◇一応あるメインストーリー◇



「ちゅーか知人と思われたない」


「ミトちゃんね」

「あ、ちーせん。ちっすついでに謙也さんも」

「誰がついでや誰が。財前は一緒ちゃうんか?」

「……? え、財前と一緒に行動した試しないねんけど」

「お前ら……なんかようわからん関係やわ……」

「ついでに言うけど俺もおるで」

「げ"っっっ、あー……ども、お疲れ様です……」

「……やっぱいけすかんか……」

「ちょっとミトぉ~。蔵ノ介泣いちゃったじゃん謝んな~」

「すんません隠せないもんで。謙也さんなんでギャルの真似うまいん? 今のめっちゃギャルみえぐ」

「ミトちゃん昼飯? 一緒ば食べるったい」

「いくらちーせんでも全力で遠慮したい」

明らかに表情が白石への嫌悪感を指し示している、ちょっとだけ同情するが仕方のないことは理解した。
お互い面白いから仲良くなったらきっと会話も、隣にいるだけで面白いだろうに、と千歳は心の中で思う。
千歳がそんなことを考えていると他3人は露知らず、そもそも彼らが何故一緒にいるかというと、白石、謙也、千歳の3人は学食を共に食べに来て。
偶然見かけた、自分の部活の後輩と随分と仲がいいらしい女子生徒を囲うようにして席に着いたのだ。
食べている途中だったミトもさすがに露骨すぎたと反省したのか、彼女も大きくため息をついて今にも逃げ出すために持っていたお盆を、机の上に置き直して箸と茶碗に持ち替えたのだった。

「そないに白石ダメか」

「前世親を殺した仇に顔そっくりなんで」

「俺の前世そないなことしてんの? この顔で?」

「結婚詐欺とかやろか?」

「母親は顔に騙されて唆されて酷い目あわされて……親父は返り討ちにあって散々で……!」

「ミトちゃん嘘つきばい、こないだ言うとったんに」

「ちーせん冗談って知っとる?」

「布団がふっとぶったい」

「それは親父ギャグ、またちゃうジャンルですわ」

「しかも絶妙にちゃうやんけ」

正面に座った白石の顔を見ることなく、自分のからあげ定食に目を向け視線をそらさないミト。
そんな様子を、その隣に座った謙也と、ミトから見て対角の位置に座った千歳が目を合わせてため息をつく。
自分の友達がそんな風に言われてしまっているのは可哀そう、けれどミトの言い分もよくわかるからこそ変に突っつくのもよくないと考えている2人は。
せめてこのヘタレ部長が普通に会話できるくらいになってくれるといいけど、なんて考えてその行く末を見守ろうと決意するが。
明らかに前途多難なそのミトの様子に、当の本人である白石は、どんな会話を振るか頭の中から話題を絞りだすのに必死だった。

「そういえば……こないだ一緒におった人、あの人は?」

「こないだ? それ先輩関係あります?」

「変なこと聞いてごめんなさい」

「ミト、もうちょい優しくしたってくれ。こいつこう見えてメンタル弱いねん」

「話すだけで周りから恨まれて被害受けるんワイなんで……いや、てか純粋に聞いただけやねんけど。色々候補があるから先輩と関係ある人とか情報聞きたかっただけで」

「お前それはわざとの域やで……財前ちゃうんやから俺ら察せへんっちゅーねん」

「別に財前も察してへんと思うけど……アイツ私との会話を9割は意味わからんと思うとるやろうから」

「自分で言うたんにマブちゃうんか」

「理解だけが付き合いの形ちゃうっちゅーことやな」

「なんで白石はええ風に締めようとしてんねん」

「こないだ、ちゅうと、もしかして親父さんのことと?」

「え、待て千歳、そっちから回答飛んでくるとは思わんかった」

「あー、親父ってことはあのテニ部レギュラー陣と対面したときか……ちーせん、うちの親父知っとったん?」

「目元がたいぎゃ似とったけん」

そう言い自分の目元をつつく千歳を、「はえ~~」と感嘆を漏らすミト。
そして「さすが才気煥発の極み……」と謎に納得する白石と謙也。というかその場で千歳に聞けばもやもやせずに済んだのでは? と数日前の己の行動を悔やむ。
時間で言えば19時前、すっかり暗くなった時間から出かける雰囲気があったあの時のミト。
少なくとも女子中学生が普通1人で外をうろうろする時間ではない。
それにミトには夜遊びの噂もあった、夜中に男女2人で出かけるなんてまさか、と心配性の2人が不安になっていたのも仕方のない話であったが。
しかしそれならばあの時間に父親と待ち合わせとは……? と別の疑問が上がってくる。

