◇一応あるメインストーリー◇
「ちょい相談乗ってほしいんやけど」
「――――……槍降る?」
「降らんわボケ、ワイいつも財前に相談しよるやんけ」
「お前のは相談ちゃうくて暇潰しの雑談や」
「ほんなら本気でちょい乗ってくれや、マジで困っとんねん」
――――珍しい、ちゅーか初めてちゃうやろか。
朝練終わって教室に入り、自分の席に座れば。
それを待ってましたと言わんばかりに、スマホをいじっていたミトが振り返って「ちょいちょいちょい、あ、おはようさん」とか言うので。
始めから違和感は感じとったけど……それで「はよ」と挨拶を返せば、珍しく困った表情をしながら真面目に相談に乗ってほしい、なんて言いだして。
……本気で困っとるんやろか。
こないだの例の元部活の件とか?
それとも……ミトが俺に聞いてくるっちゅーことは、またバドミントンの話か?
あるいは全く別の方向から来るのか……とはいえミトの話はいつも突拍子やから、考えるだけ今更か。
そんなことを考えながら、まあ、たまには悪ないか、とため息を一度ついて話を聞く姿勢を見せれば。
察したのか「マジで助かるわ、あんがとな」と言いながら、机の上が見えるように体を動かし言葉を続けた。
「で、相談っちゅーのはこいつなんですが」
「…………は?え、何?」
「何はこっちのセリフやねん、何これホンマに」
「……それでやたら、クラスから憐みの目を向けられとる、と」
「いやホンママジで。お前んとこの顧問やん何とかしてくれ」
「管轄外や」
「薄情モンが」
いや薄情もなんも……それは俺にはどうしようもないだけやねんけど……
せっかく真面目に聞いたろ思うたんに、自分の顔が真顔になるのを感じるほど。
ミトに見せられたんは、机の上に乱雑に置かれた。
俺もしょっちゅう見ているそれ、そう、こけしである。
何故こけし?と一瞬疑問に感じるも、そういえば俺も見かけたことがある――と思いついたところで。
全て合点がいった、なるほどそれで俺に朝一から相談、と。
いや俺がどうにかできるわけないやんか。
むしろ止める方法あるなら知りたい、俺も似たようなのもらったけども。
そのこけし、うちの顧問が部員たちにたまに配っとる奴やないか。
しかも1個やない、複数個、ぱっと見ただけでも10個はある。
むしろそんなにあるのになぜ受け取る、と新たに疑問を感じるほどだ。
「オサムちゃん『今日も元気やなぁ、ほれ1こけし』とか言うてここんとこ見かける度に渡してくんねん……」
「なんで?」
「知るかぁ……こけし何個めや思うとんいらんっちゅーても渡そうとしてくるし、今朝は机の上に新しいの置いたってん最早怖いの領域達した」
「うわぁ……」
「家置くんも不気味でロッカー入れとったんやけど……増えてきて気味悪いから試しに全部出して見たらこんだけあって……」
「……何個あるん?」
「数えたら罰当たりそうで怖い、多分16個」
「数えとるやんけ」
変に捨てても呪われそうでさぁ……と頭を抱えているミト。
そうは言うとるけどそろそろ朝のHR始まるで、と他人事のように伝えれば。
いや、むしろ机にきれいに並べるか、とか言い出す始末。
普通にヤバい奴や、関わりとうない。
いや、ホンマに並べんな、俺後ろの席やねん視界入るやろが。こっちに目線向けんな。
「席つけー………………ミト、儀式でも始めるんか?」
「オサムちゃん召喚出来たら先生説教したってや」
「ああ、なるほど……落としてバチ当たらんよう気を付けや」
「いや没収してほしかってんけど」
いつもなら笑いが起きる教室だろうが、今日はこけしのせいか皆が苦笑いを浮かべている。
いやこけしの圧、マジでうちの顧問もやけどミトもなにしとんねん。
せやからこっちにこけしの顔向けんな、集中できひんわ。
……なんて考えるだけで、なんも言わへんかった俺も悪かった。今回ばかりは。
結局その日1日、ミトはその状態で授業を受けた。
昼を食べた後の授業はサボりよったせいで全こけしの目線が俺に向く羽目になったし。
その後戻ってきたミトに文句を言っても「せやかてこいつらしまうとこないねんな」とどこから持ってきたのかタオルで一体ずつ拭き始めるし。
いやなんでちゃんと手入れしとんねん、と思わず突っ込んだものの結果的に慣れたのか、放課後そのまま放置して帰りよった。
せやけど明日もそのままやったら気ぃ散ってしゃーない。
