第一章<出会い編>
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目が覚めると、ほへとの身体は随分軽くなっていた。
痛み止めがよく効いているらしい。薬が切れたらまた痛くなりますよ。と脅された。
02
「これ、食堂のおばちゃんに作ってもらったんです」
美味しそうなお粥の匂いが部屋に広がる。
空腹のことを抜きにしても、とても美味しそうだった。
いただきます。とお粥を食べれば、どこかほっとする味がほへとの口内に広がった。
母親の味なんて全然覚えていない。でもどこか遠く懐かしい味だった。
丁重にお礼を言う。
あれからほへとはまた丸1日起き上がることができなかった。
夜中にまた容態が悪化し、傷による熱に魘されながら、生死の淵を彷徨っていた。
「・・・・・・善法寺さん」
お粥を飲み込んだ後、ほへとはポツリと呟いた。
「私は、ここにいていいんでしょうか」
「怪我人をそんな放り出すように見えますか?そんなこと、今は心配しなくてもいいんですよ」
「でも・・・私は誰が見ても不振だと思うんです。自分でもよくわかっています・・・。面倒になる前に・・・私を・・・」
二人の目線が交錯する。
ほへとは苦しそうな、縋るような目で伊作を見つめた。
伊作は真面目な顔でそれに答えた。
「面倒だと思うなら初めから治療なんてしませんよ。それに貴女は知らない人間だからといって、怪我人を放っておけますか?」
「・・・・・・いいえ」
伊作は更に続ける。
「それにここは忍術学園です。もし貴女が危険な人間だとしても、手負いの貴女に劣るような人間はここにはいませんよ」
「忍術・・・学園」
「はい。あれ、言っていませんでしたか?ここは忍者を育てる学校なんですよ。僕みたいな色の装束を着たのが6年生」
自身の装束を指差しながら説明する。
正直助かった。という思いだった。
ここは私が目指していた場所。ここしか行く当てがなかった。ここしか思いつかなかった。
しかしそう迷惑もかけられない。
忍者といえば、闇に紛れ仕事をする者。当然武術の心得もあるだろう。
しかし人を疑うことが商売でもあると聞いている。ここにいる人の良さそうな青年も忍者なのだ。もしほへとがここで何かしようものなら瞬く間に捕らえられることは明白。もちろんそんな考えは微塵もないが。
「では尚更のこと聞かないのですか?」
「聞いて欲しいんですか?」
伊作は苦笑いながら棚から薬を取り出す。
「これ、食後に飲んで下さい。・・・怪我が治ったら聞かせて下さい。貴女は未だ混乱しているようです。今は療養することが大事ですよ」
「・・・・・・はい」
目で頷いて伊作の顔を見る。
この青年が忍者。とてもそんな風には見えない。
「忍者と聞いて、僕のことが信じられませんか?」
「・・・いいえ。だってこんなに優しくしてくれるのに」
ほへとは少しだけ笑った。
笑うと花のようだな。と伊作は思った。今にも消えてしまいそうな、そんな儚い花。
怪我による出血で、血の気の引いた白い肌。
夕闇がかった時の中でいっそう白く浮かんで見える。
「そういえば…貴女の名前を教えて貰えますか?」
きょとんとした顔をした後、ゆっくりとした声で彼女は言った。
「…いろはにほへとと申します」
こじんまりとした部屋の中で、その名前を告げた声だけが凛と響いた。
「いろはにさん、とお呼びしても?」
「どちらでも。ほへとでも結構ですわ」
「では…せっかくです。ほへとさん、と」
伊作の言葉に、はい。と呼応する。
きっと自分よりも幾分か年上の彼女の声は、ちょうど嫁が旦那に応対するような、しっとりとしたものを含ませる声だった。
伊作はなんとなく顔に熱が溜まっていく感じがした。
「・・・・・・善法寺さん?」
「あ、いや。すいません」
どもる伊作にフフとおかしそうに笑うほへと。笑えるくらいには回復したんだろうか。
「さっきから思っていたんですが、善法寺さんというのは・・・」
「嫌、ですか?」
「いえ、僕は多分貴女より年下ですし・・・それに名前で呼ばれることが多いせいか、聞きなれず面映ゆいのですよ」
「では・・・善法寺くん?」
「伊作で結構ですよ」
「・・・では、伊作くん」
先ほどよりも熱が顔に集中した気がして、思わず腰をあげた。
「・・・僕そろそろ行きます。食べ終わったらちゃんと薬飲んでおいてくださいね。お皿は後で取りに来ますから」
どうも調子が狂う感覚に、そそくさと逃げるように立ち上がる。
「伊作くん」
ほへとの声にくるりと首だけをそちらに向ける。
「ありがとうございます」
「いえ・・・。また来ます」
それだけを言って伊作は医務室を後にした。
そっと障子を閉める。
夜になりかけの心地よい風が伊作の顔を撫で、顔の熱を冷ましていく。
(ほへとさん・・・か)
彼女はいったい何者なのだろう。
僕は新野先生に頼まれたから彼女のお世話をしているにすぎない。
怪我をしているといっても、処置は新野先生がしたし、着替えさせたのも山本シナ先生。
先生方にもまだ詳しいことは何一つ教えてもらってない。
ただ、彼女を見つけたのは1年は組の乱太郎、きり丸、しんべヱだということは知っている。
彼らに聞けば何かわかるかもしれない。
伊作は医務室にいる怪我人のことを思いながら食堂に足を向けた。
