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「もしかして拗ねてる?」
「チノッ…」
「あのはがねの体を叩き飛ばしたのにバトル向きじゃないなんてどの口が言うのかしらね?」
「チノチノ!」
「大丈夫よあんたの強さは私が1番知ってるんだから。大好きよチラチーノ」
そう言ってチラチーノの鼻にキスをしてボールに戻した。フワフワの体毛が顔に当たって気持ちが良かった。
バトル狂とかバトル馬鹿とか言われるけど、自分ではそう思ってなくて。
どちらかと言えばポケモン馬鹿だなとは思う。
生まれた何匹かのチラーミィの中から厳選したのは本当だし、育児雑誌で1位だったから選んだっていう理由も本当。
だけどこの子を育ててみたい、輝かせたいって言う思いも本当。
どんなポケモンも一緒に頑張ればびっくりするぐらい強くなる。本当に奥が深くて面白い。
種族差や個体差なんて本当は二の次。でも勝ちたい、って思いも同じくらい私の中では強くて。
だから試行錯誤しながら、いろいろと妥協しないで生きてきたら、いつの間にか『廃人』とか『地獄』とかそんな風に呼ばれるようになってしまった。遺憾の意。
地獄とか言い出したキャメロン、張り倒したい。(一度張り倒したけど何度でも張り倒したい)
別に自分が特別とかは、思ってない。
好きなことがポケモンで、趣味が育成で、生きがいがバトルで。
それでいい、と。誰が何と言おうと、何をされようと私は私の好きを大事にしていくって。
そう思って生きてきたんだけど。
(人間って・・・本当大変だなあ)
もう面倒くさい。正直何もかも面倒くさい。私、ポケモンになりたい。
何も考えずに(いや、彼らなりにいろんな事を考えているだろうからこれは失礼かも知れないが)、気ままに空を飛んだり水の中潜ったり発光したり体から砂出したり火を吹いたり放電したりしてみたい。
何て、馬鹿げた事を考えながらカナワ駅の改札を抜けて自宅へ向かう。
昼間は観光客で賑わうこの街も、この時間帯は閑散としていた。
吹いた夜風が心地よい。遠くでむしポケモンの羽音が聞こえた。
ギアステーション所有の鉄道車両基地と転車台が有名なカナワタウン。
そこに私は住んでいる。3年前に一軒家を建てた。いわゆるスイートホームってやつね。
ポケモンバトルが好きだから、滅多な事で壊れないように超頑丈な造りの家にしてもらった。
防音もばっちりだし、防火も耐震も凄いし、多分リビングで『だいばくはつ』とか起きても耐える気がする。
もっとも『だいばくはつ』するポケモンは持ってないけど。
「ただいま〜」
「おかえり。遅かったね」
「しかじかは?」
「もう寝てるわよ。もっと早く帰ってきたらいいのに。さっきまでママは?ママは?って大変だったんだから」
「ごめんね母さん、ありがとう。残業だったのよ」
「復職初日から?本当なんでしょうね?またバトルしてたんじゃないの?全く」
はい嘘です。バトルしてました。さすが実の母。バレている。
復職初日という事で、シッポウシティにある実家から、孫の面倒を見にわざわざ来てくれた母には大感謝だ。
私は母親としてはダメだと思う。本当に、ダメだと思う。
家に帰るよりもポケモンバトル優先させてしまってるし。
だけど今日は大目に見て。
本当にいろいろと限界だったの。
「ねえかくかく、シアンさんとはまだ会ったりしてるの?」
「たまにライブキャスターで話す程度かな」
「いっそこの家売って実家戻ってきたら良かったじゃない。なにもわざわざまた激務の職場に戻らなくても…」
「理由その一、バトルサブウェイが好きだから。その二、慣れてるしお給料がいい。その三、この家気に入ってるから」
「シッポウにもバトルする仕事あるじゃないの。アロエちゃんとこのポケモンジムとか」
そう言って母はテレビを見始めた。急にガチャガチャとうるさいBGMがリビングに広がる。