しゃーなしで、部活の時間に部長に話したら「俺から控えるよう伝えとくわ」と言ってもらえたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――――オイ」
「ん?」
「ん?ちゃうわ、なんで昨日より悪化しとんねん」
「ワイが知りたい、マジでナニコレ新手のいじめ?」
「机の上もうなんも置けんやん」
「ほんまにな、そろそろ本気でどないかせんといけん」
――――次の日の朝。
今日も今日とて朝練から教室に戻れば。
いつもは机に肘をついたりしているミトが、珍しく背もたれに体を預けているのを見て。
そういえばと机の上を確認してみれば。
昨日より明らかに量が増えたこけしが、今日も今日とて鎮座していた。
せやからこっち向けんなって、別に神仏信じとる訳ちゃうけど気味悪うなってくるわ。
それくらいの圧を感じる、ちゅーか机の上ぎっちぎちに置かれとる。
最早どうしようもないレベル、てかこれホンマにうちの顧問の仕業か?
ミトも近づきたくないのか、珍しい姿勢はこのせいか。
昨日部長なんか言うてくれたんとちゃうの?と思いながら写真を撮ってすぐさま部内に共有した。
『いや圧』
『こわ』
『昨日言うてたんこれか』
『もはやオサムだけちゃうくて他の人からの捧げもん混じっとるやろ』
『ツルっと輝く頭がどれも素敵ねん♡』
『どこが???』
『儀式でもするったい?』
『小春に似てキュートやもんな!』
『一応昨日言うたんやけどな』
「何の解決にもならへん」
「さすがにこんだけ置いといたら授業ならんから先生なんか突っ込むやろ」
「ちょっと関係ある思われたくないんで話しかけんでもろて」
「辛辣すぎて背負い投げ決めたい」
「こらー静かに………………HRすんぞー」
「無視した!!ちゃんといらんもん持ってきてって指導してぇな!」
「こんな理不尽に指導せえ怒られたん始めてや。しゃーないな……」
そう言いながら一度教室に入って教卓についた先生は、また教室を出てから時間を空けずに戻ってくる。
その手には四角い何かがあるけど……いや、アレ畳んだマイバッグやん。
先生はその袋を開きながらミトの机に近づき、その袋に勢いよくこけしを流し込むように入れる。
「めっちゃバチ当たりそう」なんてミトがぼやくが、マイバッグに入れられたそのこけしたちはそのままミトの机の横のフックにかけられた。
「よし、じゃあ始めるぞー」
「特級呪物放置すな」
「文句があるなら自分でオサム先生のとこいけー」
「それでオサムちゃんが捕まらんからこないなっとんねんマジで」
そう文句を言うが、どうしようもないのかそのままミトをスルーしHRを始める先生。
周りの目は完全に可愛そうなものを見る目をしている、いや、俺にまで憐みの目向けんな。
俺は関係ない、ミトがどんなに巻き込もうとしても絶対に関係ない。
そんなことを考えていたが、結局その日ミトは忘れたように過ごしていて。
むしろこっちを向いているこけしの目線が俺に刺さって、変に気を使いたくなるほどだった。
放課後先生が「俺のマイバック返せ」と言いに来るまでミトは完全に忘れていたようで。
「忘れてたどないしよ」とそれを見つめていたが。
先生に返しに行くついでに何かを思いついたらしく、こけしの入ったマイバッグを持ってそのまま教室を出て行った。
やれやれ、ようやく解決するか……と思いながら部活へと向かい。
先輩たちとの話題はそのこけしの話で持ち切りになったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――――………………」
「笑いたきゃ笑え」
「何があったかくらいは聞いたる」
「昨日オサムちゃんの机の上に全てのこけしを並べて帰ったんやけど、朝来たらまたこないなことなっとった」
「……呪い?」
「財前が言うとリアル感増すからマジでやめて」
「取り憑かれとるんちゃう?」
「さすがにビビるわ。信じてへんけど」
今日も今日とて、こけしがいる。
そして今日は、机の上だけではなく椅子の上まで。
さすがに気味が悪くなったのか、席に座らず後ろに立っているミトは。
げっそりとか、そういう様子は一切なくむしろ朝ごはんなのか、中華まんを頬張っていた。
聞いたら中身はあんまんらしい、実はあんこ好きなんちゃうか?
