◇一応あるメインストーリー◇



「んはは、モチのロンっすわ!」


「――あ、ミトやー!!! ミトーーー!!!」

「おうおう、今日も元気やね金ちゃん。なんでオカン連れて来たん? ついでにオトンと兄ちゃんたちも」

「自分それ、誰のこと言うとるかでだいぶ論争なるで」

「どう考えても一番でかい千歳がオトン、白石がオカンで俺と財前が兄貴やろ。ほんで誰がついでやっちゅー話や!」

「ほんならミトは? ギリ? のねーちゃん?」

「金ちゃん、そら相手によって修羅場になるばい」

「どこで覚えたんやそないな言葉」

「ちゅーか四天宝寺テニス部大家族にミトちゃん巻き込むなし」

「ミト……お前彼氏作ったなんて聞いてへんぞ……! どれや……こん中のどれや……!!」

「うっわめんどいのに聞かれた……どれもこれもそもそもおらへんわ、世話んなっとる人たちなんやから怖い顔向けるんやめえ。あ、これうちのオトンです」

「どうもオトンです。娘が世話んなっとりますが、娘はやらんぞ」

「ミト……俺らのこと世話んなっとる人くらいには認識しとったんやな……」

「それ一番ガチで世話になった謙也さんが言います? オトンもやめえや、ただでさえ顔怖いんやから客来んくなるで」

「謙也、なんかしたと?」

「ミトが顔面からすっ転んだの手当てしたくらいやな」

「おっちゃーん! たこやきちょーだい!」

「あいよ、お前らも食うか? 癪やけど、娘が世話んなっとる言うたし、今日だけおっちゃんのおごりやで」

「やったーっ! よっ! おっちゃん太っ腹!」

「ええんですか? ほなお言葉に甘えていただきます」

「ほんなこつ、大阪のノリちゅうのはすごかね……」

「ミトも一緒食おうやー! おっちゃん、お座敷借りるでー!」

「はいはい、みんな奥行って待っときや。ラケバはミトちゃんの奴の隣置いてまとめてな」

「…………お、じゃましマス……」

さすがになんも言わへんわけには行かんくて、地味な片言になってしもうたわ。
放課後、部活終わりに遠山が「たこ焼き食べたい!」なんて言い出したせいで。
用があったりやりたいことある人達を除いて、時間のあるメンツだけ集合していくことになったんはよかったけど。
部長に金ちゃん、謙也さんに千歳先輩、んでもって俺っちゅー謎メンツやし、しかもミトの親父さんの店やとは思わんかったし。ちゅーかこの人以前会うたことある人や。
あない時間に会うなんてまさか……なんて一瞬でも思うた自分が恥ずかしい、一瞬でも悩んだ時間返してくれ。あと小腹空いて奢る言われたからついてきた自分も今すぐ思い直せ。

そう考えながら、白石部長に背中を押されてしぶしぶ奥へと入る。
開けたスペース、広くはないが柱だけの抜けたお座敷に机と座布団が並ぶ中で。
現在他にお客さんはおらんらしく、右奥の畳の上に明らかにそぐわないラケットバックが置いてある。
俺らの持っとるんと何ら変わらん形しとるし、ぱっと見テニスの物と全く区別つかん。
そんなもんやから遠山がでかい声で「あり? なーなーミトー! テニスやるん!?」とか叫びよるし。

