それがぼくらにできたこと
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何かが壊れる瞬間に、俺らはいつも前に進めてた。
空っぽな未来も、色のない自分自身も手に入れて、
それが大人になることだと思った。
それが、何にも知らなかったダサい俺たちの強さかもしれなかった。
それがぼくらにできたこと
「コウ、ねぇ、コウ」
「んだよ、うるせぇな」
寝転がったコウの部屋の床は冷たくて、コウの顔は見えない。
げし、と口で効果音を付けてコウの背中を軽く蹴る。
全く動じないデカイ背中。少しよれたTシャツの後ろ姿。
中2の大きさじゃないデカさの兄貴の背中。
「ねぇ、暇だよコウ」
「あーそうかよ。その辺ふらふらしてりゃすぐ絡まれっから行ってこい」
「今そんな気分じゃない。ねぇ、つまんねーよコウ。相手してよ」
「…ちったぁ黙ってろや」
コウの声のトーンが少し変わった。
俺は少し口をとんがらせて、すねた風に「ちぇ」って声に出して言った。
中坊の休日なんてこんなもん。
普通は誕生日やクリスマスで買ってもらうゲームも、コウが違うものをねだるから全然ない。携帯も、高校生からって言われて持ってない。
トランプやカードゲームも1人じゃつまんない。
てことで、兄貴の部屋に入り浸って、意味なく筋トレをしてみたり、レンジャーのポーズを寝転びながら決めてみたり。
ひとつひとつ、することに意味なんかないけど、いかに気がまぎれるか。そこが勝負。
そういえば「来年は受験生」なんて言われ始めてたっけ。
もともと勉強って好きじゃないや。なんでするかわかんないから。
ギリギリ成績で呼び出されないくらいには点数取って、時々フケて、
相変わらず、双子みたいな髪した俺らの毎日はくだらなかった。
町に出れば絡まれるし、生傷は絶えないし。
でもそれは、少しずつ強くなってる証拠なんだと思った。
心の底では、「どうなんだろ」って思ってても。
夕陽が沈めば家に帰る。母さんが心配するから。
そうやって、帰る「家」はある俺らは、自分でも何がしたいのか、よくわからなかった。
でもその場所で「弟」の俺は、気が休まることはない。
生きてる実感が欲しかったのかな。ヒーローになるための修行?
でもどこまで頑張れば、俺は本物のヒーローになれるんだろう。
誰も守れやしない体なのに。
――そんな問いかけも、今じゃ虚しい。
「ねぇ、コウは何やってんの?」
「お前には関係ねぇ」
「うわっ、ひど。何やってるかくらい言えよ」
「はぁ…ったく、しょうがねぇな」
「はいよ」――渋々見せてくれたのは、
よくわかんない黒いレコードやよく出来たバイクの模型みたいなやつ。
数は多くないけど、いつの間にかコウが集め始めてた。貯めてた小遣いとかで買ってるのかな?
…あ、こっちはこの間父さんに買ってもらってたかも。
古くて、ちょっと埃っぽい匂いがする、コウにとっての今の心の依りどころ。
「すげぇ。でも、全然わかんねぇ」
「そうだろうよ。けどどれもレアなんだからな、触んじゃねぇぞ」
気がつくとコウは、古いものばかり集めてる。
日本のじゃなくて、ほとんど外国のもの。アメリカっぽい。
コウはひょっとしたら、古い思い出が好きなタイプなのかも。
思い出は、ものによっては優しいからね。
最近はまた新しいコレクションが手に入ったみたいで、気が付くとせっせとレイアウトを変えてみたり、
