◇一応あるメインストーリー◇
「腹でも減ってんじゃないすか?」
「――――あれ、なあ。もしかしてホンマにここちゃうか?」
「まさか同じ日に同じ会場で試合しとるとはなあ……ミトさん、今日おるやろか」
「ラケバ同じやから、目立たず会場潜入できるんちゃう? 行ってみる?」
「おお、アイツ、小春から応援されたらめちゃくちゃ喜ぶんちゃうか? いや待てやっぱアイツなんか応援するくらいなら俺んこと応援してや~! 小春~!」
「いや、さすがに目立つんちゃいます? 俺らの服が服ですし」
「同じ学校の奴が出場しとったら目立たんやろ! 覗くだけ覗いておったら応援したろや!」
「ミトがバドミントンするん初めて見るわー! ミトー!!!」
「金ちゃん、静かにしなっせ。まだミトがおるかわからんとやけん」
「テニスとは勝手が随分とちゃうやろからなあ。それこそミトはんに会えればええけど――」
そう言いながら、ぞろぞろと体育館の中へと入る。
まさか試合のタイミングが被ると思わんかった、とはいえうちは練習試合やけど……
早々に先輩らがボコしたせいで、早めの解散になってしまったとはいえ。
さすがにもの足らんし今からどうするか、ランニングとかトレーニングでもして帰る? ――と考えていると。
同じ運動公園の敷地内に建てられている体育館がなんとなく目に入ったかと思いきや。
近くを先ほどの練習試合相手とは違う、ラケットバックを背負った人々の姿が目に入り。
さっきまで自分ら以外テニスコートには誰もおらんかった気が ――いや、最近こんな話したな……と人の流れを追っていき。
やはり先ほど目にした体育館に全員で目線を向けたかと思いきや、誰からともなく歩みを進め。
「そういやミト、大会あるって言いよったな」という謙也さんの言葉から、また例のゴンタクレの話で盛り上がる。
……俺? 別にみんな置いてってもええけど、騒ぎにでもなって連帯責任こうむりたくないから、しゃーなしで付き添ってるだけっすわ。
体育館の中に入ると、テニスの会場とはまた違った印象のある雰囲気で。
どうやら体育館のコートがある場所だけは土足厳禁みたいやけど、それ以外の場所は土足でも問題ないらしい。
それなりに規模のある大会なのだろう、人も多く俺らと年変わらんくらいのもおれば、両親と変わらんくらいの大人もおるし。
遠山と変わらん小学生くらいと思われる子どもたちが、外で鬼ごっこでもするのか靴を履いて駆け出して行ったり、すっかり腰の曲がった頭が白い人らまでおって談笑しよる。
ミトが言いよった老若男女とはこのことか、と納得のいく説明に軽くため息をついた。
少しだけ中に進むと、自販機がたくさん並んでいるところがあり。
そこで千歳先輩が飲み物を一本買い、先に行こうとする遠山を部長が止め。
謙也さんが近くの老人集団に声をかけに行き、後ろから小石川さんと師範がそれに付き添う。
隣から「ミトちゃんおったらええねえ、ヒカル」と小春先輩がいつもの感じで寄り添ってきて、反対側からユウジ先輩も「浮気か、死なすど!」と訳のわからないツッコミを入れてくる。
今の要素に浮気ないやろ、最近過激すぎっちゅー話っすわ、と深いため息をつけば。
謙也さんたちが戻ってきて「見るなら上やって!」と少し離れた階段を指さした。
「さっきのおっさんら、ミトんこと知っとったで!」
「ついさっきコールされたらしい、早よ行かんと試合始まってまうで」
「よっしゃー!!! あの階段やな!」
「コラ金ちゃん! 走ったら――ああ、もう!」
「金太郎はん、元気有り余っとるからのう」
「アタシたちも早よ行きまひょ♡ ミトちゃんがどんなプレイするんか楽しみやわぁ~!」
「なんかお笑いやテニスに活かせるもんあるかも知らんしな!」
「ミトちゃん、ほんなこつおったと。楽しみやね、財前」
「別に……」
そう言いながら先に行った遠山を謙也さんが追いかけ。
