序章〜子供時代編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「『ひのこ』だ!ヒコザル!」
「かわして『みずあそび』!」
飛び散る火の粉を尻尾を使ってかわすルリリ。そのまま自分自身をびしょ濡れにする。
これで、ほのおタイプの技の威力は半減になる・・・今日はいけるかも。
「ルーちゃん!『みずでっぽう』!」
「ギリギリいけるぞヒコザル!『みだれひっかき』!」
「尻尾つかって、あっ!」
一瞬の隙をついてヒコザルの爪がルリリに直撃した。
「ルッ!」という声をあげてルリリは踏みとどまったものの、体力はかなりギリギリでフラついている。
それを見てオーバくんが右手をあげたと同時にお互いの緊張がほぐれる。ふう。
「そろそろ休憩しようぜかくかく」
「うん。・・・ありがとうルーちゃん!戻って!」
「かなりいい感じになってきたな。もう少しってところか」
「オーバくんの教え方が上手だから」
「まあな!」
ルリリが嬉しそうにピョコピョコ跳ねながら私の元に戻って来た。
水筒に入れてきたおいしい水をカップに入れるとゴクゴクと飲み始める。いい飲みっぷりだ。
それを見て私も同じものを飲む。生き返る〜!氷入れてきてよかった。
オーバくんとヒコザル、私とルリリで浜辺に並んで座る。
朝のナギサシティの海風はひんやりして心地よい。早朝8時の浜辺は人もほとんどいない。私たちの貸切状態だ。
遠くの方で早起きのキャモメ達がすいすいと空を飛んでいた。今日も暑くなりそうだなあ。
夏休みに入ってからほぼ毎日私はオーバくんとバトルをしている。
付き合ってくれている彼には感謝しかない。
お陰でかなりバトルが上達した。まだまだ、まごついてしまうところもあるけれど最初に比べれば目覚しい程の上達ぶりだ。近々再戦も近いかもしれない。
「・・・デンジくん遅いね」
「あいつ朝弱いんだよなあ。ここに来る前、一応声かけたんだぜ」
「何か言ってた?」
「『すぐ行く』って言ってた」
「もう1時間経つけど」
デンジくん低血圧っぽいもんな・・・。寝ぼけて返事してた可能性もある。
目覚まし時計をかけて寝たとしても無言で止めるタイプの気がする。何となく。ちゃんと声をかけてあげるオーバくんは面倒見がいいなあ。
デンジくんとはあの陸橋の上で出会ってからオーバくんを介して時折遊ぶようになった。
子供感覚で言えばもう友達っていう括りでいいのかな・・・多分。
あっちも私の名前を覚えてくれたみたいだし。
デンジくんは気が向いた時にフラッと浜辺に現れては、オーバくんと一緒に私に稽古をつけてくれる第二の先生だ。
彼もポケモンバトルが凄く強くてオーバくんといい勝負。
幼馴染であり親友であり、ライバルって感じだ。
いいよね。そういうの熱い。男の子の世界って羨ましい。
どうせこの世界に来てしまうなら私も男の子で生まれてみたかったなあ。
そうしたら、もっとオーバくんやデンジくんと仲良くなれるかもしれないし、あのガキ大将にも舐められなかったかも。
浜辺で遊ぶ男子達。いい図じゃないか。健康的だし。
「ぼくのなつやすみ」だったっけ?そんな感じのイメージ。夏休みに田舎に行った少年が夏の思い出を作りまくるゲーム・・・懐かしい。
(・・・今、リアルに夏休みしてるんだよなあ)
人生2回目の夏休み。『はやく大人になりたいんだ』とポケモンアニメソングの名曲歌詞の一部が一瞬軽やかに脳内に流れたが、全然そんなことない。ずっと子供でいたい。子供って楽しいじゃない・・・。
波の音を聞きながら現実逃避する7歳児って結構やばい。
可能ならば元の世界に帰りたい。そう思ってはいるけれど、実際『夏休み』を肌で感じてしまうと、もうダメだ。
仮に今、元の世界に戻れたとして夏休みモードから急に社畜には戻れそうにない。
というか7年経ってる。7年も会社休んでたらどう考えても解雇されてるに決まっている。
考えたくないが同じだけの時間が元の世界でも流れていたとしたら再就職厳しいんじゃないだろうか。
そもそも私の最後ってどう贔屓目に見ても絶望的な状況だったじゃん?
