短編夢
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「何が起きたらこんな事になるのでございますか」
「報告が遅くなって申し訳ありませんボス。あ、それ以上近付くとボスが濡れてしまいます!」
シングルトレインのホームから執務室に戻る道すがら、慌しく通路を駆け抜ける駅員達が見えました。
その手には一様にモップやら雑巾やらバケツやら。
手にモンスターボールを持った駅員も何人か見えます。
「配水管の中にポケモンがいるんです」
「ポケモンが?」
「はい。入り込んでしまった経路はまだわかってないのですが、狭いところを嫌がって。・・・見ての通りですよ。管の中であばれてるんです」
そう説明する駅員の服はびしょ濡れで、みれば壁には大きな亀裂。そこからは絶え間なく水が溢れております。
どうやら貯まった雨水を排水する管のようです。
正直お世辞にも綺麗な水だとは言いがたく、ここが駅員用の通路であった事は不幸中の幸いでした。
「配管工の手配は?」
「すでに。到着までには30分ほどかかるとの事です」
修繕するための予算は、さてどれくらい余っておりましたでしょうか。
そう考えを巡らせた時、
「おい大丈夫かかくかく!」
「大丈夫ですいけます!」
「アマリ無理シナイデ下サイ」
聞き知った複数人の声が聞こえ、よくよく目を凝らしてみれば水を抑えているポケモン達や男性駅員の隙間に混じってしなやかな肢体が見えました。
「大丈夫。私はあなたを傷つけないから・・・って、また暴れる・・・!駄目よそんなことしたらもっとあなたが辛くなっちゃう」
その女性は大胆にも亀裂の入った壁に上半身を突っ込むようにして中にいるであろうポケモンと格闘しているようです。(これはバトルをしているという意味ではありません)
「中はどないや?」
「バスラオですね。本当にどうやって入り込んだんだか・・・この子には申し訳ないけどちょっと大人しくして貰わないと。クマシュン!」
穴から体を元に戻し、腰につけていたモンスターボールに触れると、中からは彼女の手持ちであるクマシュンがこれまた可愛らしく一鳴きして出てきました。
「『こごえるかぜ』!」
そう言ったが早いか、彼女のクマシュンはあっという間に配管を凍らせてしまったようです。
正確には配管の中にいるバスラオをこおり状態にしたついでに配管を凍らせたというべきでしょうか。
どちらにせよ壁から湧き出ていた水は止まり、余韻で流れ出た水がまた壁や床を濡らしました。
「よくやったわクマシュン!」
「マシュマシュ!」
「ようやったかくかく!氷が溶ける前に修理屋が来るといいけどな・・・で?問題のポケモンは?」
「ばっちりです。ほら」
「マッシュン!」
そう歓喜の声をクマシュンがあげます。
カチコチに氷漬けになったバスラオがそのままの形で彼女の胸に抱かれてるのが見えました。
「大丈夫ですかかくかく」
「・・・ボス!」
「そんな無茶をして・・・」
「あの隙間に入れるの、私しかいなかったものですから。・・・でもほら!無事に救出できましたよ」
酷く濡れミネズミになった彼女に声をかければ困ったような、勝ち誇ったような。そんな笑顔を向けられ、その屈託のない笑顔に思わずわたくしは面食らってしまいました。
「早くこの子ポケモンセンターに連れていかなきゃですね!」
「・・・その前にやるべきことがありますよ」
「へ?なんでしょうか?…あ!報告書!?」
「違います。そのような格好で貴女は出てゆくおつもりですか!女性なのですからもっと体を労わってくださいまし」
「え、えーと・・・」
「このように体を冷やして・・・。重ねて『こごえるかぜ』だなどと・・・」
「でも私体は丈夫な方ですから・・・」
「そういう事を申しているのではございません」
ピシャリと言えば悪戯が見つかった子供のように首をすくめた彼女。
濡れて体のラインぴったりに張り付いたワイシャツ。それに透けてかくかくの柔肌が見え、思わず反射的に自らのコートを脱いで彼女の肩にかけました。
すると、信じられない!と言った顔で彼女はわたくしの顔を覗き込んできました。
「なんですかその顔は」
「何って・・・ボスのコートが汚れてしまいます!だって私、汚いし濡れてますよ!?あと臭いですよ!!」