アロエのジムは、無理だろ。あそこジム兼博物館だし。いくら私がアロエと仲良いと言っても・・・。そりゃアロエなら気持ちよくOK出してくれるとは思うけど。
私は、ふう。とため息をついてジャケットを脱いだ。
『シアン』というのは去年離婚した夫の名前。
結婚生活3年。短いような、長かったような。
恋人だった時は、あんなに楽しかったのになあ。
シアンはスラリと背が高く、なかなかの男前。バトルも上手な元エリートトレーナー。私の人生設計の中にはこんな男前と結婚するという予定はなかったから今でもビックリしている。
彼と初めて出会ったのは、遡る事8年前だろうか。
当時はまだバトルサブウェイが『電車の中で闘える』だけ。の時代で、『サブウェイマスター』なんていう役職が作られる前の話。そう、サブウェイマスターっていう制度ができたのはここ5〜6年の話なのだ。
ノボリとクダリもまだ新入社員で、「物凄い強い、双子のトレーナーがいる」って当時の人事部部長がどこぞからスカウトしてきたんだっけ。懐かしいなあ・・・。
と、話が逸れた。今は夫の話だ。
バトルサブウェイの仕事も板について来て「地獄のかくかくねえさん」という不本意なあだ名がつき始めた頃に乗車してきたのが元夫だ。
彼もさすがエリートトレーナーというだけあって、初めての乗車でどんどん連勝を重ねていった。19戦目あたりだったろうか、その連勝の途中ではじめて黒星をつけたのが私である。
それからと言うもの、彼は日を置いては何度も何度も挑戦しに来た。
時にはシングルバトルで、時にはダブルバトルで。私は彼と戦った。
ポケモンを変え、戦術を変え、すっかりバトルサブウェイの常連となった1年後、彼は私に初めて勝ったのだ。
素晴らしい見事な勝利だった。その勝利を、努力を、讃えようと私が口を開く前に、彼はこう言った。
『好きですかくかくさん』
『大変素晴らしいバトルでございま…はい?』
『どうか僕と結婚を前提に付き合ってください!』
『気は確かでいらっしゃいますかお客様』
『僕は本気です!』
まさかそんな告白されるなんて思ってもみなくて、最後の方『お客様大丈夫ですか?』『お客様!』って呼びかけしかしてなかった気がする。
普通考えて、ないでしょ。私にダイレクト告白とか。
しかもその告白劇、ばっちりオペレーターやモニターをしていた鉄道員全員に聞かれているし。
女性社員にはどうするのどうするの?とキャーキャー言われ、クラウドにはいじられ、ラムセスはニヤニヤした顔で「ご祝儀はいくら包めばいいのさ」とか聞いてくるし、キャメロンなんて、見逃したからってわざわざバトルレコーダー巻き戻しして見てたからね。しかも爆笑された。
うわ思い出したらやっぱりキャメロン張り倒したい。めちゃくちゃ恥ずかしい。あの録画ちゃんと処分されてんのかな。
っていうのが馴れ初めで、あれからうっかり交際。そして結婚、出産。
時にはケンカもしたけれど、それなりに私は上手くいってると思ってた。
でも結婚3年目、事件は起こった。
彼は浮気していた。
私より遥かに若い子と。
おかしいと思っていたんだ。
仕事でもないのに出かけて行ったり、私との予定すっぽかしたり。
かと思えば急に優しくなったり、何の記念日でもないのにケーキ買ってきたり…。
でも勘違いだろう。そうであって欲しい。って目を背けていた。
しかしある日決定的な瞬間を私は目にしてしまったのだ。
なかなかお昼ご飯を食べようとしない娘と格闘していた、とある昼下がり。
たまたまテレビがつきっ放しで、画面にはワイドショーの生中継が映っていた。
『ここのソフトクリーム、今ヒウンで大人気なんですよ〜!お客さんに少し聞いてみましょう!すみませーん!』とレポーターがマイクを向けたカップル。
『今日は彼女さんとデートですかあ?仲よしカップル羨ましいです』『いやあそんな事ないです』
とかデレデレ話してる人の後ろに、休日出勤だと出かけて行った旦那と可愛らしい女の子が手を繋いでいるのを目撃してしまった。
え?何でそんなの一瞬で分かったかって?