この時間ならみんな食堂にいるだろう。
自身の腹の虫も鳴った。
痛み止めがよく効いているらしい。薬が切れたらまた痛くなりますよ。と脅された。
02
「これ、食堂のおばちゃんに作ってもらったんです」
美味しそうなお粥の匂いが部屋に広がる。
空腹のことを抜きにしても、とても美味しそうだった。
いただきます。とお粥を食べれば、どこかほっとする味がほへとの口内に広がった。
母親の味なんて全然覚えていない。でもどこか遠く懐かしい味だった。
丁重にお礼を言う。
あれからほへとはまた丸1日起き上がることができなかった。
夜中にまた容態が悪化し、傷による熱に魘されながら、生死の淵を彷徨っていた。
「・・・・・・善法寺さん」
お粥を飲み込んだ後、ほへとはポツリと呟いた。
「私は、ここにいていいんでしょうか」
「怪我人をそんな放り出すように見えますか?そんなこと、今は心配しなくてもいいんですよ」
「でも・・・私は誰が見ても不振だと思うんです。自分でもよくわかっています・・・。面倒になる前に・・・私を・・・」
二人の目線が交錯する。
ほへとは苦しそうな、縋るような目で伊作を見つめた。
伊作は真面目な顔でそれに答えた。
「面倒だと思うなら初めから治療なんてしませんよ。それに貴女は知らない人間だからといって、怪我人を放っておけますか?」
「・・・・・・いいえ」
伊作は更に続ける。
「それにここは忍術学園です。もし貴女が危険な人間だとしても、手負いの貴女に劣るような人間はここにはいませんよ」
「忍術・・・学園」
「はい。あれ、言っていませんでしたか?ここは忍者を育てる学校なんですよ。僕みたいな色の装束を着たのが6年生」
自身の装束を指差しながら説明する。
正直助かった。という思いだった。
ここは私が目指していた場所。ここしか行く当てがなかった。ここしか思いつかなかった。
しかしそう迷惑もかけられない。
忍者といえば、闇に紛れ仕事をする者。当然武術の心得もあるだろう。
しかし人を疑うことが商売でもあると聞いている。ここにいる人の良さそうな青年も忍者なのだ。もしほへとがここで何かしようものなら瞬く間に捕らえられることは明白。もちろんそんな考えは微塵もないが。
「では尚更のこと聞かないのですか?」
「聞いて欲しいんですか?」
伊作は苦笑いながら棚から薬を取り出す。
「これ、食後に飲んで下さい。・・・怪我が治ったら聞かせて下さい。貴女は未だ混乱しているようです。今は療養することが大事ですよ」
「・・・・・・はい」
目で頷いて伊作の顔を見る。
この青年が忍者。とてもそんな風には見えない。
「忍者と聞いて、僕のことが信じられませんか?」
「・・・いいえ。だってこんなに優しくしてくれるのに」
ほへとは少しだけ笑った。
笑うと花のようだな。と伊作は思った。今にも消えてしまいそうな、そんな儚い花。
怪我による出血で、血の気の引いた白い肌。
夕闇がかった時の中でいっそう白く浮かんで見える。
「そういえば…貴女の名前を教えて貰えますか?」
きょとんとした顔をした後、ゆっくりとした声で彼女は言った。
「…いろはにほへとと申します」
こじんまりとした部屋の中で、その名前を告げた声だけが凛と響いた。
「いろはにさん、とお呼びしても?」
「どちらでも。ほへとでも結構ですわ」
「では…せっかくです。ほへとさん、と」
伊作の言葉に、はい。と呼応する。
きっと自分よりも幾分か年上の彼女の声は、ちょうど嫁が旦那に応対するような、しっとりとしたものを含ませる声だった。
伊作はなんとなく顔に熱が溜まっていく感じがした。
「・・・・・・善法寺さん?」
「あ、いや。すいません」
どもる伊作にフフとおかしそうに笑うほへと。笑えるくらいには回復したんだろうか。
「さっきから思っていたんですが、善法寺さんというのは・・・」
「嫌、ですか?」
「いえ、僕は多分貴女より年下ですし・・・それに名前で呼ばれることが多いせいか、聞きなれず面映ゆいのですよ」
「では・・・善法寺くん?」
「伊作で結構ですよ」
「・・・では、伊作くん」
先ほどよりも熱が顔に集中した気がして、思わず腰をあげた。
「・・・僕そろそろ行きます。食べ終わったらちゃんと薬飲んでおいてくださいね。お皿は後で取りに来ますから」
どうも調子が狂う感覚に、そそくさと逃げるように立ち上がる。
「伊作くん」
ほへとの声にくるりと首だけをそちらに向ける。
「ありがとうございます」
「いえ・・・。また来ます」
それだけを言って伊作は医務室を後にした。
そっと障子を閉める。
夜になりかけの心地よい風が伊作の顔を撫で、顔の熱を冷ましていく。
(ほへとさん・・・か)
彼女はいったい何者なのだろう。
僕は新野先生に頼まれたから彼女のお世話をしているにすぎない。
怪我をしているといっても、処置は新野先生がしたし、着替えさせたのも山本シナ先生。
先生方にもまだ詳しいことは何一つ教えてもらってない。
ただ、彼女を見つけたのは1年は組の乱太郎、きり丸、しんべヱだということは知っている。
彼らに聞けば何かわかるかもしれない。
伊作は医務室にいる怪我人のことを思いながら食堂に足を向けた。
この時間ならみんな食堂にいるだろう。
自身の腹の虫も鳴った。