茜ちゃん関連
彼との関係
白竜にとって剣城とは、ゴッドエデンで競い合ったライバルであり、サッカーの楽しさを思い出させてくれた友でもある特別な存在だった。
そんな男が今。とある女にご執心らしい。
「お前が山菜茜か」
「え?えっと確か、白竜くん……?」
少し怯えたような目を向ける山菜茜に、白竜は少しだけ眉をひそめた。自分が女に怖がられることを気にしているわけではないが、ここまであからさまな態度を取られると流石にいい気分はしない。だがそれも一瞬のことで、すぐにいつも通りの無表情に戻る。そしてそのまま口を開くと本題を口にした。
「単刀直入に聞く。剣城京介とはどういう関係なんだ?」
白竜としては率直に聞いたつもりだったが、どうやらその問いは茜にとっては予想外だったようで。きょとんとした顔をすると少しの間考え込んだ後、困ったように首を傾げた。
「剣城くん?えっと……サッカー部の後輩、かな」
「……それだけか?」
「え、うん……そうだけど……?」
本当にそれ以外に何もないのかと言わんばかりの態度に今度は白竜の方が困惑する番だ。傍から見た様子からしててっきりそういう関係だと思っていたのだが、まさか違うのだろうか。いやでも剣城のあの目は、どう見ても恋をしているそれだったはず。と白竜は思案する。
「あの、何か変なこと言っちゃった?」
「……剣城とは付き合っていないのか」
恐る恐るといった様子で尋ねてくる茜に素直に問いを返すと、彼女は目をまん丸に見開いて固まってしまった。まさかそんなことを聞かれるとは思ってもみなかったという顔だ。そして一拍置いて、大きく首を横に振る。その様子はまるで小動物のようで愛らしく思えたが、今重要なのはそこではないと考え直すことにする。
「付き合ってない、と。では片想いか」
「え?あの……」
話がわかっていないのか困惑の表情を浮かべる茜を横目に見つつ、白竜はふむと考えるように顎に手を当てる。彼女は剣城の想いに気づいていないのか、それとも知らないフリをしているのか。
どちらにせよこのまま放っておけば、剣城は女にかまけている腑抜けになってしまうかもしれない。それだけは避けなければならないという謎の使命感に駆られた白竜は、茜に向き直るとその目をじっと見つめた。
綺麗な菫色の目だ。今は困惑に揺れてはいるが、きっと笑えば可愛らしく見えるのだろう。とはいえ自分は剣城と違って恋に現を抜かすつもりは毛頭ないのだが。
「俺は剣城にライバルとしての敬意を抱いている」
「えっと……?」
突然告げられた言葉に茜は首を傾げることしかできない。その様子に構うことなく白竜はそのまま続けた。
「だから、腑抜けたアイツなど見たくない」
「???」
「今後剣城と関わるのは……」
「……おい」
白竜が何か言いかけたところで背後から声がかかる。そこに立っていたのは今まさに話題の中心となっている男、剣城京介だった。
茜の肩を掴んで引き寄せると、二人の間に割って入る。そしてそのまま射殺さんばかりの視線を白竜に向けた。
「山菜先輩に、何してんだ」
「ただ話していただけだが」
「そんな距離じゃなかっただろ」
恋とはこうも人を変えてしまうものなのかと感心半分、呆れ半分で白竜は息を吐いた。どうやら白竜が思っている以上に剣城は茜のことを好いているらしい。
「なんだ剣城、コイツにご執心なのか」
「……だったら何だ」
「ふっ……女にかまけて弱くなったお前など、敵ではない。この究極な俺がお前を完膚無きまでに叩き潰してやろう」
「面白い、やれるもんならやってみろ」
宣戦布告を受けた剣城と白竜はお互いに睨み合う。その間に挟まれた茜といえば完全に置いてけぼりにされており、とりあえず二人の喧嘩(?)が収まるまでは大人しくしていようと小さくなっているしかなかった。