「せやからバドミントンやって。テニスとバドって8割モノ似とるから間違えるんも無理ないけど」

「服とかもほぼ同じやったりするしなあ。せやけどミト、こないだ持っとるのとちゃう鞄やけど新しいの買うたん?」

「前のは持ち歩きの簡易用っすね。ワイはバケツ言うてますけど、あれ正式名称なんやったかな……」

「確かにラケバかさばるし重いしで不便よなあ」

「たこやきやーーー!」

「コラ金ちゃん、ちゃんと席つきなさい」

「いやワイ店員ちゃいますけど。お待たせしましたー」

「さまになっとるばい。今日はバドあると?」

「そうっす。しょっちゅううろついてるけど、金欠になってしもたんで……今日は親父の店で待機させてもろてます」

「なんや、てっきりアルバイトでも始めたんか思うたわ」

「たこ焼き屋のアルバイトて何するんすか? レジ? あ、財前詰めて。ワイも座る」

「なんで俺ん方来るん」

「向こうは暴れん坊もいけすかんのもおるからな、どう考えたってこっちんが安置やろってかこっちの方が人数少ないやん」

「今いけすかん言う必要性あったか? 人数少ないだけでよかったよな?」

「はは、ぶれんね」

「むしろ顔面見えて腹立たんのか」

「そういうことならええよ、いくらでも見て行きや」

「ちょっと今背筋ぞわっとした、ちーせん席替えせん?」

「そんなら財前、元の位置に戻るばい」

「動くのめんどいんで嫌です」

「やって」

「アカン薄情モンしかおらん。ええわ体向けんかったら見んで済むやん」

「俺この方向性でいじられる方がええ気がしてきた」

「白石お前それでええんか……Mみたいな扱い受けとるんやぞ……」

「変態度増したっすね」

そう会話をしながらやむを得ず、奥に座った千歳先輩の方へと寄れば。
靴は脱がずにそのまま座り、一人分のたこ焼きを回収するミト。
いやお前も食うんかい、と思いながらため息をついとる間に、目の前であっちゅー間にたこ焼きを食べる真ん中に座った遠山と、その奥側の隣で負けじと早食いをする謙也さん。
その反対、ミトの正面の席でミトの言うた通りオカンみたいに遠山の面倒を見ながらゆっくり食べる部長。
隣の千歳先輩も一口目が熱かったのか、ふーふーしながらゆっくり食べよるし。
ミトについては背中向けとるからどう食べとるか知らんけど……いつも思うけど、ミトってどうやって食べながら喋りよるんやろか。
別に食いよるとこ見とるはずやけど、減る速度早すぎて気づいたら物がなくなっとるんよな……

「あふ。さすが本場はうまかね~」

「なんや普通のたこ焼きよりトロトロしてへんか? ごっつうまいわ」

「せやろー! おっちゃんのたこ焼き美味いんやでー!! おかわり!!」

「金ちゃん、これ以上食べたらアカン。食べ過ぎでご飯入らんことなるで」

「えーっ! せやけど、ワイのもうないねんで!?」

「早食いするからや……ほれ、1個だけミトちゃんのやるから味おうて食べなはれ」

「ええのー!? おおきに、ミト!」

「金ちゃん……! ミトさん、すまんなあ……」

「ええっすよ、ちゅーか1個上げるんいつもんことなんで」

「え、あの食い意地張っとるミトが??」

「ドつかれたいんか財前? 真面目な話今から動くから1個抜きくらいがちょうどええんや」

「そんだけ食うて今から動くんもなかなかや思うけどな……」

「腹が減っては戦はできぬ。すきっ腹で動く方がしんどない?」

「そうやったとしてもたこ焼きは結構重いやろ」

腹になんかおる方が動くのしんどいやろ……いやどうでもええねんけど。
いつもの如く勢いのある会話、今日は遠山がおるせいでうるささ3倍くらいになっとるし。
なんかミトが面倒見ええの意外やけど、遠山の誰にでも遠慮せん甘えパワーでそうなっとるんやろか。
気持ちはわからんでもないけど……と話を聞き流しながらため息をつく。
うだうだ言いながら食べよる間に謙也さんが「たこ焼きの繋がりあるんならわかるけど、ミトと金ちゃんって結構意外な組み合わせよな」と急に言い出したが。
相性自体は合うやろ、なんて思いつつも口にはせずにスマホを取り出してメールなんかを確認する。

「え、そう? こん中やったら1番付き合い長いの金ちゃんですけど」

「えっ、そんな前から迷惑かけとんの?」

「いや、Win-Winの関係で。なー金ちゃん」

「せやでー! ミトが食いきれん分、ワイが食べたってたんや!」

「……それ、もしかしてミトさんのお父さんに迷惑かかっとるんちゃうか……?」

「それもWin-Winですわ。金ちゃんが美味しそうに頬張ると、お客さん釣られてくるんで」

「金ちゃんもここでアルバイトしとったと。偉かね」

「まあ、ほんなら……迷惑かかっとらんのならええけど、ちゃんとお金払わなアカンで、金ちゃん」

「そういえばミト、今日は普通に招いてくれたけど……白石をここに連れ込むんはええんやな」

「仲良うなったと?」

「いや言い方。さっきんで仲良うなった判定になる? ……まあ、最近思うことあってん」

「思うこと?」

「アイツらワイがこの人と仲良うなるんが気に食わんのやろ? ほんなら逆に仲良うした方が、アイツらの思うようならんくてワイ愉悦ではと」

「この子だいぶ性格悪いこと言うとりますよ」

「確かに、理にかなっとるばい」

「いや納得すな千歳。白石もこんな不純も不純な動機で仲良うなられてもやろ」

「まあ……邪険にされるよりはマシか……?」

「やからっていけすかんは払拭しませんけどね。最近いけすかんイケメン略して池先輩でええんちゃうかな思てます」

「はは、そうなっと白石も俺と同じ仲間ったい」

「1ミリも名前かすっとらんやないか! しかも復讐するだけやなくて喧嘩も売るんかいな……恐ろしい子……」

「売られた喧嘩は買う、これうちの家訓なんで」

そう言いながらこちらに顔を向けて、グッと握った拳を上げるミト。
その様子に先輩たちが「おお」と謎に感心していると、そのミトの横から何かが出てくる。
そのまま出て来た空の容器を、テーブルにあるお盆の上へと置いた。
それに便乗したのか、その上に空になった容器を重ねる謙也さんと、さらにそれを真似した遠山が乗せる。
いや、なんでそんだけ喋ってんな早う食えんねん。意味わからん。

