第二章<日常編>
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「こんばんわ~ほへとさん」
「失礼しまーす!」
「ちょっと聞いて下さいよ~。今日実習で薬湯作ったんですけど・・・」
くノたまの長屋にある自室。
おばちゃんと明日の朝餉用の下拵えをした後で部屋に戻ると、いつも待ちかねたようにくノたまの子がやってくる。
就寝までにいろいろなお喋りをして過すのはもはや日課だ。それは今日の毒団子の結果だったり、占いの話だったり、恋の話だったり。どちらかといえば他愛のない話の方が多い。週に何回もこうやって代わる代わる部屋に訪れる彼女達。
『もしかしたら見張られているんでしょうか』
最初こそそう思っていたほへとだったが、一緒に過すうちにそれは杞憂だと分かり安心した。もちろん何か大事を起こすような気持ちは微塵もなかったが。
今では妹のような彼女達とこうやってお喋りするのは、ほへとにとっても楽しみの一つである。
***
「・・・さっきから気になってたんですけど、その机にある花・・・」
竹筒に差してある一輪の桔梗を見て、一人のくノたまが疑問の声をあげた。
いつもの殺風景な部屋を見慣れている彼女らはその夏らしいものに興味津々といった顔。くノたま6年生である百子が「もしかして誰かからの贈り物だったりして!」と聞けば、皆の期待が高まる。
「当たり。その桔梗、小平太くんから貰ったの。お土産だー。って」
「「「え」」」
ほへとがそう事実を返すと、「うそ!?冗談ですよね?」とか「有り得ない。あのいけドンが花とか」やら「七松が花って!似合わなーい!!」と一頻り言った後でくノたま上級生の彼女らは大笑いした。
それはちょっと彼に失礼じゃないか?とほへとは思ったものの、たしかにこの桔梗の花と小平太の雰囲気は合わない。彼はどちらかというと花よりも団子である。
「しかも萎れてるし。土産なら土産でちゃんと綺麗なの持ってこいってのよ」
「どうせ握り締めて持ってきたか、懐に入れてて忘れてたんでしょ。七松ってそういうところ、がさつよね」
(うわあ当たってる。鋭いなお結ちゃんは…)
徐に懐から花を出した小平太のことを思い出してほへとは苦笑いした。
でも、なんとなくぐちゃぐちゃの花というのは小平太らしいと思った。
「でも七松が花、ね・・・。桔梗の花って薬にならないのにさ」
「あれ?桔梗って咳止めの薬にならなかったっけ?」
首を傾げるほへとに成績優秀のお夏が「薬にはなりますよ。でも薬になるのは根だけなんです」と補足してくれた。
「そんな愛でるためだけの桔梗の花をお土産で持ってくるなんて・・・」
「これはもうほへとさんに気があるとしか思えない!・・・と言いたいところですけど」
「七松だしねー・・・。何にも考えてなさそう」
だよねー・・・。確かにほへとさんには似合う花だけど。
と盛り上がるだけ盛り上がった後、くノたま3人娘は勝手に終息した。
「気があるならもっと素敵な花にしたらいいのに」
「全然ロマンチックじゃないわよね」
「え?十分可愛いくて綺麗だと思うけど・・・」
「「甘い!」」
どうやら彼女らは理想が高いらしい。
青紫の花弁はすらりと潔く、茎葉の色と相まって一層の涼やかさを演出する。
ほへとはその桔梗の雰囲気が気に入っていただけに、何故こうも彼女らが否定するのかが分からなかった。
「桔梗って「更に吉」っていって縁起のいい花なんですけれど・・・」
「戦においての戦勝祈願のお守りっていうか・・・。まあそういう意味で縁起いいわけで・・・」
「えーと、何だっけ?『先陣で桔梗の花を冑にさし、敵を大いに打ち破る』・・・?だったかな」
「お夏、アンタ相変わらず頭いいわね。・・・まあそういうことです」
「可愛いといえば可愛い花なんですけどね・・・。何かそう考えるとゴツくないですか?」
ね?ロマンチックじゃないでしょ?
