◇一応あるメインストーリー◇
「別に、そんなんちゃいますわ」
「―――財前、最近仲ええ子がおるみたいやな」
「……なんすか、部長まで」
「いやあ、こないだ校庭で騒いどるの見かけたから、つい」
「あれブログネタに困ってただけなんで……」
「ワシも見たな。謙也はんに千歳はんも一緒やったけど」
「俺も~。財前に仲のええ友達がおるってだけでも一安心したわ」
「ケンちゃんオトンみたいやな!」
「せやけど、財前友達おったんやな。しかも女子!」
「これは春のトキメキの予感ねぇ~!」
「女の子……もしかしてミトのことか?」
「あら?金ちゃんも知ってはるの?」
「たこやきくれる財前の彼女のねーちゃん!!」
「ちゃうわ」
ミトもなに餌付けしとるんや……とため息を吐く。
それに対して「いやんヒカルが取られちゃう~!」「取られるってなんやねん浮気か!!」といつもの調子で騒ぎ出すやかましい先輩たちと金太郎。
いつもの騒がしい空気に今一度大きくため息をつき、無視するようにコートに入る。
向こう側には既に謙也さんがスタンバっていて、今からラリー練習や。
そんないつもの部活風景に、こないだのコーラ事変が色んな人に見られとったらしい。
いつもなら話題に上がらんようなミトの話が、先輩らのトップニュースとして表れていた。
別に、ミトとはなんともない。
お互いただのクラスメイト。
話をして、聞いてが何となく居心地のいい、それだけ。
やからこそ、俺はミトの下の名前も知らんくらい、ミトのことをなんも知らん。
ただそれだけ、たったそれだけなのだ。
「でもっ、確かに、ハァッ!ミトと仲ええのは意外やっちゅー話やな!」
「っ!別に、どうでもええでしょそんなん!」
「せやけどあんま、人とつるんどらんお前が!仲良さそうに話しよるのは、フッ!先輩として気にもなるもんや!」
「俺も~。あん時は深う突っ込まんだったばってん、どぎゃんして仲良うなったと?」
「ほんま、うっさい……!どうでもええ言うとるのに……!」
「あ、せやったら今のラリーで謙也がとったら教えてもらうっちゅーことで。はい、スタート」
「は!?なん勝手に……!」
「白石ナイス!ほんならいくで!!」
ああ、もう!
練習の時間くらい集中させてほしいもんやわ!
そう思いながらも、どうしようもないので軌道を変えてきた謙也さんの球に食らいつく。
ほんまこの人らはややこしい人ばっかりや……!
なんて思ってはいたものの、最初にいきなり軌道を変えられて体制を崩したせいで、そのまま追い詰められてしまい。
結局謙也さんにスマッシュを決められてしまったのだった。
「はぁっ……!いきなり、始めるんズルっすわ……!」
「いやいや、今のはそういう流れやん?」
「そもそもお前が話さへんのが悪いやん。やましいことないならさっさと話せばええやんか」
「せやで~?うちとユウくんみたいに堂々とすればええだけやのに!」
「ほんまきしょいっすわ……別に、ただのクラスメイトやし」
「財前はん。みんなが心配する気持ちも汲んだってくれんか?」
「あーー……まあ、俺は心配してないとはいえ、校内で嫌な噂あるからなぁ……」
「ん??ミトちゃんなんかあったと?」
「うーん……なんちゅーか……財前の友達の悪口みたいであんま言うもんちゃうけど……」
「部活の先輩の彼氏に手ぇ出して、部内におるの気まずうなったから部活やめた、みたいなやつっすよね」
俺がはっきりとそれを言えば、みんなが少し気まずそうにしている。空気がわからず頭にはてなを浮かべているのは金太郎だけだ。
―――最近噂の2年のミト。
授業はサボる、遅刻常習犯、夜遅くまで出歩き悪い友達がおる、経験人数がたくさん、エトセトラエトセトラ。
元々品行方正とは言い難い噂があって色々言われていたが、最近その噂に拍車をかけたビックニュースが「部活を辞めた」こと。
そしてその原因が、同じ部活の先輩の彼氏をとって、部内の空気が大変なことになったから部活を辞めた、という。
ミトは否定もしなければ肯定もしていないが、そういったとんでもない噂が校内で流れているのだ。
先輩たちが部活中に珍しくこんな話題を出すのは、この噂のせい。
そしてそれを聞いた先輩たちが、俺のことを心配している構図、というわけだろう。
別に心配せんでも、別になんもない言うとるのに。
本人から何か聞いているわけでもない、ただ席が前後で暇つぶしに会話をしているだけの関係。
お互いにお互いの事情に深入りするなんてことは、一度もないというのに。
「そんな風には……見えへんけどなぁ……」
「銀もミトとなんか関わりあったか?」
「特にないが……ただ見かけたときにそないな子に見えへんかったってだけやから」
「とはいえ噂は広まるばかりやからねぇ……仲ええ組はなんも聞いとらんの?」
「聞くもなんも……」
「ミトちゃんとそぎゃん話したことがなか」
「同じく」
「なんやよーわからんけど……ミトはええ人やでー!」
「うん、金ちゃんはそれでええわ。噂信じるのもよくはないけど……本人から弁明してる様子がないからなあ……」
「俺も一回だけ話したことあるけど、そんな子には見えへんかったし……まあ、それ以来避けられとるから余計にでもわからんくて……」
