第二章<日常編>
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「久々に大物が引っ掛かったわね・・・。しかも相手は天下の体育委員長、七松小平太・・・。あ~快感・・・」
「お結・・・アンタ相変わらずいい性格してるわよね・・・」
「何言ってるのよお夏。アンタだってあんなえげつない無味無臭の薬作っておいてさ」
「七松~。具合どう?」
心底楽しそうに塀の上で会話する三人。
それに対して庭先にいる四人。小平太、文次郎、留三郎、伊作は四人とも思いっきり嫌そうな顔をした。
とりあえず伊作は地面に落ちたビスコイトを調べる。無味無臭と言われたそのビスコイト。
やはり見ただけでは薬に強い伊作でも成分は分からなかった。
「小平太!医務室に行こう!」
「それがいい。いくらそれなりに耐性があるとはいえ、お夏が作った薬だ・・・。どんだけの量入ってるか堪ったもんじゃねえぞ」
伊作の言葉に留三郎が苦い顔をして言った。
くノ一教室で薬作りにかけてはかなりの成績優良者であるお夏。医務室にも頻繁に出入りしている彼女の腕の程を、伊作は恐いほど良く知っていた。
彼女の手によって作れない薬はほぼ皆無である。
「今回はヒヨドリジョウゴを中心に調合してみました」
「・・・伊作、症状は?」
「吐き気、下痢、腹痛、呼吸中枢の麻痺等・・・」
「・・・そういえばさっきから何か気持ち悪いような・・・・・・」
「今すぐ吐き出せ小平太!!」
「・・・相変わらずえげつねえもん使いやがる・・・。猛毒じゃねえか」
しかし、引っ掛かった方も悪い。
否、この学園では引っ掛かった方が悪いのだ。
しかも自分達は途中までお結の変装を見抜けなかったのである。小平太達はぐうの音も出なかった。
クスクス笑う彼女達。
このまま呆気なくいつものようにくノ一教室まで引き返すのかと思えば、徐に小平太の足元に小さな袋を一つ落とした。
「それ。中和剤と解毒剤よ」
「どうせまた毒なんだろ」
「失礼ね食満。ちゃんとした薬よ。疑いたいならどうぞご勝手に」
伊作がすぐ様拾って中身を確認する。
大小二つの丸薬。独特の漢方薬の臭いがする。本物の薬だろう。
それを伊作から受け取った小平太は水もなしに丸薬を歯で砕く。思わず吐き出したくなるような苦味と後味が余計気持ち悪い。
そして心底不機不快そうに小平太は言った。
「・・・本当はお前ら何しに来たんだ?」
「え?何しにって?」
「とぼけても無駄だぞ。わざわざほへとちゃんに変装してまでここに来るなんて・・・。私に用があるんだろう?」
そう。六年長屋はくノ一教室から一等遠い。
特別な事情がない限り、好き好んでこんなところまで来るくノたまはそういないのだ。
それはともかくも、今の小平太の気分は最悪だった。
お結の変装術はくノ一教室随一の腕前とはいえ、偽者を目の前にしてすっかり騙されたのである。
ほへとと区別ができなかった。そのことが小平太の気分を一層落下させていた。
「なんだ。よく分かってるんじゃないの。…ほへとさんに熱あげてるって言っても、そういうところはまだ忍者らしさがあるわね」
「なんだと?」
「百子の言う通りね。あまりに簡単に信じるもんだから拍子抜けしたわよ」
「アンタ実戦なら今頃死んでたわよ?」
「良かったわね七松。私達が優しくて」
呆れたような楽しそうな笑い声。
その言葉は小平太の耳に痛く突き刺さる。
実戦なら死んでいる。確かにその通りだった。
「アンタの情報集めるの簡単すぎてつまらなかったわ~。どこまでも『いけドン!』なんだもの。もっと忍びなさいよ。そして恋愛するならもっと駆け引きした方がいいと思うわ」
噂好きの百子。
情報収集という点で言えば彼女は相当耳が敏い。
大人しいようでいて存外いろいろな人間の情報を掴んでいる抜け目のないくノたまなのである。
「・・・わざわざ私に説教するために来たのか。そんなの大きなお世話だ」
「馬鹿ね。アンタのために言ってやってんのよ」
「まあ、基本は面白いからなんだけど」
お結が付け足した言葉に彼女達は一頻り笑った後、ふっとどこか真面目な顔になる。(それでも口元の笑みは相変わらず弧を描いていた)
「七松さあ、卒業したらプロの忍者になりたいんだよね?」
