序章〜子供時代編
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「ねえ。私が勝ったらもう変な事しないって約束して」
「…おう、いいぜ。お前が勝ったらな」
「じゃあ、放課後に校舎裏よ。絶対ね」
「って、てめえこそ、逃げるんじゃねえぞ!」
フン、とそっぽを向いて教室を出て行った短パン小僧。
その背中を見ながら、「ッシ!」と小さくガッツポーズを決めるとクラスの女の子から「がんばってねかくかくちゃん!」と激励を貰った。
その可愛い応援に、「うん!」と返すと何だかドキドキしてきた。
ここまでくるのに何でこんなに時間がかかったのかしら。
でも今日こそは絶対に見返してやるわよ!
ポケットに入れていたボールを撫でると、カタカタと反応が返ってくる。
ルーちゃんも気合十分みたい。
私はフウ、と軽く深呼吸しながら窓の外を見た。
まだ夏を匂わせるような9月の空、こちらを向いた終わりかけのヒマワリ。
窓から入ってくる風はナギサシティ独特の潮っぽい匂いで、浜辺でオーバとデンジと修行した夏休みの日々を思い出させた。
(これで勝てたら、私また一歩踏み出せる気がする)
-----------
「これからかくかくとマルメロの一対一のシングルマッチを始めるからな!お互いのポケモンは1匹ずつ。どちらかのポケモンが戦闘不能になったらバトル終了!準備はいいか?」
審判であるオーバの声にコクリと頷く。
放課後の校舎裏。バトル用のコートが学校にあるなんて、この世界ならではだと思う。
対面のトレーナーゾーンにいるガキ大将のマルメロを見やる。
マルメロは被っていた帽子のツバをぐいっと後ろに向けてからとコートサイドにいるギャラリーを指差した。
「なんで隣のクラスの奴らもきてるんだよ!」
「え?いいじゃない別に。見学したいって言ってたから連れてきちゃった。ダメ?」
「だ…ダメだろ!放課後に校舎裏で、って言われたら二人だけだと思うだろ!!」
え、そういうもんなの?
ポケモン世界の学校あるあるルールってそうなの?
パッとオーバを見たら同じく「いや、わかんねえ」みたいな首を傾げるジェスチャーをしてた。
っていうかそっちだって虫取り少年いるじゃん。ギャラリーに混じってんじゃん。
それを指摘したら「俺はいいんだよ!」とか訳のわからない事を言われた。本当になんなんだ。
コートサイドにいたデンジは叫んでいるマルメロの顔をへの字口で睨みつけている。え、何その顔。
「デンジどうかしたの?」
「…絶対言わねえ」
「???」
「かくかく、絶対勝てよ」
デンジの言葉に私は頷いて、改めて相手を見やってボールを構える。
夏休み前とは違うんだからね。見てなさいよガキ大将!
「頑張ってルーちゃん!」
「いっけー!!ビーダル!!」
「ルリ!!」
「ダルッビー!!」
▼ガキ大将 の マルメロ が 勝負 を しかけてきた!
▼ガキ大将 の マルメロ は ビーダル を くりだした!
なぬ!?
繰り出されたのはマルメロのパートナーポケモン:ビッパ じゃない。
その進化系のビーダル。
一回りもサイズが大きくなって、ルーちゃんの3倍はある体躯。
まさかあれから進化してたなんて。
「ビーダル!『たいあたり』」
「っ、よけてルーちゃん!『バブルこうせん』」
「ルリッ!!」
「そのまま『たたきつける』」
「ビーダル!転がって回避だ!」
「ダルルッ!」
ビーダルのたいあたりがルリリの横を掠め、バブルこうせんがビーダルに当たる。
しかし効果が薄いように見えるのは、ビーダルが進化した事によって『みずタイプ』が追加されてしまったから。
「そのまま転がれビーダル!!あのチビを吹っ飛ばせ!」
「地面に向かって『バブルこうせん』!」
「いいぞかくかく!」
デンジの声かけが聞こえて何だか嬉しい。
攻撃をギリギリ回避したビーダルは回転そのままにルリリに突進してきた。
くらったらかなりのダメージを負う。
バブルこうせんの泡は私の思った通り地面の摩擦抵抗を下げ、ビーダルは転がったまま見当違いの方向へと滑っていく。
「『しっぽをふる』!」
「くっ!ビーダル!」
これでビーダルの防御力は低下するはず。進化したポケモンはステータスが大幅に上がってしまうのは承知の通り。
私が勝つには変化技を上手く使いながら立ち回るしかない。
そして相手に隙を与えない!
