第一章<出会い編>
名前変換
全て話終わった後の庵は静寂そのものだった。
「・・・そうか。そのような経緯であったか」
学園長の声に時の流れが再開する。
ほへとの視線は畳に据えられたままだった。
「それで貴女の持ち物に苦無が含まれていたんですね」
一連の話を聞いていた土井半助が口を開く。
ほへとがこの学園に来たときに身に着けていたものは全て押収されている。
教師である土井半助が知っていてもおかしくはなかった。
「はい。・・・やはり私のことを忍者だと勘繰ってらっしゃったんですね」
「それはそうでしょう。一般人はまず持たんですからな」
山田伝蔵も頷く。しかしほへとの話に納得のいっている様子であった。
「これで、私の話は全てです学園長先生」
「そうか・・・」
またも沈黙が空間を支配する。
(十年前に卒業した先輩・・・)
伊作と小平太はほへとの話に出てきた男、忍術学園の卒業生について思いを巡らせていた。
妹とはいえ、一般人に忍びの知識を教えることは、忍者の世界では決して是と言えない。
自分自身に降りかかるそれ相応の危険と覚悟を持って妹であるほへとに教えたに違いない。
実際その知識がなければほへとは今この世にいなかったのだから。
「十年前、か。記憶違いでなければお主の兄はやはりいろはに正成で相違ないようじゃな」
「…覚えておいでですか。はい、確かに私の兄の名はいろはに正成です」
「懐かしい名じゃ・・・。当時の卒業生のなかでも群を抜いて優秀な忍びじゃった・・・」
大層重々しい声で学園長は言った。
「正成は息災にしているか」
「いえ、分かりません。兄とはもう五年ほど会っていませんゆえ」
「やはり・・・」
大川平次渦正は自身の懐から一通の手紙を取り出した。
透の目の前に置かれたそれには『ほへと殿』と見慣れた文字で書かれていた。
「これは・・・」
「うむ。お主の兄がお主に当てた手紙じゃ。前にわしが正成から預かった」
ほへとは震える手で手紙を受け取り、封を開ける。
後ろで見ていた全員は、彼女が即座に息を呑むのが分かった。
「あやつはこう言っておった」
”妹がこの学園に来たとき、それは私が死んだときでしょう”
「っ・・・・・・」
ほへとの息を飲む声が部屋中に響いた。
決して声をあげることもなく、ただ体を震わせて、目の前の文字に兄の面影を見ている。
その姿に、伊作と小平太は目の前の娘に駆け寄りたい思いにかられた。
学園に行け。ということは、もうこの娘には身寄りの当てがないことは、想像に難くなかった。
村が焼かれたこと以前に、孤児。
女一人で生きていくには、この時代は良い時代とは決して言えなかった。
「・・・そうか。そのような経緯であったか」
学園長の声に時の流れが再開する。
ほへとの視線は畳に据えられたままだった。
「それで貴女の持ち物に苦無が含まれていたんですね」
一連の話を聞いていた土井半助が口を開く。
ほへとがこの学園に来たときに身に着けていたものは全て押収されている。
教師である土井半助が知っていてもおかしくはなかった。
「はい。・・・やはり私のことを忍者だと勘繰ってらっしゃったんですね」
「それはそうでしょう。一般人はまず持たんですからな」
山田伝蔵も頷く。しかしほへとの話に納得のいっている様子であった。
「これで、私の話は全てです学園長先生」
「そうか・・・」
またも沈黙が空間を支配する。
(十年前に卒業した先輩・・・)
伊作と小平太はほへとの話に出てきた男、忍術学園の卒業生について思いを巡らせていた。
妹とはいえ、一般人に忍びの知識を教えることは、忍者の世界では決して是と言えない。
自分自身に降りかかるそれ相応の危険と覚悟を持って妹であるほへとに教えたに違いない。
実際その知識がなければほへとは今この世にいなかったのだから。
「十年前、か。記憶違いでなければお主の兄はやはりいろはに正成で相違ないようじゃな」
「…覚えておいでですか。はい、確かに私の兄の名はいろはに正成です」
「懐かしい名じゃ・・・。当時の卒業生のなかでも群を抜いて優秀な忍びじゃった・・・」
大層重々しい声で学園長は言った。
「正成は息災にしているか」
「いえ、分かりません。兄とはもう五年ほど会っていませんゆえ」
「やはり・・・」
大川平次渦正は自身の懐から一通の手紙を取り出した。
透の目の前に置かれたそれには『ほへと殿』と見慣れた文字で書かれていた。
「これは・・・」
「うむ。お主の兄がお主に当てた手紙じゃ。前にわしが正成から預かった」
ほへとは震える手で手紙を受け取り、封を開ける。
後ろで見ていた全員は、彼女が即座に息を呑むのが分かった。
「あやつはこう言っておった」
”妹がこの学園に来たとき、それは私が死んだときでしょう”
「っ・・・・・・」
ほへとの息を飲む声が部屋中に響いた。
決して声をあげることもなく、ただ体を震わせて、目の前の文字に兄の面影を見ている。
その姿に、伊作と小平太は目の前の娘に駆け寄りたい思いにかられた。
学園に行け。ということは、もうこの娘には身寄りの当てがないことは、想像に難くなかった。
村が焼かれたこと以前に、孤児。
女一人で生きていくには、この時代は良い時代とは決して言えなかった。