百子が確認するように問う。
彼女の頭の中にはどれ程の情報が入っているのだろうか。それにしても質問が唐突だった。
「アンタ、本当にほへとさんのこと好きなの?」
「だったらどうした」
「ふうん?お結と区別もつかなかったのに?注意力散漫じゃない?赤点。追試補習」
「ぐ・・・」
「敵がほへとさんの姿で近づいて来たらどうするのよ。アンタ毎回死ぬ気?」
百子の言葉が突き刺さる。小平太は自分に苛立ちを覚えた。
自分でも自覚していた事実を改めて突きつける彼女達が憎らしかった。
しかし彼女達が言うことはもっともなこと。理屈は向こうにあった分だけ小平太は何も言えなかった。
「・・・で?結局何が言いたいんだお前ら。別にいいじゃねえか。他人の色恋だろ?プロになろうがなるまいが、惚れた女の一人や二人いようが、お前らが首突っ込むことじゃねえよ」
聞いていた留三郎が少し不機嫌そうに口を挟む。伊作はその横で事の成り行きを見ていた。
留三郎の言葉に、「ちょっとからかっただけじゃない」「そうそう。それに本当のことでしょ」と悪びれもなさそうに彼女達は言った。事実、彼女達は本当に小平太の見学(というにしては度が過ぎる)をしに来ただけだった。
ほへとと小平太の今後への興味はもちろん尽きないものの、目先にぶら下がっている面白いことを黙って見ている程大人しい彼女達ではない。
「まあ・・・、しいて言えば」
今まで楽しそうに笑っていたお結の顔が更に悪そうな顔になる。
「七松の反応を楽しみに来たの」
その言葉にいぶかしんだ小平太の顔。
反応を楽しみに来たとは、これまた良い性格の回答である。
木の影で笑うくノたまとは真逆に、小平太達の頭は焦げるように暑かった。
「私達あることが言いたくてここまで来たようなものなの」
「・・・あること?」
「そう。時間を稼いだのも、そのあることのためよ」
「ねえ七松。・・・・・・今、忍術学園に一体誰が来てると思う?」
悪魔がはっきりと告げる。
全ての言葉が発せられるまで、何故か小平太は唇の動きがゆっくりに見えた。
まるで聞きたくない単語を予知して聴覚がそれを拒むように。
それでも、小平太の耳は確かに捉えた。
「今ね。利吉さんが来てるの」
と。
「お結・・・アンタ相変わらずいい性格してるわよね・・・」
「何言ってるのよお夏。アンタだってあんなえげつない無味無臭の薬作っておいてさ」
「七松~。具合どう?」
心底楽しそうに塀の上で会話する三人。
それに対して庭先にいる四人。小平太、文次郎、留三郎、伊作は四人とも思いっきり嫌そうな顔をした。
とりあえず伊作は地面に落ちたビスコイトを調べる。無味無臭と言われたそのビスコイト。
やはり見ただけでは薬に強い伊作でも成分は分からなかった。
「小平太!医務室に行こう!」
「それがいい。いくらそれなりに耐性があるとはいえ、お夏が作った薬だ・・・。どんだけの量入ってるか堪ったもんじゃねえぞ」
伊作の言葉に留三郎が苦い顔をして言った。
くノ一教室で薬作りにかけてはかなりの成績優良者であるお夏。医務室にも頻繁に出入りしている彼女の腕の程を、伊作は恐いほど良く知っていた。
彼女の手によって作れない薬はほぼ皆無である。
「今回はヒヨドリジョウゴを中心に調合してみました」
「・・・伊作、症状は?」
「吐き気、下痢、腹痛、呼吸中枢の麻痺等・・・」
「・・・そういえばさっきから何か気持ち悪いような・・・・・・」
「今すぐ吐き出せ小平太!!」
「・・・相変わらずえげつねえもん使いやがる・・・。猛毒じゃねえか」
しかし、引っ掛かった方も悪い。
否、この学園では引っ掛かった方が悪いのだ。
しかも自分達は途中までお結の変装を見抜けなかったのである。小平太達はぐうの音も出なかった。
クスクス笑う彼女達。
このまま呆気なくいつものようにくノ一教室まで引き返すのかと思えば、徐に小平太の足元に小さな袋を一つ落とした。
「それ。中和剤と解毒剤よ」
「どうせまた毒なんだろ」
「失礼ね食満。ちゃんとした薬よ。疑いたいならどうぞご勝手に」
伊作がすぐ様拾って中身を確認する。
大小二つの丸薬。独特の漢方薬の臭いがする。本物の薬だろう。
