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「最近ノボリ楽しそうだね」
「わたくしはいつも楽しく仕事を全うしておりますが」
「なんて言うか、顔が気持ち悪い」
「何故わたくしは今罵倒されたのでしょうか!?」
納得いかぬ。というように口を引き結んだ兄、ノボリ。
休憩が同じ時間で被ることは珍しい。
ライブキャスターの新着メールを確認しながら返事をするノボリへ「はい、どうぞ〜」と紙コップに入れたコーヒーを渡すと「これはどうも」と視線そのままに受け取り口をつけた。
分かる人は極々稀だと思うけど、一緒に育った僕にはわかる。
ノボリ本当に最近楽しそう。だって、気を抜いた時にニヤけてる時が多い気がする。
「憧れのかくかくねえさん。帰ってきたもんね」
「…憧れという程の事では…まあ無きにしもあらずでございますが」
「肯定しちゃうんだ。その心は?」
「彼女のポケモンへの接し方やバトルでの姿勢はトレーナーとして模範的でございますゆえ」
「模範的…かな…?どうだろね…姉さんたまに僕らでもびっくりするぐらい廃人だし…トレーナーとしてというと…」
「そう言われると…そうでございますね。では、『理想的』の方がいいでしょうか」
まあ、確かにね?かくかくねえさんいろんな意味で凄いから見習うところたくさんあるけど。
そういう事じゃないんだよノボリ。つまんないなあ。
堅い。真面目。仕事人間。ポケモン廃人。(それは僕もだけど)
僕はコーヒーを飲みながら、ノボリの返事に適当に相槌を打って返した。
相変わらずノボリの目線はライブキャスターの文面に釘付けであり、チラリとも僕の方を見ようともしない。
それにしても毎回思うけどノボリの親指の動き、本当にハンパない。
メールへの返信の文字を打つたびにカコカコカコと物凄いスピードで一定音が淀みなく鳴っていく。ロボットかよ。
送信するたびに『デラッシャ〜ン』とシャンデラの鳴きメロが鳴るのも凄いシュール。
僕は後で一気にキーボードでタイプしたい派だから、緊急のもの以外はまとめてパソコンに転送。ポチっとな。
僕たちは8年程前、このギアステーションへスカウトされてやってきた。
でも1番初めに人事からコンタクトがあったのはそれよりももっと前。
人事部長さんがわざわざスカウトしに来てくれたんだけど、僕たち旅の途中だったから一度断ったんだ。
でも彼はしつこかった!
ライモンシティでのイベントがある時はもちろん、それ以外でも定期的に連絡をくれて。
何度断っても、まるでハブネークみたいにしつこかったね。
『絶対に面白いから!!君たちもきっと気にいりますよ!』
『一度乗りにきて下さい!』
『ダブルバトルもできるようになりましたから!』
『まずは是非体験を!その後考えてみて下さい!』
僕もノボリもとうとう根負けしてライモンシティまで足を運んだんだ。
CMを見て面白そうだなと思っていたのは事実だったし。
当時はまだマルチトレインがなかったから、ぼくはダブルトレイン、ノボリはシングルトレインに乗車した。
『あれ?ノボリ?もう終わってたの?』
『…クダリ』
『シングルトレインどうだった?ぼく19両目で負けちゃった!惜しい!すっごい楽しかった!』
ダブルトレインのバトルを終えて駅のホームに降り立つと、シングルトレインに挑戦していたはずのノボリが椅子に座っていた。
制覇できると思ったのに19両目で負けてしまった。あの変な喋り方の駅員、強い!コンビネーション抜群!