戻ったら先祖代々のお墓に名前が刻まれてたり、実家の仏間に位牌があったりして。なーんて。
・・・待って、だめ。全然笑えない。誰向けのジョークなの。自虐ネタかよ。
(このまま・・・すっぱり諦めて、ここで第二の人生謳歌しちゃってもいいんじゃ・・・いやいやいや・・・)
しっかりしろかくかく。
この生活が嫌いという訳ではない。むしろ好きだ。
嫌いになる要素が全然ないくらい好きだ。
だから嫌だ。そして、中途半端に未練を残してる自分が、煮え切らなくて、嫌だ。
・・・あまりいろんな事を考えすぎると頭痛がしてくるって、分かってる、のに・・・
あ・・・気持ち悪くなってきた。
「おい、かくかく!大丈夫か」
「へっ!?」
「すげえボーッとしてたけど」
神妙な顔つきのオーバくんと、首をかしげるヒコザル。私の額にしっぽを当ててくるルリリ。
あ、冷たくて気持ちいい・・・。
「うん・・・大丈夫」
「声かけても全然反応ねえから、目開けたまま寝てんのかと思ったら顔真っ青だし」
「大丈夫・・・ちょっと、考え事してただけだから」
「その顔、全然大丈夫じゃねえだろ・・・よくわかんねえけど、考えたってしょうがねえじゃん。トレーナースクールで勉強したからって強いかっていうと違うしさ」
どうやらオーバくんは私がポケモンバトルについて思いを巡らせていたと思っているらしい。
お姉さん完全に違う事考えてたよ、ごめん少年。
心配かけてごめん。もっとしっかりするからさ。
大丈夫だよ。
「お前いろいろ考えすぎなんだよ。だからポケモンに指示する時に遅くなるんじゃねえか?」
「・・・さすがオーバくん、天才」
「だからオーバ様に任せろって言ったろ」
「いつもありがとうオーバくん」
「おう。っていうか具合悪いなら無理すんなよ?母ちゃんが言ってたぜ。気をつけないとねっちゅーしょーになるって」
サイコソーダ飲むか?と飲みかけのソーダを目の前で左右に振るオーバくん。
瓶に光が乱反射して、とっても眩しい。
思わず受け取って飲んだ。ぬるいサイコソーダはいつもより甘ったるい味がした。
「今日はもうデンジも来なそうだし、帰ろうぜ」
そう言って立ち上がり伸びをするオーバくんはTシャツからお腹が丸見えだ。なんだろう、夜はお腹出して寝ててお母さんに布団かけ直しされてそう。
そういうイメージのお腹をしている。あとちょっと出ベソだ。
「なあかくかく、宿題わかんねえところ、また教えてくれよ。この間のお前の教え方わかりやすかった」
「・・・わかった」
「じゃあまた明日な。・・・早く元気になれよな!」
そう笑って、オーバくんは走って帰っていった。
少年ってなんであんなに皆、無駄に駆け足なんだろう。去っていく彼の背中が見えなくなるまで見送った。
「・・・また明日、だって」
その言葉に、不思議と笑ってしまった。
他の子とも遊べばいいのに。きっとデンジくんだって君ともっと遊びたいと思ってるよ。
本当に、本当にありがとうオーバくん。
君は知らないだろうけれど、助けてくれたあの日から、私はいろんな面で君に救われているんだよ。
考えすぎんなよ。って言うから、今日は何も考えずに眠れそう。
勉強だって、私でもこの世界で役に立てることがあるんだなあって嬉しくなるし。
君の裏表のない言葉や、ただがむしゃらに走る姿を見ていると、何だか元気が出てくる気がする。
一緒にバトルをしていると、私も強くなった気がする。
明日の約束があるから、
明日もこの世界で生きていいって、許された気がする。
その日はやっぱり熱が出た。
「かわして『みずあそび』!」
飛び散る火の粉を尻尾を使ってかわすルリリ。そのまま自分自身をびしょ濡れにする。
これで、ほのおタイプの技の威力は半減になる・・・今日はいけるかも。
