つらつら椿
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「こんにちは立花先輩。実習の帰りですか?」
「立花くん、こんにちは」
「・・・・・・どうも。こんにちは」
またか。
私が男に見えるのですか。目の前の少年達よ。
と、言うかその手で引きずってるの・・・何?大砲、とか言うやつ?初めて見た・・・。
営業用のとって貼り付けたような笑顔よろしく市女笠を脱ぎつつにこやかにお辞儀すると、目の前の少年達は目を丸くして私を見た。
何。その顔。
03:早くも私帰りたいです
「た、立花先輩が極上の笑顔で・・・・・・」
「僕達に挨拶した・・・!?」
見てはいけないものを見たような驚愕の表情で目の前の紫色の装束の人間は固まる。
どうやらお仙ちゃんは四年間見ない間に、『笑顔で愛想よく挨拶』という商人の基本能力の一つというべきものを完全に封印したらしい。いや、笑顔で挨拶していた過去は今思えば猫被ってただけなのかもしれない・・・。
冷や汗を垂れ流す可哀想な二人に、自分が仙蔵の親戚であることを告げると、納得したようにほっと胸を撫で下ろした。
何で安堵するのか。やっぱりお仙ちゃんは後輩に情けなんぞ露ほどもかけないような苛めっ子なんだろうか。不憫な子達・・・。そう思い始めた時、茶色い髪の小奇麗な顔をした男の子が口を開いた。
「し、失礼しました。てっきり何か私達が粗相をしたのかと・・・」
「うん・・・。あまりの笑顔だったから吃驚しちゃった・・・」
笑って誤魔化そうとする目の前の二人。私もにっこりとした顔で「いいのよ別に」と返す。
そんな曖昧な笑みで誤魔化しきったと思うなよ。十五年培ったお仙ちゃんコンプレックスなめんな。
「・・・ところで仙蔵と私ってそんなに似てるかしら?」
「似てるもなにも。立花先輩が女装したときとそっくりどころか、同じですよ」
「うん。黒髪のこのさらさらした感じとか、ちょっと目が流し目なところとか。肌も色白だし・・・」
「そうですね。でもよく聞くと、声は貴女の方がやっぱり高くて細い感じがします」
「よーく見れば違う人なんだけど・・・。ぱっと見ただけじゃわからないかな」
違うのは背丈くらい?
そう言って自身の身長と私の身長を比べる金髪の人。
背丈でわかるなら最初から察して下さい。私結構傷つき易いから・・・。
そんな私の心を知らず、目の前の二人は私とお仙ちゃんが如何に似ているか喋りだす。
やっぱりこんなところ来るんじゃなかった。
絶対嫌だって拒否すればよかった。そうすればこんな思いしなくて済むのに。
何だか酷く胸の辺りが苦しい。泣きそうだ。
『立花先輩にそっくり』なんて。
私は”お仙ちゃん”に似せるように生きているわけではないのに、生まれたときから皆が皆私を仙蔵とそっくりだと言う。
立花仙蔵が本物で、私は本物によく似た出来損ないのように皆言う。
何事にも器用で如才がなくて完璧なお仙ちゃんと、要領が悪くて不器用で泣き虫な私。
昔から比較されることが惨めで惨めで仕方が無くて。いつもお仙ちゃんに劣等感を持ってた。
でもそれを嫌だなんて言えるほど私は気が強くなくて、お仙ちゃんにも『ほへとはいつも鈍臭いな』と言われてたくらい。
だから嫌なの。
だから会いたくないの。
比べてしまうから。どうしてもお仙ちゃんと私を比べてしまうから。
如何に似てるかなんて聞きたくない。似てるところなんて何もないもの。
これだから来たくなかったのよ・・・。
二人の言葉を話半分に聞き流しながら、聞き商売の技能よろしく自動的にうんうん頷いていたら、
「ねえねえ!さっきから思ってたんだけど、君の髪すっごく綺麗だねえ~!触らせて貰っていい?」
という全然関係ない言葉についそのまま頷いてしまった。
はっ、しまった!何で私頷いてるの。
しかし時既に遅し。金髪の人は「ありがとう~!」と心底嬉しそうな顔で私の髪の毛をまるで宝物か何かのように触った。
っていうか、髪の毛触りたいって・・・。何、この人。
「立花くんはなかなか触らせてくれないからさ。うわ、綺麗にお手入れしてるね!」
「・・・そうですか?本当に?」
「そうだよ~。凄く綺麗だよ。鋏入れる必要なんてないくらい」
実はそんなに念入りに手入れなんてやってないんだけどなあ・・・。(遺伝かしら)
つい了承してそのまま流されてしまったけれど、きちんと訂正すればよかっただろうか。
わあわあ言いながら人の髪の毛を触っている人の目が本気で恐いのである。
店の看板娘として生まれて早、十五年。さすがに慣れたとはいえ、本当は自分でも嫌になるくらいに人見知りなのだ。ただ営業用の笑顔で表面上を取り繕ってるだけにすぎない。
男の子にこんな風に髪の毛触られるなんて・・・。
内心恥ずかしくて恥ずかしくて仕様がなかった。(顔が赤くならなかっただけマシかも)
ちらりともう一人の男の子に『助けてくれ』と目で訴えてみたが、通じたかどうかはわからない。ただ、「この人は実家が髪結いさんなんですよ」と言ってくれたお陰で多少なりとも納得はできた。
(ああ、どうりで・・・。でも、いつまで触ってるの?)