「ルーちゃん!『たたきつける』!」
「受けてたて!『ひっさつまえば』!!」
「ダルルッチュアア!!」
「ッルリ!?」
「ルーちゃん!!」
ルリリの尻尾は確かにビーダルにヒットした筈だった。でもその攻撃よりもビーダルのひっさつまえばの勢いが強すぎた。
ルリリはそのこうげきを受けて後方の地面へたたきつけられる。
ビーダルも多少こうげきは効いているようだが、まだまだ余裕はあるように見える。
「ル、ルリリ〜!!」
「ダルビビビッ」
「やっぱり俺に勝とうなんて100年早いぜ!」
「っなめないで!」
相手のビーダルまでバカにして笑ってくる。
本当に、本当にくやしい。でもまだ負けてないんだから!
「…ルーちゃん!『あまえる』」
「ルリッ!…ルリ〜ルリルリリ♡ルリリン♡」
「ビ、ビダ…ビィ…」
「ビーダル!?」
この渾身のルーちゃんの甘え方よ…。
うちのルリリのアイドル並の可愛さを見ろ。親バカかもしれないけど可愛すぎてこうげき力2段階どころの騒ぎじゃないだろ。
3段階だよ3段階(当社比)
「可愛いからって手加減すんなよビーダル!もう一度『ひっさつまえば』だ!」
「っ跳ねて距離をとって!」
「遅いんだよ!」
「…っ!!ルーちゃん立てる!?」
「ル、ルゥ〜ッ…!」
「はっ!もう諦めろよ、無駄無駄!雑魚は大人しく降参しろ!」
攻撃力が下がっているとはいえ至近距離からの攻撃に再度ダメージを負うルリリ。
ダメージは大きいものの、まだやれそうだ。
絶対に諦めるもんか!
「みずでっぽう逆噴射!」
「なっ」
「ルーちゃんジャンプ!!っ絶対、絶対、絶対勝つんだから!」
「リルルーーッ!!」
放たれた水鉄砲の勢いを使って、ルリリはその体を勢いよく跳躍させた。
その小さな体の何倍も高い距離。重力に乗って勢いよくしっぽをビーダルに叩きつければ勝機はあるかもしれない。
「ルーちゃん!私あなたを信じてる!絶対できる!ルーちゃんは強いんだよ!」
「そんなチビが何回やったって同じなんだよ!迎え打てビーダル!」
「ビビッ!!」
ルリリのジャンプの高さが空中で最高地点まで達し、後はそのまま攻撃を仕掛けるだけ。
そんな時、
「ッルリ、ルリリ〜〜!!!」
「そのまま、たたきつけ…え、ルーちゃん?」
突如ルリリは空中で光り始めた。
暖かな白い光が小さな体を包み込んだかと思うと、どんどん光が大きくなっていく。
そして光が収まると、そこには…
「ッマリリッ!!」
そこには一回り大きく進化したルリリの進化系:マリルの姿があった。
相手のマルメロも、ギャラリーにいるみんなも驚いている。
ルリリよりも丸くツルリとしたボールのような流線型の体躯。
やる気充分の眼差し。進化したばかりだというのに相手を見据えて攻撃態勢をとっている。
すごい。すごいよルーちゃん!
