花火のような恋だった
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いつの日か、今落ちる涙がひと粒ずつ、熟した果実になればいい。
そうすれば、この想いはきっともっと甘くなる。
今夜のことが遠い思い出になって、色や形が変わってしまっても、どうか香りだけは変わらないで。
花火のような恋だった
「…今、なんて?」
そう柔らかく囁いた彼のさらさらの金髪が、首を傾げた拍子に少し流れた。
浴衣姿の琉夏くんの背景に見える大きな花火。
人ごみの流れから少し離れたときに発した私の言葉は”初めて”、ちゃんと届いたみたい。
今夜この花火の光の中で、私は決定的にわかってしまった。
卒業式の日から4ヵ月間当たり前に一緒にいたのに、
琉夏くんは今まで全然、私を見ていなかったということ。
「だから、お別れしよう、って、言ったの」
琉夏くんと手をつないでいた。
さっきまでこの指先が感じていた温もりは、離れた瞬間に空気に溶けてなくなった。
「…俺、まだ、好きだよ?」
彼の言葉は綿菓子みたいな愛の言葉。
不思議だね、食べても食べてもなくならないと思ってた。
でもどうやら、私の分は食べきっちゃったみたい。
綿菓子はお腹に溜まらないもんね。通りで満たされないと思った。
ただ今ここにあるのは、嘘みたいな甘い匂いだけ。
「…うそつき」
笑ってみた。多分、笑えているはずだ。
「琉夏くんはずっと、”あの子”のことが好きなんだよね」
今までずっと言いたくて、言いたくて言いたくて仕方なかった。
ほんとうのこと。私が知ってしまったこと。
琉夏くんが欲しいもの。ずっと見つめてるもの。
『琉夏くんの心の中に、私はいないんでしょ?』って、ちゃんと確認したかった。
いつもデートは私から誘った。連絡取るのも私から。
琉夏くんの方から「会いたい」って言われたことはなくて、寂しいと甘えるのはいつも私。
けど、寂しいと甘えるたびに、その寂しさは深まっていくと知ったのは最近だった。
私の目の前の大好きな人は少しだけうつ向いていて、
綺麗な瞳で私を見てた。
琉夏くんの口元は、悲しそうに笑ってる。
嘘がばれちゃったときに叱られてる、小さな子供みたいに眉を下げて、私の言葉を受け止める。
「私、卒業式の日にダメもとで告白して、
いいよって言ってくれたときは信じられなかった。
でも、今わかった。
違う女の子と付き合えば、あの子のこと忘れられると思ったんだよね」
琉夏くんが静かに瞼を閉じた。
誰を想っているんだろう。きっと、私じゃない。
この表情で、前に「やれやれ」って言われたことがある。
そのときから既に、私じゃない”あの子”を見てたの?
――少し経って開いた瞳。その瞳は優しかった。
「…ごめん、正解。パーフェクト」
困った顔して、悲しそうに息を吐く。
気まずそうに右手で頭をかいたあと、
よくできました、って子供を褒めるみたいに、彼が私の頭を撫でる。
海を感じる爽やかな匂い。手首に付けた香水なのかな。
不覚にも心臓が跳ねる。近づくと時々感じた琉夏くんの匂い。
好きだったのに。でもこの匂いは、私のためじゃなかったんだ。
――だめだ、むり、涙が出そう。
下唇を強めに噛んだ。鼻の奥が少し痛い。
目の前のきらきらした世界。
打ち上げられる度に溢れる光が、どんどん大きくなる。
光が増して綺麗、なんて浸る暇もなく目からぽろっと雫が落ちた。
雫が落ちると、世界のきらめきはさっきと同じ光の大きさに戻る。
私の目はそれを何回か繰り返す。
花火の煌めきは今、私の世界の全てだった。
私はこの光に溶け込んでしまいそうに儚げで
それでいてどんな男の子よりも煌びやかな琉夏くんが、大好きだったんだ。
「オマエに言われるまで甘えてる俺で、ごめん」
琉夏くんが、やっと、本当に私に笑ってくれた。
私を見てくれた。認識してくれた。今、きっと、初めて。
「お別れだね」
『今まで、ありがと。……ちゃん』
あぁ、久しぶりに聴いた気がする。私の名前を呼ぶ、琉夏くんの声。
最近いつも「オマエ」って呼ばれてたから、嬉しさと悲しさで、また涙が込み上げる。
私、何回くらい琉夏くんに、名前を呼んでもらえたんだろう。
きっと数えるくらいしかない思い出を、今更振り返りたくはない。だって、今大切なことは――
琉夏くんが前に進むことを、躊躇わないようにすることだから。
