つらつら椿
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何故、毎日は同じようにやってくるのだろう。
何故、時は止まってくれないのだろう。
永久に来なければいいと願っていたにもかかわらず、気付けば季節はすっかり夏になっていて。
照り付ける太陽が憎らしい。
神様、私はどうしたらいいと思いますか。
06:眩しくてつらいの
「あらあ!仙蔵くんいらっしゃい。待ってたのよ」
「ご無沙汰しております叔母上」
「ちょっと見ない間に随分男前になったわねえ・・・。前に会った時はこーんなに小さかったのに。聞いた話じゃ学園でも成績優秀っていうじゃないの。私も鼻が高いわ」
「恐縮です」
誰だ。この完璧な笑顔で母の受け答えをしている人間は。
「ほらほへと、せっかく仙蔵くんが遊びに来てくれたのに。挨拶くらいなさいな」
「いいんですよ叔母上。……三ヵ月ぶりだな」
「い、いらっしゃいませ…」
嗚呼。
ついにこの日が来てしまった。
あの地獄の門から戻って、はや三ヵ月。
嘘だと言って欲しかった。お仙ちゃんか母の気が変わればいいと何度思ったか。
最悪店が潰れればいいのに、とまで考えたのに。(実際潰れたら困るけど)
母に向けた笑顔と同一人物に思えない、私を見たときのこの一瞬の目付きの変わりよう。
…お仙ちゃんの猫被り……。
「ほへと、早速だけど部屋に案内してあげなさい。仙蔵くん長旅で疲れてるでしょうからね」
「…はい」
案内も何も、お仙ちゃんはこの店の間取りくらい知ってるだろうに。
仮にも昔はここで一緒に暮らしていたのだから。
薄暗い廊下を二人で歩く。うちの店は仕入れ以外にも独自に紅を作ったり貝殻に絵付けとしたりしているから、普通の店よりは少しばかり広い造りになっている。
「…変わらないな、ここは」
お仙ちゃんが懐かしそうに口を開いた。
「雰囲気も、天井の染みもそのままだ。…これもまだ残ってたんだな」
そう言ってお仙ちゃんは柱に何本も刻み付けられている傷に手を添える。
それは私達が幼き日に背比べをした跡で。昔はどちらも変わらない身長だったのに。
「いつの間にほへとはこんなに小さくなったんだ?」
「…お仙ちゃんが大きくなったんでしょう?」
「…違いない。ほへとは全然変わらないな」
そう言って目を細めるお仙ちゃん。
その目は確かに笑っていたけど、私には嘲笑っているようにしか見えなくて。
思わず視線を逸してしまう。
変わらない…か。
そう。私は昔から何も変わってない。
距離のできたこの背丈のように、どんどん置いていかれるばかり。大きくなったお仙ちゃんは、言葉以上に大きく見えたから、尚更そう思う。
「もう大丈夫だ。それでほへと、私の部屋はどこだ?」
「奥の…、左側の…。前に客間だったとこ」
「そうか。じゃあ茶でも煎れて来てくれ。一息つきたい」
そう言ってそのまま慣れた足取りで進んで行くお仙ちゃん。
私はぽつんと一人で廊下に取り残される。
貴方の方こそ変わってないよ、お仙ちゃん。
私に有無を言わせないようなその口調も、堂々としたその足取りも、逸すことのないその強い瞳も。
何もかも私の知っているお仙ちゃんそのもの。
(嗚呼、お仙ちゃんが帰って来た…)
私の苦手な、私と同じ顔の、私が嫌いな、私の憧れの。
あの、お仙ちゃんが。
そして、毎日息が詰まりそうだったあの日々が帰ってきた。
お仙ちゃん。
私は、酸欠で死んでしまいそうだよ…。
何故、時は止まってくれないのだろう。
永久に来なければいいと願っていたにもかかわらず、気付けば季節はすっかり夏になっていて。
照り付ける太陽が憎らしい。
神様、私はどうしたらいいと思いますか。
06:眩しくてつらいの
「あらあ!仙蔵くんいらっしゃい。待ってたのよ」
「ご無沙汰しております叔母上」
「ちょっと見ない間に随分男前になったわねえ・・・。前に会った時はこーんなに小さかったのに。聞いた話じゃ学園でも成績優秀っていうじゃないの。私も鼻が高いわ」
「恐縮です」
誰だ。この完璧な笑顔で母の受け答えをしている人間は。
「ほらほへと、せっかく仙蔵くんが遊びに来てくれたのに。挨拶くらいなさいな」
「いいんですよ叔母上。……三ヵ月ぶりだな」
「い、いらっしゃいませ…」
嗚呼。
ついにこの日が来てしまった。
あの地獄の門から戻って、はや三ヵ月。
嘘だと言って欲しかった。お仙ちゃんか母の気が変わればいいと何度思ったか。
最悪店が潰れればいいのに、とまで考えたのに。(実際潰れたら困るけど)
母に向けた笑顔と同一人物に思えない、私を見たときのこの一瞬の目付きの変わりよう。
…お仙ちゃんの猫被り……。
「ほへと、早速だけど部屋に案内してあげなさい。仙蔵くん長旅で疲れてるでしょうからね」
「…はい」
案内も何も、お仙ちゃんはこの店の間取りくらい知ってるだろうに。
仮にも昔はここで一緒に暮らしていたのだから。
薄暗い廊下を二人で歩く。うちの店は仕入れ以外にも独自に紅を作ったり貝殻に絵付けとしたりしているから、普通の店よりは少しばかり広い造りになっている。
「…変わらないな、ここは」
お仙ちゃんが懐かしそうに口を開いた。
「雰囲気も、天井の染みもそのままだ。…これもまだ残ってたんだな」
そう言ってお仙ちゃんは柱に何本も刻み付けられている傷に手を添える。
それは私達が幼き日に背比べをした跡で。昔はどちらも変わらない身長だったのに。
「いつの間にほへとはこんなに小さくなったんだ?」
「…お仙ちゃんが大きくなったんでしょう?」
「…違いない。ほへとは全然変わらないな」
そう言って目を細めるお仙ちゃん。
その目は確かに笑っていたけど、私には嘲笑っているようにしか見えなくて。
思わず視線を逸してしまう。
変わらない…か。
そう。私は昔から何も変わってない。
距離のできたこの背丈のように、どんどん置いていかれるばかり。大きくなったお仙ちゃんは、言葉以上に大きく見えたから、尚更そう思う。
「もう大丈夫だ。それでほへと、私の部屋はどこだ?」
「奥の…、左側の…。前に客間だったとこ」
「そうか。じゃあ茶でも煎れて来てくれ。一息つきたい」
そう言ってそのまま慣れた足取りで進んで行くお仙ちゃん。
私はぽつんと一人で廊下に取り残される。
貴方の方こそ変わってないよ、お仙ちゃん。
私に有無を言わせないようなその口調も、堂々としたその足取りも、逸すことのないその強い瞳も。
何もかも私の知っているお仙ちゃんそのもの。
(嗚呼、お仙ちゃんが帰って来た…)
私の苦手な、私と同じ顔の、私が嫌いな、私の憧れの。
あの、お仙ちゃんが。
そして、毎日息が詰まりそうだったあの日々が帰ってきた。
お仙ちゃん。
私は、酸欠で死んでしまいそうだよ…。