「え、白石もミトと話したことあるん?」
「ちょっとだけな」
「白石が避けられとんの、なんや、おもろいなぁ」
「蔵リン常にモテモテなんにねぇ、かっこええから♡」
「浮気かコラ!」
そのまま話題はどこへやら、いつものごとく会話の方向がわけわからん方角へと向かっていく。
……別に、それが当たり前や。
こないだ聞いたんは気まぐれ、暇つぶし、ちょっとした興味。
あれを聞いても、なんも言わんかったんはミトや。
それはつまり、俺とその話はするつもりがないってこと。
ただのクラスメイト。
お互い、暇なときに暇つぶしで話をするだけの。
たったそれだけの、なんでもない関係なのだから。
そのことを胸に刻み、一度細く、深呼吸をする。
ミトはミト、誰がなんて言っていようと、俺にとってはただのクラスメイト。
色々言われとるうちのどれが嘘で本当なんて、俺には知る由もない。
俺が知っとるのは、くだらん話が好きなだけの、ただのゴンタクレってだけや。
俺自身も大会が近い、手なんて抜いてられへん。
そう思いながら、盛り上がってる先輩らから離れる。
「財前」
「……なんすか、ユウジ先輩」
「俺らはお前の"先輩"やからな。なんかあったらいつでも相談しいや」
「何急にかっこつけてんすか」
「ほんまかわいくないわ!別に噂が嘘でもホンマでもええ。けどな、うちの後輩がそれで傷つくんは見逃せんだけや!」
「はぁ……気持ちだけ頂いときますよ。ちゅーかホンマに気にすることなんもないんで」
あらぬ方向にずっと勘違いされている。
せやけどそれは大きな間違い、ミトだって俺のことをそんな風に思うわけない。
話くらいは聞いたってもええかな、くらいの友達以下の関係なんやから。
「別に、そんなんちゃいますわ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ、ミトやーーー!ミトーーー!!!」
「ん?おお、金ちゃん!と?…………げっ」
部活帰りの時間。
レギュラーメンバーでそのまま学校を後にし、家へと向かう最中の商店街。
帰り道に、まさかのミトがいた。
この間謙也さんと、スポーツショップに行った時と似たような格好をしているが。
こんな時間に一人で外をうろついてる、一体どうしたっていうんやろか。
そんなミトは、金太郎から声をかけられるのに慣れているのだろう。
特に驚く様子もなく、普通に反応したが。
金太郎が来た方向、つまり俺らがおる方に視線を向けた瞬間、明らかに嫌そうな顔をした。
具体的に言うとこないだ炭酸が抜けたコーラを飲んだ時の、眉間にしわの寄った渋い顔。
そんな顔をされる覚えはないが―――視線が向いているのは俺じゃないというのは何となくわかる。
「金ちゃん飴あげるからさっさとそこのでかいのたくさん早よ連れて帰りなさい」
「え~!せっかくミトに会えたんに~!」
「なんしよん?こんなとこで」
「え、おお……なんや、財前もおったんか。腹ごしらえやけど」
「どつくぞお前」
「こぎゃん時間に一人で大丈夫ったい?送るばい」
「いや送るも何もまだ帰らへんから大丈夫。むしろこっちの虎少年引き取ってえな」
「女の子がこないな時間まで一人やのにほっとけへんわ!」
「さすが小春はええこと言うわ~!お前らも見習え!」
「むしろ大男がこんな囲んどる今の状況の方がよくないんちゃうか……?」
「同じ学校やさかい、そない気にせんでも」
「うっわファンサありがとうございます……やなくて、待ち合わせしとるんでマジで気にせんでください。そろそろ来るし見られる方がまずいっちゅーか」
「……??」
いつもと違う様子のミトに、思わず首を傾げるが。
その疑問はすぐに解消されることになる。
「おい」と呼ぶ声がして、その声がしたミトの後ろを見れば。
千歳さんや師範と、あまり身長の変わらない男の人が立っていた。
ちょっといかつい感じの、そんな雰囲気ある人。
「ほらみぃ……ちゅーわけで迎え来たんで!失礼します~~~」
「あ、こら待て!コラ!!」
「あ、ミト……行ってもうたわ」
「……あれ、大丈夫やんな?」
「……まあ、迎え言うてたし……」
「またな~ミトちゃん」
「噂は本当やったってこと……?それにしては……」
「……なあ、謙也。ミトって子、明らかに俺見て「げっ」って言うたよな……」
「え?そ、そうやった、かぁ~?」
「視線的にそうやった気ぃするな。白石、あの子になんかしたんか?」
「それが記憶にないから困っとるんやんか……」
―――ミト、俺にとってはただのクラスメイト。
今の人は、ちゅーか迎えて?
今の男は、ミトの、知り合い?
どうやら、俺にも興味くらいはあったらしい。
ミトが、走って去っていくのをただ見つめるだけ。
男が隣に並んで、ミトと話をする。ミトは振り返らない。
そんな様子を見て、深くため息を吐く。
自分の胸の痛みに気づかないまま、俺も振り返って足を進める。
ただのクラスメイト、暇つぶしに話をするだけの、ただの。
そんな俺を、後ろから先輩たちが心配そうに見ていたのなんて露知らず。
そのまま帰路へと歩みを進めるのだった。
