つらつら椿
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「おい仙蔵。どうした女装なんかして。使いでも頼まれたのか?」
本日3回目になるこれは、どうしたら対処できますか。
私は立花仙蔵ではありません。
私の名前はいろはにほへとです。
04:本物と偽者
緑の忍者装束に身を包んだ人間に声をかけられる。
間違いも3回目ともなると、どうしても気分の落ち込みに拍車がかかる。溜め息の一つもつきたいところだが、生憎初対面の人間に対してそんな失礼なことができるほど私の神経は図太くなかった。
話しかけてきた人間に曖昧な笑みを返せば、訝しげな顔つきで近くに寄ってくる。名も知らぬ人よ。どうか私に構わないで下さい。
「なんだ。言えないような使いだったのか?」
「・・・・・・えーと・・・」
どう答えたものか。視線を泳がすと、眉間の皺を一層深くして顔を覗き込まれる。
近い。あと目の下の隈が恐い。
「お前・・・・・・仙蔵じゃあねえな」
「・・・え?」
なんで?
そうポツリと言った目の前の男の顔をついまじまじと見てしまった。
だって、私を仙蔵と違うって。まだ私は何も言ってないのに。
どこで”私”だとわかったんだろう?どうやって違うってわかったんだろう?
『なんで』なんて自分自身を否定するようなことを言うつもりはなかったのに、気が付いたらそれを口にしていた。
名も知らぬ男と視線が交錯する。彼の瞳が強く光る。
「何でって、火薬の臭いがしねえからな。上手く化けてるつもりだろうが臭いまでは気が回らなかったようだな」
そう鼻で笑う目の前の男。彼の射るような視線が痛い。
化けるって・・・。どういうこと?狐や狸じゃあるまいに。
「化けてる・・・?私が?」
「最初は鉢屋かと思ったけどな。あいつは俺がちょっとカマかけたくらいじゃ動揺しねえ。ということはお前は鉢屋じゃねえ。そして俺はあの男以上に変装術の上手い奴をこの学園で知らねえ。・・・・・・お前何者だ。どこの手の者だ。仙蔵の顔で、一体この学園で何しようってんだ」
嗚呼。
やっぱり。
彼も同じだった。
無理もない。だって彼らは私のことを知らないんだもの。
分かってる。そんなこと。そんなこと分かってるのに。ちょっとでも期待した私が馬鹿だった。
「いたっ・・・!?」
「動くな。観念しろ」
気付くと、目の前の男は憮然とした態度でギリギリと私の手首を握って締め上げた。
武術の心得も何もない私は、それを振り払うことも、逃げることも何も出来ず、ただ痛みに耐えるしかない。
恐くて、恐くて。体が嘘のように動かない。ただ目尻に涙が溜まってゆく。
「変装の腕は認めてやってもいいが、この程度の腕でよく侵入してきたもんだな。いい加減痛えだろ?何者だ。どこで仙蔵の顔を知った」
何者なのか。
そんなの決まってる、私は立花仙蔵の従妹。目的だって、頼まれた紅を届けにきただけ。
そう言えば全て終わるのに。
彼の問いかけに、私は酷く動揺してしまって何も言えなかった。
私は何者なのか。何なんだろうか。私はここでは立花仙蔵の偽者としか認識されない。
私は私だ。そう言いたいのに。上手く言葉が喉から出てこない。
「・・・わたし・・・は・・・」
一筋の涙が地面に落ちると同時に、校舎の角から聞き馴染みの無い声が聞こえた。
「おい文次郎、先程安藤先生がお前を探して・・・」
「っ・・・」
涙で濡れた私の瞳と、ついぞやってきた人間との瞳がばっちりと合った。
「・・・・・・・・・せん、ぞ・・・」
「・・・・・・・・・・・・ほへと」
四年ぶりに会った人間は声も低くなって、背も高くなって。相変わらず私と顔はよく似てるんだけれど。でも。
そうして、お仙ちゃんの長い黒髪がゆっくりと揺れたかと思うと、瞳が急に無感情に程近くなった。恐い。
「・・・文次郎、お前私の従妹に何してるんだ」
「あん?俺はただ曲者を・・・・・・って従妹?」
「とりあえず手を離せ」
呆れたような、そのくせ穿き捨てるように発せられた冷たい声。
掴まれていた腕が急に解放されて、私はその場にへたり込んでぼろぼろと泣き崩れてしまった。腰が抜けて立てない。
何て間が悪いんだろう。こんな見っとも無いところ見られて。
四年ぶりに会ったというのに、出てくるのは涙だけなんて。
だから来たくなかったの。
だから会いたくなかったの。
だって、だって、私っていつもいつも見っとも無い。
もっと貴方みたいに格好良く生きていきたいのに。
そうすれば、この貴方と同じ顔もちょっとは使い道があるだろうに。
「おせ・・・ちゃ・・・」
私は溢れ出る涙を止める方法を知らなかった。
本日3回目になるこれは、どうしたら対処できますか。
私は立花仙蔵ではありません。
私の名前はいろはにほへとです。
04:本物と偽者
緑の忍者装束に身を包んだ人間に声をかけられる。
間違いも3回目ともなると、どうしても気分の落ち込みに拍車がかかる。溜め息の一つもつきたいところだが、生憎初対面の人間に対してそんな失礼なことができるほど私の神経は図太くなかった。
話しかけてきた人間に曖昧な笑みを返せば、訝しげな顔つきで近くに寄ってくる。名も知らぬ人よ。どうか私に構わないで下さい。
「なんだ。言えないような使いだったのか?」
「・・・・・・えーと・・・」
どう答えたものか。視線を泳がすと、眉間の皺を一層深くして顔を覗き込まれる。
近い。あと目の下の隈が恐い。
「お前・・・・・・仙蔵じゃあねえな」
「・・・え?」
なんで?
