第二章<日常編>
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何故だろう。
こんなことは生まれて初めてだ。こんなに心が騒ぐなんて。
わからない。わからない。
切なくて、もどかしくて、焼け付くように熱い。
今すぐ大声で叫びだしたいのに、一人きりで黙っていたいような。
何かをぐちゃぐちゃに壊したいのに、その何かをそっと守りたいような、そんな相反する感情群。
これは何だ。
時折感じていた、この思い。
薄っすらとよぎる、焦燥感に似た思い。
もやもやと消化不良を起こしたような不確かなこの気持ち。
このような感情を私は知らない。
20
「長次、私はどこかおかしいかもしれない」
「・・・?」
就寝前の長屋部屋で、小平太が珍しく弱気な声をあげた。
壁を背にうだうだと頭を右に左に動かす。その様子に長次は読んでいた本から顔をあげた。
「・・・なにか、あったのか・・・?」
「あったといえばあったんだが、なにもないといえばないんだ」
「・・・?」
煮え切らない態度の小平太に、改めて長次は向きを変えて座り直した。
こんな風な小平太を見るのは長次も始めてだった。
「ほへとちゃんが見合いをするんだと」
「・・・・・・誰とだ?」
「利吉さん」
ああ。山田先生の息子さんの・・・。
長次はすぐさま脳内に彼の顔を思い浮かべ、隣にほへとの顔を並べてみる。
「・・・・・・お似合いだな」
「そう。そうなんだよなー。・・・利吉さんとほへとちゃん。歳も近いし美男美女。お似合いなんだよな」
相変わらず歯切れの悪い物言いの小平太。逆に長次の調子が悪くなりそうな心持ちだった。
「・・・・・・何が・・・言いたいんだ?」
「それがわからん」
小平太はぐるりと首を長次の方に回すと、急にがばっと体を起こし、鼻息も荒く見る間に長次に詰め寄った。
「私もわからん。わからんのだ長次!どうしたらいいと思う!?」
眼前に差し迫った小平太の顔が長次の目を見据える。
「私ははっきりしないのは好きじゃないんだ!」
そう言って憤慨している小平太。歯をぎりぎりさせて、手を開いたり閉じたり、頭を掻いたり忙しない。
”はっきりしないのは好きじゃないんだ!”って。
(・・・・・・自分のことだろうに)
長次は心の中で冷静にそう思ったが、目の前の同室の男は未だ納得いかないような顔で長次の顔を見つめていた。
「私は何でかわからんがほへとちゃんが利吉さんと見合いするなんて嫌だ!」
「・・・・・・」
そう、ぶすっとした顔で言う小平太。目の力が強い。
「でも何で嫌なのかわからんのだ。結婚ってめでたいことだろう?利吉さんはプロの忍者だし。あの人だったらほへとちゃんだって幸せになれると思う。なのに、私は嫌なんだ!納得できないんだほへとちゃんが利吉さんの嫁になるなんて!」
「・・・・・・・・・まだ決まったわけじゃないぞ」
「そうだけど!!嫌なもんは嫌なんだ」
一気に言うだけ言って頭を垂れる小平太。頭から湯気が出そうなくらい不機嫌な顔をしている。
(・・・これは)
目の前の男は気付いてないのだろうか。そうだとしたらかなり鈍いと思う。
長次は半ば呆れるような同情するような面持ちで、一連の話から客観的に出た答えを紡ぎだす。
「・・・・・・つまりお前は」
ぽつりと長次は口を開いた。
それに目をかっと開いて小平太は次の言葉を待つ。
「なんだ?私はつまり何なんだ?」
「・・・嫉妬・・・・・・・・・してるな」
「はあ?何で?」
(嫉妬?私が?何で?誰に?どうして?)
