第二章<日常編>
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「小平太くん、どうかしました?何だか昨日からぼうっとしてません?」
「そうか?別に何もないけどなあ。あ、ほへとちゃん飯大盛りで頼む」
いつもと変わらない日常。
下級生の挨拶。相変わらずの騒がしい朝。
白い飯。湯気の立つ味噌汁。調理場に立つ彼女の後姿。
「はい、大盛り。・・・あとこの卵焼きオマケです。内緒ですよ?」
「お、ありがとな!」
こっそり耳打ちするように笑う彼女の顔が、眩しいほどに嬉しい。
こんな些細なことに自分も笑顔になってしまう。
そのくせ自分以外に向けられた、その笑顔を見ると急に冷めた心持ちになってしまう。
やっぱりそうなんだろうか。
私は・・・、ほへとちゃんを・・・。
妙に納得してしまった。昔から皆がこうやって悩んでる意味が。
彼女の顔を見たらどうしたら良いかなんてすぐに分かると思っていた。
(私はどうしたらいいんだ?・・・もっと、分からなくなってしまった・・・)
目の前の飯の味すら分からないなんて。
作ってくれたほへとちゃんとオバちゃんに申し訳が立たない。
21
「恋愛ってもっと楽しいものじゃないのか?こんな風に変に心がもやもやしたりするもんなのか?」
「そうじゃなかったら皆悩まん」
腕組みのまま呆れた顔をする仙蔵。
あれから。途中までは割と頑張った長次だったが手に負えなくなってしまい急遽い組から仙蔵を呼び寄せた。
「・・・それで分かったろう?如何にお前がほへとさんに懸想しているか」
「んー・・・。でも前に付き合ってた子にはこんな風に思ったりとかしなかったぞ?」
なかなか強情な小平太に、仙蔵は相変わらず腕組みをしたまま淡々とした口調で言う。
「それはお前がまだ精神的に子供だったからだ。一緒にいるだけで満足なんてものは恋じゃない。恋慕の情ってものはもっと欲張りなものだ。普通は嫉妬したり、不安になったりするもんだ。そうじゃなかったら皆悩まんとさっきから言ってるのにまだ分からんのか」
「でもなあ…。仙蔵もそうなのか?」
「くどいぞ小平太。それに今は私のことじゃなくてお前の話をしているんだろうが」
ぴしゃりとそう言う仙蔵に小平太は微妙な顔をして黙った。
そのまま仙蔵は畳み掛けるように言う。
「お前はほへとさんが好きなんだろう?」
「ああ」
「ほへとさんが幸せなら嬉しいか?」
「当たり前だ。皆が幸せならそれに越したことないからな」
「ではほへとさんが利吉さんに頬染めて駆け寄っていったらどうだ?」
「・・・う」
「あまつさえ手作りのビスコイトなぞ差し出したりして『食べてください』なんて言ったらどうだ?」
「・・・それは、嫌だな」
「そらみろ。めでたく利吉さんと付き合うことになったほへとさんが仲睦まじそうに手を繋いだり、あまつさえ口吸い・・・」
「・・・・・・・・・仙蔵」
「逆にほへとさんから利吉さんの相談なぞされてみろ。それこそ・・・。ん?どうした長次」
「・・・小平太が・・・・・・」
「おや、言い過ぎたか?」
長次の言葉に仙蔵が小平太を見やれば、頭から煙を出して沈没している小平太の姿があった。
「・・・・・・そんなことになったら私、どうしたらいいかわからん・・・」
「相当重症のようだな」
その姿に可笑しそうに笑う仙蔵。長次と顔を見合わせる。
「しかしそれが普通だ。やっと分かったか?自分がどれほど彼女に惚れているか」
溜め息を吐きながら立ち上がる仙蔵。もうとうに夜は更けている。
「・・・悪かったな・・・・・・。急に呼んで・・・・・・」
「いや構わない。長次が私を呼びにくるなんてよほどのことだと思ったが。・・・まあ珍しいものが見れて私も面白かったよ」
くつくつと笑う仙蔵。その顔は心底面白い物を見つけたような顔だった。
「しばらく退屈しなさそうだ。・・・小平太、精々悩め」
邪魔したな。そう言って部屋を後にした仙蔵。
後には未だ布団に突っ伏している小平太と、それをどこかしか気遣わしげに見ている長次がいた。
「・・・長次」
沈没から復活したらしい小平太が顔を上げて長次を見た。その顔はどこか真面目な面持ちだった。
「仙蔵が言うように、私はほへとちゃんに惚れてるのかもしれない。が、正直やっぱりまだよくわからん」
「・・・・・・そうか」
頭を掻きながらどこか沈んだ声で言う小平太に長次はポツリと言った。
「そう・・・すぐ結論を出さずとも・・・いいんじゃないか?」
明日の朝に、彼女の顔を見てそのときに思ったことが本当の気持ちだろう?悩んでるのはお前らしくない。
そう小平太に言うと、そうだな。とくしゃりとした笑顔で小平太は答えた。
「ありがとな長次!」
解決したところで、寝るか!と、打って変わって明るい声になった小平太は早々に自分の布団に潜り込む。
長次が火の始末をすると、自室に本来の暗闇が戻る。長い夜は終息を迎えた。