そうポツリと言った目の前の男の顔をついまじまじと見てしまった。
だって、私を仙蔵と違うって。まだ私は何も言ってないのに。
どこで”私”だとわかったんだろう?どうやって違うってわかったんだろう?
『なんで』なんて自分自身を否定するようなことを言うつもりはなかったのに、気が付いたらそれを口にしていた。
名も知らぬ男と視線が交錯する。彼の瞳が強く光る。
「何でって、火薬の臭いがしねえからな。上手く化けてるつもりだろうが臭いまでは気が回らなかったようだな」
そう鼻で笑う目の前の男。彼の射るような視線が痛い。
化けるって・・・。どういうこと?狐や狸じゃあるまいに。
「化けてる・・・?私が?」
「最初は鉢屋かと思ったけどな。あいつは俺がちょっとカマかけたくらいじゃ動揺しねえ。ということはお前は鉢屋じゃねえ。そして俺はあの男以上に変装術の上手い奴をこの学園で知らねえ。・・・・・・お前何者だ。どこの手の者だ。仙蔵の顔で、一体この学園で何しようってんだ」
嗚呼。
やっぱり。
彼も同じだった。
無理もない。だって彼らは私のことを知らないんだもの。
分かってる。そんなこと。そんなこと分かってるのに。ちょっとでも期待した私が馬鹿だった。
「いたっ・・・!?」
「動くな。観念しろ」
気付くと、目の前の男は憮然とした態度でギリギリと私の手首を握って締め上げた。
武術の心得も何もない私は、それを振り払うことも、逃げることも何も出来ず、ただ痛みに耐えるしかない。
恐くて、恐くて。体が嘘のように動かない。ただ目尻に涙が溜まってゆく。
「変装の腕は認めてやってもいいが、この程度の腕でよく侵入してきたもんだな。いい加減痛えだろ?何者だ。どこで仙蔵の顔を知った」
何者なのか。
そんなの決まってる、私は立花仙蔵の従妹。目的だって、頼まれた紅を届けにきただけ。
そう言えば全て終わるのに。
彼の問いかけに、私は酷く動揺してしまって何も言えなかった。
私は何者なのか。何なんだろうか。私はここでは立花仙蔵の偽者としか認識されない。
私は私だ。そう言いたいのに。上手く言葉が喉から出てこない。
「・・・わたし・・・は・・・」
一筋の涙が地面に落ちると同時に、校舎の角から聞き馴染みの無い声が聞こえた。
「おい文次郎、先程安藤先生がお前を探して・・・」
「っ・・・」
涙で濡れた私の瞳と、ついぞやってきた人間との瞳がばっちりと合った。
「・・・・・・・・・せん、ぞ・・・」
「・・・・・・・・・・・・ほへと」
四年ぶりに会った人間は声も低くなって、背も高くなって。相変わらず私と顔はよく似てるんだけれど。でも。
そうして、お仙ちゃんの長い黒髪がゆっくりと揺れたかと思うと、瞳が急に無感情に程近くなった。恐い。
「・・・文次郎、お前私の従妹に何してるんだ」
「あん?俺はただ曲者を・・・・・・って従妹?」
「とりあえず手を離せ」
呆れたような、そのくせ穿き捨てるように発せられた冷たい声。
掴まれていた腕が急に解放されて、私はその場にへたり込んでぼろぼろと泣き崩れてしまった。腰が抜けて立てない。
何て間が悪いんだろう。こんな見っとも無いところ見られて。
四年ぶりに会ったというのに、出てくるのは涙だけなんて。
だから来たくなかったの。
だから会いたくなかったの。
だって、だって、私っていつもいつも見っとも無い。
もっと貴方みたいに格好良く生きていきたいのに。
そうすれば、この貴方と同じ顔もちょっとは使い道があるだろうに。
「おせ・・・ちゃ・・・」
私は溢れ出る涙を止める方法を知らなかった。