◇一応あるメインストーリー◇



「おん! 行ってくるわ!!」


「―――お母ちゃん!! 次は!? あと飯!!!」

「コラ、先に来てくれたお友達に挨拶しいや」

「あ、忘れとった。ちっす、お疲れ様です。お帰りはあちらです」

「ミトー! 余裕で勝っとったな! おめでとさん!」

「華麗にスルーすんなし……はいはい、ありがとうな、金ちゃん。応援も、嬉しかったで」

「ちょい遊びすぎちゃうか? 相手の子、可哀そうなくらいやったで」

「なして本気ば出さんかったと?」

「必要ない無駄なプレーはするもんちゃうで?」

「お前らいきなり説教か……お疲れ様さん、ミトさん」

「ありがとうございます、小石川先輩……いや、これはもう諦めるべきか……」

「ミトちゃ~ん♡ お疲れ様やね! はい、お水♡」

「こっこここはっ、小春先輩……!!! ありがとうございます! 家宝にしてええですか!?」

「いや、ちゃんと飲め? ちゅーか俺とキャラ被せんな! 小春からの有難い水、一滴でも無駄にしたら許さへんからな!」

「おめでとさん。次もあるんなら、応援させてもろてもええやろか?」

「ングっ、し、師範さんまで……! あ、ありがとうございます……!」

「おい、俺らに対してのその対応の違いはなんやねん!」

「日頃の行い……いやいや、ちゃんと感謝してますって。先輩らのお陰で面白くなったしワイ愉悦でした」

バドミントンで黙らすだけやなくて、それをまさか意中の相手に見られとるとか……いや、別に誘った訳ちゃうしミトちゃんなーんも悪うないんで? と悪い顔で笑うミト。
実際多分隣で応援しようとしとった四天宝寺バドミントン部の連中も、先輩らがおるお陰で静かやったしな。
それだけやなくてミトの実力が本物すぎて、あれじゃあの噂なんて僻みにしか聞こえへんやろ。
意図したつもりは当然、先輩たちにもないわけやけど……ミトからすれば最高の復讐になったに違いない。
それにしては試合中全然面白がっとる様子とかはなかったな、と小さくため息をつけば。
「それよりも!」とミトが目を輝かせながら、自分の両親の方へと寄っていく。

「次! どうなった!? ちゃんと勝った!?」

「そら負ける訳ないからな。ほら、エネルギー補給して、次の準備しときんさい」

「!! ~~~っ! やった! なあ、アップ足りひんから走ってきてええ!?」

「落ち着け……ほれ、そこの大人しい子の隣座って。ほら、おにぎり」

「あ、財前も。まだおったんか。おつ」

「気づくん遅いわ……おつ」

そういうとミトは、俺の隣に腰かけ両親からラップに包まれたおにぎりを受け取る。
真っ白なおむすび、俺ん家のより一回りくらい大きなそれを、大口を開けて頬張るミト。
先ほどまでのつまらなさそうな顔から一転、初めて見たかもしれんってレベルで目を輝かせている。
ここまで興奮状態なのも初めて見た気がする、と思いながら小さく息を吐いた。
そのミトの、俺と反対側の席に遠山が座って「なあなあミト!」と楽しそうに話しかける。
意外やな、テニスやないからつまらなさそうにするかと思っとったのに。

「バドミントンって、右と左どっちがとりにくいん?」

「んー? 多分テニスと同じバックハンドちゃう? ああ、でもそうでもない……? ワイラウンドんが好きやわ、取りやすいし」

「ええー! 相手のどこ狙ったらええとかないんー?」

「ああ……まあ、左右前後に振り回して体勢崩したら決める。テニスとほぼ変わらんよ。そういう意味では、セオリーはバック側……右利きで言う左奥側の方が回りにくいなあ」

「なんやー……なあなあ、ミトってバドミントン好き?」

「え? なんや、急に。そら好きやけど」

「でもあんまおもんなさそうやったし……」

「ああ……まあ、金ちゃんも練習は楽しいのとそれ以外があるやろ? 走り込みみたいな……本気で試合すんのは楽しいやんか」

「ワイ走るんも好きやで?」

「でも強い奴と戦う方が楽しない?」

「せやなー! コシマエとか、全国の奴らと戦えんの、ワクワクするわ!」

「それと同じやで、次は強いのと戦えるから楽しみにしとる、っちゅーだけの話」

「えー? ほんなら次の相手ってどれくらい強いん?」

「そらもうめちゃめちゃな! なんてったって相手は――いたっ」

「ちゃんと席ついて食べなアカン言うとるやろ?」

母親に怒られたせいだろうか、興奮気味で立ち上がったミトは「はぁい……」と少し大人しく座り直して、先ほどのでかい口はどこへやら、ちびちびとおにぎりを消費していく。
……やっぱ一番強いのオカンか……なんてどうでもいいことを考えながら、俺は特に言葉を発さずスマホを触っている。
今日のブログネタは折角やし、バドミントンについてでも上げたろかな。
普通におもろいテーマかもしれん、ラケットで球を打つ競技であることに変わりないのに、それが羽になるだけでこうも違うとは。
まあ、テニスの参考にはならんやろ――と思いながら文字を打てば、いつの間にか食べ終わったらしいミトが席から勢いよく立ち上がった。
やから食うの早いねんて。