今回は狭い車内で戦うだけでも一苦労だったけど、慣れたらもっと勝ち進められると思う。
すっごく面白いバトルだった。あんな人がいるなんて。
興奮しながら先ほどまでのバトルについてあれこれ話そうと思ったら、ノボリの様子が何か変だった。
心ここにあらずというか、放心しているというか。
『どうしたのノボリ。もしかしてあまり面白くなかったとか?』
『…た』
『え?』
『一匹のポケモンだけで3タテされた…!15両目のあの鉄道員!』
『ウソ。すっごいね』
『ありえない!!』
そう言ってノボリは親の仇にでも出会ったみたいな目をしながら、持っていた缶コーヒーを思いっきりゴミ箱に投げ捨てた。
僕はというと正直『うわ、いい気味』とか思ってた。
当時のノボリは、今みたいな慇懃で丁寧な人間ではなくて、どちらかというと話し方も性格も攻撃的な超自信満々野郎だった。
実の弟の僕でさえもそう思うんだから、当時を知る人間からは相当鼻持ちならない認識を持たれていたと思う。
昔からシングルバトルが大得意で、小さな頃から殆ど連戦連勝してればそうなるのかもしれないけれど。
まあ、ティーンエイジャーの可愛い黒歴史ってことで。
『クダリ』
『なにノボリ?…顔怖いんだけど。むしろ「こわいかお」だけど』
『駅員室にいけばあの人事部長とかいうオッサンがいるはずだな?』
『オッサンて』
『悔しいけど、入社する。そしてあの女と再戦する』
『相手、女の人だったんだね?すごいな〜その人。…って待って。悔しいのはわかるけど仮にもこれから入社する職場だから。しかも先輩を「あの女」とか言っちゃうの良くない。ちょっとその拳下ろして。ほら僕、次男だから心象とか気にするタイプ。入社早々陰口叩かれたりするのイヤ』
それがきっかけで、僕たちはまんまと人事部長の罠に引っかかり入社を決意した。
後から聞いた話では本当はシングルの15両目には別の職員が乗車する予定だったのを、モニターで確認していた人事部長さんの入れ知恵でかくかくねえさんにチェンジしたんだって。
『手加減しないで鼻っ柱を折るぐらい全力でお願いします』とか頼んでいたらしい。こっわ。
その後も大変だったなあ。ノボリ、かくかくねえさん目の敵にしてたもんだから。
ことあるごとに衝突してたし、バトルを挑んだりして。
バトルする前に人としてなってない、ってかくかく姉さんから新人教育の段階で性根を一から叩き直されまくってたのが懐かしい…。
バトルで毎回ボロクソに負けまくってボロッボロに性根叩かれまくって鼻っ柱折られまくって、気がついたらプライベートの喋り方まで丁寧語が癖になったもんなあ。
でも結果的に、ノボリの弱点や強みを一から見直す結果になって、それを素直に受け止める強さも手に入れて、今のノボリになったから良かったんだと思う。
今じゃギアステーションで一番って言っていいほどの仕事人間だもんなあ。人って変われば変わるもんだね。
「わたくしはいつも楽しく仕事を全うしておりますが」
「なんて言うか、顔が気持ち悪い」
「何故わたくしは今罵倒されたのでしょうか!?」
納得いかぬ。というように口を引き結んだ兄、ノボリ。
休憩が同じ時間で被ることは珍しい。
ライブキャスターの新着メールを確認しながら返事をするノボリへ「はい、どうぞ〜」と紙コップに入れたコーヒーを渡すと「これはどうも」と視線そのままに受け取り口をつけた。
分かる人は極々稀だと思うけど、一緒に育った僕にはわかる。
ノボリ本当に最近楽しそう。だって、気を抜いた時にニヤけてる時が多い気がする。
「憧れのかくかくねえさん。帰ってきたもんね」
「…憧れという程の事では…まあ無きにしもあらずでございますが」
「肯定しちゃうんだ。その心は?」
「彼女のポケモンへの接し方やバトルでの姿勢はトレーナーとして模範的でございますゆえ」
「模範的…かな…?どうだろね…姉さんたまに僕らでもびっくりするぐらい廃人だし…トレーナーとしてというと…」
「そう言われると…そうでございますね。では、『理想的』の方がいいでしょうか」
まあ、確かにね?かくかくねえさんいろんな意味で凄いから見習うところたくさんあるけど。
そういう事じゃないんだよノボリ。つまんないなあ。
堅い。真面目。仕事人間。ポケモン廃人。(それは僕もだけど)
僕はコーヒーを飲みながら、ノボリの返事に適当に相槌を打って返した。
相変わらずノボリの目線はライブキャスターの文面に釘付けであり、チラリとも僕の方を見ようともしない。
それにしても毎回思うけどノボリの親指の動き、本当にハンパない。
メールへの返信の文字を打つたびにカコカコカコと物凄いスピードで一定音が淀みなく鳴っていく。ロボットかよ。
送信するたびに『デラッシャ〜ン』とシャンデラの鳴きメロが鳴るのも凄いシュール。
僕は後で一気にキーボードでタイプしたい派だから、緊急のもの以外はまとめてパソコンに転送。ポチっとな。
僕たちは8年程前、このギアステーションへスカウトされてやってきた。
でも1番初めに人事からコンタクトがあったのはそれよりももっと前。
人事部長さんがわざわざスカウトしに来てくれたんだけど、僕たち旅の途中だったから一度断ったんだ。
でも彼はしつこかった!