「ルーちゃん!『みずでっぽう』!」
「ギリギリいけるぞヒコザル!『みだれひっかき』!」
「尻尾つかって、あっ!」
一瞬の隙をついてヒコザルの爪がルリリに直撃した。
「ルッ!」という声をあげてルリリは踏みとどまったものの、体力はかなりギリギリでフラついている。
それを見てオーバくんが右手をあげたと同時にお互いの緊張がほぐれる。ふう。
「そろそろ休憩しようぜかくかく」
「うん。・・・ありがとうルーちゃん!戻って!」
「かなりいい感じになってきたな。もう少しってところか」
「オーバくんの教え方が上手だから」
「まあな!」
ルリリが嬉しそうにピョコピョコ跳ねながら私の元に戻って来た。
水筒に入れてきたおいしい水をカップに入れるとゴクゴクと飲み始める。いい飲みっぷりだ。
それを見て私も同じものを飲む。生き返る〜!氷入れてきてよかった。
オーバくんとヒコザル、私とルリリで浜辺に並んで座る。
朝のナギサシティの海風はひんやりして心地よい。早朝8時の浜辺は人もほとんどいない。私たちの貸切状態だ。
遠くの方で早起きのキャモメ達がすいすいと空を飛んでいた。今日も暑くなりそうだなあ。
夏休みに入ってからほぼ毎日私はオーバくんとバトルをしている。
付き合ってくれている彼には感謝しかない。
お陰でかなりバトルが上達した。まだまだ、まごついてしまうところもあるけれど最初に比べれば目覚しい程の上達ぶりだ。近々再戦も近いかもしれない。
「・・・デンジくん遅いね」
「あいつ朝弱いんだよなあ。ここに来る前、一応声かけたんだぜ」
「何か言ってた?」
「『すぐ行く』って言ってた」
「もう1時間経つけど」
デンジくん低血圧っぽいもんな・・・。寝ぼけて返事してた可能性もある。
目覚まし時計をかけて寝たとしても無言で止めるタイプの気がする。何となく。ちゃんと声をかけてあげるオーバくんは面倒見がいいなあ。
デンジくんとはあの陸橋の上で出会ってからオーバくんを介して時折遊ぶようになった。
子供感覚で言えばもう友達っていう括りでいいのかな・・・多分。
あっちも私の名前を覚えてくれたみたいだし。
デンジくんは気が向いた時にフラッと浜辺に現れては、オーバくんと一緒に私に稽古をつけてくれる第二の先生だ。
彼もポケモンバトルが凄く強くてオーバくんといい勝負。
幼馴染であり親友であり、ライバルって感じだ。
いいよね。そういうの熱い。男の子の世界って羨ましい。
どうせこの世界に来てしまうなら私も男の子で生まれてみたかったなあ。
そうしたら、もっとオーバくんやデンジくんと仲良くなれるかもしれないし、あのガキ大将にも舐められなかったかも。
浜辺で遊ぶ男子達。いい図じゃないか。健康的だし。
「ぼくのなつやすみ」だったっけ?そんな感じのイメージ。夏休みに田舎に行った少年が夏の思い出を作りまくるゲーム・・・懐かしい。
(・・・今、リアルに夏休みしてるんだよなあ)
人生2回目の夏休み。『はやく大人になりたいんだ』とポケモンアニメソングの名曲歌詞の一部が一瞬軽やかに脳内に流れたが、全然そんなことない。ずっと子供でいたい。子供って楽しいじゃない・・・。
波の音を聞きながら現実逃避する7歳児って結構やばい。
可能ならば元の世界に帰りたい。そう思ってはいるけれど、実際『夏休み』を肌で感じてしまうと、もうダメだ。
仮に今、元の世界に戻れたとして夏休みモードから急に社畜には戻れそうにない。
というか7年経ってる。7年も会社休んでたらどう考えても解雇されてるに決まっている。
考えたくないが同じだけの時間が元の世界でも流れていたとしたら再就職厳しいんじゃないだろうか。
そもそも私の最後ってどう贔屓目に見ても絶望的な状況だったじゃん?