「そんなことは分かっております。このままでは風邪をひいてしまいます」
「ボス・・・」
「それとかくかくはもっと慎みを持つべきでございます」
透けております。
そう耳元で言えば、今気付いたと言わんばかりに自らの体と私の顔を交互に見て「すすすいませんお見苦しいものおおおおおおお!!!!」と見る見るうちに真っ赤になってバスラオを抱えたまま私の横を猛スピードで駆け抜けていきました。
その様子にポカン、としていると
「ムラサキか~。意外と大胆!」
そんな間延びした声。振り返らずともわかります。
「クダリ・・・」
「もっと可愛いのかと思ってた!意外!あとかくかくって着痩せするタイプ!ボク知らなかった」
ダブルトレインでバトルしていた弟が楽し気な声を発しながらのんびりこちらに歩いてきました。
勝ったのですか?と聞けば、当然!との返事。
「すごく水浸し!これ直すのけっこうお金かかるかも」
「そうですね」
「ノボリちょっと顔赤い。かくかく結構胸あったねえ」
「・・・何を戯けた事を言っているのですか」
「ね~?クラウドもそう思ったよね~?」
「は!?」
急に何話振ってくれとんじゃワレ!とでも言いたそうなクラウドにニヤニヤ顔を向けるクダリ。
正直全く良い心持ちがしない。
「まあ、確かにもっとペッタンコかと思ってましたわ・・・って何言わすんですかボスは!」
「だよね~!わかるわかる」
突然現れたかと思えば何を言っているのかこの愚弟は。
一瞥して帽子を深く被りなおせば、「ゴメンねノボリ、怒った?」と全然悪びれない態度のクダリの笑顔がそこにありました。
何を怒ることがありましょう。
わたくしは別段、彼女の恋人でも何でもありません。ただの上司と部下の関係でございます。
濡れた彼女にコートを貸しただけでございます。
汚水に濡れた前髪が顔に張り付く姿。
『こごえるかぜ』によって冷えた空気を回りに孕んだ彼女の呼吸。
肺に空気を入れるたびに薄く張り付いたワイシャツが連動して動いて。
なんともその頼りなげな肩を直視することができませんでした。
そんな姿を誰にも見せたくなかった。
ただ、それだけでございます。
end
「報告が遅くなって申し訳ありませんボス。あ、それ以上近付くとボスが濡れてしまいます!」
シングルトレインのホームから執務室に戻る道すがら、慌しく通路を駆け抜ける駅員達が見えました。
その手には一様にモップやら雑巾やらバケツやら。
手にモンスターボールを持った駅員も何人か見えます。
「配水管の中にポケモンがいるんです」
「ポケモンが?」
「はい。入り込んでしまった経路はまだわかってないのですが、狭いところを嫌がって。・・・見ての通りですよ。管の中であばれてるんです」
そう説明する駅員の服はびしょ濡れで、みれば壁には大きな亀裂。そこからは絶え間なく水が溢れております。
どうやら貯まった雨水を排水する管のようです。
正直お世辞にも綺麗な水だとは言いがたく、ここが駅員用の通路であった事は不幸中の幸いでした。
「配管工の手配は?」
「すでに。到着までには30分ほどかかるとの事です」
修繕するための予算は、さてどれくらい余っておりましたでしょうか。
そう考えを巡らせた時、
「おい大丈夫かかくかく!」
「大丈夫ですいけます!」
「アマリ無理シナイデ下サイ」
聞き知った複数人の声が聞こえ、よくよく目を凝らしてみれば水を抑えているポケモン達や男性駅員の隙間に混じってしなやかな肢体が見えました。
「大丈夫。私はあなたを傷つけないから・・・って、また暴れる・・・!駄目よそんなことしたらもっとあなたが辛くなっちゃう」
その女性は大胆にも亀裂の入った壁に上半身を突っ込むようにして中にいるであろうポケモンと格闘しているようです。(これはバトルをしているという意味ではありません)
「中はどないや?」
「バスラオですね。本当にどうやって入り込んだんだか・・・この子には申し訳ないけどちょっと大人しくして貰わないと。クマシュン!」
穴から体を元に戻し、腰につけていたモンスターボールに触れると、中からは彼女の手持ちであるクマシュンがこれまた可愛らしく一鳴きして出てきました。
「『こごえるかぜ』!」
そう言ったが早いか、彼女のクマシュンはあっという間に配管を凍らせてしまったようです。