「琉夏くん、ちゃんと、あの子に告白してね」
「…うん」
「私みたいな子、もう創っちゃ駄目だよ」
「……うん」
「ちゃんと、向き合って、ね」
”あの子”の影を私に重ねて、欲しい気持ちを誤魔化して「なんちて」な恋愛ごっこ。
私には一瞬一瞬が温かくて、良い匂いで、美味しくて、幸せな日々だった。
私にとっては宝石だった。
次会えるとき、私たちは笑い合えるかな。
「お互い、あのときは頑張ってたね」って。
琉夏くんは”忘れられるように”、私は”覚えてもらえるように”、一生懸命だった夏の日。
「さようなら、琉夏くん」
――花火大会の帰り道。光も音も遠くなった頃。
送ると言ってくれたのを断って、一人で帰った道のりは、
なぜだろう、寂しいはずなのに心地よくて。
泣いているのに笑顔だった。
大好きな人が、幸せになるために必要な一歩を踏み出せたんだ。
後悔はない。いっそ清々しくて。
この日のことが想い出になった時に、私はきっとこの夏空の花火と、海の爽やかな匂いを思い出す。
「夢みたい、だったなぁ…」
一度だけでも心から本気で、琉夏くんに「好き」と言って欲しかった。私を、見て欲しかったよ。
繋いだ手の感触が、ニセモノだったなんて信じたくないな。
手を、開いたり閉じたり。温もりを覚えているのは今はもう心だけだ。
嘘、だったかもしれないけど、それでも、私にとってこの思い出は本物なんだ。
「本当に、王子様だったよ…琉夏くん」
この夜に植えた果実の種が、いつか芽吹く時を待つ。
私はそれまで夢見ている。
彼への憧れと同じくらい、胸焦がれる人との出会いを。
零れ、空に溶けていく光
儚く散った淡い恋は
花火のような恋だった
***
サザン/オール/スターズ
真夏の/果実
『確かに恋だった』
「それは恋だった10題」より
“花火のような恋だった”
そうすれば、この想いはきっともっと甘くなる。
今夜のことが遠い思い出になって、色や形が変わってしまっても、どうか香りだけは変わらないで。
花火のような恋だった
「…今、なんて?」
そう柔らかく囁いた彼のさらさらの金髪が、首を傾げた拍子に少し流れた。
浴衣姿の琉夏くんの背景に見える大きな花火。
人ごみの流れから少し離れたときに発した私の言葉は”初めて”、ちゃんと届いたみたい。
今夜この花火の光の中で、私は決定的にわかってしまった。
卒業式の日から4ヵ月間当たり前に一緒にいたのに、
琉夏くんは今まで全然、私を見ていなかったということ。
「だから、お別れしよう、って、言ったの」
琉夏くんと手をつないでいた。
さっきまでこの指先が感じていた温もりは、離れた瞬間に空気に溶けてなくなった。
「…俺、まだ、好きだよ?」
彼の言葉は綿菓子みたいな愛の言葉。
不思議だね、食べても食べてもなくならないと思ってた。
でもどうやら、私の分は食べきっちゃったみたい。
綿菓子はお腹に溜まらないもんね。通りで満たされないと思った。
ただ今ここにあるのは、嘘みたいな甘い匂いだけ。
「…うそつき」
笑ってみた。多分、笑えているはずだ。
「琉夏くんはずっと、”あの子”のことが好きなんだよね」
今までずっと言いたくて、言いたくて言いたくて仕方なかった。
ほんとうのこと。私が知ってしまったこと。
琉夏くんが欲しいもの。ずっと見つめてるもの。
『琉夏くんの心の中に、私はいないんでしょ?』って、ちゃんと確認したかった。
いつもデートは私から誘った。連絡取るのも私から。
琉夏くんの方から「会いたい」って言われたことはなくて、寂しいと甘えるのはいつも私。
けど、寂しいと甘えるたびに、その寂しさは深まっていくと知ったのは最近だった。
私の目の前の大好きな人は少しだけうつ向いていて、
綺麗な瞳で私を見てた。
琉夏くんの口元は、悲しそうに笑ってる。
嘘がばれちゃったときに叱られてる、小さな子供みたいに眉を下げて、私の言葉を受け止める。
「私、卒業式の日にダメもとで告白して、
いいよって言ってくれたときは信じられなかった。
でも、今わかった。
違う女の子と付き合えば、あの子のこと忘れられると思ったんだよね」
琉夏くんが静かに瞼を閉じた。
誰を想っているんだろう。きっと、私じゃない。
この表情で、前に「やれやれ」って言われたことがある。
そのときから既に、私じゃない”あの子”を見てたの?
