好葉ちゃん関連
人を好きになることって
「好葉〜〜〜〜〜」
「わ、わぁ……!」
ぎゅうう、と抱き締められ思わず身体が強張った。好葉の低い背に合わせて膝立ちになり、平らなそこに顔を埋めて深く息を吸う。執拗なまでに繰り返されるそれに、どうしたらいいのか分からずただ硬直してしまう。
「ひぇ……い、井吹くん」
「んー」
恐る恐るその名を呼ぶと、甘ったるく間延びした声が返ってきた。うりうりとすり寄ってくる姿はまるで猫のようだと思うけれど、そんな可愛らしいものではないと理解している。
だってその目は獲物を狙う獣のようにぎらついていて、まるで肉食動物のような欲望の炎が揺らめいているから。
「こ、こんな貧相な体……触っても楽しくないでしょ」
自分でもわかってしまうくらい起伏のない身体だ。幼児体型と言っても差し支えないくらい全体的に小さくて、胸だってぺたんこ。そんな部分に顔を埋めていったい何が楽しいのだろう。
谷も無ければ山も無い、あるのは薄い皮膚の感触だけ。そんなつまらないものを抱き締めて何が良いのだろうと疑問を抱く。
しかし井吹は好葉のその言葉にむっと眉を寄せた。
「お前それ、本気で言ってんのか?」
「え……?」
どういう意味なのか分からず首を傾げる。すると井吹は大きくため息をついたあと、再び好葉の胸に顔を埋めた。そしてそのまま大きく息を吸うものだから思わず悲鳴を上げる。
「ひぇっ……や、やだぁ……!」
恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じるが、井吹は気にせず鼻から下を胸に埋めたまま離れない。「あー……癒される……」という呟きまで聞こえてきたものだからどう反応して良いのか分からない。
何処に癒しを感じる要素があるのだろう。包むようなものなどないこの寸胴な身体に。最近運動するせいか食べる量も多くなり、胸以外ばかりに肉がついてしまっているこの身体に。
「お前は自覚がなさすぎる」
「ふぇ……っ!?」
むぎゅっと強く抱きしめられる。そのまますりすりと頬擦りをされてしまいいよいよ混乱してきた。どういうことだろう、分からない。どうして井吹がこんなことをするのかも好葉にはさっぱり分からなかった。
しかしそんな考えも井吹の一言によって霧散してしまう。
「好きな奴だから触りたいし抱き締めたい。んで、好きな奴にしてるから癒されてるんだよ、俺は」
「……へ?」
今、なんて? ぽかんとしている好葉に、井吹はもう一度「好きな奴だから、な」と繰り返す。その言葉が脳に浸透するまで数秒かかった。そして理解した途端、ぶわりと全身に熱が広がっていく。
「すきなやつ……?」
「……何回も言わすな、恥ずかしいだろ」
ぼそりと呟く声は明らかに照れていて。しかしそれを誤魔化したり茶化したりできるほどの余裕は、今の好葉にはなかった。
(好……き……?)
好きって、あの好きだろうか。友達としてとかではなく恋愛的な意味での好きという意味の。
そこまで考えてぶわ、と顔に熱が集まるのを感じた。「好葉……」と囁く井吹の頬も赤く染まっていて、それを見た途端さらに体温が上がる。
心臓が破裂しそうなくらい音を立てているのが分かるくらいどきどきしていた。だって、そんなまさか。井吹が自分のことを好きだなんて夢にも思わなかったから。
(ど、どうしよ〜……!)
