第一章<出会い編>
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
よく彼女が死ななかったもんだな。と感心した自分がいた。
03
「伊作。遅かったな」
「留三郎」
食堂で夕食を受け取り、いつものように席に着く。
机にはすでに夕食を食べ始めている5人がいた。
「怪我人の具合どうなんだ?」
里芋を食べながら留三郎が伊作に声をかける。
忍術学園にやってきた怪我人のことはみんな知っている。彼女の素性こそみんな知らないものの、重傷の患者が医務室にいることはみんな知っていた。
「医務室から客室に動かせないのか?間違えて入ってしまいそうなんだが」
「うん。まだ絶対安静なんだよ。下手に動かすと傷に触るし。まだ安定しきってないから。新野先生にも絶対安静って言われたし」
彼女がいる医務室は、保健室の主である新野が処置をした後そのまま病室となっていた。
今は臨時の医務室が別場所に作られ、保健委員もそちらの方で別途対応をしている。
「伊作も大変だな。そんな素性の知れない女の世話なんか」
「別に苦労だとは思わないさ。それに彼女は大丈夫だと思うよ文次郎」
「どうだか」
潮江文次郎は鼻をならしながら言った。
「考えてもみろ。若い娘が森で一人血まみれで倒れてるなんてそうあるもんじゃねえだろ」
「え、彼女森の中にいたの?」
「なんだ伊作、知らなかったのか?なんでも裏々山の森に倒れてたそうだ」
世話をしてるくせに何も知らないんだな。と仙蔵に言われた。
怪我人にあれこれ聞くのも身体に障ると思ったし、何よりいろいろ忙しかったのだ。 治ってからいろいろ聞けばいい。未だ混乱している彼女を追い詰めるようなことは伊作はしたくなかった。
「山賊に襲われたんじゃないの?」
「いや、山賊に襲われたのなら尚更だ。女一人で山賊に出会ったら捕まって売っ払われるのが関の山だろ」
「無事なのが不思議なくらいだな」
いや、無事じゃないだろ。大怪我人だぞ。
と伊作は文次郎に冷静なつっこみを心の中で入れた。
「あの子なかなかの器量良しだったもんなあ。ちょっとしか顔見てないけど」
七松小平太が口を開いた。
もぐもぐと口を動かしながら話す小平太に、汚い・・・。と長次は制した。
「ちょっと待て。何でお前がその女の顔を知っているんだ」
「だって私が学園まで運んだんだもの」
文次郎の問いに堂々とした顔で小平太が答えた。
「乱太郎、きり丸、しんべヱの3人が見つけたって聞いたぞ?」
「ん?見つけたのはあいつらだけど、運んだのは私だ」
何だか混乱してきたが、話を整理するとこういうことらしい。
倒れていた経緯はよくわからないが、彼女を見つけた乱太郎、きり丸、しんべヱの3人はその場で急ごしらえの狼煙もどきをあげ救援を待ったらしい。
偶然、修行で近くにいた小平太がその狼煙とも言えない煙を見、山火事ではないかと駆けつけたというわけだ。何という幸運か。
「酷い血の量でさ。大袈裟に動かすと死にそうだったから、押さえ気味にいけいけどんどんで学園まで運んだ」
「いけいけ・・・どんどん・・・」
「そう、いけいけどんどん」
押さえ気味に。と言っていたが実際はどうだったかなんて分からない。
とりあえず、よく彼女がそれで死ななかったなと5人は思った。
「酷い量って、どれくらい酷かったんだ?」
食満の問いかけに小平太が答える。
「んー。よくわからん」
「わからない?」
「とにかく血まみれだったんだ。それで倒れてるから酷い怪我だと乱太郎達が勘違いして・・・」
「それでとにかくお前が学園まで運んだんだな」
「そういうことだ。まあ動けそうにないのは事実だったし」
そう言って小平太は味噌汁をすすった。
一連の話の流れに文次郎が渋い顔をする。
「そら見ろ。どう見たって厄介なことこの上ねえじゃねえか。胡散臭え。とっとと放り出しちまえばいいものを」
「文次郎お前な・・・!」
「事実だろ」
「伊作落ち着け」
食事中だぞ。と仙蔵が伊作を諌める。
気づくと下級生の視線が伊作に集まっていた。立ち上がりかけた身体を抑え椅子に座る。
「・・・確かに、怪しいかもしれないよ?でも怪我人は放っておけない」
「まあ、文次郎の言い分ももっともだし、伊作の言うことももっともだな」
「さすが保健委員長。お優しいことだな」
「文次郎が何と言おうと彼女の怪我が治るまではここにいて貰う」
そのまま伊作は夕飯を無言で食べきった。他の5人も微妙な雰囲気の中無言で食べた。
各々好奇心の度合いは違うが、実際は全員が全員彼女のことが気になっている。
(文次郎の言うことはもっともだ。・・・でも、僕は彼女が危険な人だとはどうしても思えない…)
全ては彼女の怪我が治ってからだ。憶測はときになんの利益も生まない。