暑苦しく伸びた髪をひとつに束ねて、必死に磨いたりしてる。
「あれ、これ…この間磨いてたのにまた磨いてんの?」
「あのなぁ、こういうもんは一回磨きゃ良いってもんじゃねぇんだよ」
「ふーん。好きだねぇ。俺も磨いて良い?」
「ダメだ」
ちぇー。コウは俺がコレクションに触るのを嫌がる。そこまで嫌がんなくてもいいじゃん。
俺はコウのベッドによじ登って、仰向けに寝転がって天井を見上げた。つまんな過ぎて、ぼーっとしたくなった。
そしたら寝転んだ勢いで、長い黒い髪が一気に視界を遮ってきたから、そのまま目を瞑ることにした。
この間ケンカして切れた口の端が痛い。顎の辺りもちょっとジンジンする。
少しして、遠退く意識を掴もうとしながら、俺は結局寝た。
そしたら変な夢、見た。
――コウじゃなくて、俺がバイクに乗ってる。
すごいスピード。夜かな?周りは真っ暗だ。
海の匂いと星明かりに包まれながら、急カーブを曲がったら、そしたら、気が抜けてたみたいで、
ものすごい音を立ててバイクが吹っ飛んで、俺も吹っ飛んだ。
笑っちゃうくらい綺麗に飛んだと思う。
俺の体は、鈍い音を立ててどっかに落ちた。
夢の中の俺は起きあがる気もしなくて、道のどっかで倒れたまま、目を瞑った。
そしたら、いなくなっちゃった父さんと母さんの声がした。
会いたい。でも、会えない。
はっと目を開けた。真っ暗な空間には誰もいない。
段々と、星明かりが余計眩しくキラキラしてくる。
ひとりぼっち、今までも。
何があっても、ひとりだけ。
どこまで行っても、ひとりきり。
僕はここいるのに。
誰も気づいてなんかくれない。
何でか涙がこぼれてきた。
『…美奈子…』
そして星空に向かって、
いつの日か別れた幼なじみの名前を呼んで、
夢の俺の意識は遠のいて行った。
「……なんで」
「あ?」
「……なんで、なにこれ、夢?」
気が付くと、やっぱり見慣れたコウのベッド。邪魔な髪の毛は変な汗で首とおでこにピタピタくっ付いてた。
「やっと大人しくなったと思えば、寝てやがったな」
「コウ、俺、変な夢見た」
美奈子、って覚えてる?
聞いた瞬間、右の眉毛がぴくってなった。……コウはやっぱり覚えてた。
もう大分縁遠くなった、ちゃんとした恋なんてもの。
その始まりは、俺たちにとってはきっと彼女だった。
なんで死にかけた俺は、彼女の名前を呼んだの。
再会の暗示?まさかね。
だって彼女は、もう会えない場所に引っ越してしまったから。
――昔々。コウと2人で、去っていった彼女を追って、小学生のくせに彼女が住む街に行こうとした。
でも、行けなかった。
どこまで行っても、どこまでも彼女がいる街はなかった。
街ふたつ以上に離れた距離は、子供だった俺らにはとてもとても、越えられるもんじゃない。
やっと越えられる体になった頃には、幼なじみに会いに行こうなんて可愛さもどっか行っちゃった。
ピアスをぶら下げた傷だらけの問題児なんか、あの子が気づく訳がない。
人を殴ったり蹴ったりする。そんな俺ら、今じゃ合わせる顔がない。
合わせる権利も、そしてない。
今は色々痛すぎるもんな、俺たち。
「コウ、あとさ、俺、夢で自分の死に方見たよ。
喧嘩で刺されるとかじゃなかった。バイクの自爆っぽい。やったね」
「はぁ?バカ言ってんじゃねーよ」
「縁起でもねぇこと言うな。」
――おっかねーなぁ、お兄ちゃん。軽く睨まれちゃった。
だって、誰にも迷惑かけないよ?
