◇一応あるメインストーリー◇



「暇潰しに私の好きなおにぎりの具TOP3でも当ててみません?」


「……なんでおるん」

「あ、財前たい」

「え、財前? ホンマや、珍しいねここ来んの」

「いや……何、集会?」

「裏庭同盟会ったい」

いやわからんわからん、いや仲ええのは知っとるけども。
なんで2人揃って同じ木に縋ってめちゃくちゃ寝とんねん。
いや、まあ、自由と言われればそれまでやけど……
千歳先輩の側には猫までおるし。
今放課後やっちゅーねん、ミトについてはさっきまで授業サボっとったし……

――現在放課後、既に部活の時間。
集合時間になっても来んかった千歳先輩を、用事のあるらしい部長に変わって探しに来たんはええけど。
ミトまでおるんは聞いてない、裏庭同盟とかなんとか言いよったことあった気はするけど。
やからって放課後まで、しかもほぼ寝てる状態で見つかるな。
放課後なんやから早よ帰れ、んで千歳先輩は早よ部活に顔出してくれ。

「最初のメンバーおネコ様、んでワイとちーせんが2番目」

「1番新参者ったい。財前も入る?」

「いや入りませんけど。部活やし。あとミト、放課後やぞ」

「放課後暇やねんな……部活ないし、社会人バドまで時間あって」

「ほんならミトちゃん、テニスやる?」

「やらんやらん、バドの感覚狂うやん」

「いや帰れ……ちゅーか、千歳先輩は部活行きますよ」

「今日は白石やなかやなあ」

「用事あるらしゅうて頼まれたんで」

「真面目やねえ」

ほんならミトちゃん、また〜と能天気な挨拶をしながら立ち上がる千歳先輩。
その先輩に緩やかに手を振るミト。いや、お互い呑気か。
……なんかこのまま放置しとくのもアレやけど……
俺も部活あるし、ミトに構うとる場合ちゃう。
そのままミトのことは放置し、先を歩く千歳先輩の後を追いかけた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「え、またミトさんとおったんか」

「またって事は、前も?」

「ミトさん、こないだもおったしなあ……部活、ちゅーかバドミントンの時間まで暇なんやろか」

「……もしかしてアイツ、地味に千歳先輩が部活来るの邪魔してたり……」

「ああ、それはちゃうよ。千歳が部活こんのはいつものことやから」

「ミトちゃんが遅うまで残っとば心配しとるだけやね」

「あんだけ言われて心配するとか……部長ちょいミトに甘くないです?」

「いや、まあ……なあ……」

「白石が原因言われたら、気にしてまうんや。思春期の悩み、ほっといたれ」

「謙也……全部言うなや……」

そう言いながらため息をつく部長。
部活に戻れば部長も戻ってきていて、いつもの通りメニューをこなしていたら。
一息休憩を入れてる途中に、部長に千歳先輩の迎えのお礼を言われたので、ふと気になってミトの話を聞いてみれば。
ミトの話がそのまま広がってしもうた、振るもんちゃうわこの話題。
そう思いながら謙也さんも混じって3人で話すその様子を、とりあえず聞いているが。

「そういえばミトちゃんで思い出したばってん、白石、前ミトちゃんと話した事って何と?」

「あ、それ俺も気になっとった。ちゃんと覚えとるの珍しいおもてん」

「え、いや、どうでもええ話やし……」

「やってその話が原因で拗れたわけやろ? なんかそこに和解の道があるかもしれんやん」

「それとも、覚えとらんと?」

「いや……めっちゃ覚えとるけど……」

「………………」

そこまで聞いて、3人の側を静かに離れる。
部長はどうでもええ話っちゅーたけど。
ミトのことや、ホンマに本当にマジでどうでもええ話を披露したに違いない。
そんなくだらん話聞かされるの、ミトの口からだけで充分や。
そう思いながら逃げようとした矢先、動きが読まれていたのか謙也さんに捕まった。

