序章〜子供時代編
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「…ん?」
「どうしましたか?お客様」
「いえ、すいません。あとどくけしとまひなおしも3つずつ下さい」
父さんから頼まれていた買い物をしていた最中。
今、かくかくが店の前を全速力で駆けていったような。
「今、見たかコリンク?」
「キュウン?」
買い物袋を持って友人が走って行ったと思われる方向を見やるが、すでに人影はなく、街路樹がさざめいているだけだった。
気のせいだったろうか。
首を傾げながら歩みを進めた時、道の途中に何かが落ちているのに気がついた。
ボールチェーンが外れた、小さなぬいぐるみのストラップ。
ひょい、と拾い上げて眺める。
「…これかくかくのじゃないか?」
「キュウ!キュウン!!」
「ああ、だよな。こんな趣味の悪いマスキッパのストラップつけてるようなやつかくかくぐらいしかいない」
あの泣き虫の友達は何故かこの不細工な作りのストラップがお気に入りで、通学用のカバンにいつもぶら下げているのを俺は知っている。
落としたのに気がつかないなんて、余程急いでいたのだろうか。
俺はストラップをポケットにねじ込んだ。
------------
セミの声が聞こえない夏というのは日本生まれ日本育ちだった私にとって奇妙だ。
別の地方にいけばセミに似たポケモンであるテッカニンが生息しているから、夏らしい合唱が聞けるのかもしれないが、残念ながらシンオウにはテッカニンはいない。
コロボーシも音色を奏でるけれど、彼らは木琴のような音を出すので、夏らしさとは程遠い。嫌いではないけれど。
私は222番道路から脇にそれた森の中を歩いていた。
枝いっぱいに繁った葉が作る影、生い茂る名も知らぬ草花。流れる小川の音。むせ返るような夏の匂い。
この空気は、日本と変わらない。息を肺いっぱいに吸い込めば体温と同じような温度が体の中に入ってくる。生ぬるい。
まだまだ蒸し暑いが、木々の合間を縫うように吹く風はなかなか心地よく、じっとりと肌に張り付く髪の毛の上を走って行く。
「…私の、気のせいだといいんだけど」
この森を通るなら、まずこの道だろう。地元のポケモントレーナーがよく歩く林道を西北に向かって歩く。
多くのトレーナーによって踏みしめられた道は、舗装こそされてないものの歩きやすく整っている。
途中旅のトレーナーに道を聞かれたので、この先がナギサシティで合っている。と答えた。逆に私は、同じ年くらいの男の子を見かけなかったか?と聞いたが見ていないと言われた。
そこから更に森の奥に入ってまた進む。ここらへんはよくオーバとデンジと3人で遊んだのでわかる道だ。大丈夫大丈夫。
「なんか、甘ったるい匂いがする…」
10分ほど歩いたろうか。
風にのって、花のような蜜のような。酸味を含んだ甘ったるい香りが森の奥から香ってくる。
不自然なほどに甘い匂い。
べちょ。
「ひぇ!?何か踏んだ!?」
なに!?何か粘着性があるんですけど!?