バトルで培った動体視力舐めないで頂きたい。
その日の夜は正直よく覚えていない。
怒りすぎて。
夫が帰宅すると同時に、私はニドクインを繰り出して、『メガトンパンチ!!』って叫んでた気がする。
広めに作られた日当たりのいい自慢のリビングダイニングが一瞬にしてバトルフィールドになった。
間一髪逃げ延びた旦那が『ちょ、ちょっと待てかくかく!誤解だ!話を聞いてくれ!』とか訳のわからない事を言ってきたので、彼の手持ちが全員戦闘不能になるまでボッコボコにした。
『申し訳、ございませんでした。つい、魔が差して・・・』
『・・・いつから』
『かくかくのことは愛してる!愛してるんだ!水に流してくれとは言わない、話し合おう!だから、』
『いつから』
『・・・・・・2年前・・・くらいから、ちょくちょく』
『離婚して』
愛してるならなんで浮気してんだクソ野郎。サザナミ湾に沈めたろか。
2年前って娘がお腹の中にいる時じゃねえか。ふざけんなよ。
その事件より、彼への愛情はすっぱりさっぱり冷めた。
その後いろいろ紆余曲折を経て私は無事にシングルマザーとなり復職を決意したのである。
私はポケモントレーナーである前に母親。
愛する子供にひもじい思いだけは絶対させたくない。毎日3食栄養のあるご飯を食べて欲しいし、欲しいものはなるべく買ってあげたいし、いつでも笑って過ごしてほしい。
それにポケモン達にだってひもじい思いはさせたくない。
手持ちだけではなくボックスにも愛すべきパートナーポケモンが何体もいるし、預けっぱなしにはできない。
コンディションを維持させるのにも、日頃のお腹を満たしてあげるのにもご飯は必要だ。
小型ポケモンだけならまだいい、私にはバトル御用達の大型ポケモンがごろごろいるのだ。しかも結構みんな大食いだ。
そしてご飯を食べるにはお金がいるのだ。
道にいる名も知らぬトレーナーにバトルで勝って報奨金を貰う生活をしてもいいけれど、そんなの一時しのぎでタカが知れている。というか、一般トレーナー相手に試合を申し込むとかそんな申し訳ない事できない。上から目線で申し訳ございませんが。
そもそもそんな事続けているうちに顔が割れて誰一人目を合わせてくれなくなる。ご近所の人からも目を背けられること必至。外聞悪すぎる。それは本当に避けたい。
とかいろいろ考えてたら、どう考えてもバトルサブウェイに戻るという選択肢しかなかった。
激務だろうが何だろうが子供が立派に育つまでは体に鞭打とうとも、鉄道員として職務を全うする覚悟よ!
夜勤をする親御さん向けの幼稚園も見つけたし、バッチリだ。
娘には少し寂しい思いをさせるかもしれないけど、その分愛情はたくさん注ぐつもりだ。
これからバリバリ働くわよ!!
出発進行ーーー!!!!!!
「チノッ…」
「あのはがねの体を叩き飛ばしたのにバトル向きじゃないなんてどの口が言うのかしらね?」
「チノチノ!」
「大丈夫よあんたの強さは私が1番知ってるんだから。大好きよチラチーノ」
そう言ってチラチーノの鼻にキスをしてボールに戻した。フワフワの体毛が顔に当たって気持ちが良かった。
バトル狂とかバトル馬鹿とか言われるけど、自分ではそう思ってなくて。
どちらかと言えばポケモン馬鹿だなとは思う。
生まれた何匹かのチラーミィの中から厳選したのは本当だし、育児雑誌で1位だったから選んだっていう理由も本当。
だけどこの子を育ててみたい、輝かせたいって言う思いも本当。
どんなポケモンも一緒に頑張ればびっくりするぐらい強くなる。本当に奥が深くて面白い。
種族差や個体差なんて本当は二の次。でも勝ちたい、って思いも同じくらい私の中では強くて。
だから試行錯誤しながら、いろいろと妥協しないで生きてきたら、いつの間にか『廃人』とか『地獄』とかそんな風に呼ばれるようになってしまった。遺憾の意。
地獄とか言い出したキャメロン、張り倒したい。(一度張り倒したけど何度でも張り倒したい)
別に自分が特別とかは、思ってない。
好きなことがポケモンで、趣味が育成で、生きがいがバトルで。
それでいい、と。誰が何と言おうと、何をされようと私は私の好きを大事にしていくって。
そう思って生きてきたんだけど。
(人間って・・・本当大変だなあ)
もう面倒くさい。正直何もかも面倒くさい。私、ポケモンになりたい。
何も考えずに(いや、彼らなりにいろんな事を考えているだろうからこれは失礼かも知れないが)、気ままに空を飛んだり水の中潜ったり発光したり体から砂出したり火を吹いたり放電したりしてみたい。