物語の歯車は、まだ軋んだ音を立てて動き出したばかりだった。
03
「伊作。遅かったな」
「留三郎」
食堂で夕食を受け取り、いつものように席に着く。
机にはすでに夕食を食べ始めている5人がいた。
「怪我人の具合どうなんだ?」
里芋を食べながら留三郎が伊作に声をかける。
忍術学園にやってきた怪我人のことはみんな知っている。彼女の素性こそみんな知らないものの、重傷の患者が医務室にいることはみんな知っていた。
「医務室から客室に動かせないのか?間違えて入ってしまいそうなんだが」
「うん。まだ絶対安静なんだよ。下手に動かすと傷に触るし。まだ安定しきってないから。新野先生にも絶対安静って言われたし」
彼女がいる医務室は、保健室の主である新野が処置をした後そのまま病室となっていた。
今は臨時の医務室が別場所に作られ、保健委員もそちらの方で別途対応をしている。
「伊作も大変だな。そんな素性の知れない女の世話なんか」
「別に苦労だとは思わないさ。それに彼女は大丈夫だと思うよ文次郎」
「どうだか」
潮江文次郎は鼻をならしながら言った。
「考えてもみろ。若い娘が森で一人血まみれで倒れてるなんてそうあるもんじゃねえだろ」
「え、彼女森の中にいたの?」
「なんだ伊作、知らなかったのか?なんでも裏々山の森に倒れてたそうだ」
世話をしてるくせに何も知らないんだな。と仙蔵に言われた。
怪我人にあれこれ聞くのも身体に障ると思ったし、何よりいろいろ忙しかったのだ。 治ってからいろいろ聞けばいい。未だ混乱している彼女を追い詰めるようなことは伊作はしたくなかった。
「山賊に襲われたんじゃないの?」
「いや、山賊に襲われたのなら尚更だ。女一人で山賊に出会ったら捕まって売っ払われるのが関の山だろ」
「無事なのが不思議なくらいだな」
いや、無事じゃないだろ。大怪我人だぞ。
と伊作は文次郎に冷静なつっこみを心の中で入れた。
「あの子なかなかの器量良しだったもんなあ。ちょっとしか顔見てないけど」
七松小平太が口を開いた。
もぐもぐと口を動かしながら話す小平太に、汚い・・・。と長次は制した。
「ちょっと待て。何でお前がその女の顔を知っているんだ」
「だって私が学園まで運んだんだもの」
文次郎の問いに堂々とした顔で小平太が答えた。
「乱太郎、きり丸、しんべヱの3人が見つけたって聞いたぞ?」
「ん?見つけたのはあいつらだけど、運んだのは私だ」
何だか混乱してきたが、話を整理するとこういうことらしい。
倒れていた経緯はよくわからないが、彼女を見つけた乱太郎、きり丸、しんべヱの3人はその場で急ごしらえの狼煙もどきをあげ救援を待ったらしい。
偶然、修行で近くにいた小平太がその狼煙とも言えない煙を見、山火事ではないかと駆けつけたというわけだ。何という幸運か。
「酷い血の量でさ。大袈裟に動かすと死にそうだったから、押さえ気味にいけいけどんどんで学園まで運んだ」
「いけいけ・・・どんどん・・・」
「そう、いけいけどんどん」
押さえ気味に。と言っていたが実際はどうだったかなんて分からない。
とりあえず、よく彼女がそれで死ななかったなと5人は思った。
「酷い量って、どれくらい酷かったんだ?」
食満の問いかけに小平太が答える。
「んー。よくわからん」
「わからない?」
「とにかく血まみれだったんだ。それで倒れてるから酷い怪我だと乱太郎達が勘違いして・・・」
「それでとにかくお前が学園まで運んだんだな」
「そういうことだ。まあ動けそうにないのは事実だったし」
そう言って小平太は味噌汁をすすった。
一連の話の流れに文次郎が渋い顔をする。
「そら見ろ。どう見たって厄介なことこの上ねえじゃねえか。胡散臭え。とっとと放り出しちまえばいいものを」
「文次郎お前な・・・!」
「事実だろ」
「伊作落ち着け」
食事中だぞ。と仙蔵が伊作を諌める。
気づくと下級生の視線が伊作に集まっていた。立ち上がりかけた身体を抑え椅子に座る。
「・・・確かに、怪しいかもしれないよ?でも怪我人は放っておけない」
「まあ、文次郎の言い分ももっともだし、伊作の言うことももっともだな」
「さすが保健委員長。お優しいことだな」
「文次郎が何と言おうと彼女の怪我が治るまではここにいて貰う」
そのまま伊作は夕飯を無言で食べきった。他の5人も微妙な雰囲気の中無言で食べた。
各々好奇心の度合いは違うが、実際は全員が全員彼女のことが気になっている。
(文次郎の言うことはもっともだ。・・・でも、僕は彼女が危険な人だとはどうしても思えない…)
全ては彼女の怪我が治ってからだ。憶測はときになんの利益も生まない。
物語の歯車は、まだ軋んだ音を立てて動き出したばかりだった。