どう反応して良いのか分からない。そもそも今までそういう対象として見たことがなかったから余計にだ。
でも嫌ではないと思う。井吹に好きだと言われるのは嬉しいし、こうして抱き締められるのも嫌ではないから。
それでも、彼の告白を受けて最初に思いついた言葉は。
「こ、困る……」
「は……」
ぽつり、と呟いた言葉に井吹の体が強張った。明らかにショックを受けたような表情に慌てて言葉を続ける。
「あ、ちが……困るっていうのはその……嫌とかじゃなくて……わ、わからないから……!」
「分からないって、何が」
怪訝そうな井吹に好葉はおずおずと口を開く。顔が熱い、耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かる。きっと情けないくらいに赤くなっていることだろう。でもそんなことどうでも良いくらいいっぱいいっぱいだったから、仕方なくそのまま続けることにした。
「その……す、好きってどんな気持ちなのかな、とか……?誰かのこと好きって思ったり、告白したりとか……そういうの全然考えたことなくて……」
そもそも恋愛なんてしたことがなかった。興味も無かったし縁もないと思っていたから考えることすらしてこなかった。だから自分が井吹に対してどう思っているのかも分からない。好きか嫌いかで言えばもちろん好きだが、それは友達としてなのか異性としてなのか分からないのだ。
(それに、うちなんかが誰かに好いてもらえるなんて……そんな)
自分で言っておいて悲しくなってきた。だってそうだろう、好葉はこの通り貧相で色気もない幼児体形で、かつオドオドした性格はいつも他人をイラつかせてしまうから。
こんな自分が、誰かに好かれるはずなんてない。そう思っていたのに……
「んむっ」
再びぎゅうと抱き締められる。その力は先程よりも強く、まるで逃がさないとでも言うかのようだった。井吹の手はそのまま好葉の背へ回り、もう片方の手は腰を固定するように掴むものだから身動き一つ取れなくなってしまう。
「い、いぶ……」
「なら教えてやるよ」
耳元で囁かれた言葉にぞくりとしたものが背を走る。それは恐怖や嫌悪ではなく、もっと別の何か。それが何なのかは分からないけれど、今まで感じた怖いものとは違うことだけははっきりわかる。
「人を好きになるってどういうことか。俺がどれだけ好葉のことを想ってきたのか、全部教えてやる」
「あぅ」
すり、と頬擦りをされる。柔らかくて心地良い感触に思わず目を瞑ると、耳たぶを食まれた。そして吐息混じりの低い声で囁かれる。
「だから……覚悟しとけよ?」
「ひぇ……」
その声があまりにも色っぽくて思わず変な声が出てしまう。そんな反応が面白かったのだろう、井吹はくくっと喉の奥で笑った後再び強く好葉を抱きしめた。
「好葉〜〜〜〜〜」
「わ、わぁ……!」
ぎゅうう、と抱き締められ思わず身体が強張った。好葉の低い背に合わせて膝立ちになり、平らなそこに顔を埋めて深く息を吸う。執拗なまでに繰り返されるそれに、どうしたらいいのか分からずただ硬直してしまう。
「ひぇ……い、井吹くん」
「んー」
恐る恐るその名を呼ぶと、甘ったるく間延びした声が返ってきた。うりうりとすり寄ってくる姿はまるで猫のようだと思うけれど、そんな可愛らしいものではないと理解している。
だってその目は獲物を狙う獣のようにぎらついていて、まるで肉食動物のような欲望の炎が揺らめいているから。
「こ、こんな貧相な体……触っても楽しくないでしょ」
自分でもわかってしまうくらい起伏のない身体だ。幼児体型と言っても差し支えないくらい全体的に小さくて、胸だってぺたんこ。そんな部分に顔を埋めていったい何が楽しいのだろう。
谷も無ければ山も無い、あるのは薄い皮膚の感触だけ。そんなつまらないものを抱き締めて何が良いのだろうと疑問を抱く。
しかし井吹は好葉のその言葉にむっと眉を寄せた。
「お前それ、本気で言ってんのか?」
「え……?」
どういう意味なのか分からず首を傾げる。すると井吹は大きくため息をついたあと、再び好葉の胸に顔を埋めた。そしてそのまま大きく息を吸うものだから思わず悲鳴を上げる。
「ひぇっ……や、やだぁ……!」
恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じるが、井吹は気にせず鼻から下を胸に埋めたまま離れない。「あー……癒される……」という呟きまで聞こえてきたものだからどう反応して良いのか分からない。
何処に癒しを感じる要素があるのだろう。包むようなものなどないこの寸胴な身体に。最近運動するせいか食べる量も多くなり、胸以外ばかりに肉がついてしまっているこの身体に。
「お前は自覚がなさすぎる」
「ふぇ……っ!?」
むぎゅっと強く抱きしめられる。そのまますりすりと頬擦りをされてしまいいよいよ混乱してきた。どういうことだろう、分からない。どうして井吹がこんなことをするのかも好葉にはさっぱり分からなかった。
しかしそんな考えも井吹の一言によって霧散してしまう。
「好きな奴だから触りたいし抱き締めたい。んで、好きな奴にしてるから癒されてるんだよ、俺は」
「……へ?」
今、なんて? ぽかんとしている好葉に、井吹はもう一度「好きな奴だから、な」と繰り返す。その言葉が脳に浸透するまで数秒かかった。そして理解した途端、ぶわりと全身に熱が広がっていく。
「すきなやつ……?」
「……何回も言わすな、恥ずかしいだろ」
ぼそりと呟く声は明らかに照れていて。しかしそれを誤魔化したり茶化したりできるほどの余裕は、今の好葉にはなかった。
(好……き……?)