髪結いだからって触りすぎである。
しかしこういうときにどのタイミングで『もうやめてくれ』と切り出せばいいんだろうか。
とりあえず愛想笑いしておいた。
本当にもう帰りたい・・・。母さんのばかぁ・・・。
「立花くん、こんにちは」
「・・・・・・どうも。こんにちは」
またか。
私が男に見えるのですか。目の前の少年達よ。
と、言うかその手で引きずってるの・・・何?大砲、とか言うやつ?初めて見た・・・。
営業用のとって貼り付けたような笑顔よろしく市女笠を脱ぎつつにこやかにお辞儀すると、目の前の少年達は目を丸くして私を見た。
何。その顔。
03:早くも私帰りたいです
「た、立花先輩が極上の笑顔で・・・・・・」
「僕達に挨拶した・・・!?」
見てはいけないものを見たような驚愕の表情で目の前の紫色の装束の人間は固まる。
どうやらお仙ちゃんは四年間見ない間に、『笑顔で愛想よく挨拶』という商人の基本能力の一つというべきものを完全に封印したらしい。いや、笑顔で挨拶していた過去は今思えば猫被ってただけなのかもしれない・・・。
冷や汗を垂れ流す可哀想な二人に、自分が仙蔵の親戚であることを告げると、納得したようにほっと胸を撫で下ろした。
何で安堵するのか。やっぱりお仙ちゃんは後輩に情けなんぞ露ほどもかけないような苛めっ子なんだろうか。不憫な子達・・・。そう思い始めた時、茶色い髪の小奇麗な顔をした男の子が口を開いた。
「し、失礼しました。てっきり何か私達が粗相をしたのかと・・・」
「うん・・・。あまりの笑顔だったから吃驚しちゃった・・・」
笑って誤魔化そうとする目の前の二人。私もにっこりとした顔で「いいのよ別に」と返す。
そんな曖昧な笑みで誤魔化しきったと思うなよ。十五年培ったお仙ちゃんコンプレックスなめんな。
「・・・ところで仙蔵と私ってそんなに似てるかしら?」
「似てるもなにも。立花先輩が女装したときとそっくりどころか、同じですよ」
「うん。黒髪のこのさらさらした感じとか、ちょっと目が流し目なところとか。肌も色白だし・・・」
「そうですね。でもよく聞くと、声は貴女の方がやっぱり高くて細い感じがします」
「よーく見れば違う人なんだけど・・・。ぱっと見ただけじゃわからないかな」
違うのは背丈くらい?
そう言って自身の身長と私の身長を比べる金髪の人。
背丈でわかるなら最初から察して下さい。私結構傷つき易いから・・・。
そんな私の心を知らず、目の前の二人は私とお仙ちゃんが如何に似ているか喋りだす。
やっぱりこんなところ来るんじゃなかった。
絶対嫌だって拒否すればよかった。そうすればこんな思いしなくて済むのに。
何だか酷く胸の辺りが苦しい。泣きそうだ。
『立花先輩にそっくり』なんて。
私は”お仙ちゃん”に似せるように生きているわけではないのに、生まれたときから皆が皆私を仙蔵とそっくりだと言う。
立花仙蔵が本物で、私は本物によく似た出来損ないのように皆言う。
何事にも器用で如才がなくて完璧なお仙ちゃんと、要領が悪くて不器用で泣き虫な私。
昔から比較されることが惨めで惨めで仕方が無くて。いつもお仙ちゃんに劣等感を持ってた。
でもそれを嫌だなんて言えるほど私は気が強くなくて、お仙ちゃんにも『ほへとはいつも鈍臭いな』と言われてたくらい。
だから嫌なの。
だから会いたくないの。
比べてしまうから。どうしてもお仙ちゃんと私を比べてしまうから。
如何に似てるかなんて聞きたくない。似てるところなんて何もないもの。
これだから来たくなかったのよ・・・。
二人の言葉を話半分に聞き流しながら、聞き商売の技能よろしく自動的にうんうん頷いていたら、
「ねえねえ!さっきから思ってたんだけど、君の髪すっごく綺麗だねえ~!触らせて貰っていい?」
という全然関係ない言葉についそのまま頷いてしまった。
はっ、しまった!何で私頷いてるの。
しかし時既に遅し。金髪の人は「ありがとう~!」と心底嬉しそうな顔で私の髪の毛をまるで宝物か何かのように触った。
っていうか、髪の毛触りたいって・・・。何、この人。
「立花くんはなかなか触らせてくれないからさ。うわ、綺麗にお手入れしてるね!」
「・・・そうですか?本当に?」
「そうだよ~。凄く綺麗だよ。鋏入れる必要なんてないくらい」
実はそんなに念入りに手入れなんてやってないんだけどなあ・・・。(遺伝かしら)
つい了承してそのまま流されてしまったけれど、きちんと訂正すればよかっただろうか。
わあわあ言いながら人の髪の毛を触っている人の目が本気で恐いのである。
店の看板娘として生まれて早、十五年。さすがに慣れたとはいえ、本当は自分でも嫌になるくらいに人見知りなのだ。ただ営業用の笑顔で表面上を取り繕ってるだけにすぎない。
男の子にこんな風に髪の毛触られるなんて・・・。
内心恥ずかしくて恥ずかしくて仕様がなかった。(顔が赤くならなかっただけマシかも)
ちらりともう一人の男の子に『助けてくれ』と目で訴えてみたが、通じたかどうかはわからない。ただ、「この人は実家が髪結いさんなんですよ」と言ってくれたお陰で多少なりとも納得はできた。
(ああ、どうりで・・・。でも、いつまで触ってるの?)
髪結いだからって触りすぎである。
しかしこういうときにどのタイミングで『もうやめてくれ』と切り出せばいいんだろうか。
とりあえず愛想笑いしておいた。
本当にもう帰りたい・・・。母さんのばかぁ・・・。