第一章<出会い編>
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「落ち着いたかね」
「はい・・・。すいません。こんな、みっともないところを・・・」
「よい。さぞ辛い思いをしたじゃろうて」
よく話をしてくれたな。と学園長は優しげな声でほへとに話しかけた。
ほへとの頬に一滴の涙が流れ落ちた。
「学園長先生、この手紙は私が頂いても・・・?」
「もちろんかまわん。元々お主のものじゃ。その他の持ち物も後で全て返そう。山本シナ先生」
「はい」
学園長の呼び声に、教師陣の中からすっと一人の女性が立ち上がり、ほへとの脇に座る。
「くノ一教室の先生じゃ。何かあったら遠慮なくこの先生に頼るがよかろう」
「山本シナです。貴女の持ち物は全てくノたまの長屋で預かっているわ」
もちろん貴女の苦無も。
そう言ってシナはほへとの両の手をぎゅっと握った。その行動にほへとはただうつむいたまま頷くことしかできなかった。
「それで、これからのことなんじゃがな・・・」
学園長の言葉に、ゆっくりと顔を上げるほへと。
涙に濡れた瞳の奥深くに、決して揺らがない炎のようなものが垣間見えたような気がした。
(強い娘じゃ)
今までどのくらいの決意と決断を迫られてきたのだろう。
出会いと別れ。彼女の生い立ち。
『あの子は何も悪くないんです。俺が守ってやらなければ・・・妹は・・・!お願いです学園長先生!!』
悲痛な声でこの娘を頼んだいろはに正成。
あれから十余年あまり。なんと悲しい運命を背負った娘よ。
「いろはにほへとさんや」
「・・・はい」
「わしは、お主の兄から妹、つまりお主を頼むと言われておる」
「はい」
「じゃがな、決めるのはお主自身じゃ」
ほへとの目が一寸見開かれた。握られたシナの手を一瞬握り返す。
ほへとは迷いを含んだ視線を畳に落とした。
「どうかのうほへとさんや」
「私は・・・、わたし・・・は・・・」
言葉が続かなかった。
自分が一体どうしたいのか皆目検討がつかなかった。
村のこと。兄のこと。学園のこと。これからのこと。
考えることが多すぎて、ほへとの頭は真っ白になったまま口を閉ざした。
「待って下さい学園長先生!」
伊作が耐えかねるような声をあげた。苦渋の表情で学園長を見つめる。
「なんじゃ善法寺伊作よ」
「酷ではありませんでしょうか・・・。彼女はずっと身を削る思いで話をしていたはずです。私が口を出すことではないということは重々承知しています・・・。ですが、彼女に考える猶予を与えてはくれませんでしょうか!」
伊作は必死の思いで言葉を紡ぎだす。
何が何でも止めたかった。彼女は今耐え難い重圧に必死で耐えながら決断を迫られている。
それは、その場の思いつきで返答できるようなものではない。
彼女のこれからを決める重大な決断のはず。
小平太の思いも一緒だった。二人はただ彼女を守りたかった。
「私からもお願いします学園長先生!!彼女に考える時間を!…怪我が治ってからだっていいでしょう!?」
「お前ら・・・」
必死の言葉に隣にいた土井半助は狼狽した。
たしかにこの決断はこの場ですぐに決めてしまうものではない。
「・・・学園長先生。この二人の言うとおりです。今この場で答えを出すのは性急にすぎるかと」
「私も土井先生に賛成ですわ。彼女は今一度にいろいろなことが起こって混乱しています」
土井半助と山本シナは追随した。
シナは大丈夫だと言わんばかりにほへとの手を更に強く握った。
「ふむ・・・。そうじゃな。思わず事を急いてしまった」
すまんなほへとさん。と大川平次渦正は言った。
「とんでもございません先生・・・。本来ならば私は、この学園とは何の関係もないただの・・・」
最後の声は涙に消えた。透は今必ほへとに自分自身の境遇と向き合っていた。
「追い詰めるようなことを言った。・・・なに、気に病むことは無い。お主の話に嘘偽りはないと、ここに大川平次渦正断言しようぞ」
誰にも覆させぬという態度で学園長は言った。
その言葉にほへとは思わず頭を垂れた。
「寛大なお言葉…ありがとう、ございます・・・」
「ゆっくり休むがいい。時間はたっぷりある。先ずは怪我の養生。それから改めて考えを聞こうではないか」
***
あれから自室に戻り、ほへとはずっと天井を見つめていた。
『ほへと、お前は母さんに似て器量よしだな』
『きりょうってなに?』
『ん?美人になるってことだよ』
思い出すのは兄との思い出ばかり。目を閉じれば鮮明に浮かんでくるあの笑顔。
兄上はいつか笑顔で私に会いに来てくれる。そう信じてずっと生きてきた。
ほへとの時間はあの頃から止まったままだった。
