第二章<日常編>
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番外:僕と食堂のお姉さん
「お帰りなさい金吾くん。お疲れ様。えーと・・・大丈夫・・・じゃあないみたいね」
「はは・・・。委員会で・・・。はい・・・」
委員会から帰って早々に風呂に入った金吾はふらふらしながらやっとの思いで食堂にやってきた。
いつものことだが、酷く疲れてしまって髪の毛を拭くのも面倒くさい。
そんな金吾を見かねたほへとは、ちょいちょいと手招きすると金吾を椅子に座らせて優しく手ぬぐいで頭を拭いた。
「ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうよ。それにお手伝いなんてあってないようなものだし、部屋で寝てた方が良かったんじゃない?喜三太くんも来るし」
「寝たらせっかくおばちゃんとほへとさんが作ってくれたご飯食べ損なっちゃうんで・・・」
そう金吾が言うと、ありがとう。と嬉しそうにほへとは顔を綻ばせた。
優しく頭を撫でるような手つきは金吾の疲労感を和らげていく。
あったかくて、優しくて。何だか母上みたい。
きもちいいなあ・・・。
金吾はしばらく目を閉じながら、ほへとが今日の献立を言う声を聞いていた。(その間も手はゆっくりと頭上を往復する)
このまま眠ってしまいたいなあ・・・。そう思ったとき、「はにゃ~、金吾いいなあ。僕もほへとさんに髪の毛拭いて貰いたい~」という喜三太の声で我に返った。どうやら少し意識が飛んでいたらしい。
「あまり無理しないでね金吾くん。寝たかったら寝ていいのよ?」
ぽんぽん、と一定の間隔を置いて背中を優しく叩く手がまた気持ちよくて、金吾はまた眠りそうになってしまったが、「金吾、なんだか小さい子みたい」という喜三太の言葉に完全に目が覚めてしまった。
「小さい子って何だよ。・・・ほへとさん、仕事は何したらいいですか?」
僕は無理なんてしてません。
そう金吾が言うと、くすくすと笑って、「じゃあ二人は机を綺麗に拭いて下さい」と言って土間の方へ行ってしまった。
少しムキになってしまった。ちょっと子供っぽかったかなと金吾は思ったが、ここで喜三太に文句を言ってもまた子供っぽいだろうかと思い、結局無言で台を拭き始めた。
***
「ねえ金吾、ほへとさんて利吉さんと結婚するんだよね?」
おばちゃんとほへとさんがいる土間から一番遠い机を拭いていたとき、こっそりとした声で喜三太が言った。
聞こえてやしないかとそっと土間の方を金吾は見やったが、どうやら聞こえてはいないようだった。
「違うよ喜三太。お見合いするって言ったんだよ」
「でもそれってほとんど同じじゃないの?」
「違うと思うよ。・・・多分」
喜三太の言葉に何だかちょっといらっとした金吾だったが、何で自分がこんな風に思うのかはよく分からなかった。
「何でいきなりそんな話なんか」
「・・・あのね、今日ほへとさんが食満先輩と一緒に用具委員会に来たんだけど」
「食満先輩と?」
「そう。い~っぱい紙の束抱えてて、食満先輩の方が多かったんだけど、ほへとさんも一緒に持っててね。それで凄く仲良さそうにしてて、何かいいなあ~って思っちゃったの」
ナメクジさんも見て貰ったんだ~。それで、しんべヱは今度ぼた餅作って貰う約束してて、平太は今度ろ組と一緒に肝試ししないかってほへとさんに言ってたんだけど、怖いなあってほへとさん言ってね。僕としんべヱが一緒に行ってあげるって言ったら、その時はお願いね。って約束したんだ。そしたら富松先輩には、ほへとさん困らせるな。って怒られちゃったんだけど。
にこにこしながら話す喜三太。
多分喜三太が言いたいのは、食満先輩とほへとさんがお似合いなんじゃないかっていうことと、ほへとさんと用具委員会は仲いいんだよっていうちょっとした自慢なんだろうな。というのが金吾にはすぐに分かった。