こんなタイミングで進化するなんて。
「っよし!ルーちゃん!そのままみずでっぽう!もう一回よ!」
「リリーッ!!!」
マリルに進化したルーちゃんは、空中でみずでっぽうを再度噴射した。
その勢いにのったまま使い慣れた尻尾をグルリグルリと空中で回転させ、どんどん速度をあげていく。
「可愛いからって、舐めないでよ!!」
「叩き落とせビーダル!!『ひっさつまえば』」
「『たたきつける!』」
ルリリから倍以上になったであろう、その体や尻尾がビーダルの体に直撃する。
「ルーちゃんいっけー!!」
「耐えろビーダル!!」
ビーダルに当たる瞬間、ルーちゃんの尻尾がギラリと光り、そして鈍い音がした。
そして、そこにはビーダルが目を回して倒れていた。
「ビ、ビィ…」
「…っ、戻れビーダル!っくそ!」
「ビーダル戦闘不能!よってかくかくとマリルの勝ち!!…やったじゃねえかかくかく!」
「勝った…」
「おう!かくかくの勝ちだぞ!」
「オーバ…わたし…」
「マリリ〜!!ルリ、マリリ〜!!!!」
「ルーちゃああん!!」
飛び跳ねながら駆け寄ってくるルーちゃん。私も思わず駆け寄って抱き付く。そこにはボロボロながらも笑顔のパートナーがいた。
本当に嬉しそうにスリスリと私に頬ずりをしてくる。
「すごい!すごいよルーちゃん頑張ったね!!」
「ルッル〜!!」
「初勝利だよ!野生のポケモン以外のバトルで初勝利!!しかもリベンジ!!」
「ルリルリ!!」
「ルーちゃんならできるって思ってたよ!!やったねーー!!」
ポケモンバトルで勝つことがこんなに嬉しいなんて。
思わず笑みが溢れる。
最初はガキ大将をボコボコにしたいとか思ってたけど、何だか無我夢中でそんな事は途中から忘れていた。
正直もうダメかもって、一瞬思った時もあったけど、ルリリ…いや、もうマリルになったのよね。マリルが頑張ってくれて、そして信じて指示を出して…。
なんだかまだ実感が湧かない。まだ胸がドキドキしてる。
「やったなかくかく!めちゃくちゃ熱いバトルだったぜ!修行の成果、バッチリだったな!」
「ああ、最高にシビれるバトルだった。ナイスファイト」
「オーバもデンジも本当にありがとう!二人のおかげだよ!!…は〜、まだドキドキしてる」
「あったり前だろ!俺様を誰だと思ってんだよ!かくかくはナギサでナンバー1の男からコーチ受けてるんだぜ!」
「はいオーバ先生。ふふっ」
「お前何言ってんだ。ナギサで1番強い男は俺に決まってるだろ。勝ったのはお前とルーが頑張ったからだぜ」
「ありがとデンジ」
いつの間にかオーバとデンジのパートナーポケモン達がボールの中から飛び出してきて、ルーちゃんを囲んで健闘を讃えていた。ルーちゃんは照れ臭そうにしている。
ヒコザルにもコリンクにもバトルの先輩としてかなりお世話になった。
もっと修行してオーバにもデンジにも勝ってやる!なんて、そう思っちゃうのはちょっと気が大きくなってるからかな。
「…かくかくのくせにやるじゃん。ちょっとは強くなったんじゃねえの…?ほんのちょーっと!こんくらいだけどな!」
振り返るとバツが悪そうな顔のガキ大将が立っていた。
私を褒めるなんて…え、どういう心の変化?
『俺に勝つなんてかくかくのくせに生意気だ!』とか適当に難癖つけられて殴りかかってくるもんだと思ってただけに拍子抜けだ。
びっくりして見つめていたら、急に顔を真っ赤にしながら、目を泳がせ始めた。
なんだ。今度は何を改まって言うつもりなんだ。
「い…か、な」
「え?よく聞こえなかったもう一回」
「…い、今まで悪かったな!もう、からかったりとかしねえよ……っこれでいいかよ!っくそ!」
思いっきり目を逸らされながら舌打ちされたけど、
お、おおお〜〜〜〜????
謝った!!?謝ってきた!?今までの事を!?
何それどういう事ですか!え?これが例の?少年漫画とかによくある、バトルを通してわかり合うってこと?心が通いあうみたいな?
そういうやつ?マジで?
っていうことは…?
「はい!」
「?」
「…はい!」
「なんだよ!」
え?
なんだよって、『握手』だよ!?
勝っても負けても最後は握手さ!って歌にもあるじゃん!それだよ!!!