残りのメンバーで追いかけるよう歩いて移動をする。
どうやら会場は男女混合らしい、俺たちが歩いても「あんなやつ今日いたか?」と多少目立っているくらいで問題はなさそうで。
他の人も出入りしている会場の中へと入る。
その先には広い競技場が広がっており。
室内コートの照明、キュッキュ、と床が小刻みに鳴る音と、ボールを打つテニスとは異なる、シャトルを打つ独特の打球音、そして選手や審判・応援の声があちこちから聞こえてくる。
体育館の規模がどんなもんかは知らんけど、テニスよりかなり小さいコートもぱっと見で20面近く張ってあるらしい。
そのうちのほとんどのコートで、半分が男子、半分が女子といった形なのだろうか、各々試合を行っている。
なるほど、1階のコートで試合があって、2階は荷物置き&観覧席になっとるようや。
各々のコートの後ろで、あちこちに応援しとる人が座っとるし……これなら俺らもそんな目立たんか。
「あ」
ミト、おった。
右側の奥、端から3番目のコート、ネットの近くに立っている。
それに同じく気づいたらしい、先に入ってミトを探していた遠山と、それを捕まえていた謙也さんとも合流し、共にそのコートの方へと移動する。
どうやら対戦相手がまだ来とらんらしい、暇そうにあくびをしながら手首足首を回して伸ばしてと柔軟しているミト。
いつもと雰囲気変わらん感じもするけど、さすがに試合やからやろうか、いつものお気楽な感じはない。
右側の後ろは既に人が埋まっていたので、その左横の最前まで行き適当な席に座ると、遠山が身を乗り出すようにして声を上げた。
「おった! ミトーーー!!!」
「コラ、金ちゃん! はしゃぎすぎや!」
「せやって、ミト今から試合なんやろ? 応援するって約束したもんな!」
「やからて体育館中に響く声出しなや! ああもう、ほらミトさんこっち来た!」
「いや、なんでおるん? 勢ぞろいすんなお帰りあちらです??? あと声でかい!」
「ミトー! 応援来たで!」
「たまたまここで練習試合やっとったんや! 俺らがばっちり応援したるさかい、気張ってけ!」
「ありがとうやけど今はせん方がええかな! 見るなら座って大人しゅうしとき!」
「ええー! なんでなん!」
「なんででもや! こん試合だけは静かにしとって! 今度たこ焼き奢ったるから! じゃ!!」
そう言いながらこちらを睨んで、コートの方へと振り返りわかりやすくオーバーリアクションでため息をつき頭を抱えるミト。
半袖に襟のついた蛍光な黄緑色のポロシャツに白のゼッケンをつけて、黒のショートパンツを履いた、テニスのもんと何ら変わりない服。
白いラケットに水色のグリップを巻いたそれを、片手で弄ぶように回したりして触っている。
どうやら俺らが来るのは想定外だったらしく、珍しく頭を抱えているような様子で。
いつの間にか来ていたらしい対戦相手が、こちらを見て驚いた顔をしているのがよくわかる。
「なーなー白石! なんで応援したらアカンのー?」
「金ちゃん……あんま言うこと聞かへんのなら……」
「わーっ!? イヤや! 毒手は勘弁してえなー!」
「あのね、金太郎はん。今のはミトちゃんなりの優しさなんよ。せやからウチらも、静かに見守ってあげましょ」
「えーっ、ミトは応援されるんイヤなん……?」
「そうやのうて、対戦相手。あれ、うちの学校の人っすよね」
「あ、どっかで見たことある思うたら! 6組やったっけ?」
「なるほど……同じ四天宝寺の学校同士やから、相手に気を遣いはったんやな……」
「……ミト、いつの間に相手に気ぃ使えるような子に育ったんや……」
「いや、謙也が育てたんとちゃうやろ」
そうやって先輩たちプラス遠山が騒ぐのを見て、大きくため息をつきながら椅子に座り、スマホを取り出す。
この人ら気づいとるんやろか、隣の席の応援軍団も同じ学校の生徒やってことに。