ほへとは静かに目を閉じる。
遠く自分を呼ぶ声が聞こえるような気がした。
「はい・・・。すいません。こんな、みっともないところを・・・」
「よい。さぞ辛い思いをしたじゃろうて」
よく話をしてくれたな。と学園長は優しげな声でほへとに話しかけた。
ほへとの頬に一滴の涙が流れ落ちた。
「学園長先生、この手紙は私が頂いても・・・?」
「もちろんかまわん。元々お主のものじゃ。その他の持ち物も後で全て返そう。山本シナ先生」
「はい」
学園長の呼び声に、教師陣の中からすっと一人の女性が立ち上がり、ほへとの脇に座る。
「くノ一教室の先生じゃ。何かあったら遠慮なくこの先生に頼るがよかろう」
「山本シナです。貴女の持ち物は全てくノたまの長屋で預かっているわ」
もちろん貴女の苦無も。
そう言ってシナはほへとの両の手をぎゅっと握った。その行動にほへとはただうつむいたまま頷くことしかできなかった。
「それで、これからのことなんじゃがな・・・」
学園長の言葉に、ゆっくりと顔を上げるほへと。
涙に濡れた瞳の奥深くに、決して揺らがない炎のようなものが垣間見えたような気がした。
(強い娘じゃ)
今までどのくらいの決意と決断を迫られてきたのだろう。
出会いと別れ。彼女の生い立ち。
『あの子は何も悪くないんです。俺が守ってやらなければ・・・妹は・・・!お願いです学園長先生!!』
悲痛な声でこの娘を頼んだいろはに正成。
あれから十余年あまり。なんと悲しい運命を背負った娘よ。
「いろはにほへとさんや」
「・・・はい」
「わしは、お主の兄から妹、つまりお主を頼むと言われておる」
「はい」
「じゃがな、決めるのはお主自身じゃ」
ほへとの目が一寸見開かれた。握られたシナの手を一瞬握り返す。
ほへとは迷いを含んだ視線を畳に落とした。
「どうかのうほへとさんや」
「私は・・・、わたし・・・は・・・」
言葉が続かなかった。
自分が一体どうしたいのか皆目検討がつかなかった。
村のこと。兄のこと。学園のこと。これからのこと。
考えることが多すぎて、ほへとの頭は真っ白になったまま口を閉ざした。
「待って下さい学園長先生!」
伊作が耐えかねるような声をあげた。苦渋の表情で学園長を見つめる。
「なんじゃ善法寺伊作よ」
「酷ではありませんでしょうか・・・。彼女はずっと身を削る思いで話をしていたはずです。私が口を出すことではないということは重々承知しています・・・。ですが、彼女に考える猶予を与えてはくれませんでしょうか!」
伊作は必死の思いで言葉を紡ぎだす。
何が何でも止めたかった。彼女は今耐え難い重圧に必死で耐えながら決断を迫られている。
それは、その場の思いつきで返答できるようなものではない。
彼女のこれからを決める重大な決断のはず。
小平太の思いも一緒だった。二人はただ彼女を守りたかった。
「私からもお願いします学園長先生!!彼女に考える時間を!…怪我が治ってからだっていいでしょう!?」
「お前ら・・・」
必死の言葉に隣にいた土井半助は狼狽した。
たしかにこの決断はこの場ですぐに決めてしまうものではない。
「・・・学園長先生。この二人の言うとおりです。今この場で答えを出すのは性急にすぎるかと」
「私も土井先生に賛成ですわ。彼女は今一度にいろいろなことが起こって混乱しています」
土井半助と山本シナは追随した。
シナは大丈夫だと言わんばかりにほへとの手を更に強く握った。
「ふむ・・・。そうじゃな。思わず事を急いてしまった」
すまんなほへとさん。と大川平次渦正は言った。
「とんでもございません先生・・・。本来ならば私は、この学園とは何の関係もないただの・・・」
最後の声は涙に消えた。透は今必ほへとに自分自身の境遇と向き合っていた。
「追い詰めるようなことを言った。・・・なに、気に病むことは無い。お主の話に嘘偽りはないと、ここに大川平次渦正断言しようぞ」
誰にも覆させぬという態度で学園長は言った。
その言葉にほへとは思わず頭を垂れた。
「寛大なお言葉…ありがとう、ございます・・・」
「ゆっくり休むがいい。時間はたっぷりある。先ずは怪我の養生。それから改めて考えを聞こうではないか」
***
あれから自室に戻り、ほへとはずっと天井を見つめていた。
『ほへと、お前は母さんに似て器量よしだな』
『きりょうってなに?』
『ん?美人になるってことだよ』
思い出すのは兄との思い出ばかり。目を閉じれば鮮明に浮かんでくるあの笑顔。
兄上はいつか笑顔で私に会いに来てくれる。そう信じてずっと生きてきた。
ほへとの時間はあの頃から止まったままだった。
ほへとは静かに目を閉じる。
遠く自分を呼ぶ声が聞こえるような気がした。