正確には配管の中にいるバスラオをこおり状態にしたついでに配管を凍らせたというべきでしょうか。
どちらにせよ壁から湧き出ていた水は止まり、余韻で流れ出た水がまた壁や床を濡らしました。
「よくやったわクマシュン!」
「マシュマシュ!」
「ようやったかくかく!氷が溶ける前に修理屋が来るといいけどな・・・で?問題のポケモンは?」
「ばっちりです。ほら」
「マッシュン!」
そう歓喜の声をクマシュンがあげます。
カチコチに氷漬けになったバスラオがそのままの形で彼女の胸に抱かれてるのが見えました。
「大丈夫ですかかくかく」
「・・・ボス!」
「そんな無茶をして・・・」
「あの隙間に入れるの、私しかいなかったものですから。・・・でもほら!無事に救出できましたよ」
酷く濡れミネズミになった彼女に声をかければ困ったような、勝ち誇ったような。そんな笑顔を向けられ、その屈託のない笑顔に思わずわたくしは面食らってしまいました。
「早くこの子ポケモンセンターに連れていかなきゃですね!」
「・・・その前にやるべきことがありますよ」
「へ?なんでしょうか?…あ!報告書!?」
「違います。そのような格好で貴女は出てゆくおつもりですか!女性なのですからもっと体を労わってくださいまし」
「え、えーと・・・」
「このように体を冷やして・・・。重ねて『こごえるかぜ』だなどと・・・」
「でも私体は丈夫な方ですから・・・」
「そういう事を申しているのではございません」
ピシャリと言えば悪戯が見つかった子供のように首をすくめた彼女。
濡れて体のラインぴったりに張り付いたワイシャツ。それに透けてかくかくの柔肌が見え、思わず反射的に自らのコートを脱いで彼女の肩にかけました。
すると、信じられない!と言った顔で彼女はわたくしの顔を覗き込んできました。
「なんですかその顔は」
「何って・・・ボスのコートが汚れてしまいます!だって私、汚いし濡れてますよ!?あと臭いですよ!!」
「そんなことは分かっております。このままでは風邪をひいてしまいます」
「ボス・・・」
「それとかくかくはもっと慎みを持つべきでございます」
透けております。
そう耳元で言えば、今気付いたと言わんばかりに自らの体と私の顔を交互に見て「すすすいませんお見苦しいものおおおおおおお!!!!」と見る見るうちに真っ赤になってバスラオを抱えたまま私の横を猛スピードで駆け抜けていきました。
その様子にポカン、としていると
「ムラサキか~。意外と大胆!」
そんな間延びした声。振り返らずともわかります。
「クダリ・・・」
「もっと可愛いのかと思ってた!意外!あとかくかくって着痩せするタイプ!ボク知らなかった」
ダブルトレインでバトルしていた弟が楽し気な声を発しながらのんびりこちらに歩いてきました。
勝ったのですか?と聞けば、当然!との返事。
「すごく水浸し!これ直すのけっこうお金かかるかも」
「そうですね」
「ノボリちょっと顔赤い。かくかく結構胸あったねえ」
「・・・何を戯けた事を言っているのですか」
「ね~?クラウドもそう思ったよね~?」
「は!?」
急に何話振ってくれとんじゃワレ!とでも言いたそうなクラウドにニヤニヤ顔を向けるクダリ。
正直全く良い心持ちがしない。
「まあ、確かにもっとペッタンコかと思ってましたわ・・・って何言わすんですかボスは!」
「だよね~!わかるわかる」
突然現れたかと思えば何を言っているのかこの愚弟は。
一瞥して帽子を深く被りなおせば、「ゴメンねノボリ、怒った?」と全然悪びれない態度のクダリの笑顔がそこにありました。
何を怒ることがありましょう。
わたくしは別段、彼女の恋人でも何でもありません。ただの上司と部下の関係でございます。
濡れた彼女にコートを貸しただけでございます。
汚水に濡れた前髪が顔に張り付く姿。
『こごえるかぜ』によって冷えた空気を回りに孕んだ彼女の呼吸。
肺に空気を入れるたびに薄く張り付いたワイシャツが連動して動いて。
なんともその頼りなげな肩を直視することができませんでした。
そんな姿を誰にも見せたくなかった。
ただ、それだけでございます。
end
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