恐る恐る足を上げると、黄色い粘液が糸を引いていた。ぬるりと光る光沢。うわ、気持ち悪い…。
「…なんだこれ……み、水飴?いや…蜂蜜…?」
靴底を裏返してみれば、べったりとくっついた甘い香りの正体。
樹液と花を煮詰めて作ったような、いろんな香りがブレンドされたような不思議な匂い。直に嗅いでしまったので、ツンとしたかなり強烈な刺激がダイレクトに鼻にきて、むせた。
昆虫が寄ってきそうな、そういう類の匂いを10倍ぐらいにしたみたいな。
「これ…もしかして『あまいミツ』かな?ええ〜…思ったより匂いが濃い!むしろ、くさい!」
『あまいミツ』はゲーム上では『甘い香りのする木』というポイントに塗っておくと野生の珍しいポケモンが現れるというアイテムだ。
しかし夏の暑さと相まって、その甘い香りは激烈に臭気を増していた。
このアイテム、実際こんな匂いするんだ…。もっといい匂いだと思ってた…。ゲームの時とギャップあるなあ…ちょっとショック。
ショックと言えばお気に入りの靴を蜜まみれにしたのもショックだが、「こんなカブトムシ採るような方法でポケモン現れるんだ…」と子供心に衝撃的だった記憶も一緒に甦る。
ポケモンってもうちょっと賢いと思っていたのだが。
実際この世界に来てみて、やっぱり賢い!と思うことは何回もある。それだけに、こんな古典的な罠に引っかかるポケモンなんて、はたしているんだろうか。引っかかるとしたらかなり食い意地が張っているか、腹ペコかに違いない。
よく見るとこの蜜は奥へ奥へと誘うように塗られている。塗ってある箇所はどれも高さが低いため、大人が塗ったのではなさそう。
とすると…。あのガキ大将達が森の木に塗ってポケモンをおびき寄せている可能性が出てくる。
「これだから素人は…塗るなら森の奥じゃなくて森の手前だろ常考!」
伊達に昔は虫取り少年ならぬ、虫取りのかくかくと言われた私ではない。はい、夏休みの自由研究は大体昆虫採集だったとも!
面倒だったとか、それ以外何も考えつかなかったとかそういう訳じゃないから!
風の流れを考えて、風上から風下に向かって塗る。とかちゃんと研究してレポートにもしたんだから。
バナナと砂糖とドライイースト、そして焼酎を入れて発酵させて、夜の間に木に塗っておくと次の日の早朝には…。
って私の田舎育ちの知識は今はどうでもいい。先に進もう。
私は蜜が塗ってある木を目印に、注意深く森の奥へと進み始めた。
その時、
「うわあああああああああ!!!!!!」
「!?」
突然の叫び声に、私は殆ど瞬間的に走り出していた。
走って、走って。途中倒れている幹を超えて、どんどん走る。
進むたびに甘い刺激臭は強くなって行く。どんだけ塗ってんだ!塗りすぎだ!バカやろー!!
「ルーちゃん!!『たたきつける』!!」
「ルッリーー!!!!!」
「ギュアアア!!?」
ルリリの尻尾が野生ポケモンに直撃し、そのポケモンは動きを止めた。間一髪だ。
尻餅をついているガキ大将たち。その脇で倒れているビッパとコロボーシ。
コロボーシは完全に戦闘不能。ビッパはギリギリ踏みとどまっている。
「泣き虫かくかく!!?なんでお前が…」
「何してんの!いまのうちに早く逃げなさ………デカい…」
「ギュアアッ、キシッキシッ」
そのポケモンの攻撃がガキ大将達に当たる寸前で止めた事には何ら後悔はないが、勢いよく間に割って入った事は後悔した。
ツルリとした青黒い光沢は夏の森林にとってもよく映える。
私の背丈を軽く超える大きな体には、左右にいろんなものを薙ぎ倒せそうな腕が生えている。
どっしりとした足腰で力強く大地に立っているその様はまるで相撲取りのよう。
そしてキョロッとした意外と可愛い黄色の瞳の間から伸びる、一本の立派な角。
「うわー…ヘラクロス…でっかー…」
「お前こそ呆けてる場合じゃねえよ!!のんびり屋さんかお前は!!!」
「なんなの!?その台詞流行ってるの!?」
「キシキシッ…ギュアアアーーー!!」
「きたぞ泣き虫!?」
「ルーちゃーーん!!バブルこうせええええんんん!!!そして逃げる!!」
▼ あ! やせいの ヘラクロス が とびだしてきた!
▼かくかく は どうする?
たたかう バッグ
ポケモン ▶︎にげる
▼ かくかく と ガキだいしょうたち は にげだした!