私は2回空ぶった空虚な右手で思いっきりマルメロの右手を掴んでブンブン振った。
「ななななんだよ!!」
「はい、あ〜く〜しゅ!!バトルありがと!!楽しかった!ナイスファイト!」
「は…」
「次も負けないからね!」
今まで散々からかわれたりしてきたのは正直ムカつくし、全部を許すって訳じゃないけど。
ニッと笑ったら、黙って帽子のツバを前に向けて深くかぶり直したマルメロ。
はは〜〜?照れてんのかあ??なんだよ子供らしく可愛いところあるじゃん。
なんてニコニコしてたら、オーバは「かくかく…本当お前ってのんびり屋さんじゃん」と微妙な顔をされた。
だから、その『のんびり屋さん』って単語何なの???テレビで流行ってんの???
「おいマルメロ。これで分かっただろ。かくかくは弱くねえって」
「〜っ!ちっ、関係ねえのにしゃしゃり出てきやがって…そうだな!弱くねえよ!」
普段感情があまり表情に出ないデンジが絶妙に勝ち誇ったような顔でマルメロを見ていた。
二人の間で何があったんだろ。なんか前より険悪なんだけど…。
「ま、まあ?かくかくもちょっとは強くなったし?俺の仲間と認めてやってもいいぜ」
「なにそれ」
「な、なんだその言い方!俺がせっかく認めてやろうってのに」
「それとこれとは話が別でしょ。前から思ってたんだけど、何でそんなに私に偉そうなわけ?」
「な、おっ…お前が…生意気で、俺の言う事聞かねえからだろ…!」
「アンタはジャイアンか?」
「…え?なんだよジャイアンて」
「私そういう偉そうな人嫌い。偉そうじゃなかったら遊ぶけど」
「え、お…お…おう?」
「……マルメロっち…今日はもう帰ろうぜ」
遠巻きに見ていた虫取り小僧が何だか哀れな者を見るような目でマルメロの肩に手を置いた。
「じゃあなブース!!」とか去り際に悪態をついて走り去っていった可愛げのないガキ大将達。
なんなんだよ全く。これが本当に私が大人だったら捕まえて尻叩きだぞ。わかってんのか。
それから自信のついた私は、オーバとデンジとのバトルを通してもっと強くなっていくんだけど、それはまた別のお話。
「…おう、いいぜ。お前が勝ったらな」
「じゃあ、放課後に校舎裏よ。絶対ね」
「って、てめえこそ、逃げるんじゃねえぞ!」
フン、とそっぽを向いて教室を出て行った短パン小僧。
その背中を見ながら、「ッシ!」と小さくガッツポーズを決めるとクラスの女の子から「がんばってねかくかくちゃん!」と激励を貰った。
その可愛い応援に、「うん!」と返すと何だかドキドキしてきた。
ここまでくるのに何でこんなに時間がかかったのかしら。
でも今日こそは絶対に見返してやるわよ!
ポケットに入れていたボールを撫でると、カタカタと反応が返ってくる。
ルーちゃんも気合十分みたい。
私はフウ、と軽く深呼吸しながら窓の外を見た。
まだ夏を匂わせるような9月の空、こちらを向いた終わりかけのヒマワリ。
窓から入ってくる風はナギサシティ独特の潮っぽい匂いで、浜辺でオーバとデンジと修行した夏休みの日々を思い出させた。
(これで勝てたら、私また一歩踏み出せる気がする)
-----------
「これからかくかくとマルメロの一対一のシングルマッチを始めるからな!お互いのポケモンは1匹ずつ。どちらかのポケモンが戦闘不能になったらバトル終了!準備はいいか?」
審判であるオーバの声にコクリと頷く。
放課後の校舎裏。バトル用のコートが学校にあるなんて、この世界ならではだと思う。
対面のトレーナーゾーンにいるガキ大将のマルメロを見やる。
マルメロは被っていた帽子のツバをぐいっと後ろに向けてからとコートサイドにいるギャラリーを指差した。
「なんで隣のクラスの奴らもきてるんだよ!」
「え?いいじゃない別に。見学したいって言ってたから連れてきちゃった。ダメ?」
「だ…ダメだろ!放課後に校舎裏で、って言われたら二人だけだと思うだろ!!」
え、そういうもんなの?
ポケモン世界の学校あるあるルールってそうなの?
