◇一応あるメインストーリー◇
「ホンマにただのゴンタクレや」
「―――なんやお前ら、気づいてへんかったんか」
「何をどうして考えたらそうなった???」
「……ああ、でもそうやとするなら、納得はできるっすわ……」
「え、勘弁して」
「アホ、そうちゃうわ。そうやなくて。ミト、お前2年の中でハブられたりしてへんやろ?」
「……??まあ……別に?」
「あんだけお前の悪事がばらまかれとるのに、遠巻きにすらされてへん理由が、その噂があったから……っちゅー話っすよね?謙也さん」
「っちゅー話や。財前がおるのにミトがそんなことするわけないやろ、ってな」
「誰が悪事や、冤罪やっちゅーの……ホンマあの糞アマ」
「こら、女の子がクソとか言うたらあきまへん」
そう言いながら心底嫌そうな顔を前面に押し出すミト。
……なるほどな、色々合点がいった気ぃするわ。
こんだけ不名誉な噂があった以上、ミトが他人から避けられる可能性はあったはず。
それにも関わらず、俺以外にもミトと普通に接しとる人間が多いとは思っとった。
今も先ほどまでミトの後ろの席だった、大人しそうな女子生徒も何の気なしにミトと話をしよったわけやし。
悪事とは言うとるけど、どうせミトのことやからなんもしてへんし、周りがそれを理解しとるっちゅーだけやと思っとった。
先輩の彼氏を盗った、と噂で流れていたが。
どうやら2年の間では「財前とミトが付きおうとる」っちゅー別の噂が流れとったらしい。
せやからその話を聞いた2年の連中は、「ミトには財前がおるのに?そんなわけない!」と解釈したらしく。
誰もその噂を信じていなかったから、ミトに対して何かするとかは一切なかった、っちゅーわけ。
ありえへん話とはいえ、ミトからすれば偶然にも助けられている噂らしい。
「ちゅーかその悪事、事実全然ちゃうんやろ?」
「謙也さん前説明したやろ、鶏頭ちゃうんやから」
「確認やか・く・に・ん!お前が周りに話すな言うから!俺は黙っとったぞ!」
「やって謙也さんめっちゃ聞いてくるから……説明せざるを得ないっちゅーか」
「デリカシーオカンの腹の中に置いてきとるからな」
「お前ら後輩なんに先輩に対しての火力高すぎんか!?」
「ははは、楽しそうったい」
え?と後ろを振り返れば、そこにはいつの間にか千歳先輩がいて。
ミトも「あ、ちーせん。ちっす」とゆるく挨拶をしているが。
千歳先輩までどうしたというのだろうか。
謙也さんがこういうことに首を突っ込むのはわかるけど、千歳先輩は意外というか。
そう思っていれば、俺の疑問が伝わったのだろうか、心を読まれているかのようにこちらを見て微笑を浮かべた。
「昨日あぎゃん話ば聞いたけん、気になってしもうて。謙也に聞こうて思うたら財前んところに行ったっちゃ聞いたけん」
「いや俺かい……ミトに直接聞けばええやんか」
「ミトんクラスは覚えとらんし、謙也はなんか知ってそうやったけん。話が早いばい」
「確かにワイもちーせんのクラス知らんな」
「なー」「なー」と顔を合わせるミトと千歳先輩。
なにかはわからんけど、きっと波長の合う2人なのだろう。
とはいえミトが誤魔化しているようにも聞こえるな……なんて思っていたが。
「で、なして?」と突っ込むあたり、千歳先輩もなかなかな気がする。
その言葉を聞いたミトも、さすがに直球には答えるしかないのか、少しだけ躊躇う様子を見せた。
「……あー、簡潔にまとめると、その元部活の先輩の、好きな人らしい人に告白されて振って」
「えっ」
「おい財前、嘘やん……みたいな顔すんな!……腹立つことに元部活の先輩と告白してきたやつが揃って逆恨みで悪評流してきたから、私はめんどくそうなって部活を辞めたしインターハイで全員フルボッコにするつもり」
「……なんや、改めて聞いても酷いとばっちりやけど」
「復讐計画までしとるばい……」
「そんな性格やから言われるんちゃう?」
「売られた喧嘩は全力で買うのがうちの流儀やから」