何だか釈然としない。
「・・・体育委員会とだって仲いいよ」
「え?そうなの?でも体育委員会って学園の中に全然いないのに」
「む・・・。それでも仲いいんだよ」
金吾は喜三太の言葉にむっとしながら言葉を続けた。
「食満先輩より、うちの七松先輩の方がほへとさんと仲いいよ。だって七松先輩はほへとさんのこと『ほへとちゃん』て言うくらいだもん」
ちょっと自慢するように言ったら、「それって七松先輩が勝手に呼んでるだけじゃない?」と抉るような言葉が喜三太から返ってきた。金吾はだんだんいらいらしてくる。
疲れが堪ってることもあったが、こういう風に自分のところの委員会を引き合いに出されたら対抗心が出てくるのはしょうがなかった。
言ってるうちに二人の会話はだんだん言い争いになっていった。
「絶対食満先輩の方がほへとさんと仲いいよ!!」
「七松先輩の方が絶対にほへとさんと仲いい!!」
「体育委員とバレーなんかしたらほへとさん大怪我しちゃうから絶対用具委員会!!」
「用具委員は力仕事ばっかりでほへとさん参っちゃうから絶対に体育委員会!!」
むううううう。
だんだん自分達でもよくわからないことになってきたとき、スコーン!とおばちゃんのしゃもじが二人の頭を叩いた。
「何いつまでもくだらないことで喧嘩してるんだい!机拭きは終わったのかい!?」
金吾と喜三太は叩かれた頭を抑えながら、はっとほへとを見る。
土間の方には壁に手をついて必死に体を震わせているほへとの姿が見えた。
二人は必死で残りの机を拭くと急いでほへとの側に駆け寄った。
「ほへとさんは食満先輩の方が好きですよね!?」
「違うよ!七松先輩の方ですよね!?」
二人の問いかけに、ほへとはもう無理。といった様子で声をあげて笑った後、金吾と喜三太の目線と同じ高さまでしゃがんで、にっこりと微笑んだ。
「もちろん。私は留三郎くんも小平太くんも、用具委員会のみんなも、体育委員会のみんなも、大好きですよ」
どっちかなんて決められないなあ。みんな同じくらい好きだもの。
そう言って二人の頭を撫でた。途端、嘘のように二人の対抗心がしゅんとしぼんだ。
「金吾くんも、喜三太くんももちろん好きだよ」
「・・・利吉さんも?」
「他の委員会の先輩方もですか?」
喜三太と金吾の言葉にほへとはまたふっ、と笑みをこぼした。
「・・・利吉さんは分からないけど、学園にいる人はみんな好き。おばちゃんも好きだし、先生方だって好き。くノ一教室のみんなも好きだし。・・・だからそんなことで喧嘩なんてしないの」
そう言ってまた笑って二人の頭をゆっくり撫でた。
(やっぱり、母上みたいだなあ・・・)
ふんわりした優しい匂いと手の温度に、金吾は恥ずかしそうに目を細めた。
何ていう名なのか知らない、その柔らかい気持ちは金吾の心をくすぐったくさせる。
「ほへとさんて、母上みたい~。暖かいし、優しいし、いい匂いするし。僕もほへとさん大好き」
はにゃ~。
と金吾が考えていたことと同じことを臆面もなく言ってのけた喜三太。
照れくささが先に立って同じことを思っているのに、金吾は言いたいのを言えないでいた。
(僕だって、ほへとさんのこと大好きだし、優しいし、いい匂いするって思ってるのにな・・・)
金吾はその日寝るまでほへとのことをずっと考えていた。
やっぱりほへとさん、利吉さんのお嫁さんになっちゃうのかなあ・・・。
何だか嫌だなあ・・・。何か遠くに行っちゃうみたいで・・・・・・。
ほへとさん・・・夏休みどうするんだろ・・・。学園に残るのかな・・・。一緒に相模の国に行ってくれないかなあ・・・。
あ・・・でもそう・・・すると・・・歩くの、大変・・・ じゃあ・・・ いっしょに・・・戸 部、先・・・せいの家、に・・・・ ・・・か、・・・・・な・・・。
金吾はほへとに言いたいことを夢の中では言えたものの、朝起きたら何の夢を見たかはすっかり忘れてしまっていた。