いや、小春先輩以外は多分気づいてへんな……何人かは部長とかがおるせいか顔赤くなっとるけど……
ミトが言いよった通りなら、この人らは……と思いながらミトの方に目線をやれば。
試合前の挨拶なのか、握手をしてじゃんけんを始めた。
「へえ、バドミントンってああやってコートかサーブ決めるんかいな」
「普通にじゃんけんするんやなあ。コイントスのイメージやったわ。あ、勝った」
「正式な試合の時は使ったりするんかもな。ミトはんはサーブを選んだようやなぁ」
「あら、ミトちゃんサーブでええの?」
「え、サーブとるんええんちゃうの?」
「バドミントンとテニスは全然ちゃうからねぇ。最初からスマッシュみたいなんで攻められるテニスとちゃって、腰の高さより上からサーブ打ったらアカンっちゅールールがあるのよん」
「ネットの高さ、ミトさんとほぼ変わらんくらいやしなあ。そうなるとサーブは必然的に下から上に打たないかんっちゅーことか」
「ほんなら最初の球はロブ確定ってことか?」
「ほー、やおいかんたい」
「つまりレシーブの方が攻めやすい……?」
「とはいえそれが本当かは……アタイもバドミントンに詳しいわけちゃうし……」
そう小春先輩が説明するけど、さすがに違う種目のことまで完全に把握しとるわけではないらしい。
どうやら試合前にお互い試打するらしい、適当にシャトルを打ち上げたミトと、それに対し相手も低めの球を返す。
それに対してミトは軽々とラケットを振りぬき、高さのある球を返しているが。
さて、それじゃあお手並み拝見、と手元のスマホをしまってラケバを肘置きにし試合を見る体勢を整えたが。
突然、後ろに人の気配を感じて思わず振り返れば、そこには見覚えのあるいかついおじさんと女性が一人。
「あの子……サーブ練のためやてわざわざサーブとっとるわ……」
「ん? お前らの恰好どっかで……あ!」
「あ? ああ! たこ焼き屋のおっちゃん!」
「こないだのテニス部! わざわざ見に来るっちゅーことはまさか……! やっぱ彼氏か!?」
「コラ。子供たちを怖がらせんと。どうも、あの子やこの人から話は聞いてます。もしかして応援来てくれはったん? おーきになあ」
「たこ焼き屋のおっちゃんて、ミトさんのオトンで……」
「せやったら隣の美人は……もしかしてミトの姉ちゃんか?」
「あら! フフフ、嬉しいこと言うてくれはる子たちには……うちの旦那のとこのたこ焼き無料券をプレゼントや」
「え? 旦那? ってことはもしかしてお母さん?」
「誰がお義母さんだ! 認めへんぞ!」
「そない意味ちゃうんやから落ち着きんさい。ふふ、あたり! いつも娘がお世話になっとります」
「こちらこそ、お世話になっとります。こないだはたこ焼きご馳走様でした」
「あら! お母さんもミトちゃんそっくりの別嬪さんやないの~♡」
そう言いながらミトの母親に絡む先輩と、挨拶をそれぞれする先輩たち。
それに対して俺もお辞儀をすれば、「ほらほら試合始まるで」と着席を促すミトの母親に言われるがまま試合に目を向けるが。
ちょうど審判のコールが終わったらしい、「ラブオール、プレイ!」と審判の声が聞こえミトや対戦相手が審判たちにお辞儀をする。
その一瞬でこちらを見たらしい、あからさまに「まだおるんかいな」と言いたげな顔をしたかと思えば、見たことないくらいの深いため息をついてから顔を引き締め前を向いた。
こちら側のコートにいるミトは、俺らに背を向けてゲームすることになる、こっから先は振り向かんとどういう表情なんかはわからんちゅーことか。
「アレやろ? うちの娘退部させたん」
「アレ言うたるな……まあ、正直今日当たったんは気の毒や」
「今日……? 今日なんかミトさんあるんですか?」
「ああ、いや、絶好調ってだけやで。気にせんといて」
そう母親が言うのを聞きつつ、ミトの方を見ていれば自然とラリーが始まる。
ミトがサーブを構え、下からすくうようにして後ろに目いっぱい高く上がるサーブを打つ。