「どうしましたか?お客様」
「いえ、すいません。あとどくけしとまひなおしも3つずつ下さい」
父さんから頼まれていた買い物をしていた最中。
今、かくかくが店の前を全速力で駆けていったような。
「今、見たかコリンク?」
「キュウン?」
買い物袋を持って友人が走って行ったと思われる方向を見やるが、すでに人影はなく、街路樹がさざめいているだけだった。
気のせいだったろうか。
首を傾げながら歩みを進めた時、道の途中に何かが落ちているのに気がついた。
ボールチェーンが外れた、小さなぬいぐるみのストラップ。
ひょい、と拾い上げて眺める。
「…これかくかくのじゃないか?」
「キュウ!キュウン!!」
「ああ、だよな。こんな趣味の悪いマスキッパのストラップつけてるようなやつかくかくぐらいしかいない」
あの泣き虫の友達は何故かこの不細工な作りのストラップがお気に入りで、通学用のカバンにいつもぶら下げているのを俺は知っている。
落としたのに気がつかないなんて、余程急いでいたのだろうか。
俺はストラップをポケットにねじ込んだ。
------------
セミの声が聞こえない夏というのは日本生まれ日本育ちだった私にとって奇妙だ。
別の地方にいけばセミに似たポケモンであるテッカニンが生息しているから、夏らしい合唱が聞けるのかもしれないが、残念ながらシンオウにはテッカニンはいない。
コロボーシも音色を奏でるけれど、彼らは木琴のような音を出すので、夏らしさとは程遠い。嫌いではないけれど。
私は222番道路から脇にそれた森の中を歩いていた。
枝いっぱいに繁った葉が作る影、生い茂る名も知らぬ草花。流れる小川の音。むせ返るような夏の匂い。
この空気は、日本と変わらない。息を肺いっぱいに吸い込めば体温と同じような温度が体の中に入ってくる。生ぬるい。
まだまだ蒸し暑いが、木々の合間を縫うように吹く風はなかなか心地よく、じっとりと肌に張り付く髪の毛の上を走って行く。
「…私の、気のせいだといいんだけど」
この森を通るなら、まずこの道だろう。地元のポケモントレーナーがよく歩く林道を西北に向かって歩く。
多くのトレーナーによって踏みしめられた道は、舗装こそされてないものの歩きやすく整っている。
途中旅のトレーナーに道を聞かれたので、この先がナギサシティで合っている。と答えた。逆に私は、同じ年くらいの男の子を見かけなかったか?と聞いたが見ていないと言われた。
そこから更に森の奥に入ってまた進む。ここらへんはよくオーバとデンジと3人で遊んだのでわかる道だ。大丈夫大丈夫。
「なんか、甘ったるい匂いがする…」
10分ほど歩いたろうか。
風にのって、花のような蜜のような。酸味を含んだ甘ったるい香りが森の奥から香ってくる。
不自然なほどに甘い匂い。
べちょ。
「ひぇ!?何か踏んだ!?」
なに!?何か粘着性があるんですけど!?