何て、馬鹿げた事を考えながらカナワ駅の改札を抜けて自宅へ向かう。
昼間は観光客で賑わうこの街も、この時間帯は閑散としていた。
吹いた夜風が心地よい。遠くでむしポケモンの羽音が聞こえた。
ギアステーション所有の鉄道車両基地と転車台が有名なカナワタウン。
そこに私は住んでいる。3年前に一軒家を建てた。いわゆるスイートホームってやつね。
ポケモンバトルが好きだから、滅多な事で壊れないように超頑丈な造りの家にしてもらった。
防音もばっちりだし、防火も耐震も凄いし、多分リビングで『だいばくはつ』とか起きても耐える気がする。
もっとも『だいばくはつ』するポケモンは持ってないけど。
「ただいま〜」
「おかえり。遅かったね」
「しかじかは?」
「もう寝てるわよ。もっと早く帰ってきたらいいのに。さっきまでママは?ママは?って大変だったんだから」
「ごめんね母さん、ありがとう。残業だったのよ」
「復職初日から?本当なんでしょうね?またバトルしてたんじゃないの?全く」
はい嘘です。バトルしてました。さすが実の母。バレている。
復職初日という事で、シッポウシティにある実家から、孫の面倒を見にわざわざ来てくれた母には大感謝だ。
私は母親としてはダメだと思う。本当に、ダメだと思う。
家に帰るよりもポケモンバトル優先させてしまってるし。
だけど今日は大目に見て。
本当にいろいろと限界だったの。
「ねえかくかく、シアンさんとはまだ会ったりしてるの?」
「たまにライブキャスターで話す程度かな」
「いっそこの家売って実家戻ってきたら良かったじゃない。なにもわざわざまた激務の職場に戻らなくても…」
「理由その一、バトルサブウェイが好きだから。その二、慣れてるしお給料がいい。その三、この家気に入ってるから」
「シッポウにもバトルする仕事あるじゃないの。アロエちゃんとこのポケモンジムとか」
そう言って母はテレビを見始めた。急にガチャガチャとうるさいBGMがリビングに広がる。
アロエのジムは、無理だろ。あそこジム兼博物館だし。いくら私がアロエと仲良いと言っても・・・。そりゃアロエなら気持ちよくOK出してくれるとは思うけど。
私は、ふう。とため息をついてジャケットを脱いだ。
『シアン』というのは去年離婚した夫の名前。
結婚生活3年。短いような、長かったような。
恋人だった時は、あんなに楽しかったのになあ。
シアンはスラリと背が高く、なかなかの男前。バトルも上手な元エリートトレーナー。私の人生設計の中にはこんな男前と結婚するという予定はなかったから今でもビックリしている。
彼と初めて出会ったのは、遡る事8年前だろうか。
当時はまだバトルサブウェイが『電車の中で闘える』だけ。の時代で、『サブウェイマスター』なんていう役職が作られる前の話。そう、サブウェイマスターっていう制度ができたのはここ5〜6年の話なのだ。
ノボリとクダリもまだ新入社員で、「物凄い強い、双子のトレーナーがいる」って当時の人事部部長がどこぞからスカウトしてきたんだっけ。懐かしいなあ・・・。
と、話が逸れた。今は夫の話だ。
バトルサブウェイの仕事も板について来て「地獄のかくかくねえさん」という不本意なあだ名がつき始めた頃に乗車してきたのが元夫だ。
彼もさすがエリートトレーナーというだけあって、初めての乗車でどんどん連勝を重ねていった。19戦目あたりだったろうか、その連勝の途中ではじめて黒星をつけたのが私である。
それからと言うもの、彼は日を置いては何度も何度も挑戦しに来た。
時にはシングルバトルで、時にはダブルバトルで。私は彼と戦った。
ポケモンを変え、戦術を変え、すっかりバトルサブウェイの常連となった1年後、彼は私に初めて勝ったのだ。
素晴らしい見事な勝利だった。その勝利を、努力を、讃えようと私が口を開く前に、彼はこう言った。
『好きですかくかくさん』
『大変素晴らしいバトルでございま…はい?』
『どうか僕と結婚を前提に付き合ってください!』
『気は確かでいらっしゃいますかお客様』
『僕は本気です!』
まさかそんな告白されるなんて思ってもみなくて、最後の方『お客様大丈夫ですか?』『お客様!』って呼びかけしかしてなかった気がする。
普通考えて、ないでしょ。私にダイレクト告白とか。
しかもその告白劇、ばっちりオペレーターやモニターをしていた鉄道員全員に聞かれているし。