「あないな時間に父親と待ち合わせて、どういうこっちゃねん」

「え? 部活辞めたからしゃーないやん」

「せやからわからんて。一から説明せえ――」

「ミトやー!!!」

「お、金ちゃんや。よっすー」

その話を謙也が詰めようとしたところ、それより前に少し離れたところから皆が聞きなれた声が上がる。
声の主は金ちゃんで、どうやらミトを見つけて思わず声を上げたらしい。
周りも、もちろんミトも慣れた様子で手を挙げて答えれば。
彼は食べ終わった食器のお盆を返却口へと置き、そのまま彼女らの元へと駆け寄った。
そして周りを囲む部員たちの姿は、顔を見て初めて気づいたらしかった。

「あり? 白石に千歳、謙也もおるー!」

「金ちゃんまで俺をついで扱いせんとってや!」

「なんや、ワイも一緒に食べればよかったわー! ミト、今日はおっちゃんのたこ焼きちゃうの?」

「さすがに昼飯親父んとこまで買いに行くんはだるいわ……」

「えーっ! 食べたかった!」

「自分で買うて来い」

「そういえば金ちゃん、ミトさんと仲ええんやったな。おっちゃんって?」

「ん? たこ焼き屋のおっちゃんやで!」

「うちの親父、たこ焼き焼いてん。それこそこないだ会うたとこの近くに店構えてまして。金ちゃんは常連さんやんな」

「おっちゃんたこ焼きようおまけしてくれんで! ミトも分けてくれる!」

「金ちゃんが手ば振っとったんなそぎゃんことか~。いつも金ちゃんがお世話になっとります」

「ってことは、ミトん家あの周りか?」

「んや真逆。えとな一から説明すると、月水金は親父もおる社会人クラブに混じらせてバド練習さしてもろてん。ただ体育館まで距離あるから、仕事終わりの親父と合流して車乗せてもらっとるんすわ」

「なんやそういうことか……部活辞めたからっちゅーのは?」

「ああ、今までは部活終わるワイの方が遅かったから。迎え来てもらいよったけど、部活ないなって早うなってもうたからあそこで待ち合わせっちゅーことです。今までも部活休みの日はあそこで合流しとってん」

「なーなーミト。一緒にテニスせん?」

「藪棒過ぎるしせえへんわ、バドミントン一筋やっちゅーねん」

「藪から棒にをそんな風に略すの初めて聞いたわ」

やぶへびは言うのにな、とミトの突っ込みなどさておき、白石と謙也は心の中で安堵する。
うちの後輩と仲がいい女子生徒、噂は信じるものではないと思い知らされていたが。
それでも心配になるというもの、特に謙也は知っていたとはいえ、本当の話を皆の前で本人から聞いて安心したのは言うまでもないだろう。
金ちゃんはそれらについて気にしている様子はなく、少なくともテニスのお誘いを断られたことで不満をあらわにしており。
そして千歳はというと、普段2人でいるときこういう風に自身の話をしないミトの新しい一面を知れて、嬉しくなるような優しい気持ちを抱いていたのだった。