そう言いながらどうしようもない、と諦めているのか。
俺もとりあえず写真を撮って昨日と同じく部内に共有したが、『呪い?』『憑かれとるんちゃう?』と言うだけで反応は昨日とそないに変わらん感じやった。
教室内も完全に憐みの目を向けられている、何人かは飴やらお菓子やらを分けてたりと騒々しいまである。
廊下からも何人か野次馬で見に来ている奴らもいるらしい、観光名所ちゃうんやぞ。
そんな調子やからさすがに俺も座りたくなくて、ミトの隣に立ってスマホをいじっている。
……ブログネタとしては最強なんやけどなあ……なんて思いながら文面を考えていると、先生がいつもの調子で教室に入ってくるが。
「おはよーさん………………ちょっと待ってろ」
さすがに異常事態と察したのか、立っているミトと俺、さらに机の上のこけしを見るなり早々に教室を出ていく先生。
それと同時にざわめき出す教室、ミトは気にするどころか飽きたのか空を見上げている。
……いやお前のことで騒がれとるんやぞ……「見て財前、あの雲金ちゃんの頭みたい」って能天気に言うとる場合ちゃうわ。
しかも全然形似てへんし、なんとなくの輪郭で適当こいとるやろ。
「ちゃう?ほんなら……ちーせん?」ちゃうねん。全然髪型ちゃうやろあの二人。
「オサム先生、ちょっとアレ、何とかしてくださいよ」
「おはようさーん。どれ、あ、こんなとこにおったんかいな」
「こんなところって……昨日先生の机にミトとお返ししたはずですが」
「へ?俺そんなん見てへんよ?」
「「「――――…………えっっっ」」」
先生に引きずられるようにしてうちの顧問が到着する。
――が、うちの顧問が発したのは訳のわからへんことで。
いや、その前のうちの担任の机の上に返したも意味わからんけど、そういやミトさっきオサムちゃんの机に並べて帰った言うてたな……
ミトはそれを聞いてどう思ったのか、おもむろにスマホを操作するが。
それを無言で、急に俺へと画面を向けてくる。
……どうやら本当に並べていたらしい、人はいないが職員室で並べ終わった後にこけしと先生で記念撮影をしたらしい写真がある。
ということは撮影者はミト……となるわけだが、これを見せてきたミトは、珍しく真顔で俺のことを見つめていた。
そんな様子に俺もため息をつくしかなくなる。
知らんがな。俺を巻き込むな。
「ハハハ、ミトを守るつもりでここに来たんやろか」
「いや怖すぎますって。ミトですら固まるくらいなんですからやめてください」
「そんなん言われても俺知らんしなぁ……しゃーないからこいつだけ置いて帰るわ。ほな、お邪魔しました」
「いや先生!?なんも解決してませんけど!?先生!?!」
そう言いながら袋にこけしを詰めて帰るオサムと、それに詰め寄るように続いて教室を出る担任。
そんな様子を見守りながら、きれいになったミトの机に本人は戻る。
それを見て俺も席に座るが……もしかしてミト、意外とこういうの弱かったりすんのか?
なんて思いながら一度ため息をつけば、「なあなあ財前」と後ろを見てくるミト。
その手には先ほどのスマホがあり、また画面を見せてくる。
「心霊っぽいねんけど、これいる?ブログネタする?」
「さすがにせんわ」
「そうか……ちなみにな財前」
「まだなんかあるんか……」
「写真、消しても消えんねんけど」
「んな特級呪物送ろうとすんな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そもそもなんでミトにあんなこけし渡しとるんです?」
「せやってアイツ色々あったやん?頑張っとる褒美のこけしやさかい」
「あれは褒美とは言いませんよ……ほどほどにしたって下さいね」