パッとオーバを見たら同じく「いや、わかんねえ」みたいな首を傾げるジェスチャーをしてた。
っていうかそっちだって虫取り少年いるじゃん。ギャラリーに混じってんじゃん。
それを指摘したら「俺はいいんだよ!」とか訳のわからない事を言われた。本当になんなんだ。
コートサイドにいたデンジは叫んでいるマルメロの顔をへの字口で睨みつけている。え、何その顔。
「デンジどうかしたの?」
「…絶対言わねえ」
「???」
「かくかく、絶対勝てよ」
デンジの言葉に私は頷いて、改めて相手を見やってボールを構える。
夏休み前とは違うんだからね。見てなさいよガキ大将!
「頑張ってルーちゃん!」
「いっけー!!ビーダル!!」
「ルリ!!」
「ダルッビー!!」
▼ガキ大将 の マルメロ が 勝負 を しかけてきた!
▼ガキ大将 の マルメロ は ビーダル を くりだした!
なぬ!?
繰り出されたのはマルメロのパートナーポケモン:ビッパ じゃない。
その進化系のビーダル。
一回りもサイズが大きくなって、ルーちゃんの3倍はある体躯。
まさかあれから進化してたなんて。
「ビーダル!『たいあたり』」
「っ、よけてルーちゃん!『バブルこうせん』」
「ルリッ!!」
「そのまま『たたきつける』」
「ビーダル!転がって回避だ!」
「ダルルッ!」
ビーダルのたいあたりがルリリの横を掠め、バブルこうせんがビーダルに当たる。
しかし効果が薄いように見えるのは、ビーダルが進化した事によって『みずタイプ』が追加されてしまったから。
「そのまま転がれビーダル!!あのチビを吹っ飛ばせ!」
「地面に向かって『バブルこうせん』!」
「いいぞかくかく!」
デンジの声かけが聞こえて何だか嬉しい。
攻撃をギリギリ回避したビーダルは回転そのままにルリリに突進してきた。
くらったらかなりのダメージを負う。
バブルこうせんの泡は私の思った通り地面の摩擦抵抗を下げ、ビーダルは転がったまま見当違いの方向へと滑っていく。
「『しっぽをふる』!」
「くっ!ビーダル!」
これでビーダルの防御力は低下するはず。進化したポケモンはステータスが大幅に上がってしまうのは承知の通り。
私が勝つには変化技を上手く使いながら立ち回るしかない。
そして相手に隙を与えない!
「ルーちゃん!『たたきつける』!」
「受けてたて!『ひっさつまえば』!!」
「ダルルッチュアア!!」
「ッルリ!?」
「ルーちゃん!!」
ルリリの尻尾は確かにビーダルにヒットした筈だった。でもその攻撃よりもビーダルのひっさつまえばの勢いが強すぎた。
ルリリはそのこうげきを受けて後方の地面へたたきつけられる。
ビーダルも多少こうげきは効いているようだが、まだまだ余裕はあるように見える。
「ル、ルリリ〜!!」
「ダルビビビッ」
「やっぱり俺に勝とうなんて100年早いぜ!」
「っなめないで!」
相手のビーダルまでバカにして笑ってくる。
本当に、本当にくやしい。でもまだ負けてないんだから!
「…ルーちゃん!『あまえる』」
「ルリッ!…ルリ〜ルリルリリ♡ルリリン♡」
「ビ、ビダ…ビィ…」
「ビーダル!?」
この渾身のルーちゃんの甘え方よ…。
うちのルリリのアイドル並の可愛さを見ろ。親バカかもしれないけど可愛すぎてこうげき力2段階どころの騒ぎじゃないだろ。
3段階だよ3段階(当社比)
「可愛いからって手加減すんなよビーダル!もう一度『ひっさつまえば』だ!」
「っ跳ねて距離をとって!」
「遅いんだよ!」
「…っ!!ルーちゃん立てる!?」
「ル、ルゥ〜ッ…!」
「はっ!もう諦めろよ、無駄無駄!雑魚は大人しく降参しろ!」
攻撃力が下がっているとはいえ至近距離からの攻撃に再度ダメージを負うルリリ。
ダメージは大きいものの、まだやれそうだ。
絶対に諦めるもんか!