女性社員にはどうするのどうするの?とキャーキャー言われ、クラウドにはいじられ、ラムセスはニヤニヤした顔で「ご祝儀はいくら包めばいいのさ」とか聞いてくるし、キャメロンなんて、見逃したからってわざわざバトルレコーダー巻き戻しして見てたからね。しかも爆笑された。
うわ思い出したらやっぱりキャメロン張り倒したい。めちゃくちゃ恥ずかしい。あの録画ちゃんと処分されてんのかな。
っていうのが馴れ初めで、あれからうっかり交際。そして結婚、出産。
時にはケンカもしたけれど、それなりに私は上手くいってると思ってた。
でも結婚3年目、事件は起こった。
彼は浮気していた。
私より遥かに若い子と。
おかしいと思っていたんだ。
仕事でもないのに出かけて行ったり、私との予定すっぽかしたり。
かと思えば急に優しくなったり、何の記念日でもないのにケーキ買ってきたり…。
でも勘違いだろう。そうであって欲しい。って目を背けていた。
しかしある日決定的な瞬間を私は目にしてしまったのだ。
なかなかお昼ご飯を食べようとしない娘と格闘していた、とある昼下がり。
たまたまテレビがつきっ放しで、画面にはワイドショーの生中継が映っていた。
『ここのソフトクリーム、今ヒウンで大人気なんですよ〜!お客さんに少し聞いてみましょう!すみませーん!』とレポーターがマイクを向けたカップル。
『今日は彼女さんとデートですかあ?仲よしカップル羨ましいです』『いやあそんな事ないです』
とかデレデレ話してる人の後ろに、休日出勤だと出かけて行った旦那と可愛らしい女の子が手を繋いでいるのを目撃してしまった。
え?何でそんなの一瞬で分かったかって?
バトルで培った動体視力舐めないで頂きたい。
その日の夜は正直よく覚えていない。
怒りすぎて。
夫が帰宅すると同時に、私はニドクインを繰り出して、『メガトンパンチ!!』って叫んでた気がする。
広めに作られた日当たりのいい自慢のリビングダイニングが一瞬にしてバトルフィールドになった。
間一髪逃げ延びた旦那が『ちょ、ちょっと待てかくかく!誤解だ!話を聞いてくれ!』とか訳のわからない事を言ってきたので、彼の手持ちが全員戦闘不能になるまでボッコボコにした。
『申し訳、ございませんでした。つい、魔が差して・・・』
『・・・いつから』
『かくかくのことは愛してる!愛してるんだ!水に流してくれとは言わない、話し合おう!だから、』
『いつから』
『・・・・・・2年前・・・くらいから、ちょくちょく』
『離婚して』
愛してるならなんで浮気してんだクソ野郎。サザナミ湾に沈めたろか。
2年前って娘がお腹の中にいる時じゃねえか。ふざけんなよ。
その事件より、彼への愛情はすっぱりさっぱり冷めた。
その後いろいろ紆余曲折を経て私は無事にシングルマザーとなり復職を決意したのである。
私はポケモントレーナーである前に母親。
愛する子供にひもじい思いだけは絶対させたくない。毎日3食栄養のあるご飯を食べて欲しいし、欲しいものはなるべく買ってあげたいし、いつでも笑って過ごしてほしい。
それにポケモン達にだってひもじい思いはさせたくない。
手持ちだけではなくボックスにも愛すべきパートナーポケモンが何体もいるし、預けっぱなしにはできない。
コンディションを維持させるのにも、日頃のお腹を満たしてあげるのにもご飯は必要だ。
小型ポケモンだけならまだいい、私にはバトル御用達の大型ポケモンがごろごろいるのだ。しかも結構みんな大食いだ。
そしてご飯を食べるにはお金がいるのだ。
道にいる名も知らぬトレーナーにバトルで勝って報奨金を貰う生活をしてもいいけれど、そんなの一時しのぎでタカが知れている。というか、一般トレーナー相手に試合を申し込むとかそんな申し訳ない事できない。上から目線で申し訳ございませんが。
そもそもそんな事続けているうちに顔が割れて誰一人目を合わせてくれなくなる。ご近所の人からも目を背けられること必至。外聞悪すぎる。それは本当に避けたい。
とかいろいろ考えてたら、どう考えてもバトルサブウェイに戻るという選択肢しかなかった。
激務だろうが何だろうが子供が立派に育つまでは体に鞭打とうとも、鉄道員として職務を全うする覚悟よ!
夜勤をする親御さん向けの幼稚園も見つけたし、バッチリだ。
娘には少し寂しい思いをさせるかもしれないけど、その分愛情はたくさん注ぐつもりだ。
これからバリバリ働くわよ!!
出発進行ーーー!!!!!!
後は野となれ山となれ