「そういやミト、喧嘩ばどげんこつして売ると?」

「言い方物騒すぎですわ」

「今度県大会あるんで、それで捻ってきます。当たっても当たらんでも多分余裕で戦意喪失にはできると思うんで」

「怖すぎひんか? 殺意の高さ感じたわ」

「潰さんだけましっちゅーもんです、ミトちゃんなりの優しさですよ」

「はは……せやけど、同じ学校同士で対戦当たるん?」

「所属が違うんで、運が良ければわんちゃんって感じです。今回のワイ、四天宝寺としてやなくて社会人チームの一員として出るんで」

「そないな大会あるんか? オープン戦みたいな?」

「その通りっす。年齢問わず階級で決まる試合なんで、子供からご老人まで勢ぞろいっす」

「おもしろそうやね」

「ミトが試合出るんやったら、ワイが応援したるで!」

「確かに似た競技同士、案外見るとおもろいかもな」

「気持ちだけ受け取っとくわ……絶対目立つから来んとってマジで。それよかそっちこそ、全国優勝目指して頑張ってくださいよ」

「言われんくても、そんつもりやで! 優勝は俺らが頂きや!」

「コシマエも全員倒すんやで! 全国楽しみやわ!」

「こしまえ……? ようわからんけど、楽しんできいや」

「ミトさんこそ、復讐できるよう……? 頑張りや」

いや、どんな激励……なんて疑問を抱くも、ミトは良かったらしい、「んはは、モチのロンっすわ!」と笑いながら立ち上がる。
そのタイミングで、向こうからミトの親父さんが歩いて来るのが見える。
他に客がおらんからて騒ぎすぎなんとちゃうか……と一瞬身構えたが、その考えはミトがそのままサムズアップして決めポーズのようなものをとったので。
何よりこいつがうるさいんやからそれはないか……と小さくため息をつき。
今一度スマホに目線を移せば、親父さんからこちらに声がかかった。

「俺の娘がそんじょそこらの小娘なんぞに負けるわけがなかろう」

「あ、お父ちゃん仕事終わった?」

「おん、ちゃんと挨拶しいや」

「ちゅーわけで、今からボッコボコにするためのトレーニング行ってきますわ。これからもうちの店、ご贔屓に! お疲れっす!」

「あ、ご馳走様です、ありがとうございました!!!」

「「「ありがとうございました!!」」」

小さくフン、と息を吐いた親父さんは、そのままミトに鍵を渡す。
ミトはそれを受け取って、先に店の外へと向かう。
どうやら店はシフト制らしい、先ほどまで親父さんがたこ焼きを焼いていた店先には別の人が立っている。
……あれ? 親父さんなんでそのままおるんやろか、と疑問に思いながら一度スマホをポケットに突っ込めば。
親父さんが、俺たちのテーブルの方へと顔を伸ばすようにメンチを切ってきた。

「アイツはああ言いよったけど……もしうちの可愛い娘泣かせたらタダじゃおかんけえの」

「オトン!!! そんなんちゃう言いよるやろ!!!」

店の中にミトの怒号が飛ぶ。
なるほど、アイツの男にも屈しない強い感じは、家でもっと怖いんと対峙しとるけえか。
びっくりしたらしい、思わず謙也さんや部長の顔を見ればびっくりしすぎて遠山にくっ付いとるし。
俺の腕も千歳さんに引っ張られとるらしい、結構強い力を感じる。
なんなら痛いくらいや、俺もびっくりしたけどそん痛みで割とすぐ冷静になった。

そしてミトに引っ張られる形で、親父さんも店から出る。
あの感じ、多分家ではミトとかミトのオカンのあたりの方が強いと見た。
ところでそろそろ千切れそうなんで、手ぇ離してもらっていいっすかね。
俺がそう言えば3人とも落ち着いたらしい、各々元のポジションに戻る。
ヤクザにカツアゲされる勢いあったししゃーないけど、先輩たちもビビりすぎっすわ。

「臓器ばとらるるかて思うた」

「マジもんの怖さあったな……ミトもあんだけ強い訳や……」

「でもおっちゃん優しいで?」

「金ちゃんは対象に含まれてへんってことやろな……肝冷えたわ……」

「あんだけ怖いオトン、ほんまに彼氏できたらどないなるんやろな……」

「ホンマに臓器の1つくらい取られそうやわ……」

「そもそもオトン理由に振られそうっすね」

「「「あるある」」」

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