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「部活、辞めたん?」

とある昼下がりの風景。
いつもの教室、いつもの騒がしさ。
いつもと違うのは、その一言。

―――珍しい。
声をかけられた私は、ただそう思った。

自分の前の席に座っている、彼。
いつもは声をかけなければ、こちらを向くことなんてないのに。
片手にスマホ、自分から話題を振っといて興味があるのかないのか、スマホに向ける顔を動かすことはなく。
視線だけをこちらによこして、いつも通りの無表情のまま。
……こいつ、対して興味ないのに聞いてきたな。

「おん、辞めた」

「……へぇー」

―――聞いてきたくせに、返事それだけかい。
まあ、別にええけどさ。
聞いてきた本人、もう興味ないのかまたスマホ触ってるし。

……珍しいこともあるものだって、感心してたのに。
なんとなく、聞いてみたかっただけなのだろう。
事実確認でもしたかったのか。
何となく気分が向いただけだったのかもしれない。
でも、その何となくが嬉しくて。

「ねえ、ぜんざい」

「誰がぜんざいや」

「すまん、素で間違えたわ」

「間違えんなや、どあほ」

「あほ言うた方があほなんですぅー」

いつものこんな適当な、それでも確かにあるこのやり取りが。
なんとなく、好きで、楽しくて。
どうでもいいこの、日常を許されている気がして。
この踏み込んでこないけど、突き放しもしない、この距離感が。
何よりも居心地がいいから。

アンタが、許してくれるから。
私は今日も、くだらない話を持ち掛ける。


「ねえ、財前」


「ぜんざいとおしるこの違いって知っとる?」

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