「ミトちゃんはほんなこつ、バドミントンが好きやね」

「ちーせんたちも同類やんな。そういう意味ではワイテニス部のレギュラー陣を信用してますんで」

「嬉しかね~。白石んことも?」

「信用はしててもなつきはしない」

「いけすかんは払拭されへんか……」

「ちゅーことは俺らにはなついとるっちゅー話やな! お前も財前も素直ちゃうわ~!」

「うん、謙也さんはそれでええんとちゃいます? チョロくて」

「声に出とるわ!!! ほんっま生意気っちゅー話や!」

「ミト、小春やユウジは? 銀は? 健ちゃんも!」

「えぇ……せやな、全員もれなく推しなんやけど……小石川先輩は……なんちゅーか、唯一の良心枠、癒し枠? やと……師範様はなんだろう、拝みたくなる」

「師範様て。ちょっとわかるけど」

「いやわかるんかいな」

「尊敬の意しかないとでも言えばいい? ラブルスはとにかく存在が推しなんで……とにかく小春先輩めっちゃ可愛くて好き」

「「えっ」」

「え?」

急に聞こえた声にミトが振り返れば、そこにいたのはまさに話題の2人。
ユウジと小春が、聞いていて驚いたらしい素に近い素っ頓狂な声を、思わず上げてしまっていたのだった。
その様子に顔に血が上り焦る様子になるミト、逆に顔面蒼白になり手が震えだすユウジ。
2人の様子を見て頬を赤く染め、照れた様子を小春が見せ。
そんな三者三様な様子を見ていた残りの面々は、呆気にとられた表情でその一部始終を見ることになったのだった。

「ああああ、アカン! 絶対アカン! お前に小春は譲らんで!!!!!!」

「あんら~♡ とっても素直で可愛い子じゃないの~♡ アタシ感激♡」

「ヒッッッッッッ、こここここっこここ、こはっ、小春先輩……!?」

「にわとりか」

「こ、こはるっ、もしかしてそっちを選ぶんか? こっちの女の方が好みなんか!? いやや小春っ、俺を捨てんで小春ぅ~~~!!! お前が望むんやったら俺たこ焼き屋さんでも女にでもなんでもなるから~~~!!!」

「さすがに無理やろ、必死か」

「でもごめんなさい、アナタの熱烈アピールは嬉しいけど、アタシの運命はユウくんなのよん……♡ アタシってば、罪な女……♡」

「こ、こはるう!!!」

「でも嬉しいからアタシたちの愛のゲリラライブ、開催しちゃうわ~♡ ユウくん、いくで~♡」

「おお! 俺らの切っても切られへん愛の絆、特等席で見ときや! 後輩!!」

そう言いながら持っているお盆を返却口まで持っていき、食堂になぜか設置されているお台場に上がる2人。
校内でも人気のコンビである2人の様子に、周りは拍手で迎え入れ2人も渾身のネタを披露する。
そんないつもの調子である部員の2人に呆れてため息をつく白石、近寄ってゲラゲラと笑う金ちゃん、わからないようで頭にはてなを浮かべてミトを見る千歳。
そしてその様子をまさかの泣きながら観賞するミトと、呆れながらそのミトを慰める謙也の姿があるのだった。

「――――っ!!! ~~~~~~っっっ!!!」

「……うん、なんとなくわかったわ、よかったな、ミト」

「推しの、推しのファンサ過多すぎて泣く、死ぬ、えっ無理私を出汁に二人の愛育まれた??? え? 無理好き??? 一生推す……愛"……」

「えっミトマジで泣いとる」

「なんでやねん! ほら、ハンカチ貸したるから」

「は"な"み"ず"つ"け"て"い"い"で"す"か"」

「白石のハンカチに鼻水つけるなんて言うのお前だけや」

「ははは、ミトちゃん、むぞらしゅうておもしろかね」

「千歳、人の趣味にあんま言いたないけど、さすがに考え直した方がええで」

「いてこますぞこら」

「俺仮にも先輩やぞ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――――………………えらい、にぎやかやな」

「アイツらまたやっとるわ……財前、彼女のとこ行かんでええんか?」

「彼女ちゃいますって。ちゅーか知人と思われたない」

――――同時刻、同じく食堂にて。
実は偶然タイミングが重なり、静かで穏やかに昼を食べていた財前、銀、小石川の3名は。
全ての出来事の一部始終を遠くから見ており、その様子を静かに観察していた。
当然その出来事を見て、一応礼儀で一言だけと思っていた声をかけるのをやめたし。
財前については、ミトとだけは食堂で昼を共にしないことを、心の中で強く誓うのであった。

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