それを相手は後ろに打ち返し、ミトもそれに難なく反応して後ろに打ち返す。
それを好機と捉えたのかは不明だが、相手の体に力が入ったように思う。
案の定、スマッシュが左サイドに落とされるが、ミトはそれを難なく拾い、しかもまたロブを上げた。
「……なんっちゅーか……地味、やなあ」
「まあ序盤やし、まずは様子見ってことなんとちゃう?」
「ミト、スマッシュとか打たへんの? 他のコートの人らガンガン打ちよるで?」
「うーん、どうなんやろ。様子見しとるようにも見えるけど……」
「バドミントン詳しゅうはないけど、綺麗なフォームしとるなミトさん」
「あ、ナイス」
「すんなりクロスの前に打ったん、決まったわね」
「実際やってみんとようわからんけど、ミトはバドうまいんか?」
「うまいのは間違いあらへんで~? 実力は折り紙付きやろし……ま、とはいえ――」
「本気ば絶対に出しとらんね」
その千歳先輩の言葉に軽く頷く。
明らかに手を抜いている、とまでは言い切れへんけど……
反応がやけに軽々しい、まるで相手の動きを読んでいて、打たれた瞬間にその場所にいる、っちゅーような。
というか、なんというか。
もっと軽いような、全然試合のつもりちゃいそう、みたいな。
「なんちゅーか……アップ?」
「くらい軽い感じの動きやな……本気出してへんのは理由があるんかそれとも……」
「純粋に出す必要ないんとちゃいます?」
「お、お前さん見る目あるな」
「……はあ、どーも」
「お父さんたちはバドミントン詳しいんです? ミトさんって正直どないなレベルなんでっしゃろか」
「誰がお義父さんだ……絶対認めへんぞ……! やたらと顔がいいしこないだも……もしかしてお前か!?」
「そのくだり2回目や。しつこいで。ちゅーか同じ学校やったら見たことないん?」
「はい、はーい! ワイはミトが試合やっとるん初めて見た!」
「そん虎柄……ああ! アンタ遠山さんとこの! 今年から中学生やったっけ!」
「せやでー! ワイ、遠山金太郎言いますねん。あんじょーよろしゅー!」
「なるほどなあ、ま、1年生はしゃーないけど。他ん子らは、1回は見たことあると思うで?」
「いや、残念ながらワシらものうてですね……」
「ちゃうちゃう! 試合やのうて、表彰式! 大会終わった後とかに、学校でも表彰やるやろ?」
表彰式、と言われて思わず首を傾げる。
大体どの学校にもあると思うけど、学校で部活なんかの大会で何かしらの成績を収めたときに今一度学校でもやるやつ。
それが一体どないしたんや、正直あんなもんあんま興味なくてテニス部以外見てへんし最近前立たされとるし――と思った時。
あ、待て、そういや1年の時はいっつも俺の前に並んどったけど、1回ミト、俺ん前におらんかったことある――
「――ああ! そういや去年の夏の大会!」
「なんかあったと?」
「そうか、千歳も実質うちの学校1年生や。いや、それは今良うて」
「そや、なんで今まで気づけへんかったんや……そういやミトさん、表彰される人の中におったな」
「あら、みんな覚えてへんかったん? うちらで言う金太郎さんがおるように、まだ先輩がおる去年の団体メンバーにも選ばれとったし。個人戦かなんかでも確か入賞しとったで?」
「全中!? ってことは、え!? 日本の中学生ん中でも上の方っちゅー話やないか!!」
「謙也、声でかいわ……ああほら、ミトさんこっち睨んどる」
「ホンマに知らんかったんか……その、お前ら本当にうちの娘と仲ええんよな?」
はは、ミトが割とガチでキレとる顔しとる、おもろ。
無意識のうちに口角だけ上げて、でもそれは組んだ腕に隠されて。
とはいえ俺も知らんかった、それで色々納得できた気がするけどまさかそこまでとは思わへんかった。
ただのバドミントン好きなゴンタクレ、しかも遠山や先輩たちと同じ実力が伴ったタイプの馬鹿。