「そもそも好きなら好きと言えばいいものを」
「うるさい、お前には関係ないだろ」
「関係ある。そうやっていつまでもウダウダと……」
「あ!あの!」
剣城が白竜に掴みかかりそうになったところで、茜が慌てて止めに入る。そしてそのまま二人の手を取るとその両手をぎゅっと握った。突然のことに驚いたのか二人は目を丸くし、茜の方を見ると彼女は少し恥ずかしそうにしながらも口を開いた。
「えっと……喧嘩はダメだよ」
ね?と首をこてんと傾ける。駄目押しとばかりにめっ!と人差し指を立ててみせると、剣城も白竜もその可愛らしさに毒気を抜かれたのか、渋々といった様子ではあるがそれ以上言い争うことなく引き下がった。
「先輩がそう言うなら……」
「フン……まぁいいだろう。今日のところ山菜に免じて引いてやる」
どこまでも偉そうな物言いで去っていく白竜を見つつ、茜は小さく息を吐く。一時はどうなるかと思ったがなんとか収まってよかったと安堵した途端どっと疲れが出てきたようで、その場に座り込みそうになったところを剣城に支えられる。
「っ……わ、剣城くん!」
慌てて離れようとしたがそれも叶わず、腰に回された腕によって止められる。腹の辺りに感じる温もりと背中にぴったりくっついた胸板に、茜の顔がカッと赤く染まった。
触れてくる剣城の腕は見た目に反して逞しくて、自分のそれとは違う感触に心臓が早鐘を打つ。
「あ、……えっと」
「……白竜に何もされませんでしたか」
「きゃ、ぅ……」
耳元で囁かれた声が擽ったくて変な声が出そうになるのを何とか堪える。それが聞こえたのか剣城は小さく笑みを零すと、更に茜を引き寄せた。
「こんな風に、触られたり」
すり、と指先が茜の腰を撫でる。身体のラインをなぞるように滑り降りていく手に、ぞくりと背筋が粟立つのを感じた。
ぞくぞくして、声も出せない。ただただ剣城にされるがままになる。
「何か言われたり、変な事されませんでしたか」
その声はどこか切羽詰まっているようで、茜はまた心臓を跳ねさせる。どうして剣城がこんな声を出すのかわからないけど、心配されていることはわかったのでこくりと小さく頷いた。
すると今度は安堵の溜息が聞こえてきて、恐る恐る見上げればそこには安堵したような表情の剣城がいた。
「……よかった」
「剣城くん……?」
「あいつが山菜先輩に何かしたんじゃないかって、心配で」
どこか疲れきったような顔で呟く剣城に茜は小さく目を見開く。自分の為にここまで心を乱してくれることが嬉しかった。それと同時に少しの優越感を感じて頬が緩む。
「ありがとう、剣城くん。心配してくれたんだね」
「……まあ、はい」
照れ臭そうに瞳を逸らす剣城を見て、茜はきゅんとした。いつも大人びていてクールな印象の剣城がこんな風に子供っぽい表情をするなんて。可愛いと思ってしまったのは失礼だろうかと慌てて頭を振る。
……もしかして、自分は意識しているのだろうか。白竜から一方的に聞いた剣城の想い。今の態度を見るにそのことが事実である可能性は高い。そして自分もまた、彼の事を……
そこまで考えて茜はまた顔を赤く染め上げた。
「山菜先輩?」
急に黙り込んだ茜を不思議に思ったのか剣城が顔を覗き込んでくる。その顔の近さに心臓が飛び跳ねた。顔が熱い。きっと今の自分の顔は真っ赤になっているのだろうと自覚して、余計に恥ずかしくなる。
「なんでもない……!なんでも、ないから……」
慌てて距離を取ろうとするが腰に回った腕のせいでそれも叶わない。それどころかさらに引き寄せられて身体が密着してしまう始末だ。心臓の音がうるさいくらいに鳴っているのがわかる。それが彼に伝わってしまうのではないかと気が気じゃなかった。