「やっぱちょっと落ち着かんから外1周走ってくる」

「元気やな……金ちゃん、俺らも付き合うか?」

「よっしゃー! 誰が1番早う走れるか競争やな!」

「浪速のスピードスターの実力、しっかり見せたるわ!」

「いや勝手に競争に――ワイより楽しそうやんけ、あの2人」

「はは、ミトさん、あの2人ならほっといても勝手に走るから、自分のペースで走ってきい」

「……でも敵前逃亡嫌やな……うむ、行ってきまーす」

「本気で走る気や……ほどほどにせえよ」

そう言う父親にミトは手を振り、謙也さんと遠山の後を追っかけて外へと向かう。
その様子を残りのメンバーで見送れば、俺も小さくため息をついて椅子に深く座り直した。
ほんま、クソガキすぎるやろ。
やっぱ遠山となんら変わりのない、バドミントン馬鹿のゴンタクレや。
それにしてもそんな楽しみな試合が次にあるんか……と思いつつもスマホに目を移すが。
その俺の疑問は、全員が思っていたことだったらしい。
先輩らがまた、ミトの両親と話を始めた。

「はは、ミトちゃん、楽しそうやねえ」

「そないに楽しみが試合があるの? 逆に対戦相手が気になるわぁ~」

「なんつーか、あの後輩ってこう……バカよな、バドミントン馬鹿」

「ユウジ、気持ちわかるけど、親御さんの前で堂々と言うたらアカン」

「そこのイケメンも納得しとる時点で認めとる訳やが?」

「そういうとこがかわええやろ? うちの娘。今回の試合も、オープン大会やから当たるかわからんかったけど。しっかり同じグループにおるから確実に戦えるって楽しみにしとってなあ」

「へえ。そないに楽しみになる相手がいはるんですか」

「ああ、世界で戦っとった強い選手がな。珍しく地元のオープン大会に出場するて、おかげで今日出場者多いんや」

「え、ってことは日本代表?」

「にも選ばれたことがある。日本じゃ5本の指に収まるだろうよ」

「その憧れの人と戦えるって、めちゃくちゃ張り切っててん。あ、でもさすがに勝てる試合ちゃうから、君らは面白ないかもなあ」

「あんら~! そうだったのねん! ミトちゃん、ホンマにバドミントン好きなのね♡」

――日本代表選手。
そうやったんか、とスマホを触りながら、今日のオープン大会について調べてみる。
そう言えば入り口のとこにでかでかと張ってあったポスター、どこがで見たことある気がする人が印刷してあったなあ……と思い返せば。
俺でも聞いたことのある有名な選手、一時期ニュースに引っ張りだこだった女性のバドミントンプレイヤーがすぐにヒットする。
どうやら今回の大会の目玉でもあったようだ、明らかに宣伝されているようで観客も多かったようで。
なるほど、いくらテニス部で荷物が似てるから擬態できてるとはいえ、それで俺らがあの微妙な時間に現れてもそこまで注目される感じはなかったわけや。

……しかしまあ、ミトがこんなとんでもない選手と戦うとはなあ……と未だ想像つかないミトの本気を考えるが。
いつものあの飄々とした、でもしっかりふざけてるのに本気なあの感じしか頭にない。
さすがに試合になればもうちょい違うんか……?
なんて先輩たちやミトの親たちの話を適当に耳だけで聞いていれば。
遠山の「戻ったでー!」の大きい声と共に謙也さんと、ミトが戻ってきた。
いつの間にかユニフォーム、グリップと同じ色の水色に着替えとる。

