第一章<出会い編>
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「ほへとちゃん、ここで働けばいいのに」
・・・そんな選択肢があるなんて気がつかなかった
16
「いっただっきまーす!!!」
「お残しはゆるしまへんでー!」
大きな声で食膳の合掌をした一年は組のみんなは笑顔で夕飯を食べ始める。
ほへとが準備を手伝ったことで、その日の食堂の当番であった金吾と喜三太が来るまでには全ての料理が出来上がっていた。
今日の煮物はほへとが担当した大根と厚揚げの煮物。材料はおばちゃんが用意したものの、味付けはほへとの味付けである。ほへとは料理は得意であったが、いかんせん食堂の美味しい料理を食べなれている忍たま達の反応が気になるところであった。
「あれ?この煮物・・・」
ドキ。
きり丸が煮物を一口食べて声をあげた。つられて、は組の皆も声をあげる。
「うん、いつもの味じゃないね」
「本当だー」
「でも・・・」
「美味しい」
「うん。いつもの味じゃないけど」
(よ、よかったあ・・・)
思わずほっと胸を撫で下ろすほへと。「だから大丈夫って言ったじゃないの」とおばちゃんも笑った。
「この煮物はねえ、ほへとおねえさんが作ったんだよ!!」
「そうそう、ほへとさんすっごく料理上手なんだ。びっくりしちゃった」
喜三太と金吾が声をあげて主張すると、皆が揃ったようにほへとを見た。
「そうなんですか!?」
「すごーい!!」
「ほへとさんて料理上手なんですねー」
「他に何が作れますか?」
「今度はいつ作ってくれますか?」
「とっても美味しいです!」
「何料理が得意ですか?」
「いつから料理上手なんですか?」
「また作ってくれますか?」
同じタイミングでは組からごっちゃりと喋られ、ほへとは苦笑いしながら「ありがとう、みんな」とだけ返した。
さすがに土井半助のような聞き分けの芸当は持ち合わせていなかった。
「あー、腹減ったー」
「・・・・・・」
「今日の夕飯何だろう」
「・・・あ!ほへとちゃん」
夕飯の匂いに誘われるように、留三郎、長次、伊作、小平太の六年生が食堂に姿を現した。
小平太は食堂に入ってほへとを見つけるなりぱたぱたと近づいてきた。他の三人もそれに続く。
ほへとがてきぱきと四人分の膳をそれぞれに渡すと、小平太がほへとに声をかけた。
「見かけないと思ったら食堂で手伝いしてたのか」
「そうなんです。大したことはしてませんが」
「何言ってるの。大したことあるわよ。今日の煮物はほへとちゃんが作ってくれたんだから」
「本当に?」
席に着くなり皆が一様に煮物を口に含む。
いつもの味とはまたひと味違う旨味が広がる。素朴な味付けながらも具材にはしっかりと味が染み込んでいた。
「うまい!」
「うん、美味しい」
「・・・・・・・・・うまい」
「へえ」
最後の見慣れない顔に少しほへとが首を傾げると、伊作が留三郎の紹介をしてくれた。
ほへとと小平太が山に行ってしまった際、一緒に伊作と学園中を探し回ったことを、後でほへとは小耳に挟んでいた。
「始めまして。その節は大変お手数をおかけしました」
「いや別に。気にすんなよ。・・・まあ、アンタも大変だったな」
「いいえ。むしろ小平太くんには感謝してるくらいで。もちろん図書委員のみんなにもね」
そう言ってほへとが長治に微笑むと、長次はまた無言でほへとに頷いた。