「やったら、昨日白石に嫌そうな顔ばしたんはなして?」
「げっ、ばれてる」
「あー……まあ、白石にも知られたしな……昨日……」
「げぇ……実は前世、アイツに似たイケメンに親を殺されて……!」
「今はそぎゃんのよか」
「ちーせん冷たい……まぁ、あのいけすかんイケメンも似た理由や」
「なんでも、前白石と話しよったところをその先輩たちとやらに目撃されとったらしゅうてな。その時点でミトは部活から浮いた存在になっとったらしいで」
「あのいけすかんイケメンが絡むとろくでもないことになるだけやし……あんの男好きどもめ……」
「部長のことそんな風に言うんお前だけや」
「イケメン認めとるだけ有難いと思え」
「あらぁん、蔵リン、かわいそうやわぁ。アタシが慰めたるわよぉん♡」
「浮気かコラ!!逆にモテよって腹立つし、1人くらいに嫌われるでちょうどええやろ!!」
「ミト、白石嫌いなん?白石確かに毒手怖いけどええやつやで?」
「………………どっから湧いた、え、待ってテニス部レギュラー勢ぞろい……ちょ、財前」
「俺を壁にすな」
―――千歳先輩がでかくて気づかんかった。
いつの間にか勢ぞろいしとる先輩らと金太郎。
ミトの言葉にほらみてみい、なんて安堵しとるうちに集結しとるし。
……いつから話聞いとったんや、いや、多分部長が苦手って話は間違いなく聞かれとるやろうけど。
……ミトが部長のことが苦手なのも意外な気ぃする、部長絶対聞き上手やし。
「お前らどこから聞いてん!?」
「謙也が声でかいから……ちゃんと聞いたんは千歳の白石に嫌そうな~ってとっからやけど……その、白石、どんまい」
「いけすかん……いけすかん、か……」
「アッ、アカン、本人思うてたよりダメージ受けとる」
「その、白石はんも悪気はないんや、堪忍したってくれへんやろか」
「せや!一緒にたこ焼き食うたら仲良うなれるんちゃうか!?」
「金ちゃん、そら餌付けちゅう」
「……どうしてこうなった……ワイ別に悪くないよな……」
「今回ばかりは同情したるわ」
「そう思うならこの人ら連れて帰ってや」
「俺にコレが制御できるとでも?」
「誰がコレやねん!財前、お前後輩なんに生意気すぎるわ!!」
「あらぁん、怯えちゃって可哀そうに。大丈夫やでー♡誰もとって食うたりせえへんから♡」
「ヒエッッッ、ああ、あああの、てぇ……」
「浮気か小春!!!お前もヒエッッッてなんやねん!小春に手ぇ握られたんやぞ!!この天使のような小春に!!!」
「いやんユウくん、ゴーインなんやから♡」
「ちょ、これでもこいつ女子なんで……ミト?」
「おい!?ミト!大丈夫か!!」
突然ミトが、その場に座り込むように沈んでいく。
ゆっくりだったからよかったものの、急にどうしたというのだろうか。
まさかこの先輩らの圧に人酔いとか……?と思い。
慌ててミトの顔が見える高さまで隣にしゃがむ。
先輩達は気を使ったのだろうか、慌てて部長や小石川さんが廊下の外へと引っ張っていき。
残ったのは俺と謙也さんに、千歳先輩と部長が廊下にいる状態となったが。
ミトはそのまま顔を左手で押さえていた。
いくらミトとはいえ、大男たちで迫ったのもよくはなかったし。
さすがに怖かったりしたのだろう―――と顔を覗き込んだ。
「おい、ミト、大丈夫か?すまんな、あいつらが」
「謙也さんが止めへんからやで」
「いやそれはお前もやろ!すまん、体調悪いなら保健室に―――」
「―――………………す」
「……?ミト、なんて?」
「……ありがとうございます……え、やば、過剰供給すぎ……え、何あの近距離ファンサえぐ……え、生きてる?生きてる?現実だよね??もう右手洗わない家宝にする…………心のメモリーにラブルスのファンサ一生しまっとく……」
「………………ん?」
「……なんや、様子がおかしいな」
「ははは、ミトちゃん、やっぱ面白か」
―――前言撤回、ホンマにただのゴンタクレや、こいつ。