白竜にとって剣城とは、ゴッドエデンで競い合ったライバルであり、サッカーの楽しさを思い出させてくれた友でもある特別な存在だった。
そんな男が今。とある女にご執心らしい。
「お前が山菜茜か」
「え?えっと確か、白竜くん……?」
少し怯えたような目を向ける山菜茜に、白竜は少しだけ眉をひそめた。自分が女に怖がられることを気にしているわけではないが、ここまであからさまな態度を取られると流石にいい気分はしない。だがそれも一瞬のことで、すぐにいつも通りの無表情に戻る。そしてそのまま口を開くと本題を口にした。
「単刀直入に聞く。剣城京介とはどういう関係なんだ?」
白竜としては率直に聞いたつもりだったが、どうやらその問いは茜にとっては予想外だったようで。きょとんとした顔をすると少しの間考え込んだ後、困ったように首を傾げた。
「剣城くん?えっと……サッカー部の後輩、かな」
「……それだけか?」
「え、うん……そうだけど……?」
本当にそれ以外に何もないのかと言わんばかりの態度に今度は白竜の方が困惑する番だ。傍から見た様子からしててっきりそういう関係だと思っていたのだが、まさか違うのだろうか。いやでも剣城のあの目は、どう見ても恋をしているそれだったはず。と白竜は思案する。
「あの、何か変なこと言っちゃった?」
「……剣城とは付き合っていないのか」
恐る恐るといった様子で尋ねてくる茜に素直に問いを返すと、彼女は目をまん丸に見開いて固まってしまった。まさかそんなことを聞かれるとは思ってもみなかったという顔だ。そして一拍置いて、大きく首を横に振る。その様子はまるで小動物のようで愛らしく思えたが、今重要なのはそこではないと考え直すことにする。
「付き合ってない、と。では片想いか」
「え?あの……」
話がわかっていないのか困惑の表情を浮かべる茜を横目に見つつ、白竜はふむと考えるように顎に手を当てる。彼女は剣城の想いに気づいていないのか、それとも知らないフリをしているのか。
どちらにせよこのまま放っておけば、剣城は女にかまけている腑抜けになってしまうかもしれない。それだけは避けなければならないという謎の使命感に駆られた白竜は、茜に向き直るとその目をじっと見つめた。
綺麗な菫色の目だ。今は困惑に揺れてはいるが、きっと笑えば可愛らしく見えるのだろう。とはいえ自分は剣城と違って恋に現を抜かすつもりは毛頭ないのだが。
「俺は剣城にライバルとしての敬意を抱いている」
「えっと……?」
突然告げられた言葉に茜は首を傾げることしかできない。その様子に構うことなく白竜はそのまま続けた。
「だから、腑抜けたアイツなど見たくない」
「???」
「今後剣城と関わるのは……」
「……おい」
白竜が何か言いかけたところで背後から声がかかる。そこに立っていたのは今まさに話題の中心となっている男、剣城京介だった。
茜の肩を掴んで引き寄せると、二人の間に割って入る。そしてそのまま射殺さんばかりの視線を白竜に向けた。
「山菜先輩に、何してんだ」
「ただ話していただけだが」
「そんな距離じゃなかっただろ」
恋とはこうも人を変えてしまうものなのかと感心半分、呆れ半分で白竜は息を吐いた。どうやら白竜が思っている以上に剣城は茜のことを好いているらしい。
「なんだ剣城、コイツにご執心なのか」
「……だったら何だ」
「ふっ……女にかまけて弱くなったお前など、敵ではない。この究極な俺がお前を完膚無きまでに叩き潰してやろう」
「面白い、やれるもんならやってみろ」
宣戦布告を受けた剣城と白竜はお互いに睨み合う。その間に挟まれた茜といえば完全に置いてけぼりにされており、とりあえず二人の喧嘩(?)が収まるまでは大人しくしていようと小さくなっているしかなかった。