意味が分からない。と言った様子で、ぽかんと口を開ける小平太に、長次は続ける。
「・・・・・・好き、だからじゃないか・・・?」
「なんで好きだとそうなるんだ?」
その言葉に、小平太はなおも首を傾げる。しかしその様子に逆に今度は長次が首を傾げる番だった。
「好きじゃ・・・ないのか?」
「何言ってるんだ長次。私がほへとちゃんを嫌いなわけないだろう」
自信満々に言う小平太。何だか話が矛盾している。
「・・・・・・・・・」
「なんだ長次?言いたいことがあるなら言え」
この男になんて言ったらいいだろう。
そうでなくともこの手の話はややこしくて面倒臭いものだというのに。
・・・・・・はあ
長くなりそうな夜に長次はゆっくり溜め息を吐いた。
こんなことは生まれて初めてだ。こんなに心が騒ぐなんて。
わからない。わからない。
切なくて、もどかしくて、焼け付くように熱い。
今すぐ大声で叫びだしたいのに、一人きりで黙っていたいような。
何かをぐちゃぐちゃに壊したいのに、その何かをそっと守りたいような、そんな相反する感情群。
これは何だ。
時折感じていた、この思い。
薄っすらとよぎる、焦燥感に似た思い。
もやもやと消化不良を起こしたような不確かなこの気持ち。
このような感情を私は知らない。
20
「長次、私はどこかおかしいかもしれない」
「・・・?」
就寝前の長屋部屋で、小平太が珍しく弱気な声をあげた。
壁を背にうだうだと頭を右に左に動かす。その様子に長次は読んでいた本から顔をあげた。
「・・・なにか、あったのか・・・?」
「あったといえばあったんだが、なにもないといえばないんだ」
「・・・?」
煮え切らない態度の小平太に、改めて長次は向きを変えて座り直した。
こんな風な小平太を見るのは長次も始めてだった。
「ほへとちゃんが見合いをするんだと」
「・・・・・・誰とだ?」
「利吉さん」
ああ。山田先生の息子さんの・・・。
長次はすぐさま脳内に彼の顔を思い浮かべ、隣にほへとの顔を並べてみる。
「・・・・・・お似合いだな」
「そう。そうなんだよなー。・・・利吉さんとほへとちゃん。歳も近いし美男美女。お似合いなんだよな」
相変わらず歯切れの悪い物言いの小平太。逆に長次の調子が悪くなりそうな心持ちだった。
「・・・・・・何が・・・言いたいんだ?」
「それがわからん」
小平太はぐるりと首を長次の方に回すと、急にがばっと体を起こし、鼻息も荒く見る間に長次に詰め寄った。
「私もわからん。わからんのだ長次!どうしたらいいと思う!?」
眼前に差し迫った小平太の顔が長次の目を見据える。
「私ははっきりしないのは好きじゃないんだ!」
そう言って憤慨している小平太。歯をぎりぎりさせて、手を開いたり閉じたり、頭を掻いたり忙しない。
”はっきりしないのは好きじゃないんだ!”って。
(・・・・・・自分のことだろうに)
長次は心の中で冷静にそう思ったが、目の前の同室の男は未だ納得いかないような顔で長次の顔を見つめていた。
「私は何でかわからんがほへとちゃんが利吉さんと見合いするなんて嫌だ!」
「・・・・・・」
そう、ぶすっとした顔で言う小平太。目の力が強い。
「でも何で嫌なのかわからんのだ。結婚ってめでたいことだろう?利吉さんはプロの忍者だし。あの人だったらほへとちゃんだって幸せになれると思う。なのに、私は嫌なんだ!納得できないんだほへとちゃんが利吉さんの嫁になるなんて!」
「・・・・・・・・・まだ決まったわけじゃないぞ」
「そうだけど!!嫌なもんは嫌なんだ」
一気に言うだけ言って頭を垂れる小平太。頭から湯気が出そうなくらい不機嫌な顔をしている。
(・・・これは)
目の前の男は気付いてないのだろうか。そうだとしたらかなり鈍いと思う。
長次は半ば呆れるような同情するような面持ちで、一連の話から客観的に出た答えを紡ぎだす。
「・・・・・・つまりお前は」
ぽつりと長次は口を開いた。
それに目をかっと開いて小平太は次の言葉を待つ。
「なんだ?私はつまり何なんだ?」
「・・・嫉妬・・・・・・・・・してるな」
「はあ?何で?」
(嫉妬?私が?何で?誰に?どうして?)
意味が分からない。と言った様子で、ぽかんと口を開ける小平太に、長次は続ける。
「・・・・・・好き、だからじゃないか・・・?」
「なんで好きだとそうなるんだ?」
その言葉に、小平太はなおも首を傾げる。しかしその様子に逆に今度は長次が首を傾げる番だった。
「好きじゃ・・・ないのか?」
「何言ってるんだ長次。私がほへとちゃんを嫌いなわけないだろう」
自信満々に言う小平太。何だか話が矛盾している。
「・・・・・・・・・」
「なんだ長次?言いたいことがあるなら言え」
この男になんて言ったらいいだろう。
そうでなくともこの手の話はややこしくて面倒臭いものだというのに。
・・・・・・はあ
長くなりそうな夜に長次はゆっくり溜め息を吐いた。