ライモンシティでのイベントがある時はもちろん、それ以外でも定期的に連絡をくれて。
何度断っても、まるでハブネークみたいにしつこかったね。
『絶対に面白いから!!君たちもきっと気にいりますよ!』
『一度乗りにきて下さい!』
『ダブルバトルもできるようになりましたから!』
『まずは是非体験を!その後考えてみて下さい!』
僕もノボリもとうとう根負けしてライモンシティまで足を運んだんだ。
CMを見て面白そうだなと思っていたのは事実だったし。
当時はまだマルチトレインがなかったから、ぼくはダブルトレイン、ノボリはシングルトレインに乗車した。
『あれ?ノボリ?もう終わってたの?』
『…クダリ』
『シングルトレインどうだった?ぼく19両目で負けちゃった!惜しい!すっごい楽しかった!』
ダブルトレインのバトルを終えて駅のホームに降り立つと、シングルトレインに挑戦していたはずのノボリが椅子に座っていた。
制覇できると思ったのに19両目で負けてしまった。あの変な喋り方の駅員、強い!コンビネーション抜群!
今回は狭い車内で戦うだけでも一苦労だったけど、慣れたらもっと勝ち進められると思う。
すっごく面白いバトルだった。あんな人がいるなんて。
興奮しながら先ほどまでのバトルについてあれこれ話そうと思ったら、ノボリの様子が何か変だった。
心ここにあらずというか、放心しているというか。
『どうしたのノボリ。もしかしてあまり面白くなかったとか?』
『…た』
『え?』
『一匹のポケモンだけで3タテされた…!15両目のあの鉄道員!』
『ウソ。すっごいね』
『ありえない!!』
そう言ってノボリは親の仇にでも出会ったみたいな目をしながら、持っていた缶コーヒーを思いっきりゴミ箱に投げ捨てた。
僕はというと正直『うわ、いい気味』とか思ってた。
当時のノボリは、今みたいな慇懃で丁寧な人間ではなくて、どちらかというと話し方も性格も攻撃的な超自信満々野郎だった。
実の弟の僕でさえもそう思うんだから、当時を知る人間からは相当鼻持ちならない認識を持たれていたと思う。
昔からシングルバトルが大得意で、小さな頃から殆ど連戦連勝してればそうなるのかもしれないけれど。
まあ、ティーンエイジャーの可愛い黒歴史ってことで。
『クダリ』
『なにノボリ?…顔怖いんだけど。むしろ「こわいかお」だけど』
『駅員室にいけばあの人事部長とかいうオッサンがいるはずだな?』
『オッサンて』
『悔しいけど、入社する。そしてあの女と再戦する』
『相手、女の人だったんだね?すごいな〜その人。…って待って。悔しいのはわかるけど仮にもこれから入社する職場だから。しかも先輩を「あの女」とか言っちゃうの良くない。ちょっとその拳下ろして。ほら僕、次男だから心象とか気にするタイプ。入社早々陰口叩かれたりするのイヤ』
それがきっかけで、僕たちはまんまと人事部長の罠に引っかかり入社を決意した。
後から聞いた話では本当はシングルの15両目には別の職員が乗車する予定だったのを、モニターで確認していた人事部長さんの入れ知恵でかくかくねえさんにチェンジしたんだって。
『手加減しないで鼻っ柱を折るぐらい全力でお願いします』とか頼んでいたらしい。こっわ。
その後も大変だったなあ。ノボリ、かくかくねえさん目の敵にしてたもんだから。
ことあるごとに衝突してたし、バトルを挑んだりして。
バトルする前に人としてなってない、ってかくかく姉さんから新人教育の段階で性根を一から叩き直されまくってたのが懐かしい…。
バトルで毎回ボロクソに負けまくってボロッボロに性根叩かれまくって鼻っ柱折られまくって、気がついたらプライベートの喋り方まで丁寧語が癖になったもんなあ。
でも結果的に、ノボリの弱点や強みを一から見直す結果になって、それを素直に受け止める強さも手に入れて、今のノボリになったから良かったんだと思う。
今じゃギアステーションで一番って言っていいほどの仕事人間だもんなあ。人って変われば変わるもんだね。
雲泥の差
拝啓 過去のかくかくへ
未来のノボリは本当にすごいよ?
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