「みずでっぽう逆噴射!」
「なっ」
「ルーちゃんジャンプ!!っ絶対、絶対、絶対勝つんだから!」
「リルルーーッ!!」
放たれた水鉄砲の勢いを使って、ルリリはその体を勢いよく跳躍させた。
その小さな体の何倍も高い距離。重力に乗って勢いよくしっぽをビーダルに叩きつければ勝機はあるかもしれない。
「ルーちゃん!私あなたを信じてる!絶対できる!ルーちゃんは強いんだよ!」
「そんなチビが何回やったって同じなんだよ!迎え打てビーダル!」
「ビビッ!!」
ルリリのジャンプの高さが空中で最高地点まで達し、後はそのまま攻撃を仕掛けるだけ。
そんな時、
「ッルリ、ルリリ〜〜!!!」
「そのまま、たたきつけ…え、ルーちゃん?」
突如ルリリは空中で光り始めた。
暖かな白い光が小さな体を包み込んだかと思うと、どんどん光が大きくなっていく。
そして光が収まると、そこには…
「ッマリリッ!!」
そこには一回り大きく進化したルリリの進化系:マリルの姿があった。
相手のマルメロも、ギャラリーにいるみんなも驚いている。
ルリリよりも丸くツルリとしたボールのような流線型の体躯。
やる気充分の眼差し。進化したばかりだというのに相手を見据えて攻撃態勢をとっている。
すごい。すごいよルーちゃん!
こんなタイミングで進化するなんて。
「っよし!ルーちゃん!そのままみずでっぽう!もう一回よ!」
「リリーッ!!!」
マリルに進化したルーちゃんは、空中でみずでっぽうを再度噴射した。
その勢いにのったまま使い慣れた尻尾をグルリグルリと空中で回転させ、どんどん速度をあげていく。
「可愛いからって、舐めないでよ!!」
「叩き落とせビーダル!!『ひっさつまえば』」
「『たたきつける!』」
ルリリから倍以上になったであろう、その体や尻尾がビーダルの体に直撃する。
「ルーちゃんいっけー!!」
「耐えろビーダル!!」
ビーダルに当たる瞬間、ルーちゃんの尻尾がギラリと光り、そして鈍い音がした。
そして、そこにはビーダルが目を回して倒れていた。
「ビ、ビィ…」
「…っ、戻れビーダル!っくそ!」
「ビーダル戦闘不能!よってかくかくとマリルの勝ち!!…やったじゃねえかかくかく!」
「勝った…」
「おう!かくかくの勝ちだぞ!」
「オーバ…わたし…」
「マリリ〜!!ルリ、マリリ〜!!!!」
「ルーちゃああん!!」
飛び跳ねながら駆け寄ってくるルーちゃん。私も思わず駆け寄って抱き付く。そこにはボロボロながらも笑顔のパートナーがいた。
本当に嬉しそうにスリスリと私に頬ずりをしてくる。
「すごい!すごいよルーちゃん頑張ったね!!」
「ルッル〜!!」
「初勝利だよ!野生のポケモン以外のバトルで初勝利!!しかもリベンジ!!」
「ルリルリ!!」
「ルーちゃんならできるって思ってたよ!!やったねーー!!」
ポケモンバトルで勝つことがこんなに嬉しいなんて。
思わず笑みが溢れる。
最初はガキ大将をボコボコにしたいとか思ってたけど、何だか無我夢中でそんな事は途中から忘れていた。
正直もうダメかもって、一瞬思った時もあったけど、ルリリ…いや、もうマリルになったのよね。マリルが頑張ってくれて、そして信じて指示を出して…。
なんだかまだ実感が湧かない。まだ胸がドキドキしてる。
「やったなかくかく!めちゃくちゃ熱いバトルだったぜ!修行の成果、バッチリだったな!」
「ああ、最高にシビれるバトルだった。ナイスファイト」
「オーバもデンジも本当にありがとう!二人のおかげだよ!!…は〜、まだドキドキしてる」
「あったり前だろ!俺様を誰だと思ってんだよ!かくかくはナギサでナンバー1の男からコーチ受けてるんだぜ!」
「はいオーバ先生。ふふっ」
「お前何言ってんだ。ナギサで1番強い男は俺に決まってるだろ。勝ったのはお前とルーが頑張ったからだぜ」
「ありがとデンジ」
いつの間にかオーバとデンジのパートナーポケモン達がボールの中から飛び出してきて、ルーちゃんを囲んで健闘を讃えていた。ルーちゃんは照れ臭そうにしている。
ヒコザルにもコリンクにもバトルの先輩としてかなりお世話になった。
もっと修行してオーバにもデンジにも勝ってやる!なんて、そう思っちゃうのはちょっと気が大きくなってるからかな。
「…かくかくのくせにやるじゃん。ちょっとは強くなったんじゃねえの…?ほんのちょーっと!こんくらいだけどな!」
振り返るとバツが悪そうな顔のガキ大将が立っていた。
私を褒めるなんて…え、どういう心の変化?