好きって、あの好きだろうか。友達としてとかではなく恋愛的な意味での好きという意味の。
そこまで考えてぶわ、と顔に熱が集まるのを感じた。「好葉……」と囁く井吹の頬も赤く染まっていて、それを見た途端さらに体温が上がる。
心臓が破裂しそうなくらい音を立てているのが分かるくらいどきどきしていた。だって、そんなまさか。井吹が自分のことを好きだなんて夢にも思わなかったから。
(ど、どうしよ〜……!)
どう反応して良いのか分からない。そもそも今までそういう対象として見たことがなかったから余計にだ。
でも嫌ではないと思う。井吹に好きだと言われるのは嬉しいし、こうして抱き締められるのも嫌ではないから。
それでも、彼の告白を受けて最初に思いついた言葉は。
「こ、困る……」
「は……」
ぽつり、と呟いた言葉に井吹の体が強張った。明らかにショックを受けたような表情に慌てて言葉を続ける。
「あ、ちが……困るっていうのはその……嫌とかじゃなくて……わ、わからないから……!」
「分からないって、何が」
怪訝そうな井吹に好葉はおずおずと口を開く。顔が熱い、耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かる。きっと情けないくらいに赤くなっていることだろう。でもそんなことどうでも良いくらいいっぱいいっぱいだったから、仕方なくそのまま続けることにした。
「その……す、好きってどんな気持ちなのかな、とか……?誰かのこと好きって思ったり、告白したりとか……そういうの全然考えたことなくて……」
そもそも恋愛なんてしたことがなかった。興味も無かったし縁もないと思っていたから考えることすらしてこなかった。だから自分が井吹に対してどう思っているのかも分からない。好きか嫌いかで言えばもちろん好きだが、それは友達としてなのか異性としてなのか分からないのだ。
(それに、うちなんかが誰かに好いてもらえるなんて……そんな)
自分で言っておいて悲しくなってきた。だってそうだろう、好葉はこの通り貧相で色気もない幼児体形で、かつオドオドした性格はいつも他人をイラつかせてしまうから。
こんな自分が、誰かに好かれるはずなんてない。そう思っていたのに……
「んむっ」
再びぎゅうと抱き締められる。その力は先程よりも強く、まるで逃がさないとでも言うかのようだった。井吹の手はそのまま好葉の背へ回り、もう片方の手は腰を固定するように掴むものだから身動き一つ取れなくなってしまう。
「い、いぶ……」
「なら教えてやるよ」
耳元で囁かれた言葉にぞくりとしたものが背を走る。それは恐怖や嫌悪ではなく、もっと別の何か。それが何なのかは分からないけれど、今まで感じた怖いものとは違うことだけははっきりわかる。
「人を好きになるってどういうことか。俺がどれだけ好葉のことを想ってきたのか、全部教えてやる」
「あぅ」
すり、と頬擦りをされる。柔らかくて心地良い感触に思わず目を瞑ると、耳たぶを食まれた。そして吐息混じりの低い声で囁かれる。
「だから……覚悟しとけよ?」
「ひぇ……」
その声があまりにも色っぽくて思わず変な声が出てしまう。そんな反応が面白かったのだろう、井吹はくくっと喉の奥で笑った後再び強く好葉を抱きしめた。