ただ寝覚めはやはりナメクジが顔に張り付いていた。
「お帰りなさい金吾くん。お疲れ様。えーと・・・大丈夫・・・じゃあないみたいね」
「はは・・・。委員会で・・・。はい・・・」
委員会から帰って早々に風呂に入った金吾はふらふらしながらやっとの思いで食堂にやってきた。
いつものことだが、酷く疲れてしまって髪の毛を拭くのも面倒くさい。
そんな金吾を見かねたほへとは、ちょいちょいと手招きすると金吾を椅子に座らせて優しく手ぬぐいで頭を拭いた。
「ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうよ。それにお手伝いなんてあってないようなものだし、部屋で寝てた方が良かったんじゃない?喜三太くんも来るし」
「寝たらせっかくおばちゃんとほへとさんが作ってくれたご飯食べ損なっちゃうんで・・・」
そう金吾が言うと、ありがとう。と嬉しそうにほへとは顔を綻ばせた。
優しく頭を撫でるような手つきは金吾の疲労感を和らげていく。
あったかくて、優しくて。何だか母上みたい。
きもちいいなあ・・・。
金吾はしばらく目を閉じながら、ほへとが今日の献立を言う声を聞いていた。(その間も手はゆっくりと頭上を往復する)
このまま眠ってしまいたいなあ・・・。そう思ったとき、「はにゃ~、金吾いいなあ。僕もほへとさんに髪の毛拭いて貰いたい~」という喜三太の声で我に返った。どうやら少し意識が飛んでいたらしい。
「あまり無理しないでね金吾くん。寝たかったら寝ていいのよ?」
ぽんぽん、と一定の間隔を置いて背中を優しく叩く手がまた気持ちよくて、金吾はまた眠りそうになってしまったが、「金吾、なんだか小さい子みたい」という喜三太の言葉に完全に目が覚めてしまった。
「小さい子って何だよ。・・・ほへとさん、仕事は何したらいいですか?」
僕は無理なんてしてません。
そう金吾が言うと、くすくすと笑って、「じゃあ二人は机を綺麗に拭いて下さい」と言って土間の方へ行ってしまった。
少しムキになってしまった。ちょっと子供っぽかったかなと金吾は思ったが、ここで喜三太に文句を言ってもまた子供っぽいだろうかと思い、結局無言で台を拭き始めた。
***
「ねえ金吾、ほへとさんて利吉さんと結婚するんだよね?」
おばちゃんとほへとさんがいる土間から一番遠い机を拭いていたとき、こっそりとした声で喜三太が言った。
聞こえてやしないかとそっと土間の方を金吾は見やったが、どうやら聞こえてはいないようだった。
「違うよ喜三太。お見合いするって言ったんだよ」
「でもそれってほとんど同じじゃないの?」
「違うと思うよ。・・・多分」
喜三太の言葉に何だかちょっといらっとした金吾だったが、何で自分がこんな風に思うのかはよく分からなかった。
「何でいきなりそんな話なんか」
「・・・あのね、今日ほへとさんが食満先輩と一緒に用具委員会に来たんだけど」
「食満先輩と?」
「そう。い~っぱい紙の束抱えてて、食満先輩の方が多かったんだけど、ほへとさんも一緒に持っててね。それで凄く仲良さそうにしてて、何かいいなあ~って思っちゃったの」
ナメクジさんも見て貰ったんだ~。それで、しんべヱは今度ぼた餅作って貰う約束してて、平太は今度ろ組と一緒に肝試ししないかってほへとさんに言ってたんだけど、怖いなあってほへとさん言ってね。僕としんべヱが一緒に行ってあげるって言ったら、その時はお願いね。って約束したんだ。そしたら富松先輩には、ほへとさん困らせるな。って怒られちゃったんだけど。
にこにこしながら話す喜三太。
多分喜三太が言いたいのは、食満先輩とほへとさんがお似合いなんじゃないかっていうことと、ほへとさんと用具委員会は仲いいんだよっていうちょっとした自慢なんだろうな。というのが金吾にはすぐに分かった。
何だか釈然としない。
「・・・体育委員会とだって仲いいよ」