まぁ道は通行止めになるかもだし、警察にはイロイロお世話になるけど。
……もうさ、だって俺、ちょっと「今」が嫌になってきたんだ。
ねぇ、コウ。
こんなに人に迷惑かけてまで、生きてなんかいたくないよ。
「今までいくら死に掛けたとしても、こうして俺らは生きてんだ。
生きてる人間が、簡単に自分で死ぬとか考えんな」
らしくないこと言って、コウはまた作業に戻った。
背中に「もうこの話はやめだ」って書いてあって、俺は話を変えた。
……そっか。生きてるかな?俺。
説明のつかない冷たさを胸の奥で一瞬感じて、
相変わらずバカみたいなキャラで桜井琉夏を演じる。
夢の中で、「あの子」の名前を呼んだ理由もわからずに、きっと今日も、手探りなまま一日を終える。
コウは思い出が好きなことを認めて、好きな生き方を見つけ始めてた。
俺は俺の生きる意味が何か、知りたくて知りたくて。
何か夢を見てるみたいに、知らない明日ばかり想った。
そしてその結末を考えて眠った。
『俺らは生きてんだ。生きてる人間が、簡単に自分で死ぬとか考えんな』
今日も、他校のやつの一発を横腹に食らってよろけた。
一丁前なこと言ってたコウを思い出して、ちょっとにやけた。
コウ、いつもごめんな。俺を守ろうって、お兄ちゃんになろうとしてくれてたんだよな。
口の端から血が出るのを感じて、俺は痛みより先に安心した。
あぁ生きてるって笑ったら、他校のやつに気味悪がられた。
いつからか、それぞれの大切な何かにしがみついて、
俺らは体の底から湧き上がるものを燃やし尽くしたいがために、がむしゃらに勝ち続けた。
負けないことがヒーローになる条件だと信じてた。
『なめんてじゃねぇよ。いい加減死ぬ気で来いや』
――何度そうやって相手に粋がって、強がって、
泣かないために拳を振り上げたんだろうな。
何にも染まりたくなかった。誰にも、心なんて見せたくなかった。
未来はいつでも見えなくて、黒い髪は誰にも従わないと決めた証。
「いつか、ここに引っ越そう。…もう少しだけ、大人になったら」
海辺で見つけたWest Beachは、寂れているのになんでか古びたようには見えなかった。
桜井家に引き取られたあの日に通りかかった時は、まだレストランとして灯りがついてた。人の声もした。でもいつの間にか、なくなった。
変わっていくことをどうにもできないこと。
変えなくても良いと言われてどうにもできないこと。
俺ひとりじゃどうしようもできない現実に、押しつぶされそうだった。
どこにも行くあてのない俺が、死ぬかもって夢で名前を呼んだ。
「オマエ」にまた会えたら、あの頃の気持ちを思い出せたら、
欠けていた何かが、埋まるような気がしたんだ。
………――美奈子、美奈子。
確かに、あの日、オマエがいた。
だから呼ぶ度に、俺は、”ここ”にいられる気がする。
――これは、思い出の教会で美奈子に再会する、
ほんの1年と数ヶ月前の、悲しくて痛々しいある“兄弟”のお話。
***
globe
I'm still alone
空っぽな未来も、色のない自分自身も手に入れて、
それが大人になることだと思った。
それが、何にも知らなかったダサい俺たちの強さかもしれなかった。
それがぼくらにできたこと
「コウ、ねぇ、コウ」
「んだよ、うるせぇな」
寝転がったコウの部屋の床は冷たくて、コウの顔は見えない。
げし、と口で効果音を付けてコウの背中を軽く蹴る。
全く動じないデカイ背中。少しよれたTシャツの後ろ姿。
中2の大きさじゃないデカさの兄貴の背中。
「ねぇ、暇だよコウ」
「あーそうかよ。その辺ふらふらしてりゃすぐ絡まれっから行ってこい」
「今そんな気分じゃない。ねぇ、つまんねーよコウ。相手してよ」
「…ちったぁ黙ってろや」
コウの声のトーンが少し変わった。
俺は少し口をとんがらせて、すねた風に「ちぇ」って声に出して言った。
中坊の休日なんてこんなもん。
普通は誕生日やクリスマスで買ってもらうゲームも、コウが違うものをねだるから全然ない。携帯も、高校生からって言われて持ってない。
トランプやカードゲームも1人じゃつまんない。
てことで、兄貴の部屋に入り浸って、意味なく筋トレをしてみたり、レンジャーのポーズを寝転びながら決めてみたり。
ひとつひとつ、することに意味なんかないけど、いかに気がまぎれるか。そこが勝負。
そういえば「来年は受験生」なんて言われ始めてたっけ。
もともと勉強って好きじゃないや。なんでするかわかんないから。
ギリギリ成績で呼び出されないくらいには点数取って、時々フケて、
相変わらず、双子みたいな髪した俺らの毎日はくだらなかった。
町に出れば絡まれるし、生傷は絶えないし。
でもそれは、少しずつ強くなってる証拠なんだと思った。
心の底では、「どうなんだろ」って思ってても。
夕陽が沈めば家に帰る。母さんが心配するから。
そうやって、帰る「家」はある俺らは、自分でも何がしたいのか、よくわからなかった。
でもその場所で「弟」の俺は、気が休まることはない。
生きてる実感が欲しかったのかな。ヒーローになるための修行?