「そもそも好きなら好きと言えばいいものを」
「うるさい、お前には関係ないだろ」
「関係ある。そうやっていつまでもウダウダと……」
「あ!あの!」
剣城が白竜に掴みかかりそうになったところで、茜が慌てて止めに入る。そしてそのまま二人の手を取るとその両手をぎゅっと握った。突然のことに驚いたのか二人は目を丸くし、茜の方を見ると彼女は少し恥ずかしそうにしながらも口を開いた。
「えっと……喧嘩はダメだよ」
ね?と首をこてんと傾ける。駄目押しとばかりにめっ!と人差し指を立ててみせると、剣城も白竜もその可愛らしさに毒気を抜かれたのか、渋々といった様子ではあるがそれ以上言い争うことなく引き下がった。
「先輩がそう言うなら……」
「フン……まぁいいだろう。今日のところ山菜に免じて引いてやる」
どこまでも偉そうな物言いで去っていく白竜を見つつ、茜は小さく息を吐く。一時はどうなるかと思ったがなんとか収まってよかったと安堵した途端どっと疲れが出てきたようで、その場に座り込みそうになったところを剣城に支えられる。
「っ……わ、剣城くん!」
慌てて離れようとしたがそれも叶わず、腰に回された腕によって止められる。腹の辺りに感じる温もりと背中にぴったりくっついた胸板に、茜の顔がカッと赤く染まった。
触れてくる剣城の腕は見た目に反して逞しくて、自分のそれとは違う感触に心臓が早鐘を打つ。
「あ、……えっと」
「……白竜に何もされませんでしたか」
「きゃ、ぅ……」
耳元で囁かれた声が擽ったくて変な声が出そうになるのを何とか堪える。それが聞こえたのか剣城は小さく笑みを零すと、更に茜を引き寄せた。
「こんな風に、触られたり」
すり、と指先が茜の腰を撫でる。身体のラインをなぞるように滑り降りていく手に、ぞくりと背筋が粟立つのを感じた。
ぞくぞくして、声も出せない。ただただ剣城にされるがままになる。
「何か言われたり、変な事されませんでしたか」
その声はどこか切羽詰まっているようで、茜はまた心臓を跳ねさせる。どうして剣城がこんな声を出すのかわからないけど、心配されていることはわかったのでこくりと小さく頷いた。
すると今度は安堵の溜息が聞こえてきて、恐る恐る見上げればそこには安堵したような表情の剣城がいた。
「……よかった」
「剣城くん……?」
「あいつが山菜先輩に何かしたんじゃないかって、心配で」
どこか疲れきったような顔で呟く剣城に茜は小さく目を見開く。自分の為にここまで心を乱してくれることが嬉しかった。それと同時に少しの優越感を感じて頬が緩む。
「ありがとう、剣城くん。心配してくれたんだね」
「……まあ、はい」
照れ臭そうに瞳を逸らす剣城を見て、茜はきゅんとした。いつも大人びていてクールな印象の剣城がこんな風に子供っぽい表情をするなんて。可愛いと思ってしまったのは失礼だろうかと慌てて頭を振る。
……もしかして、自分は意識しているのだろうか。白竜から一方的に聞いた剣城の想い。今の態度を見るにそのことが事実である可能性は高い。そして自分もまた、彼の事を……
そこまで考えて茜はまた顔を赤く染め上げた。
「山菜先輩?」
急に黙り込んだ茜を不思議に思ったのか剣城が顔を覗き込んでくる。その顔の近さに心臓が飛び跳ねた。顔が熱い。きっと今の自分の顔は真っ赤になっているのだろうと自覚して、余計に恥ずかしくなる。
「なんでもない……!なんでも、ないから……」
慌てて距離を取ろうとするが腰に回った腕のせいでそれも叶わない。それどころかさらに引き寄せられて身体が密着してしまう始末だ。心臓の音がうるさいくらいに鳴っているのがわかる。それが彼に伝わってしまうのではないかと気が気じゃなかった。