『俺に勝つなんてかくかくのくせに生意気だ!』とか適当に難癖つけられて殴りかかってくるもんだと思ってただけに拍子抜けだ。
びっくりして見つめていたら、急に顔を真っ赤にしながら、目を泳がせ始めた。
なんだ。今度は何を改まって言うつもりなんだ。
「い…か、な」
「え?よく聞こえなかったもう一回」
「…い、今まで悪かったな!もう、からかったりとかしねえよ……っこれでいいかよ!っくそ!」
思いっきり目を逸らされながら舌打ちされたけど、
お、おおお〜〜〜〜????
謝った!!?謝ってきた!?今までの事を!?
何それどういう事ですか!え?これが例の?少年漫画とかによくある、バトルを通してわかり合うってこと?心が通いあうみたいな?
そういうやつ?マジで?
っていうことは…?
「はい!」
「?」
「…はい!」
「なんだよ!」
え?
なんだよって、『握手』だよ!?
勝っても負けても最後は握手さ!って歌にもあるじゃん!それだよ!!!
私は2回空ぶった空虚な右手で思いっきりマルメロの右手を掴んでブンブン振った。
「ななななんだよ!!」
「はい、あ〜く〜しゅ!!バトルありがと!!楽しかった!ナイスファイト!」
「は…」
「次も負けないからね!」
今まで散々からかわれたりしてきたのは正直ムカつくし、全部を許すって訳じゃないけど。
ニッと笑ったら、黙って帽子のツバを前に向けて深くかぶり直したマルメロ。
はは〜〜?照れてんのかあ??なんだよ子供らしく可愛いところあるじゃん。
なんてニコニコしてたら、オーバは「かくかく…本当お前ってのんびり屋さんじゃん」と微妙な顔をされた。
だから、その『のんびり屋さん』って単語何なの???テレビで流行ってんの???
「おいマルメロ。これで分かっただろ。かくかくは弱くねえって」
「〜っ!ちっ、関係ねえのにしゃしゃり出てきやがって…そうだな!弱くねえよ!」
普段感情があまり表情に出ないデンジが絶妙に勝ち誇ったような顔でマルメロを見ていた。
二人の間で何があったんだろ。なんか前より険悪なんだけど…。
「ま、まあ?かくかくもちょっとは強くなったし?俺の仲間と認めてやってもいいぜ」
「なにそれ」
「な、なんだその言い方!俺がせっかく認めてやろうってのに」
「それとこれとは話が別でしょ。前から思ってたんだけど、何でそんなに私に偉そうなわけ?」
「な、おっ…お前が…生意気で、俺の言う事聞かねえからだろ…!」
「アンタはジャイアンか?」
「…え?なんだよジャイアンて」
「私そういう偉そうな人嫌い。偉そうじゃなかったら遊ぶけど」
「え、お…お…おう?」
「……マルメロっち…今日はもう帰ろうぜ」
遠巻きに見ていた虫取り小僧が何だか哀れな者を見るような目でマルメロの肩に手を置いた。
「じゃあなブース!!」とか去り際に悪態をついて走り去っていった可愛げのないガキ大将達。
なんなんだよ全く。これが本当に私が大人だったら捕まえて尻叩きだぞ。わかってんのか。
可愛いからってナメんなよ!
それから自信のついた私は、オーバとデンジとのバトルを通してもっと強くなっていくんだけど、それはまた別のお話。