でもどこまで頑張れば、俺は本物のヒーローになれるんだろう。
誰も守れやしない体なのに。
――そんな問いかけも、今じゃ虚しい。
「ねぇ、コウは何やってんの?」
「お前には関係ねぇ」
「うわっ、ひど。何やってるかくらい言えよ」
「はぁ…ったく、しょうがねぇな」
「はいよ」――渋々見せてくれたのは、
よくわかんない黒いレコードやよく出来たバイクの模型みたいなやつ。
数は多くないけど、いつの間にかコウが集め始めてた。貯めてた小遣いとかで買ってるのかな?
…あ、こっちはこの間父さんに買ってもらってたかも。
古くて、ちょっと埃っぽい匂いがする、コウにとっての今の心の依りどころ。
「すげぇ。でも、全然わかんねぇ」
「そうだろうよ。けどどれもレアなんだからな、触んじゃねぇぞ」
気がつくとコウは、古いものばかり集めてる。
日本のじゃなくて、ほとんど外国のもの。アメリカっぽい。
コウはひょっとしたら、古い思い出が好きなタイプなのかも。
思い出は、ものによっては優しいからね。
最近はまた新しいコレクションが手に入ったみたいで、気が付くとせっせとレイアウトを変えてみたり、
暑苦しく伸びた髪をひとつに束ねて、必死に磨いたりしてる。
「あれ、これ…この間磨いてたのにまた磨いてんの?」
「あのなぁ、こういうもんは一回磨きゃ良いってもんじゃねぇんだよ」
「ふーん。好きだねぇ。俺も磨いて良い?」
「ダメだ」
ちぇー。コウは俺がコレクションに触るのを嫌がる。そこまで嫌がんなくてもいいじゃん。
俺はコウのベッドによじ登って、仰向けに寝転がって天井を見上げた。つまんな過ぎて、ぼーっとしたくなった。
そしたら寝転んだ勢いで、長い黒い髪が一気に視界を遮ってきたから、そのまま目を瞑ることにした。
この間ケンカして切れた口の端が痛い。顎の辺りもちょっとジンジンする。
少しして、遠退く意識を掴もうとしながら、俺は結局寝た。
そしたら変な夢、見た。
――コウじゃなくて、俺がバイクに乗ってる。
すごいスピード。夜かな?周りは真っ暗だ。
海の匂いと星明かりに包まれながら、急カーブを曲がったら、そしたら、気が抜けてたみたいで、
ものすごい音を立ててバイクが吹っ飛んで、俺も吹っ飛んだ。
笑っちゃうくらい綺麗に飛んだと思う。
俺の体は、鈍い音を立ててどっかに落ちた。
夢の中の俺は起きあがる気もしなくて、道のどっかで倒れたまま、目を瞑った。
そしたら、いなくなっちゃった父さんと母さんの声がした。
会いたい。でも、会えない。
はっと目を開けた。真っ暗な空間には誰もいない。
段々と、星明かりが余計眩しくキラキラしてくる。
ひとりぼっち、今までも。
何があっても、ひとりだけ。
どこまで行っても、ひとりきり。
僕はここいるのに。
誰も気づいてなんかくれない。
何でか涙がこぼれてきた。
『…美奈子…』
そして星空に向かって、
いつの日か別れた幼なじみの名前を呼んで、
夢の俺の意識は遠のいて行った。
「……なんで」
「あ?」
「……なんで、なにこれ、夢?」
気が付くと、やっぱり見慣れたコウのベッド。邪魔な髪の毛は変な汗で首とおでこにピタピタくっ付いてた。
「やっと大人しくなったと思えば、寝てやがったな」
「コウ、俺、変な夢見た」
美奈子、って覚えてる?
