このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

一幕『春風の帳』

「……そういえば、ニトって稀人だったんだね」

用があるからと街中を歩くニトについていきながら話しかける。

「そうらしいね」
「そうらしいねって……稀人ってなんなのか分かってるの?」
「分かってるよ。目が覚めた先で色々教えてもらったから!」
「目が覚めた先?」
「んー……6ノ国ってところ?なんかめっちゃ暑いところだった」

そうだったよね?と不安そうに見えて別にそうでもない瞳をウリに向ける。

「へー……じゃあ二人は6ノ国からずっと旅してるわけなんだね」
「そうなるな」
「……あれ、でも現世ってこっち側じゃなかったよね」
「じゃないな」
「じゃあなんでわざわざ現世と逆の方を歩いてるわけ?」

当たり前の疑問が口から出る。稀人はこんなところにいてはいけない存在であることは誰もが思うことだ。それに現世に帰る道は10ノ国にしか存在しない。なのに4ノ国という10ノ国とは明らかに逆の方を歩いているのには何か理由があるのだろうか。
ニトはというと疑問を言われてキョトンとした顔をした後「あー」とバツの悪い顔をした。

「人探してんだよねー……」
「人?」
「うん、人。生きてるかとか死んでるかとか詳しくは俺にもわかんないけど、とにかく人を探してるわけ!だからまだ帰らないんだよ〜」
「なるほど……でも探し人がよくわからないって……もしかしてニトも記憶ない人?」
「イルと違ってちゃんとあります〜」

ニトは少しウザったらしい笑みを浮かべて自身の胸元にトンと手を当てた。
そんなこと言ってるけど多分本当に記憶がないのか?いや……わからない、と言って探し人のことを僕に教えないようにしているのかもしれない。どっちだこれ。

「ウリ、実際のところどうなの?」
「さあな。いずれ教えてくれるだろ」
「……そっかぁ」

確かに。まだ僕たちは知り合って日が浅いし、いずれ教えてくれるのかも。

「じゃあ話したくなったらその探し人について教えてね」
「なんで?」
「僕もそれ、その人を探すの手伝いたいから」
「あー……わかった、いつかね」

ニトは間のある二つ返事と共にニコリと笑って返した。この渋り方からしてあまり聞いてほしくないことだったのだろうか。

「それで……目的地は?」
「3ノ国を経由して最終的には5ノ国に向かう」
「5ノ国?6ノ国から直接いけるのに結構遠回りするね」
「あそこ仲悪いから」

2つの国を結ぶ国境は現在閉鎖されている、ウリ曰くそういう事情らしい。そりゃ遠回りするか。

「ま、他にも4ノ国に用があったからってのもあるけど!それがあの依頼だから終わったらすぐおさらばするけどね!」

と、ニトは進行方向に向き直る。用があるという街の奥へと、僕たちは歩いていく。
12/16ページ
スキ