そう口を揃えて彼女達が言うと、それまで黙って聞いていたほへとはどこか物憂げな顔でポツリと言った。
「・・・そっか。あの人も実は何にも考えてなかったのかも・・・。そういうところあったし・・・」
それは、まったく無意識のうちに出た言葉だった。
ほへとが、はっと顔を上げると、驚いた顔と、にやにやしながら笑う顔と、興味津々といった三者三様の顔がほへとを見ていた。
「『あの人』?『も』?・・・それって、もしかして昔の恋人とかですか?」
「え!?聞きたいですほへとさんの昔の話!そうですよね。ほへとさんくらい素敵な女性だったら恋仲の一人や二人くらいいたとしても可笑しくないですもん!」
「私も興味あります!話して貰ってもいいですか?」
期待を込めた、きらきらした六つの瞳がほへとを見ている。
しかしほへとは一呼吸置いた後にっこりと微笑み、「今日はもうおしまい」とポンと手を叩いた。
「「「ええ~!?」」」
「だって明日も朝早いんだもの」
「夜はまだこれからなのにー!!」
「はいはい今度ね。・・・実は私もう眠くって。ごめんね」
ほへとのその困ったような言葉に三人は「しょうがない。今日はもう戻りましょ」「絶対今度話して下さいね!」「約束ですよ!」と部屋を出て行った。
***
「なんか、聞いちゃいけなかったのかしら・・・」
「そうね・・・。正直凄く気になるけど」
「あーあ、聞きたかったなあ。でもあんな顔されちゃね・・・」
彼女らが素直に部屋に帰ったのは、ただ何となほへとの笑顔の瞳の奥に、有無を言わせないような光を察したからだった。興味はもちろんあったものの、どうしても問いただそうとする気にはなれなかった。
昼間とちがう涼しげな空気が夜風に乗って彼女達の髪を撫でる。
「・・・でもしょうがないわよ。人それぞれいろいろあるわけだし」
「そうよね。無理に聞き出して嫌われたくないわ」
「うーん残念。じゃあ昔の恋より七松に焦点を絞りましょ」
「そうね。これはちょっと独自調査したいものだわ」
「したいしたい」
「じゃあ部屋に戻ったら計画立てる方向で」
にやり。
くノたま三人娘は夜の鍛錬をしているであろう体力馬鹿のことを思って三者三様に悪い顔をした。
***
その頃。
「はっくしゅ!」
誰か私の噂してんのか?
小平太は掘りかけの塹壕の中で一人くしゃみをした。
空を見上げると薄い笑みを浮かべるような月が、細く小平太を見下ろしていた。
-----
オリキャラでくノたま。全員小平太達と同い年。
辛口発言「お結ちゃん」、噂大好き「百子ちゃん」、成績優秀「お夏ちゃん」の三人娘です。
「失礼しまーす!」
「ちょっと聞いて下さいよ~。今日実習で薬湯作ったんですけど・・・」
くノたまの長屋にある自室。
おばちゃんと明日の朝餉用の下拵えをした後で部屋に戻ると、いつも待ちかねたようにくノたまの子がやってくる。
就寝までにいろいろなお喋りをして過すのはもはや日課だ。それは今日の毒団子の結果だったり、占いの話だったり、恋の話だったり。どちらかといえば他愛のない話の方が多い。週に何回もこうやって代わる代わる部屋に訪れる彼女達。
『もしかしたら見張られているんでしょうか』
最初こそそう思っていたほへとだったが、一緒に過すうちにそれは杞憂だと分かり安心した。もちろん何か大事を起こすような気持ちは微塵もなかったが。
今では妹のような彼女達とこうやってお喋りするのは、ほへとにとっても楽しみの一つである。
***
「・・・さっきから気になってたんですけど、その机にある花・・・」
竹筒に差してある一輪の桔梗を見て、一人のくノたまが疑問の声をあげた。
いつもの殺風景な部屋を見慣れている彼女らはその夏らしいものに興味津々といった顔。くノたま6年生である百子が「もしかして誰かからの贈り物だったりして!」と聞けば、皆の期待が高まる。
「当たり。その桔梗、小平太くんから貰ったの。お土産だー。って」
「「「え」」」
ほへとがそう事実を返すと、「うそ!?冗談ですよね?」とか「有り得ない。あのいけドンが花とか」やら「七松が花って!似合わなーい!!」と一頻り言った後でくノたま上級生の彼女らは大笑いした。
それはちょっと彼に失礼じゃないか?とほへとは思ったものの、たしかにこの桔梗の花と小平太の雰囲気は合わない。彼はどちらかというと花よりも団子である。
「しかも萎れてるし。土産なら土産でちゃんと綺麗なの持ってこいってのよ」
「どうせ握り締めて持ってきたか、懐に入れてて忘れてたんでしょ。七松ってそういうところ、がさつよね」