聞いた瞬間、右の眉毛がぴくってなった。……コウはやっぱり覚えてた。
もう大分縁遠くなった、ちゃんとした恋なんてもの。
その始まりは、俺たちにとってはきっと彼女だった。
なんで死にかけた俺は、彼女の名前を呼んだの。
再会の暗示?まさかね。
だって彼女は、もう会えない場所に引っ越してしまったから。
――昔々。コウと2人で、去っていった彼女を追って、小学生のくせに彼女が住む街に行こうとした。
でも、行けなかった。
どこまで行っても、どこまでも彼女がいる街はなかった。
街ふたつ以上に離れた距離は、子供だった俺らにはとてもとても、越えられるもんじゃない。
やっと越えられる体になった頃には、幼なじみに会いに行こうなんて可愛さもどっか行っちゃった。
ピアスをぶら下げた傷だらけの問題児なんか、あの子が気づく訳がない。
人を殴ったり蹴ったりする。そんな俺ら、今じゃ合わせる顔がない。
合わせる権利も、そしてない。
今は色々痛すぎるもんな、俺たち。
「コウ、あとさ、俺、夢で自分の死に方見たよ。
喧嘩で刺されるとかじゃなかった。バイクの自爆っぽい。やったね」
「はぁ?バカ言ってんじゃねーよ」
「縁起でもねぇこと言うな。」
――おっかねーなぁ、お兄ちゃん。軽く睨まれちゃった。
だって、誰にも迷惑かけないよ?
まぁ道は通行止めになるかもだし、警察にはイロイロお世話になるけど。
……もうさ、だって俺、ちょっと「今」が嫌になってきたんだ。
ねぇ、コウ。
こんなに人に迷惑かけてまで、生きてなんかいたくないよ。
「今までいくら死に掛けたとしても、こうして俺らは生きてんだ。
生きてる人間が、簡単に自分で死ぬとか考えんな」
らしくないこと言って、コウはまた作業に戻った。
背中に「もうこの話はやめだ」って書いてあって、俺は話を変えた。
……そっか。生きてるかな?俺。
説明のつかない冷たさを胸の奥で一瞬感じて、
相変わらずバカみたいなキャラで桜井琉夏を演じる。
夢の中で、「あの子」の名前を呼んだ理由もわからずに、きっと今日も、手探りなまま一日を終える。
コウは思い出が好きなことを認めて、好きな生き方を見つけ始めてた。
俺は俺の生きる意味が何か、知りたくて知りたくて。
何か夢を見てるみたいに、知らない明日ばかり想った。
そしてその結末を考えて眠った。
『俺らは生きてんだ。生きてる人間が、簡単に自分で死ぬとか考えんな』
今日も、他校のやつの一発を横腹に食らってよろけた。
一丁前なこと言ってたコウを思い出して、ちょっとにやけた。
コウ、いつもごめんな。俺を守ろうって、お兄ちゃんになろうとしてくれてたんだよな。
口の端から血が出るのを感じて、俺は痛みより先に安心した。
あぁ生きてるって笑ったら、他校のやつに気味悪がられた。
いつからか、それぞれの大切な何かにしがみついて、
俺らは体の底から湧き上がるものを燃やし尽くしたいがために、がむしゃらに勝ち続けた。
負けないことがヒーローになる条件だと信じてた。
『なめんてじゃねぇよ。いい加減死ぬ気で来いや』
――何度そうやって相手に粋がって、強がって、
泣かないために拳を振り上げたんだろうな。
何にも染まりたくなかった。誰にも、心なんて見せたくなかった。
未来はいつでも見えなくて、黒い髪は誰にも従わないと決めた証。
「いつか、ここに引っ越そう。…もう少しだけ、大人になったら」
海辺で見つけたWest Beachは、寂れているのになんでか古びたようには見えなかった。
桜井家に引き取られたあの日に通りかかった時は、まだレストランとして灯りがついてた。人の声もした。でもいつの間にか、なくなった。
変わっていくことをどうにもできないこと。
変えなくても良いと言われてどうにもできないこと。
俺ひとりじゃどうしようもできない現実に、押しつぶされそうだった。
どこにも行くあてのない俺が、死ぬかもって夢で名前を呼んだ。
「オマエ」にまた会えたら、あの頃の気持ちを思い出せたら、
欠けていた何かが、埋まるような気がしたんだ。
………――美奈子、美奈子。
確かに、あの日、オマエがいた。
だから呼ぶ度に、俺は、”ここ”にいられる気がする。
――これは、思い出の教会で美奈子に再会する、
ほんの1年と数ヶ月前の、悲しくて痛々しいある“兄弟”のお話。
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