(・・・・・・忍として支障が出なければいいが・・・・・・)
長次は隣で布団を被っている男のそれだけが気がかりだった。
「そうか?別に何もないけどなあ。あ、ほへとちゃん飯大盛りで頼む」
いつもと変わらない日常。
下級生の挨拶。相変わらずの騒がしい朝。
白い飯。湯気の立つ味噌汁。調理場に立つ彼女の後姿。
「はい、大盛り。・・・あとこの卵焼きオマケです。内緒ですよ?」
「お、ありがとな!」
こっそり耳打ちするように笑う彼女の顔が、眩しいほどに嬉しい。
こんな些細なことに自分も笑顔になってしまう。
そのくせ自分以外に向けられた、その笑顔を見ると急に冷めた心持ちになってしまう。
やっぱりそうなんだろうか。
私は・・・、ほへとちゃんを・・・。
妙に納得してしまった。昔から皆がこうやって悩んでる意味が。
彼女の顔を見たらどうしたら良いかなんてすぐに分かると思っていた。
(私はどうしたらいいんだ?・・・もっと、分からなくなってしまった・・・)
目の前の飯の味すら分からないなんて。
作ってくれたほへとちゃんとオバちゃんに申し訳が立たない。
21
「恋愛ってもっと楽しいものじゃないのか?こんな風に変に心がもやもやしたりするもんなのか?」
「そうじゃなかったら皆悩まん」
腕組みのまま呆れた顔をする仙蔵。
あれから。途中までは割と頑張った長次だったが手に負えなくなってしまい急遽い組から仙蔵を呼び寄せた。
「・・・それで分かったろう?如何にお前がほへとさんに懸想しているか」
「んー・・・。でも前に付き合ってた子にはこんな風に思ったりとかしなかったぞ?」
なかなか強情な小平太に、仙蔵は相変わらず腕組みをしたまま淡々とした口調で言う。
「それはお前がまだ精神的に子供だったからだ。一緒にいるだけで満足なんてものは恋じゃない。恋慕の情ってものはもっと欲張りなものだ。普通は嫉妬したり、不安になったりするもんだ。そうじゃなかったら皆悩まんとさっきから言ってるのにまだ分からんのか」
「でもなあ…。仙蔵もそうなのか?」
「くどいぞ小平太。それに今は私のことじゃなくてお前の話をしているんだろうが」
ぴしゃりとそう言う仙蔵に小平太は微妙な顔をして黙った。
そのまま仙蔵は畳み掛けるように言う。
「お前はほへとさんが好きなんだろう?」
「ああ」
「ほへとさんが幸せなら嬉しいか?」
「当たり前だ。皆が幸せならそれに越したことないからな」
「ではほへとさんが利吉さんに頬染めて駆け寄っていったらどうだ?」
「・・・う」
「あまつさえ手作りのビスコイトなぞ差し出したりして『食べてください』なんて言ったらどうだ?」
「・・・それは、嫌だな」
「そらみろ。めでたく利吉さんと付き合うことになったほへとさんが仲睦まじそうに手を繋いだり、あまつさえ口吸い・・・」
「・・・・・・・・・仙蔵」
「逆にほへとさんから利吉さんの相談なぞされてみろ。それこそ・・・。ん?どうした長次」
「・・・小平太が・・・・・・」
「おや、言い過ぎたか?」
長次の言葉に仙蔵が小平太を見やれば、頭から煙を出して沈没している小平太の姿があった。
「・・・・・・そんなことになったら私、どうしたらいいかわからん・・・」
「相当重症のようだな」
その姿に可笑しそうに笑う仙蔵。長次と顔を見合わせる。
「しかしそれが普通だ。やっと分かったか?自分がどれほど彼女に惚れているか」
溜め息を吐きながら立ち上がる仙蔵。もうとうに夜は更けている。
「・・・悪かったな・・・・・・。急に呼んで・・・・・・」
「いや構わない。長次が私を呼びにくるなんてよほどのことだと思ったが。・・・まあ珍しいものが見れて私も面白かったよ」
くつくつと笑う仙蔵。その顔は心底面白い物を見つけたような顔だった。
「しばらく退屈しなさそうだ。・・・小平太、精々悩め」
邪魔したな。そう言って部屋を後にした仙蔵。
後には未だ布団に突っ伏している小平太と、それをどこかしか気遣わしげに見ている長次がいた。
「・・・長次」
沈没から復活したらしい小平太が顔を上げて長次を見た。その顔はどこか真面目な面持ちだった。
「仙蔵が言うように、私はほへとちゃんに惚れてるのかもしれない。が、正直やっぱりまだよくわからん」
「・・・・・・そうか」
頭を掻きながらどこか沈んだ声で言う小平太に長次はポツリと言った。
「そう・・・すぐ結論を出さずとも・・・いいんじゃないか?」
明日の朝に、彼女の顔を見てそのときに思ったことが本当の気持ちだろう?悩んでるのはお前らしくない。
そう小平太に言うと、そうだな。とくしゃりとした笑顔で小平太は答えた。
「ありがとな長次!」
解決したところで、寝るか!と、打って変わって明るい声になった小平太は早々に自分の布団に潜り込む。
長次が火の始末をすると、自室に本来の暗闇が戻る。長い夜は終息を迎えた。
(・・・・・・忍として支障が出なければいいが・・・・・・)
長次は隣で布団を被っている男のそれだけが気がかりだった。