――少し経って開いた瞳。その瞳は優しかった。
「…ごめん、正解。パーフェクト」
困った顔して、悲しそうに息を吐く。
気まずそうに右手で頭をかいたあと、
よくできました、って子供を褒めるみたいに、彼が私の頭を撫でる。
海を感じる爽やかな匂い。手首に付けた香水なのかな。
不覚にも心臓が跳ねる。近づくと時々感じた琉夏くんの匂い。
好きだったのに。でもこの匂いは、私のためじゃなかったんだ。
――だめだ、むり、涙が出そう。
下唇を強めに噛んだ。鼻の奥が少し痛い。
目の前のきらきらした世界。
打ち上げられる度に溢れる光が、どんどん大きくなる。
光が増して綺麗、なんて浸る暇もなく目からぽろっと雫が落ちた。
雫が落ちると、世界のきらめきはさっきと同じ光の大きさに戻る。
私の目はそれを何回か繰り返す。
花火の煌めきは今、私の世界の全てだった。
私はこの光に溶け込んでしまいそうに儚げで
それでいてどんな男の子よりも煌びやかな琉夏くんが、大好きだったんだ。
「オマエに言われるまで甘えてる俺で、ごめん」
琉夏くんが、やっと、本当に私に笑ってくれた。
私を見てくれた。認識してくれた。今、きっと、初めて。
「お別れだね」
『今まで、ありがと。……ちゃん』
あぁ、久しぶりに聴いた気がする。私の名前を呼ぶ、琉夏くんの声。
最近いつも「オマエ」って呼ばれてたから、嬉しさと悲しさで、また涙が込み上げる。
私、何回くらい琉夏くんに、名前を呼んでもらえたんだろう。
きっと数えるくらいしかない思い出を、今更振り返りたくはない。だって、今大切なことは――
琉夏くんが前に進むことを、躊躇わないようにすることだから。
「琉夏くん、ちゃんと、あの子に告白してね」
「…うん」
「私みたいな子、もう創っちゃ駄目だよ」
「……うん」
「ちゃんと、向き合って、ね」
”あの子”の影を私に重ねて、欲しい気持ちを誤魔化して「なんちて」な恋愛ごっこ。
私には一瞬一瞬が温かくて、良い匂いで、美味しくて、幸せな日々だった。
私にとっては宝石だった。
次会えるとき、私たちは笑い合えるかな。
「お互い、あのときは頑張ってたね」って。
琉夏くんは”忘れられるように”、私は”覚えてもらえるように”、一生懸命だった夏の日。
「さようなら、琉夏くん」
――花火大会の帰り道。光も音も遠くなった頃。
送ると言ってくれたのを断って、一人で帰った道のりは、
なぜだろう、寂しいはずなのに心地よくて。
泣いているのに笑顔だった。
大好きな人が、幸せになるために必要な一歩を踏み出せたんだ。
後悔はない。いっそ清々しくて。
この日のことが想い出になった時に、私はきっとこの夏空の花火と、海の爽やかな匂いを思い出す。
「夢みたい、だったなぁ…」
一度だけでも心から本気で、琉夏くんに「好き」と言って欲しかった。私を、見て欲しかったよ。
繋いだ手の感触が、ニセモノだったなんて信じたくないな。
手を、開いたり閉じたり。温もりを覚えているのは今はもう心だけだ。
嘘、だったかもしれないけど、それでも、私にとってこの思い出は本物なんだ。
「本当に、王子様だったよ…琉夏くん」
この夜に植えた果実の種が、いつか芽吹く時を待つ。
私はそれまで夢見ている。
彼への憧れと同じくらい、胸焦がれる人との出会いを。
零れ、空に溶けていく光
儚く散った淡い恋は
花火のような恋だった
***
サザン/オール/スターズ
真夏の/果実
『確かに恋だった』
「それは恋だった10題」より
“花火のような恋だった”
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