ほへとも「ありがとうございます」とそれに笑いながら答える。
「それに保健委員会のみんなにも。心配ばっかりかけさせてしまって」
「本当ですよ。二度とこんなこと無いようにしてくださいよ」
「でも足はもう大丈夫ですし・・・」
「まだ油断はできないんですから。走ったりとか運動は控えるようにしてくださいね」
「手厳しいですね」
そう言って笑いながら話す伊作とほへと。
(・・・・・・)
その長次の雰囲気があまりに自然だったこと、伊作とほへとの会話、自分の知らない間に随分二人がほへとと仲良くなっていることに、小平太は何だか面白くなかった。
(六年の中で、私が一番最初にほへとちゃんと出会ったのになあ)
胸のあたりが何だかつかえるような気がして、小平太は味噌汁を一気に飲み込んだ。
(・・・何故私はこんな事を思うんだろうか)
彼女が笑うようになって嬉しいのに。
何故だかあんまり嬉しくない。どうして。
「小平太くん、どうかしました?」
「うん?なんでもないぞ。ほへとちゃんの煮物うまいなあーって味わってたところだ」
つい誤魔化してしまった。何もやましいことなどないのに。悪いことなど一つもないのに。
小平太は自分自身がよくわからなかった。
***
「そういえば、ほへとさんは今後どうするつもりなんですか?」
「…そう、そうね」
「そうだな。足も治ったことだ。そろそろ学園長先生のところへ行くべきだろうな」
伊作と小平太は学園長の庵に赴いた日の事を思い出していた。
怪我が回復し次第、ほへとはこれからの身の振り方を学園長に伝えなければいけない。
「…いろいろ考えてみたのだけれど、住み込みで働かせてくれるところを探そうかと思っているの」
「住み込み?」
「そう。茶屋とか、どこかのお屋敷とか」
ほへとは学園を拠点に仕事を見つけて自立しようということを考えていた。
家事一般は得意だし、住み込みのできる屋敷で働きたいと思っていた。賃貸の長屋を借りる手もあったが、今の持ち金ではそれも無理な話だった。
「ほへとおねえさん出ていっちゃうんですか!?」
「嫌だよほへとさん…もう少しいたらいいのに」
「今度俺達の頑張ってるとこ見てみたいって言ってたじゃないすか!!」
「一緒に遠足行くって約束したでしょう?」
「お団子も一緒に行くって!!」
「ぼくの火縄銃見てくれるんでしょ!?」
「ぼくのナメクジさんもまだ見て貰ってないよ!?」
「出ていっちゃ嫌だよ!」
「ぼくのお茶も飲んでもらってないし!」
「どうしても行っちゃうの?」
「ほへとさん忍術学園好きじゃない?」
六年生とほへとの話を聞いていた一年は組の11人全員がほへとの側に群がった。
ほへとはしゃがみながらしんべヱの鼻をかみつつ、べそをかく喜三太の頭をあやすように撫でた。
「はは。慕われてますね」
「ほへとちゃん、ここで働けばいいのに」
一連を見ていた伊作と小平太が笑いながら言った。
小平太の思いもよらなかった言葉にほへとは目を丸くする。
「え、でも・・・そこまで甘えるわけには」
「料理上手いんだしさ、手伝ったらおばちゃんも助かるんじゃない?」
「それは名案だわね」
流しで皿を洗っていたおばちゃんが手を拭きながら顔を覗かせる。
「ほへとちゃんは謙遜してるけど、アンタの料理の腕は大したもんだよ。手際も良いし材料に無駄がないし。ほへとちゃんみたいな子があたしの手伝いしてくれたら、もう大助かり」
どう?