戻ったら先祖代々のお墓に名前が刻まれてたり、実家の仏間に位牌があったりして。なーんて。
・・・待って、だめ。全然笑えない。誰向けのジョークなの。自虐ネタかよ。
(このまま・・・すっぱり諦めて、ここで第二の人生謳歌しちゃってもいいんじゃ・・・いやいやいや・・・)
しっかりしろかくかく。
この生活が嫌いという訳ではない。むしろ好きだ。
嫌いになる要素が全然ないくらい好きだ。
だから嫌だ。そして、中途半端に未練を残してる自分が、煮え切らなくて、嫌だ。
・・・あまりいろんな事を考えすぎると頭痛がしてくるって、分かってる、のに・・・
あ・・・気持ち悪くなってきた。
「おい、かくかく!大丈夫か」
「へっ!?」
「すげえボーッとしてたけど」
神妙な顔つきのオーバくんと、首をかしげるヒコザル。私の額にしっぽを当ててくるルリリ。
あ、冷たくて気持ちいい・・・。
「うん・・・大丈夫」
「声かけても全然反応ねえから、目開けたまま寝てんのかと思ったら顔真っ青だし」
「大丈夫・・・ちょっと、考え事してただけだから」
「その顔、全然大丈夫じゃねえだろ・・・よくわかんねえけど、考えたってしょうがねえじゃん。トレーナースクールで勉強したからって強いかっていうと違うしさ」
どうやらオーバくんは私がポケモンバトルについて思いを巡らせていたと思っているらしい。
お姉さん完全に違う事考えてたよ、ごめん少年。
心配かけてごめん。もっとしっかりするからさ。
大丈夫だよ。
「お前いろいろ考えすぎなんだよ。だからポケモンに指示する時に遅くなるんじゃねえか?」
「・・・さすがオーバくん、天才」
「だからオーバ様に任せろって言ったろ」
「いつもありがとうオーバくん」
「おう。っていうか具合悪いなら無理すんなよ?母ちゃんが言ってたぜ。気をつけないとねっちゅーしょーになるって」
サイコソーダ飲むか?と飲みかけのソーダを目の前で左右に振るオーバくん。
瓶に光が乱反射して、とっても眩しい。
思わず受け取って飲んだ。ぬるいサイコソーダはいつもより甘ったるい味がした。
「今日はもうデンジも来なそうだし、帰ろうぜ」
そう言って立ち上がり伸びをするオーバくんはTシャツからお腹が丸見えだ。なんだろう、夜はお腹出して寝ててお母さんに布団かけ直しされてそう。
そういうイメージのお腹をしている。あとちょっと出ベソだ。
「なあかくかく、宿題わかんねえところ、また教えてくれよ。この間のお前の教え方わかりやすかった」
「・・・わかった」
「じゃあまた明日な。・・・早く元気になれよな!」
そう笑って、オーバくんは走って帰っていった。
少年ってなんであんなに皆、無駄に駆け足なんだろう。去っていく彼の背中が見えなくなるまで見送った。
「・・・また明日、だって」
その言葉に、不思議と笑ってしまった。
他の子とも遊べばいいのに。きっとデンジくんだって君ともっと遊びたいと思ってるよ。
本当に、本当にありがとうオーバくん。
君は知らないだろうけれど、助けてくれたあの日から、私はいろんな面で君に救われているんだよ。
考えすぎんなよ。って言うから、今日は何も考えずに眠れそう。
勉強だって、私でもこの世界で役に立てることがあるんだなあって嬉しくなるし。
君の裏表のない言葉や、ただがむしゃらに走る姿を見ていると、何だか元気が出てくる気がする。
一緒にバトルをしていると、私も強くなった気がする。
明日の約束があるから、
明日もこの世界で生きていいって、許された気がする。
ナギサの浜にて
その日はやっぱり熱が出た。