「まだ!?」

「まだコールされてへんよ。もう軽いストレッチにしとき」

「まだかあ……なんか逆に緊張してきたわ」

「ミト、お前緊張とかするんか」

「謙也さんに言われたないわ」

「ええなあーミト。なんや楽しそうや! ワイも楽しみになってきた!」

「金ちゃん、次は応援しても問題ないからな。しっかり応援しよな」

「え、まだおるん早よ帰りや。特にイケ先輩」

「アラ、アタシらがおるんは嫌?」

「小春先輩がいてくれたらもはや優勝できる気がする」

「できる気がするやなくて、できるやろ! なんでそこ急に謙虚やねん! 小春の応援あれば世界優勝できるくらいの心意気で行ってこい!」

「うっす! ヤバイやる気しかねえ!」

「……興奮しすぎて空回らんようにな。リラックスするんも大事やで」

「銀が言うと悟りの境地みたいやわ……せっかくやし、俺らも応援させてもらうからな。気張ってきや、ミトさん!」

「あ、忘れんうちに渡しとくばい。気合い入れてきなっせ、ミト」

「皆さんありがとうございます……ドリンクの差し入れとか、ちーせん意外と気が利くタイプなんすね」

「途中で無くなっとうの見えただけばい」

「見えた……? ちーせんたまになんか輝いてるけど何……?幽霊的な……?」

「………………」

よう喋るわ、この人ら。
ちゅーかミトも馴染みすぎやろ、お前うちのテニス部メンバーなんかって突っ込みたくなるくらいには普通におる。
……いや、本来ならここがミトのホームなんやけど。この人らが馴染みすぎてんのか。
そのまま喧しくうだうだと話す先輩や遠山たちとミト、ミトの親はそんな様子を見て嬉しそうにしている。
……いや、父親はハラハラか、なんてことに気付いて1人ため息をつくと、本部からだろうか、会場全体に響くスピーカーからアナウンスが入る。

――みんなの輪の中にいる、ミトの目が一段と輝くのが見えた。

「!! 3番コート! うっわ手汗かいてきた緊張する」

「おお、ちょうどここ3番やん。最前キープやな」

「ミトー! 楽しんできてな!」

「モチのロンや!」

遠山と勢いのあるハイタッチをするミト。
それにつられたのか、謙也さんが手を出したのを見て容赦なくフルスイングでしばこうとするが。
それを謙也さんがかわせば、「なんでや!」と声と笑いが起き。
改めて手を出した謙也さんとハイタッチすれば、便乗するように小春先輩やユウジ先輩もぬるっとした動きでハイタッチを促す。
それに手汗を拭いたりして小春先輩とタッチしたり、ユウジ先輩に頭をガシッと掴まれ髪を乱され、でも文句を言いながらも嬉しそうにしている。
更に千歳先輩が掌を上に両手を差し出し、それに向かって両手を勢いよく降ろしたり。
便乗した小石川先輩や師範、部長に控えめながらも(部長だけは嫌々)片手でハイタッチをしていく。
最後に荷物だろう、ジャラジャラとキーホルダーだのお守りだのついたラケットケースとドリンク、そしてタオルを持ったミトは。

――座って動かないままの俺に、グータッチを求めるかのように拳を突き出してきた。
……ま、しゃーなし。とポケットから手を出し、ミトに差し出してやれば。
嬉しそうに笑ったミトと、軽く拳がぶつかった。

「――いてこましたれ、ミト」

「おん! 行ってくるわ!!」

そのまま親二人にも手をひらひらと振って見送られたミト。
……なんだかんだで、見られるの受け入れとるやないか。
ほんまに、同じテニス部かっちゅー勢いで見送られてったし。
イヤなんか嬉しいんかどっちやねん、と口角が上がる。

――直後、先輩らのうざったい視線が刺さる。

「先輩らキモいっすわ」

「ホンマにヒカルは素直やないわねえ~♡ トキメキの瞬間、ばっちり押さえたわよぉ~ん♡」

「ホンマにかわええやっちゃな、お前ぇ~。そないに気になるなら最前は譲ったるわ!」

「いらん、マジでうざいっすわ」

「はは。そう考えると、財前とミトさんってちょうど真逆やな。素直なミトさんと、素直やない財前と」

「生意気なんはよう似とるけどな!」

「アレは素直ちゃうくて、ただの馬鹿言うんです」

「財前はん、ミトはんのご両親の前やで」

「照れ隠したい?」

「見てて微笑ましいわあ」

「ちょ、マジでうざい、頭撫でんな」

「ほな財前こっちやで! ワイの隣や!」

「お前は引っ張んな――ああもう! はしゃぎすぎや!」

そのままあれやこれやで、1番後ろにいたはずなのに最前列の席まで移動させられる。
遠山と謙也さんに挟まれて、うっとおしいことこの上ない。
結局、そこから動こうとしても移動させてもらえず。
ミトの試合が終わるまで、ずっとそこに座っとった。
……結果的には、そこにおれてよかったんやろうけど。

――ミトの父親からの目線がやたら厳しかったことだけは、アイツに文句言うって決めたわ。絶対許さん。
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