「え?そうなの?でも体育委員会って学園の中に全然いないのに」
「む・・・。それでも仲いいんだよ」
金吾は喜三太の言葉にむっとしながら言葉を続けた。
「食満先輩より、うちの七松先輩の方がほへとさんと仲いいよ。だって七松先輩はほへとさんのこと『ほへとちゃん』て言うくらいだもん」
ちょっと自慢するように言ったら、「それって七松先輩が勝手に呼んでるだけじゃない?」と抉るような言葉が喜三太から返ってきた。金吾はだんだんいらいらしてくる。
疲れが堪ってることもあったが、こういう風に自分のところの委員会を引き合いに出されたら対抗心が出てくるのはしょうがなかった。
言ってるうちに二人の会話はだんだん言い争いになっていった。
「絶対食満先輩の方がほへとさんと仲いいよ!!」
「七松先輩の方が絶対にほへとさんと仲いい!!」
「体育委員とバレーなんかしたらほへとさん大怪我しちゃうから絶対用具委員会!!」
「用具委員は力仕事ばっかりでほへとさん参っちゃうから絶対に体育委員会!!」
むううううう。
だんだん自分達でもよくわからないことになってきたとき、スコーン!とおばちゃんのしゃもじが二人の頭を叩いた。
「何いつまでもくだらないことで喧嘩してるんだい!机拭きは終わったのかい!?」
金吾と喜三太は叩かれた頭を抑えながら、はっとほへとを見る。
土間の方には壁に手をついて必死に体を震わせているほへとの姿が見えた。
二人は必死で残りの机を拭くと急いでほへとの側に駆け寄った。
「ほへとさんは食満先輩の方が好きですよね!?」
「違うよ!七松先輩の方ですよね!?」
二人の問いかけに、ほへとはもう無理。といった様子で声をあげて笑った後、金吾と喜三太の目線と同じ高さまでしゃがんで、にっこりと微笑んだ。
「もちろん。私は留三郎くんも小平太くんも、用具委員会のみんなも、体育委員会のみんなも、大好きですよ」
どっちかなんて決められないなあ。みんな同じくらい好きだもの。
そう言って二人の頭を撫でた。途端、嘘のように二人の対抗心がしゅんとしぼんだ。
「金吾くんも、喜三太くんももちろん好きだよ」
「・・・利吉さんも?」
「他の委員会の先輩方もですか?」
喜三太と金吾の言葉にほへとはまたふっ、と笑みをこぼした。
「・・・利吉さんは分からないけど、学園にいる人はみんな好き。おばちゃんも好きだし、先生方だって好き。くノ一教室のみんなも好きだし。・・・だからそんなことで喧嘩なんてしないの」
そう言ってまた笑って二人の頭をゆっくり撫でた。
(やっぱり、母上みたいだなあ・・・)
ふんわりした優しい匂いと手の温度に、金吾は恥ずかしそうに目を細めた。
何ていう名なのか知らない、その柔らかい気持ちは金吾の心をくすぐったくさせる。
「ほへとさんて、母上みたい~。暖かいし、優しいし、いい匂いするし。僕もほへとさん大好き」
はにゃ~。
と金吾が考えていたことと同じことを臆面もなく言ってのけた喜三太。
照れくささが先に立って同じことを思っているのに、金吾は言いたいのを言えないでいた。
(僕だって、ほへとさんのこと大好きだし、優しいし、いい匂いするって思ってるのにな・・・)
金吾はその日寝るまでほへとのことをずっと考えていた。
やっぱりほへとさん、利吉さんのお嫁さんになっちゃうのかなあ・・・。
何だか嫌だなあ・・・。何か遠くに行っちゃうみたいで・・・・・・。
ほへとさん・・・夏休みどうするんだろ・・・。学園に残るのかな・・・。一緒に相模の国に行ってくれないかなあ・・・。
あ・・・でもそう・・・すると・・・歩くの、大変・・・ じゃあ・・・ いっしょに・・・戸 部、先・・・せいの家、に・・・・ ・・・か、・・・・・な・・・。
金吾はほへとに言いたいことを夢の中では言えたものの、朝起きたら何の夢を見たかはすっかり忘れてしまっていた。
ただ寝覚めはやはりナメクジが顔に張り付いていた。