とおばちゃんはほへとに問いかけた。
忍術学園で働く。
ほへとは考えてもみなかった。
しかし、よくよく考えたらこれ以上待遇の良い仕事もない。
だが、しかし
「そう、ですね・・・」
これ以上甘えてしまって良いのだろうか。
悩みながら、ふと周りを見渡すと巻きついていたは組の子供たちが一様に目をキラキラとさせていた。
「ええと…ダメ元で学園長先生に・・・お願いしてみましょうか」
「わーい!!!」
一年は組のあまりの喜びようにおばちゃんと六年生の面々は苦笑しながらその様子を見つめていた。
こんな風に喜ばれると、出て行こうと思っていたほへとは何だか後ろ髪が引かれる思いだ。
「まだ、雇って貰えるかわかりませんけど・・・もしその時はよろしくお願いしますね」
ほへとのその言葉に皆一様に大きく頷いた。
・・・そんな選択肢があるなんて気がつかなかった
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「いっただっきまーす!!!」
「お残しはゆるしまへんでー!」
大きな声で食膳の合掌をした一年は組のみんなは笑顔で夕飯を食べ始める。
ほへとが準備を手伝ったことで、その日の食堂の当番であった金吾と喜三太が来るまでには全ての料理が出来上がっていた。
今日の煮物はほへとが担当した大根と厚揚げの煮物。材料はおばちゃんが用意したものの、味付けはほへとの味付けである。ほへとは料理は得意であったが、いかんせん食堂の美味しい料理を食べなれている忍たま達の反応が気になるところであった。
「あれ?この煮物・・・」
ドキ。
きり丸が煮物を一口食べて声をあげた。つられて、は組の皆も声をあげる。
「うん、いつもの味じゃないね」
「本当だー」
「でも・・・」
「美味しい」
「うん。いつもの味じゃないけど」
(よ、よかったあ・・・)
思わずほっと胸を撫で下ろすほへと。「だから大丈夫って言ったじゃないの」とおばちゃんも笑った。
「この煮物はねえ、ほへとおねえさんが作ったんだよ!!」
「そうそう、ほへとさんすっごく料理上手なんだ。びっくりしちゃった」
喜三太と金吾が声をあげて主張すると、皆が揃ったようにほへとを見た。
「そうなんですか!?」
「すごーい!!」
「ほへとさんて料理上手なんですねー」
「他に何が作れますか?」
「今度はいつ作ってくれますか?」
「とっても美味しいです!」
「何料理が得意ですか?」
「いつから料理上手なんですか?」
「また作ってくれますか?」
同じタイミングでは組からごっちゃりと喋られ、ほへとは苦笑いしながら「ありがとう、みんな」とだけ返した。
さすがに土井半助のような聞き分けの芸当は持ち合わせていなかった。
「あー、腹減ったー」
「・・・・・・」
「今日の夕飯何だろう」
「・・・あ!ほへとちゃん」
夕飯の匂いに誘われるように、留三郎、長次、伊作、小平太の六年生が食堂に姿を現した。
小平太は食堂に入ってほへとを見つけるなりぱたぱたと近づいてきた。他の三人もそれに続く。
ほへとがてきぱきと四人分の膳をそれぞれに渡すと、小平太がほへとに声をかけた。
「見かけないと思ったら食堂で手伝いしてたのか」
「そうなんです。大したことはしてませんが」
「何言ってるの。大したことあるわよ。今日の煮物はほへとちゃんが作ってくれたんだから」
「本当に?」
席に着くなり皆が一様に煮物を口に含む。
いつもの味とはまたひと味違う旨味が広がる。素朴な味付けながらも具材にはしっかりと味が染み込んでいた。
「うまい!」
「うん、美味しい」
「・・・・・・・・・うまい」
「へえ」
最後の見慣れない顔に少しほへとが首を傾げると、伊作が留三郎の紹介をしてくれた。
ほへとと小平太が山に行ってしまった際、一緒に伊作と学園中を探し回ったことを、後でほへとは小耳に挟んでいた。
「始めまして。その節は大変お手数をおかけしました」
「いや別に。気にすんなよ。・・・まあ、アンタも大変だったな」
「いいえ。むしろ小平太くんには感謝してるくらいで。もちろん図書委員のみんなにもね」
そう言ってほへとが長治に微笑むと、長次はまた無言でほへとに頷いた。
ほへとも「ありがとうございます」とそれに笑いながら答える。