恐る恐る足を上げると、黄色い粘液が糸を引いていた。ぬるりと光る光沢。うわ、気持ち悪い…。
「…なんだこれ……み、水飴?いや…蜂蜜…?」
靴底を裏返してみれば、べったりとくっついた甘い香りの正体。
樹液と花を煮詰めて作ったような、いろんな香りがブレンドされたような不思議な匂い。直に嗅いでしまったので、ツンとしたかなり強烈な刺激がダイレクトに鼻にきて、むせた。
昆虫が寄ってきそうな、そういう類の匂いを10倍ぐらいにしたみたいな。
「これ…もしかして『あまいミツ』かな?ええ〜…思ったより匂いが濃い!むしろ、くさい!」
『あまいミツ』はゲーム上では『甘い香りのする木』というポイントに塗っておくと野生の珍しいポケモンが現れるというアイテムだ。
しかし夏の暑さと相まって、その甘い香りは激烈に臭気を増していた。
このアイテム、実際こんな匂いするんだ…。もっといい匂いだと思ってた…。ゲームの時とギャップあるなあ…ちょっとショック。
ショックと言えばお気に入りの靴を蜜まみれにしたのもショックだが、「こんなカブトムシ採るような方法でポケモン現れるんだ…」と子供心に衝撃的だった記憶も一緒に甦る。
ポケモンってもうちょっと賢いと思っていたのだが。
実際この世界に来てみて、やっぱり賢い!と思うことは何回もある。それだけに、こんな古典的な罠に引っかかるポケモンなんて、はたしているんだろうか。引っかかるとしたらかなり食い意地が張っているか、腹ペコかに違いない。
よく見るとこの蜜は奥へ奥へと誘うように塗られている。塗ってある箇所はどれも高さが低いため、大人が塗ったのではなさそう。
とすると…。あのガキ大将達が森の木に塗ってポケモンをおびき寄せている可能性が出てくる。
「これだから素人は…塗るなら森の奥じゃなくて森の手前だろ常考!」
伊達に昔は虫取り少年ならぬ、虫取りのかくかくと言われた私ではない。はい、夏休みの自由研究は大体昆虫採集だったとも!
面倒だったとか、それ以外何も考えつかなかったとかそういう訳じゃないから!
風の流れを考えて、風上から風下に向かって塗る。とかちゃんと研究してレポートにもしたんだから。
バナナと砂糖とドライイースト、そして焼酎を入れて発酵させて、夜の間に木に塗っておくと次の日の早朝には…。
って私の田舎育ちの知識は今はどうでもいい。先に進もう。
私は蜜が塗ってある木を目印に、注意深く森の奥へと進み始めた。
その時、
「うわあああああああああ!!!!!!」
「!?」
突然の叫び声に、私は殆ど瞬間的に走り出していた。
走って、走って。途中倒れている幹を超えて、どんどん走る。
進むたびに甘い刺激臭は強くなって行く。どんだけ塗ってんだ!塗りすぎだ!バカやろー!!
「ルーちゃん!!『たたきつける』!!」
「ルッリーー!!!!!」
「ギュアアア!!?」
ルリリの尻尾が野生ポケモンに直撃し、そのポケモンは動きを止めた。間一髪だ。
尻餅をついているガキ大将たち。その脇で倒れているビッパとコロボーシ。
コロボーシは完全に戦闘不能。ビッパはギリギリ踏みとどまっている。
「泣き虫かくかく!!?なんでお前が…」
「何してんの!いまのうちに早く逃げなさ………デカい…」
「ギュアアッ、キシッキシッ」
そのポケモンの攻撃がガキ大将達に当たる寸前で止めた事には何ら後悔はないが、勢いよく間に割って入った事は後悔した。
ツルリとした青黒い光沢は夏の森林にとってもよく映える。
私の背丈を軽く超える大きな体には、左右にいろんなものを薙ぎ倒せそうな腕が生えている。
どっしりとした足腰で力強く大地に立っているその様はまるで相撲取りのよう。
そしてキョロッとした意外と可愛い黄色の瞳の間から伸びる、一本の立派な角。
「うわー…ヘラクロス…でっかー…」
「お前こそ呆けてる場合じゃねえよ!!のんびり屋さんかお前は!!!」
「なんなの!?その台詞流行ってるの!?」
「キシキシッ…ギュアアアーーー!!」
「きたぞ泣き虫!?」
「ルーちゃーーん!!バブルこうせええええんんん!!!そして逃げる!!」
夏の格闘1番勝負!ファイッ!
▼ あ! やせいの ヘラクロス が とびだしてきた!
▼かくかく は どうする?
たたかう バッグ
ポケモン ▶︎にげる
▼ かくかく と ガキだいしょうたち は にげだした!