第二章<日常編>
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「土井先生、入ってもよろしいでしょうか」
「おや、ほへとさん。どうしたんですかこんな夜更けに」
土井半助が教師陣の長屋にて一年は組のテストの答案結果に頭を悩ませていたとき、控えめな声と共にそっとほへとがやってきた。
手に持った盆を見れば団子と急須。
それだけで全てを察した半助は、どうぞ。とほへとを中へ促す。
「大変ですねえ土井先生。こんな夜遅くまで」
「いえ、まあ・・・これも仕事ですから」
ほへとの顔をちらちらと灯り台が照らす。
忍術学園は夜中でも鍛錬やら何やらで一晩中ざわついてはいるものの、やはり夜ともなれば昼間の喧騒は嘘のように顔を潜める。
ほへとが丁寧にお茶を淹れる音は夜独特の静けさを破り、耳に心地よく響いた。
「もう餡団子しか残ってなかったんです。残り物でごめんなさい」
「いえ、私は頂けるだけで十分ですよ。・・・それにしても、今日は災難でしたね」
「そんな、災難なんて・・・。まあ驚きましたけど」
「丁度休憩しようかと思っていたところです。ありがたく頂きますね」
昼間の小平太の顔を思い出してほへとが肩を震わせながら笑った。
ほへとが淹れたお茶を片手に、半助はその餡団子を口に含む。舌触りもよく、甘すぎない餡。茶との相性も絶妙。
・・・これは高級な団子なんじゃないか?と表裏を返して、団子をしげしげと眺めた。
「乱太郎達から聞きましたよ。たくさんご馳走になったと。しんべヱなんか特にたくさん頂いたようで・・・」
「しんべヱくんて本当に何でも美味しそうに食べますよね。団子もきっと食べて貰って嬉しいと思います」
ほへとの言葉に対して、あの食いしん坊め・・・。と半助は呆れたように溜め息を吐いた。
それなのに夕食前に会ったときも『お腹空いた~』と腹の虫を鳴らしていたのを思い出す。
「学園長も随分喜んでおられましたよ」
「それは良かったです。学園長先生には感謝しても、感謝しきれませんから、これぐらいは当然です」
蝋燭の炎がほへとの顔容に沿って影を作る。
柔和に微笑むその顔。しかしその目にはあまり生気が感じられないような印象を受けた。
「ほへとさん。失礼ですが、少しお疲れなのではないですか?」
半助は残りの団子を飲み込んだ後、気遣わしげな表情で言った。
ほへとの瞳はほんの少しだけ見開いた後、ゆっくり首を横に振る。
「大丈夫です。これくらいなんてことありません。土井先生こそ、いつも胃が痛い〜…って、」
「いやいやいや私の事はいいんですよ。…私は貴女が休んでいるところをあまり見たことがないように思うので、何だか心配で」
「先生方が授業なさっているときに休んでますから」
そう優しい瞳をする人間を前に、
(本当に大丈夫なんだろうか・・・)
半助は密かに眉根を寄せた。
彼女が学園に来てから、すでに三ヶ月余り。
ここでの生活には随分慣れた様子で、生徒とも仲良くやっているようである。
実際半助が目にするほへとはいつも笑っている。そして朝から晩までくるくると実によく働いている。
もちろん半助はほへとの全ての行動を知っているわけではないが、傍目に見ても働きすぎではないのかと思っていた。
まるで、何かから逃れるように一心に仕事に打ち込んでいるようにも見える。
(でもそれもしょうがないことなのかもしれないな・・・)
実際、ほへとは疲れていたのだがそれに気付ける者はほんの一握りの人間だけだった。
「嫌ですよ土井先生。胃炎でも再発したみたいな顔しちゃって・・・」
「あ、すいません・・・」
半助は自分がどこか渋い顔をしていることに気付いた。
誤魔化すように茶に手をつける。
六年生が実習の土産で買ってきたという団子。頭の隅では六年ろ組の七松小平太が駆け回り始める。
本人に隠す気つもりがないのだから教師が気付かないわけもない。
色事に現を抜かして成績がガタ落ちするようであれば話は別だが、その域を出なければ特に半助は小平太のことをとやかく言うつもりはなかった。
ただ半助が思うのは、七松小平太という人間はいろいろな意味で前向きに元気すぎる嫌いがあるということだった。そしてあまり細かいことを気にしないというその性質も。
小平太の思い人である人間をいざ改めて目の前にしてみると、『大丈夫なんだろうか・・・』と誰に対する言葉なのか自分でもわからない心持ちになるのだった。そう、いろいろな意味で。