それを伊作から受け取った小平太は水もなしに丸薬を歯で砕く。思わず吐き出したくなるような苦味と後味が余計気持ち悪い。
そして心底不機不快そうに小平太は言った。
「・・・本当はお前ら何しに来たんだ?」
「え?何しにって?」
「とぼけても無駄だぞ。わざわざほへとちゃんに変装してまでここに来るなんて・・・。私に用があるんだろう?」
そう。六年長屋はくノ一教室から一等遠い。
特別な事情がない限り、好き好んでこんなところまで来るくノたまはそういないのだ。
それはともかくも、今の小平太の気分は最悪だった。
お結の変装術はくノ一教室随一の腕前とはいえ、偽者を目の前にしてすっかり騙されたのである。
ほへとと区別ができなかった。そのことが小平太の気分を一層落下させていた。
「なんだ。よく分かってるんじゃないの。…ほへとさんに熱あげてるって言っても、そういうところはまだ忍者らしさがあるわね」
「なんだと?」
「百子の言う通りね。あまりに簡単に信じるもんだから拍子抜けしたわよ」
「アンタ実戦なら今頃死んでたわよ?」
「良かったわね七松。私達が優しくて」
呆れたような楽しそうな笑い声。
その言葉は小平太の耳に痛く突き刺さる。
実戦なら死んでいる。確かにその通りだった。
「アンタの情報集めるの簡単すぎてつまらなかったわ~。どこまでも『いけドン!』なんだもの。もっと忍びなさいよ。そして恋愛するならもっと駆け引きした方がいいと思うわ」
噂好きの百子。
情報収集という点で言えば彼女は相当耳が敏い。
大人しいようでいて存外いろいろな人間の情報を掴んでいる抜け目のないくノたまなのである。
「・・・わざわざ私に説教するために来たのか。そんなの大きなお世話だ」
「馬鹿ね。アンタのために言ってやってんのよ」
「まあ、基本は面白いからなんだけど」
お結が付け足した言葉に彼女達は一頻り笑った後、ふっとどこか真面目な顔になる。(それでも口元の笑みは相変わらず弧を描いていた)
「七松さあ、卒業したらプロの忍者になりたいんだよね?」
百子が確認するように問う。
彼女の頭の中にはどれ程の情報が入っているのだろうか。それにしても質問が唐突だった。
「アンタ、本当にほへとさんのこと好きなの?」
「だったらどうした」
「ふうん?お結と区別もつかなかったのに?注意力散漫じゃない?赤点。追試補習」
「ぐ・・・」
「敵がほへとさんの姿で近づいて来たらどうするのよ。アンタ毎回死ぬ気?」
百子の言葉が突き刺さる。小平太は自分に苛立ちを覚えた。
自分でも自覚していた事実を改めて突きつける彼女達が憎らしかった。
しかし彼女達が言うことはもっともなこと。理屈は向こうにあった分だけ小平太は何も言えなかった。
「・・・で?結局何が言いたいんだお前ら。別にいいじゃねえか。他人の色恋だろ?プロになろうがなるまいが、惚れた女の一人や二人いようが、お前らが首突っ込むことじゃねえよ」
聞いていた留三郎が少し不機嫌そうに口を挟む。伊作はその横で事の成り行きを見ていた。
留三郎の言葉に、「ちょっとからかっただけじゃない」「そうそう。それに本当のことでしょ」と悪びれもなさそうに彼女達は言った。事実、彼女達は本当に小平太の見学(というにしては度が過ぎる)をしに来ただけだった。
ほへとと小平太の今後への興味はもちろん尽きないものの、目先にぶら下がっている面白いことを黙って見ている程大人しい彼女達ではない。
「まあ・・・、しいて言えば」
今まで楽しそうに笑っていたお結の顔が更に悪そうな顔になる。
「七松の反応を楽しみに来たの」
その言葉にいぶかしんだ小平太の顔。
反応を楽しみに来たとは、これまた良い性格の回答である。
木の影で笑うくノたまとは真逆に、小平太達の頭は焦げるように暑かった。
「私達あることが言いたくてここまで来たようなものなの」
「・・・あること?」
「そう。時間を稼いだのも、そのあることのためよ」
「ねえ七松。・・・・・・今、忍術学園に一体誰が来てると思う?」
悪魔がはっきりと告げる。
全ての言葉が発せられるまで、何故か小平太は唇の動きがゆっくりに見えた。
まるで聞きたくない単語を予知して聴覚がそれを拒むように。
それでも、小平太の耳は確かに捉えた。
「今ね。利吉さんが来てるの」
と。