第二章<日常編>
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「無理しないでよ?」
「大丈夫だ。二度同じ手は食わん」
「・・・そうじゃなくて」
「分かってる。全くお前は心配性だな」
「そう?分かってるならいいんだけどさ・・・」
「うっし!世話になった伊作!」
それは、小平太が井戸でほへとを見つけるほんの数分前のこと。
***
ほとんど回復したと言っていい程に元気になった小平太は勢い良く医務室の戸を開けた。
なんとなしに視線はほへとがいるであろう方向を向く。きっと見合いをするなら客室用の長屋だ。
しかし、利吉が来てからかなりの時間が経過していた。すでに利吉はこの学園内にいないであろう。もし乗り込んで行ったとしても室内はもぬけの殻だということは目に見えていた。
(いるなら多分食堂かな。それか掃除の手伝い・・・、事務室、くノ一教室の長屋・・・。長屋だったら面倒だな・・・)
小平太はガシガシと頭を掻いてとりあえず廊下に一歩足を踏み出した。
まだ何となく立ち眩みがするような気がした。
顔色がいいかと聞かれたら、今の小平太のそれは余りいい顔色とは言えない。(いつもの様子に比べたらだ)
それでも、小平太は布団に横になるなんて事をする気には到底なれなかった。
「やっぱりちょっと様子見てくる」
「小平太」
医務室内で片付けをしていた伊作が小平太の背中に改まって声をかけた。
「なんだ?伊作」
「僕、結構小平太の事応援してるんだよ」
「そうなのか」
「うん。もちろん、心配もしてるよ」
このまま行くと、小平太は駄目になってしまうかもしれないもの。
最後の言葉をぐっと飲み込んで伊作は言った。
『実戦なら今頃死んでいる』 その言葉通り、この箱庭外での出来事であったなら、今目の前にいる友は今頃冷たくなっていたであろう事実に伊作は目を背けることが出来ずにいた。
小平太は足を一歩廊下に出したまま、視線だけ振り返った。
「そうか。・・・私は皆反対しているのだと思ってた。私はこういう性格だからな。あいつらにも騙されたし」
「そうだね。少なくとも文次郎は反対してる」
「はは!そうじゃなかったら槍が降るな」
からっと笑い飛ばした小平太の顔を見ながら、そうだよね。小平太も本当は気付いてるんだよね。と改めて伊作は思った。
小平太は、自ら弱点を作ってしまった。弱みを握られてしまった。
それは忍者の世界ではすぐさま死に直結する恐ろしいものであると、改めて思い知らされる。
それでも、
「悔いのないようにね」
「おう」
「お大事に」
決して、頑張れ。なんて言えないけれど。
悔いのないように。
小平太がいなくなった室内では、まだ苦々しい漢方薬の臭いがしていた。
(小平太は、多分これからもっと苦しくなると思う・・・)
伊作は、作りかけの丸薬を丸めながら、はあ。と溜め息を吐いた。
彼女を信じていないわけではないのに。心のどこかで疑わなければならないことを、彼は知ってしまったから。
「・・・辛いね」
決してこの身を、選んだ道を後悔せぬと。
皆で卒業すると、そう信じて。
忍びになると、そう決心して。
しかして、誰が言えようか。
求める心を、人を想う気持ちを、切り捨てられぬ情を、『諦めろ』と。
それを忍ぶのが忍びの道とはいえ、あまりに無体であると。
時に命を賭してやり抜く信念を。
時に親をも切り捨てる非情さを。
そして大切な人を守る刃となる優しさを。
この手に抱えて。
(・・・僕は何もしてあげられないけど)
また腹が痛くなったら苦い薬煎じて待ってるよ。
伊作は小平太のその愚直とも言える真っ直ぐさが少しだけ羨ましいと思った。
「大丈夫だ。二度同じ手は食わん」
「・・・そうじゃなくて」
「分かってる。全くお前は心配性だな」
「そう?分かってるならいいんだけどさ・・・」
「うっし!世話になった伊作!」
それは、小平太が井戸でほへとを見つけるほんの数分前のこと。
***
ほとんど回復したと言っていい程に元気になった小平太は勢い良く医務室の戸を開けた。
なんとなしに視線はほへとがいるであろう方向を向く。きっと見合いをするなら客室用の長屋だ。
しかし、利吉が来てからかなりの時間が経過していた。すでに利吉はこの学園内にいないであろう。もし乗り込んで行ったとしても室内はもぬけの殻だということは目に見えていた。
(いるなら多分食堂かな。それか掃除の手伝い・・・、事務室、くノ一教室の長屋・・・。長屋だったら面倒だな・・・)
小平太はガシガシと頭を掻いてとりあえず廊下に一歩足を踏み出した。
まだ何となく立ち眩みがするような気がした。
顔色がいいかと聞かれたら、今の小平太のそれは余りいい顔色とは言えない。(いつもの様子に比べたらだ)
それでも、小平太は布団に横になるなんて事をする気には到底なれなかった。
「やっぱりちょっと様子見てくる」
「小平太」
医務室内で片付けをしていた伊作が小平太の背中に改まって声をかけた。
「なんだ?伊作」
「僕、結構小平太の事応援してるんだよ」
「そうなのか」
「うん。もちろん、心配もしてるよ」
このまま行くと、小平太は駄目になってしまうかもしれないもの。
最後の言葉をぐっと飲み込んで伊作は言った。
『実戦なら今頃死んでいる』 その言葉通り、この箱庭外での出来事であったなら、今目の前にいる友は今頃冷たくなっていたであろう事実に伊作は目を背けることが出来ずにいた。
小平太は足を一歩廊下に出したまま、視線だけ振り返った。
「そうか。・・・私は皆反対しているのだと思ってた。私はこういう性格だからな。あいつらにも騙されたし」
「そうだね。少なくとも文次郎は反対してる」
「はは!そうじゃなかったら槍が降るな」
からっと笑い飛ばした小平太の顔を見ながら、そうだよね。小平太も本当は気付いてるんだよね。と改めて伊作は思った。
小平太は、自ら弱点を作ってしまった。弱みを握られてしまった。
それは忍者の世界ではすぐさま死に直結する恐ろしいものであると、改めて思い知らされる。
それでも、
「悔いのないようにね」
「おう」
「お大事に」
決して、頑張れ。なんて言えないけれど。
悔いのないように。
小平太がいなくなった室内では、まだ苦々しい漢方薬の臭いがしていた。
(小平太は、多分これからもっと苦しくなると思う・・・)
伊作は、作りかけの丸薬を丸めながら、はあ。と溜め息を吐いた。
彼女を信じていないわけではないのに。心のどこかで疑わなければならないことを、彼は知ってしまったから。
「・・・辛いね」
決してこの身を、選んだ道を後悔せぬと。
皆で卒業すると、そう信じて。
忍びになると、そう決心して。
しかして、誰が言えようか。
求める心を、人を想う気持ちを、切り捨てられぬ情を、『諦めろ』と。
それを忍ぶのが忍びの道とはいえ、あまりに無体であると。
時に命を賭してやり抜く信念を。
時に親をも切り捨てる非情さを。
そして大切な人を守る刃となる優しさを。
この手に抱えて。
(・・・僕は何もしてあげられないけど)
また腹が痛くなったら苦い薬煎じて待ってるよ。
伊作は小平太のその愚直とも言える真っ直ぐさが少しだけ羨ましいと思った。