第一章<出会い編>
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あんなに悲しそうに泣く女の人を始めて見た。
09-b
「伊作」
「・・・うん?」
彼女をいつもの部屋に送り届けた後、長屋に戻るまで伊作と小平太はずっと無言だった。
彼女の顔から笑みは消え、今朝方笑っていたのが嘘のようだった。
「私、ほへとちゃんを守りたいぞ」
唐突に、しかしはっきりと小平太は言った。
小平太の言葉に驚いた風でもなく、伊作もうん。と返した。
「あんなに悲しそうに泣く人、初めて見た」
思い出されるのは震える小さな肩。
泣き声を噛み殺した声無き声。
言い知れぬ不安と絶望に耐え、一人突きつけられた現実と対峙していた彼女。
彼女に起こった悲劇。覆しようのない現実。
やりきれない焦燥感に二人は渋い顔をした。
自分たちは彼女に何をしてやれるだろう。
***
『ありがとう、ございます・・・』
その懇願するような切ない声が耳に残った。
「なんとも悲しい娘さんだなあ」
山田伝蔵の声に我に返った。
「利吉くんと同い年くらいですかね」
「そうだろうな。うちのと同じくらいだろう」
どうして彼女はあんなに悲しい運命を背負ってしまったんだろう。
この時代、親の無い子はいくらでもいるというのに。
彼女は親を2回も亡くしたことになる。たった一人の肉親にももう会えない。
土井半助は自分の境遇と彼女を重ねてなんともいえない気持ちになった。
「彼女の兄、いろはに正成っていうのは当時かなり優秀な忍たまでな」
「へえ」
「ちょうど十年前って言えば、土井先生と同い年くらいじゃないの」
言われて見れば彼女の兄はちょうど半助と同い年のようだった。
「妹と思って目をかけてやりなさいな」
「はあ、妹ですか」
「それか身寄りもないんだし、土井先生アンタあの娘さんを嫁に貰うとかどうよ」
度胸はあるし器量良しだし。と山田伝蔵は笑った。
「山田先生・・・」
「はいはい。冗談じゃないの」
でも、実際これからどうするんだろうねえあの娘さんは。と山田伝蔵はぽつりと言った。
一人の父親としての正直な言葉だった。
あの震える小さな背中。
消えそうな声、身を削って話す痛々しい姿が何とも哀れであった。
***
「先生その苦無どうしたんですかぁ?」
「錆びついちゃって凄いでしゅ」
長屋でくノたまが山本シナに声をかける。
シナは丁寧に苦無の錆びた箇所を水で研いでいく。
「いろはにほへとさんの苦無よ」
「ほへとさん・・・って」
「あの人、くノ一だったんですか?」
吃驚するくノたまの生徒に違うわ。と微笑みかける。
生徒は訳が分からずに疑問の声を出す。
「大事な大事な人の、形見なんだそうよ」
その言葉に何かを察したのか急に大人しくなるくノたまの生徒。
「愛が彼女の命を救ったのよ」
それが例え何かを奪う結果になったとしても。
命を奪う道具は命を繋ぐこともある。
「それって・・・」
「なんだか素敵でしゅ」
生徒の言葉にシナは微笑んだ
09-b
「伊作」
「・・・うん?」
彼女をいつもの部屋に送り届けた後、長屋に戻るまで伊作と小平太はずっと無言だった。
彼女の顔から笑みは消え、今朝方笑っていたのが嘘のようだった。
「私、ほへとちゃんを守りたいぞ」
唐突に、しかしはっきりと小平太は言った。
小平太の言葉に驚いた風でもなく、伊作もうん。と返した。
「あんなに悲しそうに泣く人、初めて見た」
思い出されるのは震える小さな肩。
泣き声を噛み殺した声無き声。
言い知れぬ不安と絶望に耐え、一人突きつけられた現実と対峙していた彼女。
彼女に起こった悲劇。覆しようのない現実。
やりきれない焦燥感に二人は渋い顔をした。
自分たちは彼女に何をしてやれるだろう。
***
『ありがとう、ございます・・・』
その懇願するような切ない声が耳に残った。
「なんとも悲しい娘さんだなあ」
山田伝蔵の声に我に返った。
「利吉くんと同い年くらいですかね」
「そうだろうな。うちのと同じくらいだろう」
どうして彼女はあんなに悲しい運命を背負ってしまったんだろう。
この時代、親の無い子はいくらでもいるというのに。
彼女は親を2回も亡くしたことになる。たった一人の肉親にももう会えない。
土井半助は自分の境遇と彼女を重ねてなんともいえない気持ちになった。
「彼女の兄、いろはに正成っていうのは当時かなり優秀な忍たまでな」
「へえ」
「ちょうど十年前って言えば、土井先生と同い年くらいじゃないの」
言われて見れば彼女の兄はちょうど半助と同い年のようだった。
「妹と思って目をかけてやりなさいな」
「はあ、妹ですか」
「それか身寄りもないんだし、土井先生アンタあの娘さんを嫁に貰うとかどうよ」
度胸はあるし器量良しだし。と山田伝蔵は笑った。
「山田先生・・・」
「はいはい。冗談じゃないの」
でも、実際これからどうするんだろうねえあの娘さんは。と山田伝蔵はぽつりと言った。
一人の父親としての正直な言葉だった。
あの震える小さな背中。
消えそうな声、身を削って話す痛々しい姿が何とも哀れであった。
***
「先生その苦無どうしたんですかぁ?」
「錆びついちゃって凄いでしゅ」
長屋でくノたまが山本シナに声をかける。
シナは丁寧に苦無の錆びた箇所を水で研いでいく。
「いろはにほへとさんの苦無よ」
「ほへとさん・・・って」
「あの人、くノ一だったんですか?」
吃驚するくノたまの生徒に違うわ。と微笑みかける。
生徒は訳が分からずに疑問の声を出す。
「大事な大事な人の、形見なんだそうよ」
その言葉に何かを察したのか急に大人しくなるくノたまの生徒。
「愛が彼女の命を救ったのよ」
それが例え何かを奪う結果になったとしても。
命を奪う道具は命を繋ぐこともある。
「それって・・・」
「なんだか素敵でしゅ」
生徒の言葉にシナは微笑んだ