「ちょ、離してください」

「ええから。お前もミトの話気になるやろ?」

「いや全く。100パーくだらん話やし」

「はは、信頼しとるなあ」

「なら役者がそろうたところで」

千歳先輩がそういうと、う、と少し言葉を詰まらせる部長。
いや、放せ、ホンマにマジで興味ない。
それならまだ別のことした方が有意義やっちゅーもんや。
けれど何故か謙也さんのホールドが強い。
やから離してくださいて……と抵抗を諦めて呟けば、「ほら! 財前も聞く気になったみたいやし!」と催促する謙也さん。
ちゃう、その話せちゃう漢字が違う……と思いつつも突っ込むのもだるいし、部長も話す気になったらしく。
世界一本当にどうでもいい過去話が始まったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――――失礼します、先生……あれ、先客か」

「あ、ども。えっと、先輩か……今部活の面談中で、順番待ちしてます」

「あー、せやったんか。どないしよ……」

「多分そんな時間かからんと思うんで、自分の先譲りますよ。そろそろ出てくるんちゃうかな」

「ええの? ほんならちょい待たせてもらうわ……」

そう言いながら、俺は理科室の椅子に腰掛ける。
面談中と言っていたが、恐らく準備室でしているのだろう。
この間先生と話した毒草の話で、なんか用があるから放課後いつでも来てくれ、と言っていた先生を放課後に尋ねたはいいものの。
職員室にはおらず、部活だと言うので顧問であるバドミントン部がいるはずの体育館を覗きに行けば。
何故か黄色い声が上がりつつも、理科室やって教えてもらったのでこちらに移動してきた訳なんやけど……

そういえば理由は聞いてへんかった、なるほど部活の面談しよったんか。
多分バドミントンの格好だろう、水色の鮮やかな服を着た、見覚えのない生徒がそこにはいて。
学年ごとに違う名札の色から識別したのだろうか、本人の口ぶりからして彼女は一年生なのではないかと予想する。
一年といえばうちにも見込みのあるクールな一年がおるけども……
うまく会話も弾まんし、うちの校風にしてはかなり珍しい人種だった財前。
多分レギュラー候補やし、仲良うなれるとええけど……と小さくため息をつき。

そして彼女はその面談の順番を待つバドミントン部の新入生……となるわけやけど。
……今の状況、なんや、地味に気まずい空間やな。
静まり返った教室、現在ここにいるのは俺と彼女だけで。
共通の話題もなければ、変な話題を振るのもなあ……
いくらうちの生徒といえど、いきなり一発ギャグやるんもちゃうやろし……なんか話題……と頭の中の引き出しを片っ端から引っ張り出していれば。
急に、彼女の方から声が飛んできた。

「――会話のタネがない時は」

「――え?」

「好きなものをランキングでやるとええって、こないだなんかで見ました」

「お、おん? え、そうなん?」

「ってことで。暇潰しに私の好きなおにぎりの具TOP3でも当ててみません?」

「なんで???」

なんでおにぎり? え? お腹すいたん? とつっこんでしまうが。
別にそれは求めていないらしい、順番気にせず一つでも当てられたらええことあるかもしれませんね、とか言い出す彼女。
いやいや、え、俺名前も知らん新入生の好きなおにぎりの具当てんの? なんで? と混乱を露わにするが。
そんなことお構いなしに、彼女は「ほれほれ、制限時間は先輩が出て来るまでです」とか急かして来る。

「え、えーと、しゃ、しゃけ!」

「ぶーーー」

「ええ? ほんなら……昆布、おかか、ツナマヨ!」

「全部はっずれーーー、でーす」

「え、ここら辺王道やろ?! ええーーと、あ、梅!」

「残念4位です」

「紀州南高梅!!」

「いやそこまで区別付けてへん。ハズレでーす」

他になんかあったっけ!? と思わず頭を抱えるが。
その後も明太子、わかめ、肉そぼろ! といくつか案を上げるが。
そのどれもをハズレと言われてしまう。
え、逆にあと何がある?! と声を上げたその時。

