第一章<出会い編>
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ゆっくりゆっくり、背中を擦ってくれた、温かい手。
こんな風に子供のように泣いたのは兄上の前だけ。
いつも泣くときは声を殺して泣いていた。
泣くのはみっともないと思っていた。どこかで泣く事を恐れていた。
泣いても誰も助けてはくれないのだと、どこかで絶望していた。
でも、違った。
こうして抱き締めてくれる人がいた。手を握ってくれる人がいた。背中を擦ってくれる人がいた。
兄上。
不謹慎だけどね。
今日初めて心の底からここに来て良かったと思えたの。
13
「・・・ごめんなさい図書室で泣いたりして・・・」
幾分か心が落ち着いたほへとは涙に濡れた声で言った。
ほへとは恥ずかしかった。
きり丸は、悲しみは大人も子供も関係ない。と言っていたが、やはり十年近くも年の離れた男の子に縋って泣くのはどうもみっともない感じがした。
泣くだけでは何も変わらない。と小さな頃から心身に染み込んでいただけに、その衝撃は思いの外大きい。
初対面の人間ばかりの空間で惜しげもなく泣いてしまった自分が信じられなかった。
「・・・・・・・・・」
「・・・長次くん?」
中在家長次はほへとの頭に無言で手を乗せて撫でた。同情でも哀れみでもない、ただ真摯に見つめる優しい瞳。
「・・・いつでも・・・来たらいい・・・」
その言葉に無言で長次を見つめ返す。
それに続いて雷蔵も口を開いた。
「そうですよ。いつでも遊びに来てください」
雷蔵は自身より一回り小さな白い手をぎゅっと握り締めた。
”貴女は決して一人じゃありませんよ”と、そう言い聞かせるように。
「泣きたくなったらいつでも私の胸を貸してあげてもいい」
そう言って三郎はにいっと笑った。
皆の言葉にほへとは図らずも眉根を寄せた。
そうしないとまたいろんなものが溢れてしまいそうだった。
「見つけたー!!」
図書室の空気を裂くように、突然降って沸いたような声。その場の全員が声の方を見やった。
「な、七松先輩…」
「おう雷蔵」
全く持って今のこの図書室の場にそぐわない男がやって来たな…。と若干名は思った。
そんな事を知ってか知らずか、きっと後者の方であろう小平太はその持ち前の明るさを未だ匂わせたまま遠慮なく足を踏み入れる。
ツカツカと躊躇なく真直ぐほへとに近付き、側に身を屈めた。
ほへとの目には未だ零れ損なった涙が行場を彷徨っていた。
「ほへとちゃん見ーつけた。全くそんな体で出歩くなんて」
「小平太くん…」
小平太はその大きな手でほへとの頬に無遠慮に触れた。また泣いてたのか?と指で涙をごしごしと拭う。
何だか犬を相手にしているかのような動作だが、小平太の温度はほへとにじんわりと染み渡ってゆく。
「部屋にいなかったから学園を出て行ったかと思った」
伊作なんてもうかんかんだぞ。と言いながらにいと笑った。
「七松先輩… ほへとさんを連れ戻しに来たんすか?」
伊作の名が出たことで、 ほへとを長屋に連れ戻しに来たと思ったきり丸は手にいっそうの力をこめる。
今はほへと一人を部屋へ返したくはなかった。
「そのつもりだったんだけどな」
「七松先輩、ほへとさんは…」
「気が変わった」
「へ?」
雷蔵の言いかけた言葉を遮って小平太は言った。
「ちょっといい?」
「え?」
小平太は皆に手を放すように言うと、そのままほへとをひょいと肩に抱えた。
未だ現状の把握が追い付いていない四人は、小平太の顔とほへとの顔を交互に見た。
ほへとも突然のことに呆気にとられている。
「じゃ、長次あと頼む」
「・・・・・・・・・・・・」
「って…七松先輩!?」
きり丸と雷蔵は声をあげたが、小平太の言葉に何となく状況を把握した長次がコクリと頷くと、小平太はそのまま風のようにほへとを連れ去った。
あとには未だしんみりとした空気と、呆然と佇む3人。そして一人息をつく長次が残された。
「あとを頼む…って…」
「中在家先輩、ほへとさんを七松先輩に預けて良かったんでしょうか…」
三郎と雷蔵が口々に疑問の声をあげる。
すると、
「ここにほへとさん来てない!?」
小平太と数分の入れ違いで善法寺伊作が図書室に飛び込んで来た。
