃってすみません……でも大丈夫ですよ!心配しなくても死人は寝て起きたらすぐ治るんですから!」
僕は元気である証拠にその場で一回転した。
「……そうだよね〜、本当によかったよかった……」
それを見たザド様は涙ぐむような表情で僕の肩に優しく手を置いてくる。ザド様は春のようにぽかぽかとした方だ。少しドジなところもあるが、僕たち死人のことを大事に思っている。だからこそ天使として彼女は慕われているのだ。
「ウリくんも!依頼のことありがとうね!」
「ん」
ウリは相変わらずツンとした態度を取っているが、慣れているのかザド様はそれを気にする様子はなくニコニコと微笑んでいる。
「あ、そうだ。お話しするならお家にちゃんと入れなきゃ!お茶菓子用意してあるからゆっくりしててね〜」
「いや、俺たちただ報酬もらいに来ただけなんだけど」
「んーん!危ないことさせちゃったんだからこれくらいさせて!お礼ももっと増やすから!」
「それだったら遠慮なくいただきますね!」
ニトは最初は嫌そうにしてたが、お礼という言葉を聞いた途端に手のひらを返し一足先に奥の方へ歩みを進めた。
「二人も入って入って〜!」
「えっ……でしたらお邪魔しますね……」
少し遠慮がちになりながらも家に入る。しかしかくいう僕もザド様の家のお茶菓子に心を躍らせているので心持ちはニトと大差ない。
「……ザド、ちょっと話あるからこっち」
「ん?何かしらウリくん。あ、イルちゃん!待ってる間にお茶菓子食べてていいからね!稀人さんにもよろしく!」
「え?あ、はい!」
ウリはザド様を家の外に出して話を始めた。
このままここにいると盗み聞きと勘違いされそうだから、足早にニトのところへ向かう。