つまりミトは、全国でもトップに入るプレイヤー、しかも1年のころから入賞できる実力のある本物。
――俺らとも全国に行けるほどの実力者同士、そら気が合うのも納得がいくっちゅー話やった訳や。
「ま、去年は先輩とダブルス組まさしてもろたお陰で、3位入賞したし……当然、団体戦にも貢献した訳やからなあ」
「シングルスもベスト16止まりやったけど、相手第1シードの優勝した子やったし、試合も割と惜しいとこまで行ったしな」
「四天宝寺の中じゃ去年の段階でTOP3にはおったのに……それを下らん理由で追い出して……あんのクソアマ……」
「母ちゃん、顔、顔。黒いのが漏れとるで」
――あっという間に11点、審判が「インターバル」と宣言する。
どうやらバドミントンの試合は先に21点を取った方が1セットをとり、それを先に2セットとった方が勝つらしく。
1セットの中間らへんの11点を、どちらかが先取した時点で一度小休憩の時間があるようだ。
ミトは相手に1点も取らせることなく、また難なく打ち合いをしてそんなに息が上がっている様子もない。
多分実力差がありすぎるんやろな、相手はかなり振り回されているのか、ベンチに汗を拭きに行くが、ミトはコートから出る素振りも見せない。
俺らがおるせいなんか、それとも実力差を見て唖然としているのか、隣に座った連中も言葉を発する余裕はないらしい。
それにしても……なるほど、あの口の悪さはオカン似やった、っちゅーかやっぱ母親の方が強そうなん間違いなかったわ。
ミトの両親はミトのことを自慢したいのか、親馬鹿とも取れそうな会話を繰り広げとるけど……そのこと思い出して軽くため息をつくが、先輩たちは感心したように「おー」とか「ほー」とか各々声を上げている。
唯一理解していない遠山は頭にはてなを浮かべとるけど……部長が「つまり、ミトさんはめっちゃバド上手いらしいで」と説明したら「やっぱりなー!」と満面の笑みを浮かべている。
……けど、そうなんやったらそこから先も試合出てそうなもんやけど。
ミトが壮行式やその夏の表彰式以外で、それに出とったことってあったっけ……
「けど確かに、その夏の大会以外でミトちゃんが立っとったの、なかった気ぃするわあ」
「秋……の時は、バド部団体戦2位ちゃうかったっけ? ああ、でもあんときは全部の部活おって人数多すぎるからって、部長と副部長だけが前に立っとったんか」
「ふふ、団体には出場したで。個人は3年の先輩最後の大会やからって、出場枠譲った優しい子なんやで? 団体は結果残したみたいやけど、個人は残念やったみたいやな」
「せやけど3年が引退してからは酷いもんや。本人平気そうにしとるけど、色々言われて部活辞めるまでなっとる訳やし」
「いや、平気は平気っぽいけど……試合も一切出させてもらえんくなったし、散々言われたみたいやし? 早々に見切り付けて正解やろ」
「……こん親にしてミトあり、ちゅう感じやなあ」
「親父さんとお袋さんで意見分かれとるんも、なんやおもろいなあ」
「ちなみに財前はどうや? やっぱミトのスペシャリストとして、意見のぶつかり合いには参加せんとやろ」
「……いや、何すかスペシャリストて。アイツのこと理解できたこと1回もないっすわ」
――今もミトの意図なんて何もわからん訳やし。
腹立つ相手ならスマッシュでもなんでも打ってボコボコにすればいい、わざわざ弄ぶ理由もわからん。
何のために今みたいな動き方をしとるんか、わざわざ自分を不利な状況やハンデ与えて追い込むような、そんな状態。
いつも楽しそうな表情とは違い、見ることの少ない真顔、まるで興味がないと言わんばかりで――いつもの俺みたいな感じの。
……まあでも、そもそも今までその話、本人から話すことがなかったっちゅーことは。
本人からしたら、それより話題にしとったことの方が重要度高いっちゅーだけの、そんだけの話やろ。
素直で馬鹿な、ただ俺と席が前後になりがちのクラスメイト。