(うわあ当たってる。鋭いなお結ちゃんは…)
徐に懐から花を出した小平太のことを思い出してほへとは苦笑いした。
でも、なんとなくぐちゃぐちゃの花というのは小平太らしいと思った。
「でも七松が花、ね・・・。桔梗の花って薬にならないのにさ」
「あれ?桔梗って咳止めの薬にならなかったっけ?」
首を傾げるほへとに成績優秀のお夏が「薬にはなりますよ。でも薬になるのは根だけなんです」と補足してくれた。
「そんな愛でるためだけの桔梗の花をお土産で持ってくるなんて・・・」
「これはもうほへとさんに気があるとしか思えない!・・・と言いたいところですけど」
「七松だしねー・・・。何にも考えてなさそう」
だよねー・・・。確かにほへとさんには似合う花だけど。
と盛り上がるだけ盛り上がった後、くノたま3人娘は勝手に終息した。
「気があるならもっと素敵な花にしたらいいのに」
「全然ロマンチックじゃないわよね」
「え?十分可愛いくて綺麗だと思うけど・・・」
「「甘い!」」
どうやら彼女らは理想が高いらしい。
青紫の花弁はすらりと潔く、茎葉の色と相まって一層の涼やかさを演出する。
ほへとはその桔梗の雰囲気が気に入っていただけに、何故こうも彼女らが否定するのかが分からなかった。
「桔梗って「更に吉」っていって縁起のいい花なんですけれど・・・」
「戦においての戦勝祈願のお守りっていうか・・・。まあそういう意味で縁起いいわけで・・・」
「えーと、何だっけ?『先陣で桔梗の花を冑にさし、敵を大いに打ち破る』・・・?だったかな」
「お夏、アンタ相変わらず頭いいわね。・・・まあそういうことです」
「可愛いといえば可愛い花なんですけどね・・・。何かそう考えるとゴツくないですか?」
ね?ロマンチックじゃないでしょ?
そう口を揃えて彼女達が言うと、それまで黙って聞いていたほへとはどこか物憂げな顔でポツリと言った。
「・・・そっか。あの人も実は何にも考えてなかったのかも・・・。そういうところあったし・・・」
それは、まったく無意識のうちに出た言葉だった。
ほへとが、はっと顔を上げると、驚いた顔と、にやにやしながら笑う顔と、興味津々といった三者三様の顔がほへとを見ていた。
「『あの人』?『も』?・・・それって、もしかして昔の恋人とかですか?」
「え!?聞きたいですほへとさんの昔の話!そうですよね。ほへとさんくらい素敵な女性だったら恋仲の一人や二人くらいいたとしても可笑しくないですもん!」
「私も興味あります!話して貰ってもいいですか?」
期待を込めた、きらきらした六つの瞳がほへとを見ている。
しかしほへとは一呼吸置いた後にっこりと微笑み、「今日はもうおしまい」とポンと手を叩いた。
「「「ええ~!?」」」
「だって明日も朝早いんだもの」
「夜はまだこれからなのにー!!」
「はいはい今度ね。・・・実は私もう眠くって。ごめんね」
ほへとのその困ったような言葉に三人は「しょうがない。今日はもう戻りましょ」「絶対今度話して下さいね!」「約束ですよ!」と部屋を出て行った。
***
「なんか、聞いちゃいけなかったのかしら・・・」
「そうね・・・。正直凄く気になるけど」
「あーあ、聞きたかったなあ。でもあんな顔されちゃね・・・」
彼女らが素直に部屋に帰ったのは、ただ何となほへとの笑顔の瞳の奥に、有無を言わせないような光を察したからだった。興味はもちろんあったものの、どうしても問いただそうとする気にはなれなかった。
昼間とちがう涼しげな空気が夜風に乗って彼女達の髪を撫でる。
「・・・でもしょうがないわよ。人それぞれいろいろあるわけだし」
「そうよね。無理に聞き出して嫌われたくないわ」
「うーん残念。じゃあ昔の恋より七松に焦点を絞りましょ」
「そうね。これはちょっと独自調査したいものだわ」
「したいしたい」
「じゃあ部屋に戻ったら計画立てる方向で」
にやり。
くノたま三人娘は夜の鍛錬をしているであろう体力馬鹿のことを思って三者三様に悪い顔をした。
***
その頃。
「はっくしゅ!」
誰か私の噂してんのか?
小平太は掘りかけの塹壕の中で一人くしゃみをした。
空を見上げると薄い笑みを浮かべるような月が、細く小平太を見下ろしていた。
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オリキャラでくノたま。全員小平太達と同い年。
辛口発言「お結ちゃん」、噂大好き「百子ちゃん」、成績優秀「お夏ちゃん」の三人娘です。