「それに保健委員会のみんなにも。心配ばっかりかけさせてしまって」
「本当ですよ。二度とこんなこと無いようにしてくださいよ」
「でも足はもう大丈夫ですし・・・」
「まだ油断はできないんですから。走ったりとか運動は控えるようにしてくださいね」
「手厳しいですね」
そう言って笑いながら話す伊作とほへと。
(・・・・・・)
その長次の雰囲気があまりに自然だったこと、伊作とほへとの会話、自分の知らない間に随分二人がほへとと仲良くなっていることに、小平太は何だか面白くなかった。
(六年の中で、私が一番最初にほへとちゃんと出会ったのになあ)
胸のあたりが何だかつかえるような気がして、小平太は味噌汁を一気に飲み込んだ。
(・・・何故私はこんな事を思うんだろうか)
彼女が笑うようになって嬉しいのに。
何故だかあんまり嬉しくない。どうして。
「小平太くん、どうかしました?」
「うん?なんでもないぞ。ほへとちゃんの煮物うまいなあーって味わってたところだ」
つい誤魔化してしまった。何もやましいことなどないのに。悪いことなど一つもないのに。
小平太は自分自身がよくわからなかった。
***
「そういえば、ほへとさんは今後どうするつもりなんですか?」
「…そう、そうね」
「そうだな。足も治ったことだ。そろそろ学園長先生のところへ行くべきだろうな」
伊作と小平太は学園長の庵に赴いた日の事を思い出していた。
怪我が回復し次第、ほへとはこれからの身の振り方を学園長に伝えなければいけない。
「…いろいろ考えてみたのだけれど、住み込みで働かせてくれるところを探そうかと思っているの」
「住み込み?」
「そう。茶屋とか、どこかのお屋敷とか」
ほへとは学園を拠点に仕事を見つけて自立しようということを考えていた。
家事一般は得意だし、住み込みのできる屋敷で働きたいと思っていた。賃貸の長屋を借りる手もあったが、今の持ち金ではそれも無理な話だった。
「ほへとおねえさん出ていっちゃうんですか!?」
「嫌だよほへとさん…もう少しいたらいいのに」
「今度俺達の頑張ってるとこ見てみたいって言ってたじゃないすか!!」
「一緒に遠足行くって約束したでしょう?」
「お団子も一緒に行くって!!」
「ぼくの火縄銃見てくれるんでしょ!?」
「ぼくのナメクジさんもまだ見て貰ってないよ!?」
「出ていっちゃ嫌だよ!」
「ぼくのお茶も飲んでもらってないし!」
「どうしても行っちゃうの?」
「ほへとさん忍術学園好きじゃない?」
六年生とほへとの話を聞いていた一年は組の11人全員がほへとの側に群がった。
ほへとはしゃがみながらしんべヱの鼻をかみつつ、べそをかく喜三太の頭をあやすように撫でた。
「はは。慕われてますね」
「ほへとちゃん、ここで働けばいいのに」
一連を見ていた伊作と小平太が笑いながら言った。
小平太の思いもよらなかった言葉にほへとは目を丸くする。
「え、でも・・・そこまで甘えるわけには」
「料理上手いんだしさ、手伝ったらおばちゃんも助かるんじゃない?」
「それは名案だわね」
流しで皿を洗っていたおばちゃんが手を拭きながら顔を覗かせる。
「ほへとちゃんは謙遜してるけど、アンタの料理の腕は大したもんだよ。手際も良いし材料に無駄がないし。ほへとちゃんみたいな子があたしの手伝いしてくれたら、もう大助かり」
どう?
とおばちゃんはほへとに問いかけた。
忍術学園で働く。
ほへとは考えてもみなかった。
しかし、よくよく考えたらこれ以上待遇の良い仕事もない。
だが、しかし
「そう、ですね・・・」
これ以上甘えてしまって良いのだろうか。
悩みながら、ふと周りを見渡すと巻きついていたは組の子供たちが一様に目をキラキラとさせていた。
「ええと…ダメ元で学園長先生に・・・お願いしてみましょうか」
「わーい!!!」
一年は組のあまりの喜びようにおばちゃんと六年生の面々は苦笑しながらその様子を見つめていた。
こんな風に喜ばれると、出て行こうと思っていたほへとは何だか後ろ髪が引かれる思いだ。
「まだ、雇って貰えるかわかりませんけど・・・もしその時はよろしくお願いしますね」
ほへとのその言葉に皆一様に大きく頷いた。