理解できんくらいに真っ直ぐな、自分の気持ちに忠実なだけの、ただのミト。
「アイツの考えなんて知らんすけど……腹でも減ってんじゃないすか?」
「適当すぎん?」
「ま、まあ……少なくとも、先見とる感じはするな……」
「いや否定したれや」
「むしろわざと追い込んで練習しとる気ぃするわ……ショットも、なんだか少しずつギリギリを攻めとる気が――あら、アウト」
「……ああ、もう! さっさと攻めたったらええんに! なんやじれったいわ!」
「謙也、練習や思うとき。試合で急くの、悪い癖やで」
「なあ、ユウジ。ミトって今練習中なん?」
「そうかもしれへんっちゅー話やな。気になることでもあるんか?」
「ミト、なんで左後ろに打たんのやろ思うて。テニスでも、あっちって打ちにくいやん?」
遠山の言う通り、ミトは今のとこ相手で言う左奥に全然打つ気配がない。
つまりテニスと同じで力の込めやすいホアハンドに対して、バックハンド側に打ては取りにくいなどがあると思うのだが。
相手もミトの左奥に、つまり右利きのミトのバックハンド側になる方を狙って打っとるようやけど……ミトがすんなり取りすぎて、どっちが打ちにくそうとかようわからん。
せやけどバックハンドで取りそうな位置も、基本ホアハンドでとっとるあたりそこら辺の感じはテニスに似とるんかも知らんな。
相手に張り合いがなさすぎて、正直つまらん試合すぎる。
――そして試合はそのままの調子で進む。
結局相手に21点中5点しか与えず、しかも全てミトのちょっとしたミスだけでしか点数を取らせないまま。
1セット目を取って、コートチェンジに入る。
ミトの表情はほぼ変わらん、それこそ俺にくだらん話を吹っ掛ける時の方がまだ楽しそうにしとる。
けれどさすがに動いて汗はかいたらしい、水色のタオルで顔を覆って軽く拭い、大きく息を吐いてから黄色いペットボトルの液体を飲んだ。
その上を向いた時にこちらと目線が合う、ペットボトルをおろして今一度こちらを見上げた顔は、先ほどと全く同じで「まだおるんかいな」と言いたげな顔をしていた。
大方こんなつまらん試合見てもなんもおもろないやろ、とでも言いたいのだろうか、大きくため息をついてタオルを乱雑に床に置く。
そのままラケットケースだろうか、おもむろに手を伸ばして何か紐の様なものを手に取り、それを唐突に頭に装着した。
ヘアバンド、ああ、髪邪魔やったんか。
それだけ用意して、休憩時間を残してコートに向かって頭を下げ、先にコートに入るミト。
相手は……相当ミトに振り回されとるらしく、息を整えるだけで精一杯らしい。
バドミントンって、こんだけ実力の差がはっきり出るスポーツやったんか。
なんちゅーか、別に同情とかそういうの一切ないけど、相手が気の毒になるほどや。
ミトは意図してなかったやろうけど、そんなボロ負けするだけちゃうくてその姿を憧れらしい人に見られとるんも、相手は恥ずかしゅーてしゃーないやろ。
そして休憩時間が終わったのか、2セット目が始まる。
けれど1セット目と何か変化が起こるわけでもなく、強いて言うなら相手がバテたのか、それとも心が折れたのか。
先ほどよりも速いペースで試合は進んでいき。
その間も先輩や遠山、ミトの両親が色々と話していたが、大したことではなく。
俺があくびをしとる間に、最後のポイントをとったらしく21-2でミトが難なく勝ったのだった。
あ、相手がキレて握手もせずに去ってった。
ミトは……やれやれ、とでも言いたげにため息ついたな……
どうせなんとも思うとらん、と思ったら審判からボードを渡され、何かを書いたミトが知らないおばちゃんに話しかけられ。
ようやくミトがいつもの感じの笑顔を見せ、そのままコートを去っていったのだった。
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