「ミトー、終わった……あれ? 白石くん?」

「あ」

「あ、せんせー、なんか先生に用やって、2年の先輩が」

「2年……? ああ、白石! ミト、ちょお待っとれ。すまんすまん! そういや来い言うたん忘れとったわ!」

「え、あ……ええ……?」

そう言いながら先生に招かれ、準備室へと入り。
珍しい毒草見つけたから、と海外から購入したらしいそれを見せてもらうが。
せっかく珍しい物を見せてもろうたのに、記憶は曖昧で。
そのあとの部活の時間も、なぜかいまいち集中できず。
むしろその女子生徒の、好きなおにぎりの具の方が気になって仕方なかったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そらみたことか」

「え、それだけ?」

「ヒントもなんも無いと」

「やから言うたやんか……どうでもええて……」

「え、結局答えは?」

「知らん……入れ替わりの時聞いたら『会話のタネ無くなるんでまた次回』って言われたわ」

「……うん、白石、どんまい」

「雑に励ますんやめてくれるか」

ほらみてみい、ミトがそんなまともな話をするわけないやろ。
ちゅーかこいつはどこでも誰に対してもアレなんか……と一人ため息をつく。
というかこのくだらん会話がまさか部活をやめるきっかけになるなんて、いくらミトとはいえ気の毒としか言いようがない。
何をどう見たらこの会話で恨まれるんや、ただ振り回されて終わっただけの部長も気の毒すぎる。
……まあ、とはいえ俺が何かをどうするとかはもちろんないんやけど。

すっかり拍子抜けしたのだろう、先輩たちは頭を抱えており。
力も弱まったので、俺も謙也さんの腕からも脱出する。
それどころか話題の方向が「実はあれちゃうんか、オカンの握ったやつとか」「コンビニの悪魔のおにぎりとか?」「チャーハンもあるたい」と完全におにぎりの具の話になっている。
いや、マジで、ホンマにクソほどどうでもええ話やろ……
ミトが何好きとか本気でどうでもええわ、差し出せばアイツなんでも食うやろ。

俺はその様子を横目で見ながら、今日一の深いため息をつく。
もう二度とアイツの話はこの部活でしない。
こんなクソくだらん話聞かされんのミトの口からで充分やわ。
そう思いながら今一度大きなため息をつき。
未だおにぎりの具について話をしている先輩たちを置いて、コートに入るのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おはようさん、財前」

「………………」

「ん? ミトちゃんの顔なんかついてる?」

「……ミト、お前好きなおにぎりの具って何?」

「は、おにぎり???」

次の日の朝、腹が立つことに気になって少しだけ寝不足になってしまった今日。
スマホをいじっていると、いつもの調子でミトが声をかけてきた。
これ以上こいつのことで心労増やしたない、多分昨日部活終わるまでずっと話していた先輩たちを見るに、いずれ聞いてこいって言われるのは目に見えている。
ならばと先手を打って先に聞いてみたが、ミトは話題を振られたことが意外だったのか、明らかに拍子抜けした顔をしてこちらを見ている。

「なん」

「いや、財前からそんなアホほどくだらなさそうな話題振られると思ってなくて」

「誰のせいやと思っとるんや」

「え、今回ばかりは知らんが??? ……うーん、おにぎり……おにぎり?」

「……お前、まさか覚えてないんか」

「え、何が?」と席に座って首を捻るミト。
……こいつ、マジか、まさか部長との話忘れとるんか、と呆れて大きくため息をつく。
いや、むしろ覚えてない方がミトらしい気もするけど……
本当に、なんか振り回されまくっとる部長が不憫で仕方ない。
こいつほんま何も考えてない……と思いながら訝しげにミトの様子を見ていれば。
やっぱしょーもな、と盛大にため息をつくような回答が、ミトの口から出てきたのだった。

「食えれば何でも好きやけど……強いて言うならどシンプルに塩」

「マジでくだらん……」

「いや話題振っといて何やねん。ちなみに2位は醤油の焼きおにぎり、3位は……高菜? もしくは梅かな」

「もういい、しょうもなさすぎた」

「いやせやから振っといてやんか、なんか今日一段とムカつくな?」

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