「「「これか」」」
「え?」
三人の物凄く納得した声に、今度は伊作がきょとんとする番だった。
こんな風に子供のように泣いたのは兄上の前だけ。
いつも泣くときは声を殺して泣いていた。
泣くのはみっともないと思っていた。どこかで泣く事を恐れていた。
泣いても誰も助けてはくれないのだと、どこかで絶望していた。
でも、違った。
こうして抱き締めてくれる人がいた。手を握ってくれる人がいた。背中を擦ってくれる人がいた。
兄上。
不謹慎だけどね。
今日初めて心の底からここに来て良かったと思えたの。
13
「・・・ごめんなさい図書室で泣いたりして・・・」
幾分か心が落ち着いたほへとは涙に濡れた声で言った。
ほへとは恥ずかしかった。
きり丸は、悲しみは大人も子供も関係ない。と言っていたが、やはり十年近くも年の離れた男の子に縋って泣くのはどうもみっともない感じがした。
泣くだけでは何も変わらない。と小さな頃から心身に染み込んでいただけに、その衝撃は思いの外大きい。
初対面の人間ばかりの空間で惜しげもなく泣いてしまった自分が信じられなかった。
「・・・・・・・・・」
「・・・長次くん?」
中在家長次はほへとの頭に無言で手を乗せて撫でた。同情でも哀れみでもない、ただ真摯に見つめる優しい瞳。
「・・・いつでも・・・来たらいい・・・」
その言葉に無言で長次を見つめ返す。
それに続いて雷蔵も口を開いた。
「そうですよ。いつでも遊びに来てください」
雷蔵は自身より一回り小さな白い手をぎゅっと握り締めた。
”貴女は決して一人じゃありませんよ”と、そう言い聞かせるように。
「泣きたくなったらいつでも私の胸を貸してあげてもいい」
そう言って三郎はにいっと笑った。
皆の言葉にほへとは図らずも眉根を寄せた。
そうしないとまたいろんなものが溢れてしまいそうだった。
「見つけたー!!」
図書室の空気を裂くように、突然降って沸いたような声。その場の全員が声の方を見やった。
「な、七松先輩…」
「おう雷蔵」
全く持って今のこの図書室の場にそぐわない男がやって来たな…。と若干名は思った。
そんな事を知ってか知らずか、きっと後者の方であろう小平太はその持ち前の明るさを未だ匂わせたまま遠慮なく足を踏み入れる。
ツカツカと躊躇なく真直ぐほへとに近付き、側に身を屈めた。
ほへとの目には未だ零れ損なった涙が行場を彷徨っていた。
「ほへとちゃん見ーつけた。全くそんな体で出歩くなんて」
「小平太くん…」
小平太はその大きな手でほへとの頬に無遠慮に触れた。また泣いてたのか?と指で涙をごしごしと拭う。
何だか犬を相手にしているかのような動作だが、小平太の温度はほへとにじんわりと染み渡ってゆく。
「部屋にいなかったから学園を出て行ったかと思った」
伊作なんてもうかんかんだぞ。と言いながらにいと笑った。
「七松先輩… ほへとさんを連れ戻しに来たんすか?」
伊作の名が出たことで、 ほへとを長屋に連れ戻しに来たと思ったきり丸は手にいっそうの力をこめる。
今はほへと一人を部屋へ返したくはなかった。
「そのつもりだったんだけどな」
「七松先輩、ほへとさんは…」
「気が変わった」
「へ?」
雷蔵の言いかけた言葉を遮って小平太は言った。
「ちょっといい?」
「え?」
小平太は皆に手を放すように言うと、そのままほへとをひょいと肩に抱えた。
未だ現状の把握が追い付いていない四人は、小平太の顔とほへとの顔を交互に見た。
ほへとも突然のことに呆気にとられている。
「じゃ、長次あと頼む」
「・・・・・・・・・・・・」
「って…七松先輩!?」
きり丸と雷蔵は声をあげたが、小平太の言葉に何となく状況を把握した長次がコクリと頷くと、小平太はそのまま風のようにほへとを連れ去った。
あとには未だしんみりとした空気と、呆然と佇む3人。そして一人息をつく長次が残された。
「あとを頼む…って…」
「中在家先輩、ほへとさんを七松先輩に預けて良かったんでしょうか…」
三郎と雷蔵が口々に疑問の声をあげる。
すると、
「ここにほへとさん来てない!?」
小平太と数分の入れ違いで善法寺伊作が図書室に飛び込んで来た。
「「「これか」」」
「え?」
三人の物凄く納得した声に、今度は伊作がきょとんとする番だった。