「おや、ほへとさん。どうしたんですかこんな夜更けに」
土井半助が教師陣の長屋にて一年は組のテストの答案結果に頭を悩ませていたとき、控えめな声と共にそっとほへとがやってきた。
手に持った盆を見れば団子と急須。
それだけで全てを察した半助は、どうぞ。とほへとを中へ促す。
「大変ですねえ土井先生。こんな夜遅くまで」
「いえ、まあ・・・これも仕事ですから」
ほへとの顔をちらちらと灯り台が照らす。
忍術学園は夜中でも鍛錬やら何やらで一晩中ざわついてはいるものの、やはり夜ともなれば昼間の喧騒は嘘のように顔を潜める。
ほへとが丁寧にお茶を淹れる音は夜独特の静けさを破り、耳に心地よく響いた。
「もう餡団子しか残ってなかったんです。残り物でごめんなさい」
「いえ、私は頂けるだけで十分ですよ。・・・それにしても、今日は災難でしたね」
「そんな、災難なんて・・・。まあ驚きましたけど」
「丁度休憩しようかと思っていたところです。ありがたく頂きますね」
昼間の小平太の顔を思い出してほへとが肩を震わせながら笑った。
ほへとが淹れたお茶を片手に、半助はその餡団子を口に含む。舌触りもよく、甘すぎない餡。茶との相性も絶妙。
・・・これは高級な団子なんじゃないか?と表裏を返して、団子をしげしげと眺めた。
「乱太郎達から聞きましたよ。たくさんご馳走になったと。しんべヱなんか特にたくさん頂いたようで・・・」
「しんべヱくんて本当に何でも美味しそうに食べますよね。団子もきっと食べて貰って嬉しいと思います」
ほへとの言葉に対して、あの食いしん坊め・・・。と半助は呆れたように溜め息を吐いた。
それなのに夕食前に会ったときも『お腹空いた~』と腹の虫を鳴らしていたのを思い出す。
「学園長も随分喜んでおられましたよ」
「それは良かったです。学園長先生には感謝しても、感謝しきれませんから、これぐらいは当然です」
蝋燭の炎がほへとの顔容に沿って影を作る。
柔和に微笑むその顔。しかしその目にはあまり生気が感じられないような印象を受けた。
「ほへとさん。失礼ですが、少しお疲れなのではないですか?」
半助は残りの団子を飲み込んだ後、気遣わしげな表情で言った。
ほへとの瞳はほんの少しだけ見開いた後、ゆっくり首を横に振る。
「大丈夫です。これくらいなんてことありません。土井先生こそ、いつも胃が痛い〜…って、」
「いやいやいや私の事はいいんですよ。…私は貴女が休んでいるところをあまり見たことがないように思うので、何だか心配で」
「先生方が授業なさっているときに休んでますから」
そう優しい瞳をする人間を前に、
(本当に大丈夫なんだろうか・・・)
半助は密かに眉根を寄せた。
彼女が学園に来てから、すでに三ヶ月余り。
ここでの生活には随分慣れた様子で、生徒とも仲良くやっているようである。
実際半助が目にするほへとはいつも笑っている。そして朝から晩までくるくると実によく働いている。
もちろん半助はほへとの全ての行動を知っているわけではないが、傍目に見ても働きすぎではないのかと思っていた。
まるで、何かから逃れるように一心に仕事に打ち込んでいるようにも見える。
(でもそれもしょうがないことなのかもしれないな・・・)
実際、ほへとは疲れていたのだがそれに気付ける者はほんの一握りの人間だけだった。
「嫌ですよ土井先生。胃炎でも再発したみたいな顔しちゃって・・・」
「あ、すいません・・・」
半助は自分がどこか渋い顔をしていることに気付いた。
誤魔化すように茶に手をつける。
六年生が実習の土産で買ってきたという団子。頭の隅では六年ろ組の七松小平太が駆け回り始める。
本人に隠す気つもりがないのだから教師が気付かないわけもない。
色事に現を抜かして成績がガタ落ちするようであれば話は別だが、その域を出なければ特に半助は小平太のことをとやかく言うつもりはなかった。
ただ半助が思うのは、七松小平太という人間はいろいろな意味で前向きに元気すぎる嫌いがあるということだった。そしてあまり細かいことを気にしないというその性質も。
小平太の思い人である人間をいざ改めて目の前にしてみると、『大丈夫なんだろうか・・・』と誰に対する言葉なのか自分でもわからない心持ちになるのだった。そう、いろいろな意味で。